10番道路には巨大な列席があり、景色を楽しめる。この列石、何らかのパワーがあるらしく、ルナトーンが反応していた。
墓石のような形の、縦長の巨大な石が並んで立っているというだけでなんだか見ていて迫力がある。石の前で並んで記念撮影なんかもしたくなるというもの。ピースピース。
オシャマリはカメラが好きだ。旅の途中出会った同じアローラ出身の人に聞いたところ分類は“アイドルポケモン”。確かに可愛い見た目をしている。歌もダンスも好きっぽいし。……ここら辺の、知識不足な面は如何ともし難い。全国図鑑を買えば解決なんだろうけど、信じられないほど高いし重い。電子版の図鑑は貴重だし……。
カロス図鑑に載ってないポケモンの事は分からないのだ。というか仲間の2/3がカロス図鑑にいないポケモンだ。ネイティオはたまにテレビの天気予報で出てくるから見掛けることはあったが……。というか、よく考えたらなんでネイティオがミアレの観光案内なんてやってたんだろう? 今更な疑問だが、十中八九トレーナーだろうし、ネイティオに直接聞くのも失礼な気がする。まぁいいかと思い直し、ハクタイの石のゲートをくぐった。
◆◆
町に入ってまず気づいたのはその歌声だろう。
町を満たすように、旅で疲れた足を癒すように、どこからともなく聞こえてくる歌声。ポケモンセンターの中は流石にいつもの音楽だが。
誰が歌っているのかすぐ分かった。
聞き間違えるはずもない、溶けるような、滲んで広がってゆく歌声。
町の中心に急げば、案の定、ミアレでも見たチルタリスを中心にポケモンたちが座り込んでいる。今度は、その外側に人間もチラホラ座っている。
今にも飛び出して行きそうなオシャマリを宥めながら空いているところに座り込んだ。ルナトーンも浮遊を解いて地面にそっと落ち着く。ネイティオは最後列で立ち見のようだった。
特徴的な歌を聞きながら、あの時のチルタリスだと確信した。
ポケモンの声というのは、もちろん個体差はある。人間と比べればそのバラツキは小さいが、確かに、個々によって違う声質を持つ。チルタリスは、歌声が綺麗ということでテレビでは引っ張りオクタンのポケモンだ。私の何体かテレビで活躍するチルタリスを知っているが、今目の前にいるチルタリス程綺麗な声で、清廉な存在は知らない。
ぶっちゃけていうと、仲間になって欲しい。その歌声を、ずっと聞いていたい。お願いしてみようか、でも断られたら嫌だし、嫌な気持ちにさせたくないし。
ドラゴンタイプのポケモンを私に扱えるのかという問題もあった。扱いの難しいドラゴンタイプの中でもチルタリスは友好的な種だが、それでも、まさかそこらのヤヤコマ同様に育てられるということも無いはずだ。
それでも、あの子が欲しい、
いや、というか、向こうは歌手(?)でこっちはただの旅人だ。好きで歌ってるのに、こっちの都合に合わせろと強引に迫るのも……。いや、ドラゴンタイプがいればゴチルゼルへの多少の対抗策になるか? お願いするだけしてみるのも手だろうか。
曲が終わる。聞いていたポケモンも人間も、静かに去っていった。その後には多少の木の実だけが残される。
木の実を羽毛の中に回収するチルタリスに近づいて、話しかけた。
「チルタリス。……その、私。覚えてる? ――ミアレではありがとう」
「あの時はいつの間にか寝てて、起きたら葉っぱのベッドの上だし木の実とかもあったしで。それがチルタリスかどうかは分かんないけど……とにかく、ありがとう」
木の実を全て回収し終えたチルタリスは私の方をちらりと見て、一声鳴く。もう随分前のことで、ファンの一人でしかない旅の人間のことを覚えてくれているだろうか。
地声は案外低く、落ち着いた声だった。聞いていて嫌味のない、ずっと聞いていたい声。
「これ、ポロック……。甘いヤツだけど、好きかな」
私も木の実を、と思ったが、木の実は道中で食べてしまっていたのだ。キャンプ中に作ったポロックを差し出す。私ように作った甘いポロック。名付けて“モモンスペシャル”だ。特に熟しているモモんのみのみを使った特別製。分割してちょっとずつ食べようと思っていたが。どうやらチルタリスも甘党のようで、ちょんちょんとポロックを啄むと、一段高い声で鳴き、瞬く間に食べ尽くしてしまう。一口くらい残してくれても……。
チルタリスは興奮した様子で、私に話しかける。
「作り方がちょっと特別なんだ。モモンのなかでも甘いヤツを使ってて……。私も甘いの好きだから」
凄いよ! チルタリスがそう言ったように感じた。とても満足してくれたようで、尾羽根をパタパタと震わせる。
そういえば、チルタリスのファン達が置いていったきのみも甘いものばかりだった。
「その、チルタリス」
青く長い首を傾げる。まるで計算したかのような可愛らしさに思わず面食らってしまう。
口にしていいのだろうか。仲間になって欲しいと。この世界の中で1匹だけ、童話の中から出てきた存在。私ごときが手を出していいものではないように思える。
「――また会えるかな」
いつの間にか羽毛の中から顔を出したオシャマリが、私に泡を吹き付けた。バチバチと顔の前で泡が弾ける。手加減してくれているのかと思いきや、普通に痛くてびっくりする。ピャアピャアとこちらに文句を言っている。お前はいつの間にそこにいたんだよ。
「ごめんね。……この子、スキンシップ大好きで」
羽毛の中に隠れたから体を探し当てて引き抜く。ズボッ、という音と共に白い羽毛が舞った。オシャマリは久しぶりの抱っこにすぐに機嫌を直してキャイキャイはしゃいだ。調子のいい事だ。何に怒っていたんだか。
チルタリスは、一声鳴いてから大きく羽ばたき、ふわりふわりと空の向こうに飛んで行った。次はいつ、どこでやるのか分からないが、ネイティオの様子を見る限りまた会う機会はあるのだろう。度の中では一期一会で終わらせたくないポケモンに多く会う。木の実の収穫を手伝ってもらったヤナップだったり、夜の見張りのつもりがいつの間にか寝ている私を守ってくれたヒトツキだったり。できることなら全ての仲良くなったポケモンたちと旅をしたい。だけれどもそれぞれに生活がある。それぞれが気ままに生きる権利がある。一応誘ってはみても断られることも多い。子供の頃見たアニメーションのようにはいかないのが現状だ。まあ、今回は誘えてすらいないんだけど。
「はあ……」
目の前に浮かび上がったルナトーンがくるくるといつもより早い速度で回り始める。落ち込んだ私を慰める時の仕草だった。
◆◆
うつしみの洞窟。
ハクタイを出て、すぐにぶつかる洞窟。内部は鏡のような岩壁がたくさんあり、女の子が突破するには厳しいことがよく分かる。私以上に足を止めるのはオシャマリであり、しばらくは歩く事に体を洗ったりするので流石に日が暮れると思い、抱き上げて移動することになった。
内部は複雑で、ここを突破できるトレーナーは少ないと聞く。内部の構造を書いたマップの値段は高騰していてとても旅のトレーナーが手を出せる代物ではない。だが、私たちに限ってはそれは不要だろう。ネイティオがいる限り“道に迷う”ことはありえない。ネイティオ自身に聞く限りうつしみの洞窟は始めてくるようだし、なぜ道が分かるのか本当に謎なのだけれど。とにかく、私たちにとってうつしみの洞窟はダンジョンであって迷宮ではない。いつでも突破出来ると高を括り、数日を内部の攻略・ポケモンの把握に務めることにした。ルナトーンがいるので夜は平気――逆に、ルナトーンが朝方ではまるで詐欺である――だが、今度はゴチルゼル対策が必要になってくる。正直図鑑に書いてあるどんなポケモンを用意したところでわるあがきでしかないのではないか? と思う。彼女――『わたし』と自称していたのでメスだと思う――がいう『運命』で何かしら関わりがあるというだけで、バトルすることになるという訳でもない。だとしても、私は最低限の対策は必要だと思う。『運命』については何も情報はないし、ひょっとしたらバトルすることになるのかもしれない。その時の為、通用するしないは別として彼女への対抗策くらいは考えるべきだ。ゴチルゼルはエスパー単タイプ。弱点は悪、虫、霊。
そんな事をつらつらと考えつつ、ただただ洞窟内をウロウロして、時々綺麗な石を拾ったりする。それが数日続けばもはや洞窟内を歩くのも慣れたもので、オシャマリなんかはルナトーンを乗り物にしながら鼻歌を歌っている。
今日が最後の探索だろう。
地上から地下まで広がるこの洞窟は、人の手が入っている部分だけ見ればそこまで広くない。数日もあれば攻略できるので、私たちは既に探索しきっている。後は未だ人の手が入っていないエリアが少しあるものの、立ち入り禁止の看板で塞がれてしまっている。別に無視して入ってもいいが、万が一があればトレーナー資格剥奪もありうる。例えば、強力なポケモンを刺激してしまって街に被害を出したり、洞窟そのものが一部もしくは全部崩落をおこしたり。ない訳でもない未来である。
洞窟とセキタイを往復する日々も今日で終わり、今日の探索を終えれば普通に洞窟を抜けてシャラシティに入る。メガシンカ発祥の地とも言われるシャラシティ、ゴチルゼル対策にもなりうる。
洞窟を我が物顔で進む私たちの先頭はもちろんネイティオだ。私の左後ろではルナトーンがふよふよと浮いており、その上でオシャマリが体を巻き付かせていた。
昨日は行かなかった道をネイティオはまるで知っているかのように歩く。私は木の実を齧りつつ、そんなネイティオを追って歩くだけ。
私ですら一体どこを歩いているのか分からないが――トレーナーとしては避難経路の把握くらいはしておくべきなのかもしれないな――、何回か曲がり、降り、登ってまた降りて長く歩いた後、少し開けた場所に出る。
野生ポケモンたちのバトルコートのような場所だった。
中心にある円形のバトルコートは多少の凹凸はありながらもおおよそ平らに整えられており、その周りにはどかした岩だろう物が割られたり砕かれたり斬られたりして転がっている。
バトルコートでは、今まさにポケモンたちが取っ組み合いをしているところで、ダンゴロ同士が何度もぶつかり合いをしている。コートの外からその試合を見るのは複数のポケモンたちで、ユニラン、コロモリ、またダンゴロの仲間たちなど。なかなか盛りあがっている。
ポケモンたちの中にはバトル好きが多い。人間の私からするとよく分からない感覚だけれども、とにかくバトルを趣味としているポケモンは多く、研究者なんかは9割がバトルを楽しむだとかバカげたことを言う者もいる。私たちの中で考えるとバトル好きは少ない。というか、積極的にバトルをしかけに行くようなポケモンは一体もいない。私も含めてだが、私たちの中で一番バトルに寛容なのはオシャマリだろう。それもバトルが好きというよりは、誰かと一緒に遊んだりダンスしたりの方が好きみたいだで、その延長にバトルがあるというのが、私の見解。本当のところはオシャマリに聞いてみないと分からないものの。少なくとも、私以上の興味を持ってダンゴロのバトルを見つめている。
「ちょっと見ていこうか」
キャンプシートをバッグから取り出すとすぐに、ポケモンたちの手によってテキパキと広げられる。数日探索をしまくったせいで今日の私は緩みきっていて、普通にスカートだ。
ダンゴロたちは未だ激しくぶつかり合っていて、時々その破片が飛んでくるのをユニランがリフレクターで防いだりしていた。狭い空間で、使える技も少ない。ぶつかり合うくらいしかないのだろう。さして天井も高くない。大袈裟な技を使えば崩落の保恐れもある。ポケモンたちにとってこれは“遊び”。決闘ではないのだ。
ガツーンガツンガッツーン。
一際大きなぶつかりの音が響き、バトルが終わったのか、片方のダンゴロが勝利の雄叫びをあげる。はがねタイプやいわタイプを見る度に思うが、彼らの中身は本当にどうなっているんだろう。
ダンゴロたちの激しいバトルが終わって、それぞれのポケモンたちが巣に帰っていくのを見送った。トレーナーだからって仕掛けられなくてよかった。でもユニランだけはその場に残っているようで、コートの上をふわふわと浮かびながら、砕けた岩の破片をじっと観察している。形や質感を見比べているようにも見えるし、あるいは、何かを“記録”しているようにも思えた。この光景、少し見た事があった。
まだアローラにいた頃、私が小さい――というか、幼い頃。ポケモンふれあいクラブという、小さな子のポケモン慣れやポケモンへの理解を深めるためのクラブに入っていた。その時様々なポケモンを見たが、時々探検と称して大人の引率のもと島中を遠足学習に出かけるイベントが好きで、ほぼ遠足が目的で参加していた。家の周りでは見ないポケモンや、野生ポケモンどうし・トレーナーどうしなどのバトルを観察するのが楽しかった。そういったバトルの後、大人たちは決まってこうしてバトルコートの状態を観察する。その後はどの技とどの技がぶつかってできた跡だとか、どっちが有利だとかを推測交じりに話すのだ。研究者のような仕草だが、トレーナーとしては結構重要なんだぞー、と名前も忘れた引率の大人は言っていた。
というのを、今思い出した。私はそんなことしたことない。
まあ、ユニランの仕草がその時の大人に似ているという話。
何となく分かる気もする。
バトルがしたい、というより――バトルを知りたい。ポケモンも人間も、そこにどんな思いを重ねているのか。バトルしたからって仲良くなるのはなんでだ。私もずっと、それを考えている。
気づけば私は立ち上がっていた。ユニランの近くまで歩み寄り、砕けた岩――ダンゴロの体の欠片だろう――の一つを拾ってみる。バトルで割れたとは思えないほど綺麗な断面。いや、これは“衝突の仕方”による違いか? “かたくなる”や“てっぺき”の後にぶつかり合って角が削れた、とかそんな感じだろうか。
隣で、ユニランがぷるんと震える。
「……バトルが気になる?」
問いかけると、ユニランは少しの間静止した後、ポコポコ粘液に泡が生じる。肯定だろうか。
「……私もそう」
岩を戻し、私はゆっくりと言葉を選ぶ。
「私、バトルって怖いし、得意じゃないけど……でも、知りたいなって思う」
「よくわかんないじゃん、バトル好きって。ポケモンならまだ分かるけど人間はもっと」
ルナトーンがこちらを見上げて、ちいさく頷いた。ネイティオは変わらず静かにその場に立っていて、オシャマリはふわふわ浮かぶユニランを掴もうと必死にジャンプしていた。
私はユニランを見つめた。
「一緒に旅しない? ポケモンも、バトルも、出会いもいっぱいあるよ」
少しだけ沈黙が流れた。
その後、ユニランはそっと私の目の前に浮かび上がり、頭のあたりで軽く一回転した。ぴとりと肩に寄り添うように降りてきて、じっと私を見つめる。
「私はルナ。この尖ってるのはルナトーン。大きいのがネイティオ。さっきからはね回ってるのがオシャマリ。よろしくね」
◆◆
メガシンカ発祥の地、シャラシティ。
街のシンボル・マスタータワーとその城下町を合わせてそう呼ぶ。
ジムリーダーの名前はコルニ。かくとうタイプの使い手で、祖父にメガシンカおやじ(本名ではない)を持つ。ジム自体はユニランとオシャマリが活躍し、スムーズに勝つことが出来た。ただ、ユニランはいささか考えすぎるきらいがあるようで、野生な分バトルにその癖が出ることはないが、四六時中何かしらで悩むような仕草を見せている。それが彼(彼女)の日常なのかもしれないが、念の為要注意だろう。
ジム戦をササッと終わらせた私はマスタータワーまでの道をゆっくり歩いていた。街中では基本的に自転車かローラースケートだが、今日は余裕もあるしそこまで急いでいない。のんびり行こうかと思ってのことだった。
「メガシンカ――言葉的にはポケモンの進化に近いものだよね。まだ研究段階で実用化されてないから色々情報に制限があって、とりあえずできるポケモンできないポケモンいるらしいってことしか分からなかった。事実ですら検証が進んでなくて信憑性薄いから、人伝に集められるような情報は信用ならない。メガシンカおやじに聞くしかないよね。コルニさんも言ってたし」
ふよふよ浮くユニランは私の話を聞きながらゴボゴボと泡を浮かべた。最近わかった事だが、これ、ユニランが何かを考えたりする時の癖だ。つまり、しょっちゅうゴボゴボしている。ただその様はおぼれているようにも見えるのが難しいところだろう。
「とにかく、人から聞いた情報は宛にならない。寧ろちょこっと聞き込みしちゃっただけ変な先入観を持ってしまった。メガシンカおやじに会って、本当の事を聞かないと」
シャラシティの象徴と言えばマスタータワーだが、街の中心と言えばやはりポケモンセンターだ。民家やブティック、カフェなんかもそちらに集まっており、そんな地域からマスタータワーはひとつ離れた場所にある。マスタータワーを囲むように幾つか民家はあるものの、本当にあれは人が住んでいるのだろうか。
それくらい、マスタータワーは街のはずれもはずれ、かなり歩いた場所にある。遠く離れた昔ではタワーが色々な働きをしてきたのだろう。ただメガシンカ関連のことだけに使うにはあまりにも無駄すぎる位置にある。
「いや、逆かも……? ここまでに通った砂浜は実は昔は町で、少しずつ削られていったとかかな。マスタータワー周辺だけは、建設時に地盤工事をしていたから助かった……みたいな」
ユニランが鳴き声をあげ、目を閉じて、またごぼごぼ考え出した。私の説になっとくしてくれたのだろうか。その時、ネイティオが不意に一声鳴く。これは同意の鳴き声なんかではない。
「……ルナ、だな。コルニから聞いておるぞ」
メガシンカおやじ、らしき人だ。どうやらタワーの中には部屋がいくつかあるようで、その中から出てきたらしい。
タワーは意外と広く、中央にはルカリオによく似たポケモンの像がある。ルカリオがメガシンカした姿、ということだろう。
「メガシンカについて教えて頂きたくて」
「うむ。教えてしんぜよう」
とりあえず中に入れということで、部屋の中に入る。ネイティオはボールに入りたがったのでボールに入れ、私とユニランだけが残った。ルナトーンとオシャマリはホテルの部屋で留守番をしている。
「メガシンカとはその名の通り、進化を超えた進化! それ以上進化しないと言われたポケモンが主に戦闘中に姿を変える、一定時間で終わる進化のことだ」
ここら辺は街で聞いた内容と同じか。ユニランは部屋の中に置いてある本棚に夢中でじっと眺めてはふよふよと移動している。恐らく、聞いてはいるだろう。
「現在、複数のポケモンのメガシンカ、及びその影響が報告・研究されており――ま、そこら辺はプラターヌにでも聞いておけ。ミアレにおるからな」
持ってきた木の実ジュースをコップに移して渡すと、メガシンカおやじはそれを一気に煽って更に続けた。
「つまりはまだまだ分からないことが多い! わしも研究者たちの最新の学説に明るい訳でもない! だらが、これだけは分かっている。メガシンカには一組の石が必要なことだ」
そういって左手を差し出すメガシンカおやじ。手の中に入っているのは不思議な意思がひとつ。見せつけるようにしているのは、無骨な黒の腕輪。ブレスレットとは断じて言えないそれの外側に、何やら小さな石がはめ込まれているようだ。ユニランは部屋の探索をやめ、手のひらに置いてある石の方を不思議そうに観察している。
「メガストーンと、未知の石を使って作ったメガリング。トレーナー側のメガリングと、そのポケモンの持つメガストーンが呼応することでメガシンカができる! だが」
「だが?」
「――メガリングが、もうない。つい一か月前、プラターヌからの紹介で旅をしている子供たちが来てな……。メガリングは譲ってしまった。何せ、貴重なものゆえ……数に限りがあってな」
どうやら私はメガシンカができないということらしい。期待していただけにちょっと残念だが……まあいいか。
「私はメガシンカについて知りたい。それだけなんです」
「悪いのう、気を使わせてしまって。……あとワシが言えることは、メガストーンに関してはそのポケモンごとに必要な石が異なること。少なくとも、ユニランの進化したダブラン、さらに進化したランクルスはメガシンカの報告例がないことだ」
なるほど。全てのポケモンがメガシンカできる訳ではないらしい。ポケモンに対応した石が必要……。つまり、メガリングは全てのポケモンのメガシンカに使えるのだろう。
「他にはネイティオやアシレーヌ、ルナトーンがいるんですけど」
「ふむ。ネイティオとアシレーヌというのは聞いた事のないポケモンだな。ルナトーンはメガシンカしないことが分かっている。……わしが名前を聞いた事のないポケモンということは、恐らくメガシンカしないだろうな」
なるほど、なるほど。
つまり、今の私には無用の長物ということだった。将来的に必要かもしれないけれど。
「石はどこにあるんですか?」
「セキタイからシャラ、またヒャッコクなどで見つかることが多い。洞窟内で見つかることもあり、また野生ポケモンが所持していたこともあるな。キーストーンに関しては……分からんが」
自然採取も、メガストーンは可能だがキーストーンは前例なし(もしくは極秘)――私のメガシンカへの道が完全に閉ざされてしまった。一応、旅の中で見つけてみたかったのだが。まあ、先行組の子供達とやらにいつか追いついて、見せてもらおうか。
「分かりました。ありがとうございました」
「いやいやなんのなんの。すまんな、メガリングさえあれば、渡していたのだが」
「いえ。……では」
「ああ。メガシンカだけがパワーアップではないからな!」
と、そういうことで、メガシンカおやじとの出会いはそれくらいで、翌日にはシャラシティを出た。メガシンカは期待していただけに残念だ。
ただ、ひとつ忘れていたことがあって、しかしそれは必ずしもな訳では無いのだが、トレーナーとしては何か大きな伝統というか、しかしわざわざ忘れていたものを思い出した際にやるべきなのかどうか……とにかくは。
ファイトバッジ、ゲットだぜ!