大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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第11話

 

「吸血鬼は陽の光が苦手なのよ。それはもう天敵と言っても言いくらい。」

「はい、存じております。文献も読み込みましたが太陽以外にも沢山弱点があるようで。」

「まあそうね。間違ってるのもあるみたいだけど。」

「こうやって弱点が沢山明記されている種族も珍しいと思います。それだけ東欧の人々が吸血鬼という存在を脅威だと認識していたということでしょう。」

「大したことのない奴らばっかりよ。さっきみたいにちょっと妖力を開放したら逃げ出したり十字架に縋ったり。挙句の果てには碌に戦い方も知らない懸賞金目当ての連中まで来る始末よ。ほんっとしょうもない。」

「しかしその様子だと外にはまだ吸血鬼の畏れは残っていたようにも聞こえます。幻想郷にいらっしゃったのはどうのような理由で?」

「…それは話してもしょうがないことだからノーコメントで。」

 

阿求が質問を行い、レミリアさんはそれに答える。特に何の問題も無く取材が進んでいるようだ。

これは阿求の縁起に関わる取材であり話に入るのも悪いと思うので、私自身二人の話に耳を傾けるぐらいしかやることがない。

しかし阿求はレミリアさんが質問に答えてくれたものに対して、かなり深く話を掘り進めているので、内容を聞いているだけでもとても面白い。

それにしても関係ないようなことまで掘り進めているようにも聞こえるのだが、これも縁起に必要な内容なのだろうか。

これまでの縁起とは書き方を変えると言ってたし、今からでもどんなものになるのかとても楽しみである。

 

…そうして白熱した取材を二人が行っている隣で、冷めきった表情を浮かべた霊夢が私の方を見ている。その目は、暗に自らが暇であることを私に伝えている。そんな目で見られましても。

 

二人の話、聞いてたら?

 

取材の邪魔する訳にも行かないので、霊夢の耳元で声のトーンを落として喋る。

これまでは私と同様話しを割り込むのも悪いと思ってじっとしていたのだろうが、何事も起こりそうにないのでやることがないのだろう。

話しにもあまり興味がないのかその顔は凄くつまらなさそうだ。

しかし大体護衛とはそういう地味なものだし、霊夢が傍にいるおかげで阿求にも心の余裕が生まれるだろうし、何より心強いんだよ。

…と、ウインクで霊夢に伝えると、怪訝な表情を返される。どうやら全く伝わらなかったようだ。

 

「…何やってるのよ二人共。」

 

レミリアさんがこっちに呆れた顔を向ける。…まあ対面に座ってるんだからそりゃすぐにばれちゃうよね。

 

「霊夢が暇なんだって。」

 

簡潔にそう伝える。話しの腰を折ってしまった二人には申し訳ない。

 

「だって私レミリアの生態に微塵も興味ないもの。そこの意地悪メイドはお茶も出してくれないし、こんなの拷問よ拷問。」

「何をしに来たのよ貴方は。」

 

霊夢は欠伸をしながら椅子にしなだれかかっている。まるでここが我が家であるかのような自由な振舞いをしてるなぁ。一体誰に似たんだか。

 

「…まあ私のことは大体話し終えたし、図書館に移動しましょう。あそこにも取材できるのがいるしね。阿求もそれでいい?」

「はい。本は大好きですよ。」

「…まあここにいるよりはましね。」

 

レミリアさんは溜息を吐きながらも、暇そうな霊夢を見かねて図書館への移動を提案する。

図書館かぁ。どんな本があるのかは分からないが、異国の本が読めるというだけで凄く興味が湧いてくる。

 

…それは別として

 

「霊夢、もう少し我慢を覚えなきゃだめだよ?皆に迷惑かけてるし。」

 

仮にもこちらは招いてもらっている立場であり、こちらの都合で相手に気を遣わせてしまうのはいただけない。

霊夢にとっては散々神社に乗り込まれたことへの意趣返しなのかもしれないが。

 

「はいはい。気を付けるわ。」

「…小傘様、こいつにはもっと厳しく言ってやらないと駄目かと。反省の色が見られませんので。」

「え、厳しく?…うーん。……霊夢、自分勝手すぎるのは、めっ!だよ。」

「…。」

 

まるで一瞬時間止まったかのような空気になる。あれ?何か間違えたかな。

 

「……私もうそんな年でもないんだけど。」

 

確かに。

 

「っふ!いいですね。もっと言ってやりましょう。」

「笑うなくそメイド。」

「…いいから早く行くわよ。咲夜。」

「承知いたしました。こちらです。」

 

そのスッと表情が切り替わる瞬間も相当面白いよ、咲夜さん。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

階段を下った先にある古めかしい扉。それを開けた先に広がるのはまさに本の海。こんなにも広い場所にこれだけぎっしりと本棚が置かれているのは初めて見る。

その本の数たるや毎日読んだとしても何百年掛かるか分からない程だ。

いったいこれだけの本をどうやって手に入れたのか。さぞかしレミリアさんが話していた図書館の主は、本が大好きなのだろう。

 

「す、凄い。」

 

阿求もこの本の量に開いた口が塞がっていない。阿求の家の書庫の何十…いや何百倍もの広さがある程の規模だ。貸し出しとかやってるのかな。

そうしてレミリアさんに案内されるがままに進むと、やがて本だらけの場所から少し開けた場所に着いた。

そしてその奥の方にはこれまた大きな机と山のように積まれた本、その積まれた本に囲まれながら一人の少女が本を読んでいる。彼女が管理人だろうか。

 

レミリアさんはその少女が読書中であることを気にも留めず、スタスタと目の前まで歩いて本を取り上げる。…うわぁ。本に集中している時にやられたら一番嫌なやつだ。

 

「邪魔するわ。パチェ。」

 

パチェと呼ばれた紫髪の少女は、見ていた本が取り上げられたことに少し驚いた表情を見せながら、すぐに機嫌が悪そうな顔になる。

 

「読書の邪魔よレミィ。こんな大所帯で何か用?」

「ちょっと手伝ってもらいたいことがあるのよ。」

 

レミリアさんはこれまでの経緯をざっくりと説明する。

 

「成程。その幻想郷縁起っていう本に私のことも載せたいと。」

「はい。色々とお話を聞かせていただけたら嬉しいです。」

「正直ほとんどここから動くことも無いし、私のことを書いても無駄だと思うわよ。」

 

紫の少女はそうバッサリと切り捨てる。その目は少し尖っており、睨みつけているのか眠たいのかは分からないが、乗り気ではなさそうだ。

 

「どうせ一日中本しか読んでないんだから偶には付き合ってもらってもいいでしょ?」

「私は貴方みたいに暇じゃないの。」

 

そう言って本を取り返そうと腕を伸ばすが、レミリアさんは持っている本をさらに上へ上げる。

 

「パチェ。私はもうこれ以上閉鎖的に暮らすのはうんざりなのよ。少しは協力して。」

「それは貴方の事情であって私には関係ない。」

 

少し語気を強めるレミリアさんをお構いなしに、どこ吹く風と聞き流すパチェさん。

変わらず不愛想な態度の彼女は、本を返そうとしないレミリアさんを鋭い目で睨みつけている。少し雲行きが怪しくなってきた。

 

「貴方のとこにも最近魔法使いが来てるじゃない。無関係って訳じゃないでしょ。」

「…何が言いたいの?」

「これまでみたいにやりたいことをやってるだけじゃまた孤立するって話。いい加減この世界に順応していかなきゃ駄目なのよ私達は。」

「…らしくないわね。今までは気に入らないものは全部力で捻じ伏せてきたくせに。」

 

話しは平行線のままレミリアさんの強い訴えかけもパチェさんには響いていないようで。

 

あっちの事情は先程の阿求の話の中で私もある程度は理解している。

紅魔館は数十年前に起きた吸血鬼異変の際に、多くの妖怪を葬った罰として謹慎処分を受けた。外との交流を一切行わず、大人しくしておくようにと。

それがどうやらレミリアさんにはとんでもなくつまらないものだったらしく、その反動で今は霊夢にちょっかいをかけにいったり取材を引き受けてくれたりと外交的になっているのだとか。

 

「あの子のこともあるしね。…今はうちの立場をこれ以上悪くさせる訳にはいかないのよ。」

 

以前は書物通りの凶暴で手の付けられない吸血鬼であったのは間違いない。そんな彼女を変えた根本にあるものが、果たしてつまらなかったからという一点の理由だけなのかは謎である。

 

「…はぁ。相変わらず面倒臭い愛情は持ってるのね。…分かったわ。その取材とやら手伝ってあげるわよ。」

 

そうしてパチェさん指をくいっと動かすと、何処からか椅子がふわふわと飛んで来る。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

…レミリアさんと彼女の関係はまだよく分からないが、多少喧嘩のように声を荒げたりしても、お互いがお互いのことを分かってる古くからの相棒みたいな間柄に見えてちょっと憧れる。取り敢えず話が纏まったみたいで良かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

パチェさんではなく、パチュリーさんと名乗った彼女に阿求が取材を始める前に、本を借りてもいいのか尋ねてみるとあっさりと許可してくれた。

曰くこれだけの数の本を一人で独占するのももったいないので、返却する期限さえ守ってくれれば好きに使ってくれていいとのこと。

その好意に感謝し、私は今図書館の中を好きに散策している。元々は霊夢の暇つぶしに移動したというのもあるのだが、霊夢が行くより私が行った方が何かあった時に阿求も安全だ。

ということで私が霊夢の分の本も取りに行くことになった訳である。

 

改めて本のタイトル一つ一つに目を向けると、様々なジャンルのものがある。参考書、学術書、小説、自己啓発本、人里では簡単に手に入らないような怪しい本まで多岐にわたる。

そして何故かそれらの本の並びはジャンルによって分けられておらず、一見すると規則性なく仕舞われているように見える。

全ての本棚を一つ一つ見ていくと、あっという間に一日が終わってしまいそうなので、取り敢えず適当に面白そうな本を見繕っていく。

これだけ広い図書館だというのに吸血鬼の館だからと誰も借りに来る者がいないのはもったいない。

こういう参考書なら寺子屋の授業にも用いることが出来るかもしれないし、異国の文化に触れさせるきっかけにもなる。

今度そういう本を借りて授業に使えそうか慧音に聞いてみるのもいいかもしれない。

流石に今日は阿求を背負って行くことになるので、数冊しか借りれそうにないが。

 

「うわ!びっくりした!」

 

色々と考えながら本を見ていたら、突然頭に強い衝撃がきて驚く。

ゴスっと地面に鈍い音を立てて地面に落ちたであろうものを見ると、何やら分厚い本が転がっていた。

どうやら本棚の上から本が落っこちてきたらしい。何とピンポイントな。落ちてきた場所を確認する為に上を見上げると、本棚の一番てっぺんに誰かが覗き込む様な形でこちらを見ていた。

それは赤く長い髪の後ろに小さな羽が生えた少女で、何故か私を見つめたまま口をぽっかりと開けている。どうしたのだろうか?

 

「え、今当たりましたよね?どうして何もリアクションが無いんですか?」

 

彼女は私の下に転がっている本を指差す。もしかしたら彼女が本の整理をしていた際に誤って落としてしまった本が、偶々私の頭上に落っこちちゃったのかもしれない。

だが私はこの程度のものなら痛みも何ともないので大丈夫だと言葉を返す。

 

「私は問題ないよー。本を落としちゃったの?」

「何て頑丈な…。折角痛みで悶える姿が見れると思ったのに…。」

 

何か独り言をブツブツと呟いているが、どうしたのだろうか。

…あれ、彼女がしがみついている本棚が何故かこちらに近づいてきている。

いや、これは…倒れてきている!

 

「危ない!」

「…きゃ!」

 

彼女が本棚の倒れる勢いのまま落ちそうになっていたので、すぐに少女を回収して本棚を躱す。

本棚は前方にある本棚も一緒に巻き込み、凄い音を立てて倒れていく。幸いにもこのドミノ倒しは二つで収まってくれた。

気付くのが遅ければ危うく私もこの子も潰されるところだった。

 

「…ふう。危ないところだった。大丈夫?」

 

突然のことだったので乱暴に担ぎ上げる形になってしまった。あんな場所でこの子が前方向に体重をかけたせいなので、自業自得ではあるが。

 

「…うう~。何でいつも私は上手く行かないの…。」

 

…落ち込んでいるみたいなので今はそっとしておこう。それにしても…本棚が二つも倒れ、辺りには仕舞われていたであろう本達が散らばっている。これを戻すのはかなり大変である。

 

こあ!また倒したのね!言っておくけど全部元通りにしなきゃ許さないわよ!

 

遠くの方からパチュリーさんの声が響いて聞こえる。どうやら常習犯だったらしい。

こういうおっちょこちょいは私にも経験があるので他人事でもないのが辛い。

小悪魔なる少女はまだ落ち込んでいるようだし…しょうがない。

 

「棚、戻すの手伝うよ。」

 

 

 

***

 

 

 

「ありがとうございますぅ~…。手伝ってくださるなんて、貴方良い妖怪ですね。」

 

幸いにも力の無い私でもぎりぎり持てる程度の棚で、何とか元の場所に戻すことが出来た。

散らばった本達は何処に直せばよいのか分からないので近くにあった机に置くことになってしまったが。

 

「本棚の上に登っちゃ駄目だよ?今みたいに倒れてくるんだから。」

「ごめんなさい…知らない方が来ていたのでつい悪戯したくなっちゃって…。」

 

パチュリーさんから小悪魔と呼ばれた少女は悪魔に似合わないシュンとした表情を浮かべる。

悪魔の中でも力が弱いからなのか、子どもみたいない悪戯好きな性格をしているのだろうか。そして彼女の言う悪戯とはもしや

 

「もしかして私に本を当てたのって貴方?」

 

少女は少し涙ぐみながらこくりと頷く。…そんな小動物のように怯えた顔をされたら何も言えなくなっちゃうのだが。

 

「…もうしないでね。」

 

顔を縦にぶんぶんと振る少女は反省しているようだ。

この子の素直さと悪戯好きなことを鑑みるに、妖精の存在に近しいのかもしれない。

もしそうならこの子の悪戯好きの改善は見込め無さそうだが。しかしこの図書館にはしばらくお世話になると思うので、ここの関係者であるならば友好的にしておきたい。

取り敢えずいい位置に頭があるので撫でておく。…自分でやっていてあれだが、こんな子どもみたいな接し方でいいのかな。

 

「…うっ」

 

撫でていると小悪魔は俯いてプルプルと震えだした。

 

「うわーん!なんて心が広い方なんでしょうか!こんなにも優しくされたのは初めてですぅ!」

 

悲しそうに口を噤んでいると思ったら、今度は唐突に叫び始めた。見ていて面白い子である。

 

「困ったことがあれば何でもお申し付けください!貴方様の役に立てるように頑張りますので!」

 

「…じゃあどの場所にどういう本があるのか教えてもらっても良いかな。」

「お安い御用です!」

 

図書館に似合わない元気な声で、小さな羽をパタパタと動かしている少女はこの図書館の司書をしていて、いつもドジを踏んでパチュリーに怒られているらしい。

流石に選ぶ本全ての場所を教えてもらっては時間が掛かってしまうので、霊夢に持って行く本の場所だけを教えてもらい、仕事の方に戻ってもらう。

…赤い髪でドジだけど仕事に勤しんでいる子か…。何となく応援したくなるなぁ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「こんなところかな。」

 

取り敢えず借りたい本と霊夢が好きそうな料理本を見繕うことができた。

他にも色々と興味のそそられる本が沢山あるが、我慢しなければ。

周囲を見回しても相変わらず本しか見えないが、こういう場所に住むことが出来るのはちょっと羨ましかったりする。

その分すべての本をきちんと管理することを考えると恐ろしくなって来るが。

…あれ?帰り道こっちだっけ。

 

「おいおい、小悪魔。何でこんなに本を抱えているんだ。またひっくり返す羽目になるぜ。」

 

ん?進行方向から聞いたことのある声がする。だが積み重なった本のせいで丁度顔が見えない。

欲張りな私を見かねて誰かが持つのを手伝いに来てくれたのだろうか。

 

「…良い事思いついた。なぁ小悪魔、手伝ってやるからこの後パチュリーの気を引いてくれないか?」

 

どうやら私の事を小悪魔と勘違いしているようだ。

関係者なのかは分からないが手伝ってくれるのはありがたい。

 

「最近パチュリーの奴、警備を強めているからな。本を盗むのも一苦労だぜ。悪い話じゃないだろ?」

 

声が近づいてくる。…盗みとは聞き捨てならない。誰かは知らないが注意しなければならない。

…と、声の正体が私の持っていた本を半分引き受けてくれたようで、目の前の視界がクリアになる。そこには見知った顔の人間が。

 

「「…え?」」

 

お互い顔を見合わせて固まる。恐らく彼女にしても予想外だったのだろう。そのまま数秒の時間が過ぎ、ハッと我に返った私は先程まで彼女が喋っていたことを振り返る。

 

「…ねぇ魔理沙。盗みが何だって?」

「………へへ、逃げるが勝ちだぜ、ぐへぇ!」

 

両手が塞がっているので、空いていた足でお尻に蹴りを入れる。彼女の情けない叫びは置いておいて、パチュリーさんの元へ連行である。

 

 

 

 

 

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