こちらのSSは、2024年夏コミケC104にて寄稿させて頂いたAC6SSとなっております。

本誌版とほぼ変わりませんがほんの一部だけ加筆して投稿させていただきます。よろしくお願いいたします。

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Nightmares

この星は、地獄だ。

コーラルを巡り諍い争い、何処かで血が流れる。それが絶えない。ずっと、ずっと、ずっと。

 

自分もこの目で見てしまったのだ。

死神が、「希望」を刈り取る瞬間を。

 

-------

 

「……急げ!まだ間に合うぞ!」

「くそっダメだ、機体がもたねぇ!置いてってくれ!」

「馬鹿野郎そんなこと言ってる場合か!全員で帰るんだよ!!」

 

コクピットの中で殺到する、仲間たちレッドガン部隊員の悲鳴や叫び、助けを求める声。

爆炎、銃声、金属が軋み崩壊するような轟音。

ミサイルアラートやロックオンアラートも鳴りっぱなし。

IFF(敵味方識別信号)も半ば仕事をしていない、そんな状況。

―――ここはまるで地獄だ。G6レッドは絶望の真っ只中に立ち尽くしていた。

 

我々レッドガンは、敗北した。

コーラルを巡る争いから。ミシガン総長の死をもって。

 

勢い付いたアーキバスの残党処理部隊との撤退戦の最中の出来事だった。ウォッチポイント・アルファに放置されていた機動兵器たちが一斉に起動し、無差別に牙を向いたのだ。

 

今やレッドガンで唯一AC乗りたるレッドは孤軍奮闘の限りを尽くした。自ら殿に立ち、有象無象の区別無く襲いかかる無人兵器たち、どさくさ紛れを狙うアーキバス部隊、それらを処理し仲間たちを撤退させていく。

 

「数が、多すぎる……!」

 

各種装備の残弾はまだ持つ、だが敵が多すぎる。

ようやく熱交換室まで辿り着いた時には、仲間達の数は1/3まで減っていた。

 

「……すまない、皆。俺が……弱いばかりに……!」

 

レッドは泣きそうだった。ミシガン総長やナイル副長なら、仮にこういう事態に陥っても損失なんて出さないはずと思っていたからだ。

 

「いいってことさレッド、生きてりゃ丸儲けだ」

「やられちまった連中の分まで生きてやろうぜ、生きて帰るのが遠足だろ!」

「その代わり生きて帰ったらお前の奢りで酒だぞレッドォ!覚悟しとけよォ!!」

 

既に半壊、火花が散るMTも居るながらレッドガンの面々は力強くレッドを鼓舞した。その答えに疲労困憊の体ながらも笑みを浮かべるレッド。

 

――これも全てあの時からだ。

あの死神が。

 

------

 

「聴こえるか、役立たず共」

 

「“ミシガンは転んで死んだ”、伝記にはそう書いておけ!」

 

ウォッチポイント・アルファ第一層最深部。

ウォッチポイントの防衛装置(ネペンテス)の残骸が残る地にて、ミシガンは死んだ。

 

レッドは、その場には居なかった。外部からの襲撃に備えた斥候として、ウォッチポイントから離れた場所にて待機していたからだ。

 

自分にもっと力があれば。ミシガン総長の護衛に入り助けられたかもしれない。

己の力不足を呪った。

 

そして、ミシガンの死亡により「レッドガンの番号付き(レッドガンのAC乗り)」は己一人となった。

重圧、責任、この後の撤退。全てがレッドの未熟な双肩に伸し掛る。

 

レッドガンのメンバーは優しかった。

「何かあったら頼れ」、「総長の意志は俺らで継ぐんだ」、「早く無事に帰って、全員揃って弔い酒だな」なんて励ましの言葉をレッドに投げてくれた。

 

だがレッドガンのメンバーは誰一人気付かなかった。

番号付きの戦死や離脱、それらを間近で見てきたレッドの心は既に折れていたことを。

 

------

 

熱交換室を抜けた先は隔壁が閉鎖されていた。ここを越えれば、第一層のネペンテス残骸まではもう少しだ。

マッピングシステムの情報に拠れば、脇の小部屋から下に降りたところに配電盤があり、そこにアクセスすれば隔壁は開く。

部隊員は隔壁前に待機させ、自分が配電盤に行く事になった。

 

「……クリア」

 

しっかりと部屋をクリアリングして進行する。

半壊状態のMTには任せられない。AP量を鑑みても自分が行くのが得策。

待ち伏せなどもなくすんなりと、配電盤へアクセスできた。

 

「……これで帰れる……」

 

レッドがコクピットの中で脱力した。これで帰れる。弟や妹たち、両親にも会える。生きてこの惑星から抜けれるんだ。

だがしかし、その希望は予期せぬ事態となり打ち砕かれた。

 

「……大変だレッド!隔壁は開いたが無人兵器共が動きやがった!」

 

頭の上から氷水をぶちまけられたような衝撃がレッドを襲う。

まさか、この配電盤を動かしたせいで?そんな馬鹿な。

自分は離れてる。皆がまた危険に晒されてしまう。

 

「クソが、後ろからアーキバスの連中まで!」

 

更なる危機。前門の虎後門の狼。万事休す。絶望が立て続けにレッドを苛む。

 

「……お前たち!俺は構うな、先に行け!全員がこの部屋を抜けたら隔壁を閉鎖する!!」

 

数瞬の思考の後、レッドは叫ぶ。部隊メンバーには早急にこの部屋を抜けてもらう。その上で隔壁を再び閉鎖し、追撃を封じる。

 

アーキバスと無人兵器を潰し合わせる。その上でこちらに来るのならば叩き潰す。殲滅した所でまた隔壁を開ければいいだけの話だ。

 

「……分かった!先に行くぜレッド!」

「LCや無人の人形共に負けんなよ!番号付きの意地見せてやれ!」

「死ぬんじゃねぇぜ、お前まで死んだら誰もイジれねぇからな!」

 

レーダーを注視する。一人、また一人と隔壁を抜けていく。そして。

 

「……今だ!」

 

全員が隔壁から抜けた。直ぐ様配電盤に再アクセス。隔壁を封鎖し、無人兵器も追撃のアーキバス部隊も纏めて閉じ込めることに成功した。

 

「……は、はは……やれば出来るじゃないか……G6、レッド……」

 

狭苦しいコクピットの中で、絶望しながらも一人鼓舞する様に呟くレッド。

本当の本当にひとりになってしまった。配電盤の区画を抜けると、そこには既にアーキバスのMT――惑星封鎖機構から接収したハイエンドタイプMT――が待ち構えていた。

 

「……来るなら来い、俺は……レッドガンで、番号付きで……っ」

 

ここに来て精神が決壊しそうになる。ACとはいえ、MTに撃破されることもある。ましてや相手はハイエンドタイプのMTだ。

 

せめて一人でも道連れにしてやる、そう思った刹那だった。

 

「……AC反応!?」

 

レーダーが何かを捉えた。こちらに高速で向かってくるACの反応。

 

「……!?」

 

天井に空いたエレベーター用の穴から降り立ったACの姿に、レッド含めてアーキバスの残党処理部隊も全員が注目した。

シュナイダー製ACのフレームながらもその両腕はRad製で、色合いも赤銅色の頭部やコア、脚部に対し腕だけがまるで未塗装のように灰色。

アサルトライフルとバーストマシンガン、背部には銃剣付きバズーカと大型チェーンソーを背負っている。

識別番号は、G13レイヴン。レッドガンの末席にその名を置き、ハンドラー・ウォルターの猟犬として戦う独立傭兵。そして―――

 

「貴様はっ……G13か!」

 

信号は、味方を示している。九死に一生、天使からの救済の福音のようにも思えた。

 

「G13レイヴン!ちょうどいい所に来た……貴様も手伝え!!」

 

だがその歓喜に浸る暇はない。一刻も早くこの状況を脱するのが優先。

レーダーを見るに上の反応は無い、恐らくレイヴンが始末したのだろう。

レッド、レイヴンともにブースターを起動。目の前に立ちはだかる部隊相手に挟撃の形で戦闘開始。

 

“なんて速さだ”――レッドは戦慄した。そして、今目の前で起こってる戦いぶりも。

高機動軽量二脚の名に恥じぬ超高速戦闘。一機、また一機とMTが撃破されていく。

 

蹴り、銃火器、近接武器。その全てを的確に使い分けて敵を葬っていく。

正しく、“死神”。

気が付けば、アーキバスの部隊は全滅していた。

殆どがレイヴンの手に架かる凄まじい戦いぶりだった。

 

レッドは、内心恐怖していた。

この強さが、得体の知れない化け物に思えて仕方ない。

そしてそれがレッドガンの部隊に、ミシガンに牙を向いたこと。

 

挙句この空間には、二人しかいない。

 

「……片付いたか。助かったぞ、G13」

 

先ずは救援に助力してくれたレイヴンへの感謝。

 

「貴様には、我が方の依頼も……幾度となく、遂行してくれたな」

 

声が震える。レッドは、無自覚の内に呼吸が浅く荒くなるのを感じた。

 

「……だが」

 

拭えぬ不穏。

なぜ今になってコイツが現れた?

コイツの目的は何なんだ?

アーキバスや無人兵器だけじゃないのか?

ともすれば先んじて逃げて行った部隊員が、危機に晒される?

そしてその後顧の憂いを断つ為に、今この場に?

 

今まで積み重なり、溜まり、淀みきった緊張が、レッドの中で弾けた。

――識別信号を、切り替える。

 

------

 

――貴様(G13)は、

敵だ。

 

正面、離れた位置に向き合うレイヴンのACに、左手にしたバズーカを向けトリガーを引く。

 

「G13レイヴン……」

「貴様は、信用できない……!」

 

レイヴンのACがその弾をひらりとかわす。動きに困惑が見える。そんな見え透いた演技をするな。貴様は俺を、俺たちを、殺しに来たのだろう!

 

「ミシガン総長も、ナイル副長も、先輩たちも仲間たちも!……皆、死んでしまった!」

 

手傷は負ったものの、まだ機体(ハーミット)は動く。逃げようとする“敵”にミサイルロック。背部の連装ミサイルと拡散ミサイルを同時発射。

 

「G13……!」

「俺には、お前が!」

「“死神”に思えてならんのだ!!」

 

そうだ。こいつは死神だ。命を刈り取る悪魔だ。

こうしてここに居合わせたのも、俺を、残った仲間たちを皆殺しにする為だ。だからこいつは追いかけてきたのだ。

“レッドガンを根刮ぎ壊滅させる”のが目的だろう!

 

「こいつが、レッドガンに来てからだ!!」

 

ミシガン総長が拾ってきた“首輪付きの猟犬”。

ガリア多重ダムでの突然の裏切り。

ヴォルタ先輩もイグアス先輩も、為す術なく撃破された。

 

「死神がいる限り!!」

 

ルビコン解放戦線の虜囚を解放したこいつは、そのままナイル副長も手に掛けた。

 

「俺たちの“悪夢”は!終わらないんだ!!」

 

氷原の一件が片付いた後の俺たちの敗走続きも、こいつが全部裏にいるんだ。

そうだ、こいつは敵だ化け物だ死神だ。ならば殺さねばならない。殺せばこの夢も覚めるはずだ。

ハンドガンを乱射しながらアサルトブーストで距離を詰める。未だ逃げようとするのが見える。生き汚い猟犬め!

 

ひらりひらりと銃弾がかわされるがお構い無しにハンドガンのトリガーを何度も何度も引く。

そしてふと思い返したのは、行方不明のイグアス先輩のことだ。

そうだ、イグアス先輩も。

 

「イグアス先輩、まさかあんたも……この死神に殺られたのか!?」

 

きっとそうだ。

ウォッチポイントの調査の最中、第二層の熱交換室でイグアス先輩のヘッドブリンガーの残骸が見つかったことがあった。中には誰もいなかったが、脱出レバーが引かれた痕跡も無かった。つまり、こいつが。

 

「畜生!畜生ォオオ!イグアス先輩!!」

 

涙で視界が歪む。

尊敬に値する格上の先輩であり、共に死線を掻い潜った戦友の死に発狂する。

もうどの武器を使用してるかすら分からない。

だがそんな事はどうでもいいんだ。

こいつを殺すんだ。

今、この瞬間に、ここで。

でないと、今度は、俺たちが。

 

「死ね、っ……死ね、死ね、死ね!G13!!」

「お前さえ!お前さえ居なければ!俺たちは!こんな所でぇっ!!」

 

バズーカを持つ左腕を、ハンドガンの衝撃で動きの揺らいだ敵に向ける。

――だが、弾丸が放たれることは無かった。

 

カチリ、と乾いたスイッチの音がコクピットに響く。放たれない弾丸に空気が凍り、一瞬時が止まったようにレッドは錯覚した。

呆気に取られて滲む視界でディスプレーに目を向ける。

“No Ammo”(残弾ゼロ)の文字が、点滅していた。

 

「え」

 

自分でも驚くほど間の抜けた声を出した次の瞬間だった。前に目を向けると、レイヴンのACが右手にしたバズーカをこちらに向けていた。

 

「ギャ、あっ!!」

 

放たれた弾丸が、衝突してくる。爆炎と衝撃に揺さぶられる。

意識が飛びかけた。何とか視界を前へ。しかし。

 

もう目の前には、赤銅色のACがいた。

立て続けに衝撃、アサルトブーストの勢いで蹴られた。更に今度は逆方向からの衝撃、壁にACが叩き付けられた。

内臓がシェイクされ、血と一緒に吐瀉物を吐き出した。ヘルメットのバイザーにこびりついて視界はさらに悪く、その上嫌な匂いが鼻を突く。

 

機体から警告反応。もう限界が、近い。

 

「……ッ、動け、動け!!」

 

レバーを力任せに引く。トリガーも一緒に何度も押し込む。動かない。ACS負荷限界の警告が表示されてるが、知ったことか!そんなこと―――あ。

 

目の前のACが、右手を引いている。バズーカの銃身下に取り付けられてるのは、鋭利な銃剣。

 

「G13……」

 

「レッドガンの……」

 

その銃剣が、こちらに向かって引き絞られた矢のように、

 

「あく、む」

 

装甲もコアブロックも貫いて、俺は。

ああ、そうだやはりこいつは。

 

俺たちの―――悪夢(死神)だ。

 

-----

 

 

「……G6……レッドの撃破を確認しました」

「レイヴン……」

「いえ、なんでもありません……進みましょう」

 

赤銅色のACが、ゆっくり右手を引く。銃剣からオイルが滴り、コアを貫かれたACがずるずると壁に背を持たれるように崩れ落ちる。

 

一瞥の後、そのACは天井の抜け穴を目指して歩を進めた。

 

 

こうして、レッドガンの番号付きは全滅することとなった。

僅かに生き残った元レッドガンは、この事をこう語る。

 

“赤い死神が、レッドガンに居た”と。


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