ポケットモンスター ルーメン   作:りら_らるらりら

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アシマリと最初の1歩/バグバッジ

アローラに住んでいた頃、家の裏には小さな庭があった。

日当たりはあまり良くなかったかもしれない。アローラの中では、だけれど。

とにかく、自転車を置くプレハブくらいしかないその場所で、私は花の鉢を並べて何度も植え替えを繰り返していた。

 

……生活が、つまらなかったのかもしれない。

 

「育てば、何かが変わるかもしれない」

そんな気持ちだったのを、なんとなく覚えてる。実際結構楽しかった。

 

ある朝、鉢の中で小さな緑色のポケモンが座っていた中に植えられていた花は傍に打ち捨てられている。

 

スボミー。

初めて見るポケモンだったけど、驚くほど警戒心がなかった。

鉢の中から追い出してまた花を植えたけれど、次の日には同じ光景が繰り返された。数日攻防を繰り返し、私は毎回捨てられる花を可哀想に思って、そのポケモンを育てることにした。初めてのポケモン。まだまだポケモンを強い弱い可愛いで判断していた私にとって、スボミーはあまりポケモンという感覚がなく、植物の一種みたいなものだった。まあ、くさポケモンだからあながち間違いでもない。

水をやるたび、日を当てるたび、少しずつ笑うスボミー。でも日に当てすぎると鉢から出て日陰に行ってしまう。私は――時には母のワンリキー手伝ってもらって――スボミーの鉢を日向に置いたり日陰に置いたりした。

ふてぶてしい顔でずっと鉢に座るスボミー。あの頃はガーデニングが大好きだったからやったが、今はやらないだろう。鉢くらい自分で動かせという話である。

 

時々花が咲くものの、図鑑に書いてあるくしゃみや毒なんかの症状は怒らなかった。当時は毒がない子なのかと思っていたけれども、今思えば、私と家族に対して気を使っていたのだろう。

 

ボールに入れなかった。手元にはボールがあったけど、鉢の中の方が好きそうだったし。まあ、いつの間にか住み着いていただけのやつだ。居なくなればまた花を植えよう。こいつも中々綺麗な花を咲かせるし。

 

引っ越しの日、カロスに引っ越す事をスボミーに伝えて、お別れを言った。なんだかんだスボミーは引っ越しまでずっと鉢の中にいた。他の鉢は苔むしていたが、スボミーのいる鉢だけは苔はなかった。

引っ越しの、飛行機に乗る空港までの車の中、トランクにはいつの間にかスボミーが鉢ごと座っていた。空港に植木鉢なんて持ち込めないし、そもそもポケモンはボールに入れないと行けない。

そいつはすんなりボールに入った。

 

◆◆

 

旅立ちの朝は、驚くほど静かだった。

目を覚ましたとき、窓の外に鳥ポケモンの声すら聞こえなかったのが不思議なほど。

 

昨日の夜、母は「明日から旅なんて、大丈夫?」と聞いてきたけど、答えを返す前に「まあ、あんたが決めたならいいけど」と笑って、荷物のチェックを始めた。

私はその姿を黙って見ていただけだった。

 

玄関を開ける。

アサメタウンの空は、今日も変わらず青い。

 

――数日前、この町に引っ越してきたときも、空だけは晴れていた。

だけど、空が広いと感じるより先に「何もない」と思った。

 

親は「この子には田舎より都会のほうが合ってると思って」と言ってたけど、この町は――思った以上に静かすぎた。だけど今は、何となくわかる。昨日は分からなかったけど、自分を取り巻く環境が。

カロス地方の中で見るとここも相当の田舎だが、それでもアローラとは比べ物にならない。都会というシステムの中で端っこにあるだけだ。

騒がしいのは苦手だし、住むのにちょうどいい。であるのに、旅立とうとしているのは、うーん、何でだろう。でも旅するならアローラなんかより絶対カロスの方が面白い。

親はイッシュもいいよと言っていたけど。まあ、カロスを旅してから考えよう。

 

すでに出発していた同年代の子がいると聞いたのは、引越し当日のこと。

実に一ヶ月遅れの出発。ま、顔も知らないしとどうでもいい。五人いるらしい。

博士の助手らしい人が、ポツリと言った。

 

「君より少し前に、ここの町から旅に出た子がいてね。

 あっちは友達もいて、すぐに仲良くなって……。今ごろどこにいるかなあ」

 

私には友達もいない。

ここに来る前のアローラでは、いろんなものに馴染めなかった。

誰が悪いわけでもない。でも、誰の連絡先も登録してなかった。まあ、子供にロトムを持たせている私の親が珍しいといえばそうだけど。

 

「それじゃ、君の旅の始まりだ」

 

カロスの博士の助手がボールを机に置いていく。

みずタイプがいい。

スボミーがくさタイプ。嫌いなほのおを対策する意味で、またなみのりを覚えるから。

アローラの博士は、アローラのポケモンを送ってきた。

 

『出来れば、アローラのポケモンを活躍させてやってほしいんだ』

 

アローラ地方では、観光客の多さで全てが決まると言っていい。だからこうして他の地方の、アローラ出身の子たちにアローラのポケモンを配る。らしい。

もちろん選ぶのは私だが、まあみずタイプならなんでも良かったから博士がすすめてくれたアシマリを選んだ。

 

「ちゃんと歯磨きするのよ」

 

忘れがちなことはスボミーが覚えていてくれる。鉢から出て少し不満そうだが、置いていかれたくはない様子で、私に抱っこをせがんだ。重いのでボールに入れる。

 

◆◆

 

アサメタウン。

住んだ、というよりは滞在だった。いい街だし、帰ったあとはゆっくりしたいな。

振り返らず門を抜けると、アサメの小道に入る。道路というよりはポケモンの生息地だろうか。大きすぎるポケモンはここで暮らすのかもしれない。あまりそのようなポケモンは見当たらないけれど。

 

小道を歩けばすぐメイスイタウン。

町外れに、小さな広場があった。

石畳が崩れかけているその場所は、観光用の案内にも地図にも載っていない。空き地か?

でも、誰にも邪魔されなさそうで、ちょうどいいと思った。

 

私はポーチからアシマリのボールを取り出すと、軽く放り投げる。

 

「出てきて」

 

ふわりと光って、アシマリが現れた。博士の助手はわざわざ自宅まで来てボールを置いていった。私だけカロスの3匹とアローラの3匹から選んだわけだ。

そして、博士の助手が置いていった鞄。その中には私が選ばなかった五匹のモンスターボールが入っている。なんでも、これを無事にミアレの研究所まで届けるのが第1の冒険だとか。

 

「……少しだけ、練習しよう」

 

いつまでも5匹をボールの中に閉じ込めておく訳にも行かない。早いところ返しに行こう。少なくとも、ミアレまでは急ぎ足がいい。

 

「この的に当てるんだよ」

 

地面やブロック壁に的を配置していく。ポケモンの力量によっては街中でわざの練習なんてもってのほかだが、アシマリの泡程度なら問題ない。スボミーについてはなんか一人で勝手に練習したりしてるみたいだし。どこでやっているんだろう?

アシマリはふんと頷いた。

 

「――“あわ”」

 

アシマリが構える。

一拍置いて、口をすぼめ、小さな泡を連射するように飛ばした。

泡は全部で五つ、きらきらと飛んでいって、目標の二つに命中。

 

 

「凄いよ!」

 

まだまだ幼いポケモンだということを考えれば、この成果は凄くいいことだと思う。これは、最初のジムも楽に突破できるだろうか? トレーナーとそのポケモン双方に共存のための最低限の課題を与えると言われている“最初のジム”なら、この成果だけでも結構いけそうだ。

私は、次の指示を出す前に、少しだけアシマリを見る。

本人は息を弾ませながらも、どこか得意げな顔をしていた。

 

「じゃあ次は……すこし、距離を変えて」

 

スボミーが的を持って移動する。スボミーならあわが当たっても大丈夫だし、むしろ今日は水をあげられてないから好都合だろう。

アシマリはそれを目で追いながら、自分のタイミングで“あわ”を撃った。

 

命中、外れ、命中、命中、外れ、外れ、外れ……命中。

やっぱり動く対象には当てづらいようで、スボミーが止まった時によく当たる。でもスボミーの歩く先を邪魔したりしていて、足止めしてから改めて的を狙うなどアシマリ自身もかなり戦略的だ。

アシマリは、泡の軌道を面白そうに見つめていた。

 

「……なんか、楽しそうだね」

 

小さく呟いた言葉に、アシマリがくるっと振り返る。

ひと声鳴いて、こちらを見上げてくる。

 

◆◆

 

メイスイタウンを出てすぐの道――2番道路。

舗装されていないその小道には、膝丈ほどの草むらが広がっていた。

夕方になって、少し風が冷たくなってきたころ。朝早く出て、ここまで一直線に歩いたし寄り道だってメイスイタウンでの的当てゲームくらいのもので。

メイスイタウンは普段からうろちょろしてるから対して観光するものでも無いし。

 

私は草をかき分け、アシマリを出して歩いていた。アシマリは鼻先を草に押し付けて匂いを確かめている。スボミーはボールの中。夕方になると外に出たくないらしい。

 

――ガサッ

 

草むらが揺れた瞬間、アシマリがビクッと身を縮める。

すぐに、ちいさなビーダルが姿を現した。

 

「初めての……だね」

 

アシマリが一歩前に出る。

やる気十分、おいしい水も事前に十分なな量飲ませてある。

 

さて。

やせいのコフキムシが飛び出してきた!

 

「“あわ”!」

アシマリは一瞬こちらを見た。

くるりと跳ねて、“あわ”を吐き出す。意味あるのかな、その動きは。

変な動きをしたからか狙いが定まらず多くが外れるも、幾つかはコフキムシの足元を狙い撃ちにした。コフキムシの動きが遅いのもあるけど、しかし動いている的に当てた!

 

コフキムシは大きくバランスを崩すが、そのままたいあたりで突っ込んできた。

アシマリはとっさに横へ転がってそれを避ける。足元が泡で濡れていて多少動きやすい。

 

「もう一度、“あわ”!」

二度目の攻撃が直撃して、コフキムシが悲鳴を上げる。

小さくなる前に、そのまま草むらの奥へ逃げていった。

 

……静かになった。

 

私は、静かに息を吐いた。

アシマリは、くるっとこちらを振り向く。

 

さっきよりも、まっすぐにこちらを見つめる。

 

「……すごいね、ちゃんと避けた」

 

そう声をかけると、アシマリは高く跳ねて、くるんと一回転した。

まるで、「当然だよ」と言うかのように。や、本当にバトルがうまい。教えた訳でもないのに。

逆に、私側のトレーナーとしての技量があまりないということもわかった。“わざ”が少なく選択肢がなかったのもあるけれども、それにしたって指示が少ない。

ジム戦は苦戦しそうだ。

 

そのとき、アシマリがすっと私の足元まで戻ってきて、ぴたりとくっついた。冷たい。

 

◆◆

 

ハクダンの森。

森の中を抜ける道は、ところどころで木々が陽を遮り、空気がひんやりしている。

風はなく、葉擦れの音もない。時折ヤヤコマが羽音を立てて枝を渡っていたり、ポケモンの鳴き声とか。

 

正規ルートをひたすら歩く私。キョロキョロとしていると、ふと、小道の傍に自然とできた小さな広場のような場所があったのを見つけた。

苔むした切り株、蔓の絡んだ倒木。

日が差し込むその一角で、切り株に乗ったアシマリが泡をぷくりと浮かべている。居なくなったと思ったらこんな所にいたのか。

 

泡はある程度浮かんで消える。1つ目の泡が消える前に、2つ3つとアシマリが泡を作って縦に並べるように浮かべる。

1つ目の泡が消えると同時に、4つ目の泡を浮かべていた。

その泡に誘われたのか、どこからかヤナップがふらっと現れる。

遅れてバオップ、ヒヤップ。

ピカチュウは電気ショックで浮かぶ泡を壊そうと躍起になっており、しかし“わざ”が下手なのか一向に壊せずにいた。

 

アシマリは最初こそ驚いた様子で身を低くしていたが、戦闘の雰囲気ではないと知ってまた遊びはじめる。

また新しい泡をひとつ。

 

気づけば、あしもとで、何者かに掘られた穴にスボミーが綺麗に収まっている。不思議な光景だ。

頭上をヤヤコマがバタバタと飛び回っている。

 

私は、広場の端の木陰に、荷物を枕にして上を向いて寝転んでみた。早くミアレシティに着かなきゃならないけど、仕方ない。ちょっと休憩だ。

ちょうど、疲れてきたところだった。

風が吹いたとき、さわっと葉が鳴る。

 

「……いい森だ」

 

そうつぶやいた声は、虫たちにも、ポケモンたちにも、聞こえなかったかもしれない。

 

◆◆

 

ビビヨンをそっとボールに戻したビオラが、

私とロゼリアを見てぱあっと笑顔になる。

 

「いいんじゃない、いいんじゃないの!」

 

カメラを構える仕草で、指をL字に曲げてフレームを作る。カメラは持ってるのに。

 

「あなたとそのロゼリア、すっごくいい表情だったわ!」

「とくにあの瞬間、進化したばっかりで、マジカルリーフ決めたあの目線! バッチリ!」

 

勝負は意外と早くついた。アシマリとアメタマのみずポケモン対決から始まり、ビビヨンとスボミー、が進化してロゼリアの1対1スタイル。ひこうタイプはちょっと重かったが、羽持ちに対して泡で戦う訳にも行かず、結局毒とマジカルリーフでゴリ押した。必中と呼ばれるほど精度の高いわざとして知られるマジカルリーフは、ロゼリアに進化すると同時に覚えていた。

にしても、まさかバトル中に進化するなんて。

 

「ポケモンの写真ってさ――“きもち”なのよ。その時のポケモンの“きもち”をフィルムに保存する。

あなたのポケモンたちの“きもち”、ちゃんと撮ったわよ!」

 

少し間を置いて、ポケットから小さなケースを取り出す。

 

「ってことで! あなたにこれ、わざマシンとバグバッジよ!」

「旅はまだ始まったばかり。頑張れ! 未来のチャンピオン!」

 

カメラを掲げ、みんなで最後にもう一枚。

 

「ハイ、チーズ――って、古いかしら。ま、いいんじゃない、いいんじゃないの!」

 

ともあれ。まあ。

バグバッジ、ゲットだぜ!

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