暑い夏のある日、訪れた洋食屋にて、妙な料理と邂逅する。

※当作品はVtuber白兎ねむり様の配信中の発言によって生み出されただけで、関連性は若干あるものの、当人は一切登場しません。

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第1話

 ある暑い日の事だ。

 

 梅雨も過ぎ去り、遠くではセミの鳴き声すら聞こえてくる季節、からりと晴れればもっと快適な夏の日になるというのに、どういう訳か、この国の夏は酷く蒸し暑い。

 

 田舎の家で吹き抜ける風を浴びながら風鈴の音を聞いて涼を取る、なんて言う幻想とか妄想とかと同義になった日本の夏は、今や列島そのものが巨大な蒸し器も同然だ。

 

 まさにこの事を「うだるような暑さ」と言うのだろう。実際、漢字を当てれば茹だる、なのだから、国全体が茹でられている。

 

 素晴らしきは文明の利器エアコン、だから店も大して選ばずに手近な料理屋へと駆け込んだ。

 

 湿度も相まって自分の体温より暑く感じる空気が一変、冷気が体を迎え入れてくれる。

 

 大げさに表現するのならば、砂漠でオアシスを見つけた、地獄で仏に会った、遭難した雪山で小屋を見つけた、そんな気持ちだ。

 

 大げさ? かもしれない。しかし、エアコンのありがたさを最も実感できるのはエアコンの利いた空間に足を踏み入れたその瞬間だと断言できる。

 

 駆け込んだ店は洋食屋だったようだ。

 

 案内された席でメニュー表を見てみるが、中々メニューは豊富なようだ。

 

 しかし、妙なメニューがちらほらと。

 

 草ニョッキ、いったい何なんだろうか。

 

 ニョッキと言えばあれだ、ジャガイモと小麦粉で作る団子状のパスタだ。

 

 しかし、なぜ草なのだろうか。

 

 気分的にはあまり肉というわけでもないし、魚という気分でもない。確かにパスタという気分と言えば気分なのだが、安牌は他にもあるはずだ。

 

 王道のペペロンチーノやボロネーゼ、イカ墨パスタという手もある。

 

 だが、どういう訳か、メニュー表ではこの草ニョッキとやらはオススメらしい。

 

 オススメしている割には味の想像がまるで出来ないのはどうしてだろうか。これは普段注文されていないけど、店側としては自信があるからオススメしているだけなのだろうか、それとも本当に人気があるからオススメなのだろうか。

 

 ひとまず、乗っかってみよう。

 

 次に、何かデザートが欲しい。

 

 草ニョッキとやらがパスタとして、腹のたまり具合はそこそこ程度だろう。なら、デザートをがっつりいっても問題はないはずだ。

 

 外の暑さを思えば安直なのはアイスだ。しかし、がっつりデザートを食べようとしている手前、もう少しボリューミーな物が欲しい。

 

 とすると、パフェか。

 

 大の大人がパフェを食べてもいいじゃないか。しかし、生クリームたっぷりなんかのは少々重い。どちらかと言えばフルーツ重視の方がいいかもしれない。

 

 メニュー表をめくって探してみれば、中々良い品が目に飛び込んできた。

 

 夏季限定フルーツパフェ『ゆめのくに』

 

 なるほど、使われているフルーツは一見してみれば分かりにくいが、夏季限定ということは夏の果物を使用しているのだろう。

 

 旬を頂く、いいじゃないか。

 

「すみません、草ニョッキとこの夏季限定のフルーツパフェのゆめのくにを下さい」

 

 店員に声を掛けて、そう注文する。

 

 しかし、思い返してみれば、メニューの名前からするといまいち味の想像ができない物ばかり注文してしまった。

 

 ビジュアルとしてはこう、緑色のニョッキとフルーツがたくさん載ったパフェが提供されるのだろうが、一体何の草で味をつけるのか、どんな旬のフルーツのパフェなのかメニューからは読み取れない。

 

 しばらく待っていると一皿目が提供された。

 

 緑色だ。確かに草を連想させる色をしていた。

 

 フォークでニョッキを突き刺して一口、その一口で何の草なのか理解した。

 

 これはジェノベーゼだ。

 

 ジェノベーゼはバジルにオリーブオイルやチーズなどを加えてペースト状にしたソースを使ったパスタの事なのだが、イメージしているジェノベーゼの味よりもずっとバジルが強い。

 

 なぜかと首を傾げたが、なんとこのニョッキ、ニョッキ自体にもバジルが練りこまれている。圧倒的バジル感、いや、草感である。

 

 これは中々に美味しい。ソースがうまく調整されているのか、バジルの野性味も和らげられ、バジルの香りをガツンと堪能できる一皿となっていた。

 

 そして、草ニョッキを食べ終えた頃にパフェが運ばれてきた。

 

 ちょうど良いタイミングに感謝しつつも、堂々たるパフェの姿に思わず唸る。

 

 主役は桃だ。下の層から桃、クリーム、グラノーラ、ラズベリー、クリームと来て、スライスされた桃が堂々と鎮座し、ピンクのムースがその上に載っている。そして、焼き菓子のパイが二枚、うさぎの耳のように刺さっている。

 

 なんとも豪勢のパフェだ。

 

 下手をすると桃一個まるまる使っているのではなかろうか。

 

 いざ食べてみれば、瑞々しい桃が絶品だ。ジューシーな果肉で甘みもありながら程よい酸味がどっしりとしたパフェとは思わせない軽やかさを醸し出している。

 

 ピンクのムースは意外なことにラズベリーのムースだった。甘酸っぱいという点では桃とも似た部分があるかもしれないが、桃は甘さ重視の甘酸っぱさ、このムースは酸味が利いた甘酸っぱさがある。

 

 似た味の方向性でもうまく調整されていて、違いを楽しむのもまた面白い。

 

 トッピングされているうさぎ耳を思わせるパイもバリバリとした触感とキャラメルの香ばしさがまた合う。

 

 どっしりとした一品だったが、食べてみればあっという間に食べ進み、気づけば器の底に眠っていた桃を食べていた。

 

 旬の桃とラズベリーを使った甘酸っぱい一品に少しの感動を覚えながら余韻を楽しむ。

 

 蒸し暑い夏、旬の食材が美味しいことだけは救いだ。


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