『不屈』のダンジョンヒーローがいる   作:甘空

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7.過去

「んで? わざわざ会合の後に俺だけ残したのはどういう要件があってのことなんだ」

 

 俺は現在、会議室のような部屋で、三人の人間と対面している。

 

「遙真警戒し過ぎでしょ。かつての仲間なんだからもっと柔らかい雰囲気で行こうぜ」

 

 楽しそうに笑うイケメン、月下佑樹。

 

「まあ、早く帰りたかった気持ちは分からなくもないよ。僕だって緊張して疲れたからね」

 

 体を伸ばしながら話すのは、青柳玲央。

 

「久しぶりに会ったんだから、もう少し会話を楽しんでもいいんじゃないかと私は思うけどね」

 

 肘をつきながらカラカラと笑う、松笠瑛大。

 

 ダンジョンヒーローが三人。その気になれば、国だって滅ぼせるような戦力に囲まれている。

 メンバーを眺め、頭が痛くなったような気がして、思わず溜息を吐く。

 

「さっさとしてくれ、こっちは有名人に囲われて胃がキリキリするような小市民なんだよ」

「遙真が小市民はウケるね」

「確かにね」

 

 なにわろてんねん。

 こっちは必死なんだぞ。

 

「はいはい、すまないね。皆、久しぶりに黒種君と話せてうれしいのさ。……とはいえ、私達もそんなに時間があるわけではないから、本題に入ろうか」

「おいリーダー、纏めるのはお前の役目だろうが。松笠さんにやらせるなよ」

 

 思わず玲央にツッコむと、玲央は恥ずかしそうに頭をかいて「たはは」と笑う。

 こいつ、知り合いだけの時と周囲に人がいる時で雰囲気が違い過ぎる。

 

「今回話しておきたかったのは、黒種君の大会参加についてだよ」

 

 要件は半ば予想していた通りの内容で、だからこそ、ここには来たくなかった。

 

「……あー、サンカスルヨ?」

「嘘つけよ」

「嘘だね」

「まぁ、嘘だよね」

 

 そりゃバレるわな。というか隠す気もないし。

 

「バレたなら仕方ねえ。分かってるとは思うが俺は参加する気なんてさらさらないぞ」

「そうだろうねえ、困ったなぁ」

 

 そう言う、松笠さんだが、どうにも態度には余裕があるように見える。

 

 ……なんか参加させる手立てでもあるのか? とりあえず、なにを言われても動じないようにしよう。

 そこで、玲央が強張った顔をしているのが目に入る。

 

「遙真。その……」

「青柳君。これは私が話すと、先に話し合っただろう?」

 

 珍しい。俺の知っている松笠さんは、自分が主導で何かをするというよりも、基本的にメンバーの行動を見守って、何かあれば、フォローをして回るような立ち位置だった。

 

 こうやって自己主張して、自分がやると言う所を見たことはほとんどない。

 

「では改めて、黒種君」

 

 松笠さんは改めて、真っ直ぐに俺の目を見つめ直してくる。佑樹は気まずそうに目線が泳いでいる。怜央は比較的落ち着いているように見えるが表情は優れない。

 何だこの雰囲気。何を言う気だ?

 

 

 

「君がヒーローになろうとしないのは、ご家族を救えなかったからかい?」

 

 

 

 気がついたら、俺は松笠さんの首に手を伸ばして、力を込めていた。

 

「おい、遙真!!」

「……ッ!!」

 

 左右から物凄い力で押さえつけられて、狭まっていた視界が開き、自身が無意識にやろうとしていたことに初めて気がつく。

 

「思ったより劇的な反応だったね」

「……ッ、すいません」

 

 慌てて手を離すが、松笠さんを絞めていた感触が、まだ手の中に残っていた。

 その感触を消したくて軽く手を振る。

 

 きっと、松笠さんは俺がこういったことをする可能性を分かった上で言った。首を絞められたというのに彼は余りにも落ち着きすぎている。

 

「こちらこそ申し訳ないね、本題に話すためには避けては通れない話題だったんだ」

 

 その言葉を聞き、気持ちを切り替えるために一度深呼吸をする。今度同じことを言われても、感情をコントロールできる、よう、に――。

 

「それで、非常に勝手ながら君について調べさせてもらったんだけど、黒種君はどうやら三年前まで音咲(おとさき)村という村でご家族と一緒に過ごしていたようだね。山に囲まれたかなり小さな村で、三年前の第一次ダンジョン侵攻で滅んだとされている村だ」

 

 その名前を聞くだけで記憶がフラッシュバックする。村の外につながる道路は、二本しかないかなり閉鎖的な環境で、コンビニは夜の八時には閉まる、スーパーが村に一つあるだけというかなり不便な村だった。

 

「ここからは推察も交えた話になってしまうけれど、侵攻が起きてからは君が一人で村全体を守っていた。けれど、当然一人で守り切るのには限界があって、外部との連絡手段もなく、脱出をしようにも村の外につながる道ではいつモンスターに襲われるか分からず、リスクが高かった。……かといって、何も行動を起こさなければ物資の補給もない状態で、いつ来るかもわからない救助を待つこととなる。だから、そのときの黒種君は村に現れたダンジョン自体の攻略に乗り出したんではないだろうか」

 

 外部との連絡手段がなく、どうすればいいのか分からない不安。日々減る食糧に対する焦り。今すぐモンスターを退治してくれと、詰め寄ってくる村の老人たち。自分だけは絶対に守れと喚く、友人だった奴ら。自分達は大丈夫だから、皆を助けてあげてと言った、家族の言葉。その全てが一瞬にして俺の中を流れる。

 

「そして君の実力からして、きっとダンジョン自体の攻略には成功した。けれど、黒種君がダンジョン攻略をしているあいだに村ではモンスターの襲撃を受けていて、君が帰ったころには全滅してしまった」

 

 ダンジョンから戻ったとき、生きていた人は、一人もいなかった。

 俺は、死体も、家も、モンスターもすべてをこの手で焼き払った。

 

 人の死体が焼ける臭いは鼻の奥からなかなか消えなくて、思い出す度、何度も吐いた。

 

「君はその後悔と無力感から、今、無気力になってしまった。」

 

「……と、ここまでが私が集めた情報をもとに出した、君がヒーローになろうとしない理由なんだけれど。合っていただろうか」

 

 けれど。

 

「……玲央の【真実の探求】か。あれで断片的な情報を収集して、推察したんだな」

「ああ、そうだとも。僕の魔法だ」

 

「なら残念だ。その内容は不十分だよ」

 

 今の話には、どうしても訂正しなければいけない部分がある。

 だって――。

 

「俺の家族を殺したのはモンスターなんかじゃない。()()()

 

 目を閉じれば当時の記憶が、鮮明に蘇る。

 

 ダンジョンを攻略し終わり、家のバリケードを超えるとそこにあったのは、母さんも、父さんも、妹の未菜(みな)も。

 全員が殺されている光景だった。

 

 一階には父さんと母さんが倒れていた。父さんは玄関で首の頸動脈を斬られていた。

 遺体の表情や動きから、未菜と母さんを守ろうとしたんだろうと分かってしまった。

 

 母さんはキッチンで倒れていた。

 上手く刺せなかったのだろうか、胸と腹に全部で三ヶ所刺し跡があった。

 顔には涙の跡があったのを覚えている。

 

 未菜が倒れていたのは、二階にある彼女の部屋だった。

 胸には父さんと母さんも刺したのであろうナイフが突き刺されていて、顔は、見るに堪えないほど殴られていた。

 そして服装が未菜だけ異様に乱れており、何をされたのか簡単に推察ができた。

 

 犯人はすぐにわかった。

 庭で、腹に穴を開けられ、顔の皮を剥がされた状態で死んでいた男。

 俺の家族を皆殺しをした後に逃げようとしたところをモンスターに襲われたらしい。

 モンスターが大量に外にいる状況で、血の匂いを付けて外に出たらどうなるか、なんてのは自明の理だった。

 

 犯人の彼は俺の同級生で、一番の友人だと思っていた奴だった。

 彼が身を守る力が欲しいと言ったので、モンスターから逃げるための術として隠密の効果がある魔法書を貸し出していた。

 その力を利用すれば、ただの一般人の俺の家族なんて簡単に殺せただろう。

 

 彼にどんな思いがあって、俺の家族を殺したのかなんて、もう聞くこともできないし、聞いたところで許せるはずもないが、ただ一つ確かなことは。

 

 俺の不用意な行動が、甘さが、傲慢さが、俺の家族を殺した。

 

 最初から、本当に大切なものだけを守るべきだった。

 他人なんて助けようとしなければよかった。

 それ以外も救おうなんて傲慢だった。

 俺の両の手はこんなにも小さいのに。

 

 今更それを自覚したところで、何の意味もないのだが。どれだけ喚こうと、苦しもうと、ひっくり返った盆は元通りには戻ってくれないのだから。

 

 

 ――だから俺は、皆を助けるヒーローには、もうならない。なってはいけないのだ。




Tips:第一次ダンジョン侵攻
世界にダンジョンが初めて現れた日。世界中での死亡人数、行方不明者数は計測不可。
ほとんどの国でダンジョンや魔法といった未知の力への対策が確立しておらず、被害は莫大なものとなった。
ちなみに、ダンジョンは日本に一番多く発生し、そこから中心に日本から離れるほど、ダンジョンの発生数は減っていく。
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