過去回という名のオリ展開なのにまだまだやってるこの罪深さよ。
でも10年ぶりにお気に入り小説が更新されたりしたし、1か月以内は誤差として許してくれ。ファイナルシーズンのアニメもやってるし。
「グフフフ……ワシたちは災いが降り掛かってもそれをチャンスに変えるゾイ。貴様らを叩き潰して口封じ、そしてそのあと外の警官とヒーローを嬲り殺しゾイ」
「イーヒッヒッヒッ! インターンといえど最近の若者の個性は強力でゲスからねぇ。油断せず、しかし確実に生け捕りにするでゲス」
チビデブとノッポの下卑た笑いに身構える波動と、あくまで自然体のオレ。
状況を整理しよう。
現在オレとねじれ、そして凸凹コンビのヴィランの四人は広い何も無い空間に閉じ込められている。この空間は大雨のときには貯水槽になる場所だろう。
出入口はノッポのリモコン操作によって爆破されて瓦礫で塞がれている。そこに背を向けてヴィラン二人が立ち塞がっている陣形で、オレたちをあくまで逃がさない構え。
「ネイビス! ネジレ! 警官たちを下がらせたら瓦礫をどかして援軍に行くわ! それまで持ちこたえて!」
「リューキュウさん無理しないで、瓦礫で潰れそうだ!」
「大丈夫よ、問題ないわ」
瓦礫の向こうからリューキュウのくぐもった声と流汰さんの心配する声が聞こえてきた。
ヴィランたちも5人を相手取るのは不利と判断し分断にかかったのだろう。
(あのリモコンはなんやねん。起爆スイッチやとしたら予め仕込んどった? なんでヒーローに追われるわけでもないのにこないなところに爆薬仕込むんや)
笑みを浮かべて隙を伺うヴィランたち。
波動はやや緊張してこそいるものの、流石に仮免取得した雄英生だけあってパニックになっている様子はない。
「ネイビス、ここは私がなんとかするから、心配しなくていいからね」
「おおきにネジレちゃん。せやけどここは二人でやる方がええやろ……さっきの爆破はあのノッポの個性やろか」
「どうかな……不思議。個性で好きに爆破させられるなら入口じゃなくて直接私たちを狙うよね、なんでかな」
「おお、流石ヒーローの卵でゲス。油断も隙もあったもんじゃないでゲスね。というわけで先手必勝!」
ノッポがリモコンを向ける。先端はちょうどオレと波動の足元。
波動が飛び、オレは後方へ跳躍したところで、遅れて地面が爆発した。
「爆発した!?」
「リモコンを向けて起爆……ただ人間を対象にはできないんか(実はブラフまたは特定条件下では可能で、直接起爆を狙ってることもあるだろうが、流石に直接爆破されたら防ぎようがないから考えなくていいか)」
「勘がいいでゲスねぇ〜!!」
連続爆破事件指名手配犯、ヴィラン名『シーフォー』本名『
個性『遠隔起爆』
照準を向けた場所で小規模な爆発を起こす個性。生き物は爆破できないぞ。爆破するには一定の狙いを定める時間が必要、デンジャーな個性だ!
「人を爆破できないなら宙に浮ける私が……ねじれる波動――グリングウェイヴ!」
波動の個性『波動』により放たれるエネルギーの衝撃破がうねりを上げてノッポに直行する。動きこそそこまで速くないが、ノッポの身のこなしも中年の一般人のそれだ。
直撃して決着――その寸前にチビデブが立ちはだかった。
「グフフ、ワシのパワーでホームランだゾイ!」
チビデブの右腕が鈍い黒色に染まると、ハンマーのように変形した。
まさに大槌、重く硬そうなハンマーと化した腕を振りかぶり、放たれたエネルギー波を打ち抜いた。
「うそ!?」
まさに宣言通りのホームラン。打ち返された衝撃波は波動へ飛ぶ。
波動は驚愕に目を見開きながらも回避するが、その隙を狙ってチビデブが飛び掛かっていた。
回避した直後に一瞬動きが止まる波動をチビデブの影が覆う。
「まずは一人目ゾイ!」
あれだけの大きさのハンマーをまともに食らって無事な人間はいない。
食らえば目を覆う惨劇が広がる想像が目に浮かぶ。
当然、オレがそんなことはさせない。
ボトルから溢れた水が高速で渦を巻き、手の中に収まる。ギチギチ、ギチギチという金属が擦り合わされるような不快な音が、まさか水によって起こされているとは誰も思うまい。
限界ギリギリまで圧縮し、手のひらを向ける。
生身の人間に当てるにはあまりに火力が高く、ヴィラン相手だろうと容易に使えるものではない必殺技――
「“
圧縮された水の塊から一筋の極細の水流が伸びる。
それは槍のように、あるいは引き絞り放たれた矢、そのまたあるいは流星が如く――音すら切り裂いて放たれた水のレーザーはチビデブの鼻先をかすめ、波動と彼の間に鋭利な切断痕による線を引いた。
「なにゾイ今の! 人に向けていい破壊力じゃないゾイ!」
連続強盗、器物損壊等の容疑で指名手配中のヴィラン『ウォーハンマー』本名『
個性『ハンマー』、体の一部をハンマーに変化させることが可能。ハンマーと化した肉体で敵を叩き潰す!
「躊躇なかったでゲス……末恐ろしいガキでゲス、こんなやつがヒーローになっていいんでゲスか!?」
「ネイビスありがとう!」
「油断大敵やでネジレちゃん」
再び距離が空いたことで間が生まれる。
今の戦いでヴィラン二名がそれなりの修羅場をくぐっていることがわかった。
そして速攻で片付けられるほどの実力差がないことも。
マスキュラーの仲間だとしたら、騒ぎや音で気づいたマスキュラーが援軍に来るかもしれないが、それ以上に逃走を許すほうが不味い。
さっさと無力化したいオレと波動、そして恐らくオレと波動を余力を持って撃破し、残るリューキュウやウォーターホースを倒したいヴィランたち。
だが速攻を仕掛けるには今の攻防でタネが割れた。
――めんどうだな。
全員が油断なく見据えながら、オレと同じことを考えているだろう。
☆☆☆
ウォーターホース夫妻がほとんど無傷で瓦礫から這い出ることが出来たのは、リューキュウのお陰だった。
「助かりましたリューキュウさん……ご無事ですか?」
「無事よ……と言いたいけれど、私も警官も負傷してしまったわ。あの二人はマスキュラーの仲間かしら……とにかく、早く瓦礫を撤去してねじれとネイビスの援護をしないと」
ドラゴンヒーロー“リューキュウ”。本名『竜間龍子』、個性『ドラゴン』。ドラゴンに変身してドラゴンっぽいことならなんでも可能!
「ぐっ……警官たちの負傷の救護が出来次第、私が瓦礫をどかすわ」
「そんな、無理しないでください! 背中からも出血している……こんな状態では……」
「平気よ……痛いだけ。出血も命に関わるほどじゃない。それよりも、この騒ぎでマスキュラーが逃走を図る方が問題よ」
本来の作戦ではリューキュウを中心に多数のヒーローによる攻撃でマスキュラーを逮捕する計画だった。
しかし、予期せぬヴィランとの遭遇により、戦力として見ていたインターン生二名と分断。さらにリューキュウが負傷、インターン生の援護のためには瓦礫をどかせる個性を持つのが彼女だけとなると、三人が釘付けとなってしまう。
「とはいえ大人しく待ってくれているとも思えない……」
「貴方、どうするの? 負傷者の回収も必要よ。手が足りないわ」
ウォーターホースこと出水流汰は口に手を当てた。
最悪なのはマスキュラーを取り逃すこと。市民に被害が出る可能性が高い。
数が足りないとしても地上に出れば他のヒーローの応援を頼ることも可能だ。
流汰は自分たちが先行してマスキュラー逮捕に動く結論を出した。
「リューキュウさん、俺たちは先にマスキュラー確保に動きます! 水面、今のうちにこの地域のヒーローに応援要請しろ」
「わかった」
「……そうね、すぐに三人で追いつくわ。佐賀さん、救急隊の手配は?」
「少し時間はかかりますが、手は足ります。現時点で命に関わる重傷者はいません、大丈夫です。私もマスキュラー追跡に動きます。行きましょう」
「それなら……リューキュウさん、ネイビスを……大海くんを頼みます!」
ウォーターホース夫妻と刑事の佐賀は走った。
ヒーローとして、自分たちがヴィランを倒し、逮捕しなければ、市民たちの平和な生活が損なわれてしまうという正義の心を持って。
☆☆☆
オレたちの戦いは気づけば四すくみの状態になっていた。
ノッポ――仲間のチビデブに木場と呼ばれていた奴は、人間を直接起爆することはできない。そのため、地面や壁を爆破させた余波で攻撃しているが、宙に浮いた上で遠距離攻撃が可能な波動に押されている。
しかし波動も木場に集中したいがハンマーのチビデブこと槌田に強襲されて決定打を打ち込めていない。
エネルギー波を個性のハンマーで薙ぎ払い、近づいてくる槌田に波動では相手しきれない。
そこで波動を崩して倒そうとする槌田だが、それをオレが水の個性で攻撃して、近づけさせず、またハンマーによる防御が難しい攻撃を繰り返して波動へ集中できないようにしている。
だがオレに対して時折木場の爆撃が放たれ、槌田への追撃をかけられない。
拮抗状態が生み出され、時間ばかりが過ぎていく。
だが永遠がこの世にないように、少しずつ均衡は崩れていく。
「あ、そーれ起爆!」
「チッ……瓦礫ばかり当てようとしても効かへんよ」
「痩せ我慢するなでゲス! アンタの個性は水のようでゲスが……水を生み出す訳ではないでゲス! そして防御に使い、飛び散った水が少しずつなくなってるでゲスよ? いつまで水が持つでゲスかねぇ」
爆煙に隠れて飛び出してくる槌田の打撃をかわし、水の壁で受け止めていなす。
木場の言う通り、水の壁で防ぐたびに水が飛び散っていく。
水滴レベルまで細かい水を一滴一滴操作する力はオレにはない。
このまま操作する水分がなくなればオレは戦う力を失い、遠距離からの爆破とハンマーに叩き潰されることになる。かといって貯水槽に水はない。
用水路に繋がっている配管もあるだろうが、何もなしに遠距離にある水を操作することもできない。
ハンマーの一撃を水ではなく体で受け流すが、衝撃が全身を打ち据える。シンプルな増強型と個性無しでやり合うのは圧倒的に不利だ。
「ゲハハハ! 水を節約しようとしても無駄ゾイ! 貴様は最早俎板の上の鯉ゾイ、あとはつみれにしてやるゾイ!」
「やってみぃや!」
防御のために水を節約したのではない。
この状況を打破するためには、攻撃以外の選択肢はなく、そのために水を手のひらに集めた。
殺傷能力云々の話は無視だ。
手の中の水の塊が軋みを上げる。
ハンマーを振りかぶる槌田へ手を振りかざした。
「“波浪渓砲”――!」
超高圧の水流が放たれる。槌田と木場をまとめて串刺しする位置に調整して放った高圧の水流のレーザーは――金属を擦り合わすような音と共に、槌田の額を削り、あらぬ方向へ弾かれた。
弾かれたのだ。槌田の額から血が流れ落ちる、ただそれだけ。
「な――!?」
「見切ったゾイ、その技は! ワシの個性は体をハンマーに変化させる個性! 当然可能ゾイ! 腕以外をハンマーにすることは!」
「がっ!?」
「ネイビス!!」
起死回生の一撃を防がれたオレにハンマーがモロに突き刺さり、コンクリートの壁に吹き飛ばされた。
肺の中の空気が押し出され、ゲホゲホと噎せ返ると血がびちゃびちゃと床を赤く染めた。
「く……“
「しまったリモコンがでゲス!!」
「チャンス……このままトドメをさすから!」
赤く染まる視界の端で波動が木場の手からリモコンを弾き飛ばしたのが見えた。背中を向ける彼を追撃しようとエネルギーを手に溜める波動。
その波動に背中を向けた木場が指を隠しながら彼女を指すのが見えた。
「波動チャン、罠や!」
「え――」
「もう遅い、決着でゲス!」
「な、きゃああっ!?」
木場が指差した先――波動の右足が爆発した。
爆風と、個性が途切れたことによって波動が吹き飛ばされてオレの傍に墜落する。
ずっとリモコン無しに爆破はできないと思っていたが、それはブラフだった。
正確には狙いを定めるための照準器だったのだろう、オレと波動はまんまとハマってしまっていた。
「ぐふふ、狙いが定めづらいだけで指差しでも問題ないでゲス」
「なんで……体を直接爆破はできないはずなのに……!」
「……靴、あるいは衣服やな……!」
「ご名答でゲス。衣服や靴のような動いているものは狙いづらいでゲスが……調子が良ければ爆破できるでゲス」
「木場、ヒーローが来るからはやく始末するゾイ」
「では爆破しつつハンマーで解体するでゲス」
「――ほな、個性教えてくれたお礼にボクも教えたるわ」
「ネイビス……?」
震える波動の手をそっと握った。
今も時間稼ぎの最中だ。そして彼女の力が逆転のためには必要不可欠。個性を気づかれないように使うと波動が顔を俯かせた。
「ボクの個性は水流操作……ご明察の通り、水を操る個性や。水を生み出すことはできないし、遠くに川や海があるからといって操れるわけでもない」
「なんゾイ、命乞いかと思って聞いていたのに全然そんなんじゃないゾイ。興味ないゾイ」
「自分の無力さの説明でゲスか? 随分無駄なことを……いや、いくらなんでも無駄すぎるでゲス。何か企んでゲスね」
木場が指をオレに差し向ける。
コスチュームに照準を合わせているのだろう、起爆するより先に回避することは今の状態では難しいが、もう回避する必要はない。
「うん? 木場、
「は?」
何かに気づいた木場が指をオレに向けたまま、波動の脚を見た。爆破によって焼けただれつつも出血しており、そして溢れた血が川を作るように一筋の道を辿り――オレが吐いた血や額から流れ落ちた血だまりに合流し、その血は床に作られた小さな排水口へ吸い込まれていく。
「ボクの個性は遠くにある水は操れない……けどなぁ。ボクが操れる水が遠くにある水と混ざっていた場合は距離は関係ないんや。だって、混ざれば水は水やろ?」
「はッ!? 起爆するでゲ――」
「もう遅いで!!」
直後、オレと波動の背後の壁を突き破って水流がヴィラン二人を飲み込んだ。
大量の水を操作し、オレが出せる最大威力かつ最大質量の技を放つ。
渦巻き、形が作られ、巻き上がった。
「“
「ぐわぁぁぁあああ!?」
「くそがああああ!!」
二人を飲み込んだ水の龍は壁に激突して水しぶきを撒き散らした。
水煙から姿を現したのは槌田。両腕をハンマーに変化させて木場を守るように構えていた。
「ぐ、ぐふふ……ゲホッゲホッ、どれだけデカくても所詮は水ゾイ!」
「大質量で押しつぶす技でゲしょうがハンマーを潰すほどじゃないみたいでゲスね! 大技がない自分を恨むでゲス!」
槌田の後ろから、向けられた木場の指。打撃をモロに食らったのはマジだ。ボロボロの肉体に向けられたこれを避けられなければオレは敗北する。
だが、依然として問題なし。
「大技がない……ようわかっとるで。自分が一番、ようわかっとる……だから最後は他力本願や」
「ハッ!? 撒き散らされた水はどこにいったゾイ!?」
「――不思議。どうしてあれくらいの怪我しかしてない私から目を逸らしたのか、本当に不思議!」
二人が顔を上げた先には、宙に浮いて両手を構える波動の姿。
両手にはエネルギーだけではない、オレが操作している水が渦を巻いてまじりあっている。
「ネジレちゃん、初めてのヴィラン退治で華々しくデビューいきまぁす!」
「させるか……!」
「遅いで」
波動が両手を二人に向けた。
「“
「ぐがあああああ!?」
「うぎゃああああ!!?」
エネルギーと水の奔流がヴィラン二人を飲み込んで轟音を轟かせた。
「ねじれ、ネイビス、無事!?」
リューキュウが瓦礫の山を破壊して部屋にやってきたのと同時に、ヴィラン二人を縛り終えたところだった。
オレは頭や口から血を流しているが洗い流して派手に負傷しているようには見えないようにしている。波動は脚を負傷していたから消毒だけしておいたが、肩を貸してやる必要があった。
「リューキュウ。ヴィラン二名を確保しました。ネジレちゃんが負傷したので救護をたのんます」
「ねぇねぇ! ネイビスも大怪我してるよ! 自分だけは大丈夫ってフリしちゃダメだよ!」
「リューキュウも怪我しとるね。ウォーターホースは?」
「先にマスキュラーを追ったわ。ヒーローの増援もお願いしているから確保できると思うけど……私たちはこのヴィラン二名を確保して護送のために地上に戻ります。そしてすぐにウォーターホースの援護にいくわ。貴方たちは負傷した警官たちの救護と、救急隊が来るまで様子を見ていて」
オレと波動の返事に対してリューキュウは即座にドラゴンの姿となり、ヴィラン二人を連れて行く。
警官たちの救護といわれたが、大怪我をしている人は見当たらない。
救護という名目で休めということだろう。
「ねぇねぇ、ねぇねぇ」
「どうしたん波動チャン。怪我は平気なん?」
「歩くのはきついけど、大丈夫……ネイビスの方こそ平気?」
「あの程度は問題あらへん。助かったで、波動チャン」
「うん……血の文字が浮かび上がった時はびっくりしたけど、動けて良かった」
ヴィラン二人を前にして倒れていた時。
オレは個性を使い、血文字で波動に隙を見て最大火力を放つように指示を出していた。
よくその通りに動いてくれた。あれがなければ、決め手に欠けていただろう。
「でも……どうして私があの威力を出せると思ったの? ……最大威力の『波動』は初めて撃ったの。自分でもあんなに威力出せると思わなかった……ネイビスの助けありきだけど」
「言うたやん。優秀なヒーローだと思った、って。それに、守ってくれるとも言って貰えたから頼ったんや。波動チャン、かっこよかったで」
濡れた髪を手で拭いながら笑いかけた。
命のやり取りをしたというのに――バスジャック犯ごときで怯えていた自分なのに、不思議と高揚感に支配されていた。
戦いにおける愉悦と衝動が、どこか心を浮つかせていた。
初めてを経験すれば余裕が出てくるのだろうか。
「……波動チャン?」
「……あ、え、う、ぅ、ぁ……なんか、顔が熱い……」
「熱か? 冷やしたろか?」
「い、いいっ、平気、平気!」
両手で頬を押さえながら慌てる波動。
なんのこっちゃ、と思ったその瞬間、影から得体のしれない何かが波動の背後に伸びていた。
(なんだ、これは)
気づいた時には体が動いていた。
「波動、避けろッ!」
「きゃっ!?」
半ば突き飛ばすように波動と立ち位置を入れ替わったその瞬間、黒い刃がオレの体を突き刺した。
「ネイビス!?」
波動の悲鳴と、周囲の警官たちの驚愕と怒号。
黒い刃を突き出したのは、ボロボロの外套とフードで姿を隠した大きな人型のシルエット。入口は警官たちや瓦礫があって入れないはずなのに、どこから現れたのか、こいつは。
腹に広がるじわりとした熱を覚えながら、溢れた血を個性で操作し、外套の人物を撃ち抜いた。
「ギッ!?」
外套野郎は耳障りな声を上げながら飛び退いた。
撃ち抜いた感触はあるが決定打にはなっていない。
「お巡りさん、こっちやで!」
拳銃でもなんでもいい、援護が欲しいと振り返った先には、阿鼻叫喚の光景が広がっていた。
オレを襲った外套の人影が警官たちに襲い掛かっている。
完全に油断していた場所への奇襲。ただでさえ疲弊している人間しかいない状態で対応するのは不可能。
大体、なんでたかがヴィラン一人の逮捕劇に次々とヴィランが現れるのか――考えている暇はない。
溢れたありったけの水を手に集める。
「“濁龍”――!」
威力や密度よりも押し流すことを重視した水流で警官隊から新手を引き剥がした。
「波動ッ! できる限り警官たちを退避させろ!」
「あ、え、で、でも、ネイビスが……」
「個性を考えても飛んで運べる波動が必要だ、はやく!」
外套の中から黒い刃が伸びてくる。
それを躱した先には高水圧の水流が飛び、個性で辛うじて弾くがそのすきに回り込んできた二人に挟まれるように殴られる。
咄嗟にいなして殴り返すが手応えはまるでない。増強型か異形型か、少なくとも近接格闘・中距離攻撃とそれぞれバランスよく手段を持っているようだった。
「……う、く……すぐリューキュウを呼び戻してくるから!」
波動が動けない警官を連れ、そして無事な警官たちと避難していく。
個性を考えても足止め・時間稼ぎにはオレの方が向いている。
これは当然の結果だ。
外套の人物たち――合計五人は警官たちを追わずにオレを囲んでいる。
先ほど以上に感じる命の危険。
だがフツフツと湧きあがる何かが燃え上がるような感覚を同時に覚えた。
「なんや、面白うなってきたやん」
血を拭って構える。
インターン前に感じていた虚無感はすっかり戦いの高揚に塗りつぶされていた。
☆☆☆
「――逃がしたか。まぁ、いいじゃろ。顔を見られたわけでもなし。そもそも奴らも偶然、研究所にたどり着いたみたいだしのう。あの研究所が見つかった時は冷や汗ものじゃったわい」
薄暗い、闇に鎖された部屋の中央でモニターを眺めるのは、白衣を着た老人。周囲には巨大な水槽がいくつも並び、その中には漆黒の異形の化け物が収まっている。
「あの門番の二人を倒す学生か。できれば『波動』の個性のほうが欲しかったが……期待のヒーローの卵が相手なら、性能試験の相手に程よいじゃろう」
楽しげに眺めるモニターの中では、彼の研究成果であり、愛しい子供たちが我先にと雄英体育祭優勝者へ襲い掛かっていた。
まるで授業参観のような穏やかさで、それでいて試合を観戦するスポーツファンのように興奮しながら。
彼は愛おし気に名前を呼ぶ。
「『サダハル』『シゲオ』『タツノリ』『シンノスケ』『ヨシノブ』……頑張るんじゃぞ。ワシの愛しい脳無――“プロト・ハイエンド”たちよ」
魔王の指先と、交わるのはもうすぐ。