「…で、何でこんなことしたの?」
魔理沙を連れて皆の元へ戻ると、パチュリーさんから凄く感謝された。
魔理沙は最近ここに忍び込んでは本を盗んでいく不届き者のようで、捕えようにも逃げるのが早く困っていたらしい。
本来なら制裁はパチュリーさんに任せるべきなのだが、今は阿求の取材を邪魔することになりかねない。
なので突き出すのは後にして、ちょっと離れた場所で魔理沙には正座をさせてお説教をしている最中である。
「…それはあれだ。こんなにも沢山の本、パチュリーには全部読みきれないと思ってな。」
「魔理沙の所有物じゃないでしょ。借りていいって言われてるのにどうして盗むの?」
「………私なりの善意だぜ。ここの本を埃だらけにするのも可哀想だと思って…。」
「へー。貴方の家は人のこと言える立場なの?いつも家に行く度に床に転がっているのはここの本だったってことでしょ。この図書館は少なくともしっかりと管理されて保管されているよね。盗まれて管理もされていないほったらかしの本と所有者がしっかりと管理している図書館の本、どっちがいい環境なのかな。」
「……。」
「第一、そうやって盗みを悪びれも無く正当化してるなんて人としてどうなの?何度目か知らないけど常習犯だよね。何?善悪の感性を森に捨ててきたの?私盗みは駄目だよって言う里の小さい子でも理解できることを言ってるんだけど分からない?」
「……え、えっと、」
「あ、そうだ!今度私も魔理沙の家に行った時、色々盗んで行ってあげるよ。貴方一人にそんな罪を背負わせる訳にも行かないからね。家中空っぽになるまで持って行ってあげれば片付けも出来るし万々歳だよね。」
「すいませんでしたー!」
魔理沙は正座のまま頭を地面につけて謝る。少し荒っぽい言い方になってしまったが響いたようで何よりだ。
「私じゃなくてパチュリーさんに謝って。それとこれまで持って行った本もちゃんと全部返すこと。いいね?」
「…ま、まだ読み切っていない魔導書もあるな~、なんて…。」
「は?」
「………明日までには全部持ってきます。」
よし。
あっちの話が一段落ついたら魔理沙をあっちに突き出すとして、取材はどれくらい進んでいるだろうかと、皆が先程集まって座っていた方を振り向く。
何故か皆と目が合う。
どうかしたのだろうかと首をかしげて見つめ返すとパチュリーさんが一言。
「…貴方達の声が大きすぎて説教が丸聞こえだったんだけど。」
……もしかして私の説教のせいで話が中断されていた?
「説教お上手ですね。さっきの巫女へのお叱りが嘘みたいです。」
「確かに、パチュリー様を見ているみたいでした!」
「分かるわ。」
「喧しい。」
「いつかこうなるんじゃないかと思ってたわ。あいつの自業自得よ。」
「…魔理沙さん。うちの本の返却期限は守ってくれるんですけどね。」
……ずっと見られてた。は、恥ずかしい。
***
「この黒白が言うこと聞くなんてよっぽどね。感謝するわ。」
「わ、私の話はもういいよ。それより話を続けて続けて。」
説教に夢中で周りのことが見えずにいつもの調子で話していた。
ここは広い図書館で私達以外に誰もいない。声が響いてしまうことなど少し考えれば分かることなのだが。
…もう大人しくしていよう。取材を受けているパチュリーさんとそれに時折混じるレミリアさんに咲夜さんに小悪魔。そして長時間星座をしたせいで足が痺れて動けない魔理沙に、静かに本を読んでいる霊夢。
もう取材というよりは談笑でもしているのかと疑われる人数だ。パチュリーさんは凄く嫌そうな顔をしているが。
「話すことは大体これくらいよ。異変のことも大体レミィから聞いたんでしょ?」
「え?…そうですね。しかしこれだけではパチュリーさんがどんな方なのかという像があまり浮かんでこないのですが…。」
「…像って言われても、他に何を話せばいいのよ。」
「どんなことでも構いませんよ。本を読むことや魔法以外の趣味や習慣、得意なことであったり…。」
「……。」
パチュリーさんはそっと目を逸らした。
「阿求…この引き籠りパジャマに本を読む以外の趣味なんかある訳ないだろ。この椅子から動いてるところなんてほとんど見たことが無いぞ。」
「強いて言えば虐待趣味じゃないですか?何かやらかせばすぐに魔法ぶっ放してきますし。」
ご所望通り、魔理沙と小悪魔に向かってぶっ放される火球。自業自得すぎる。
「魔法使いなんてそんなものでしょ。この場所は知識の源泉。ここで魔法の研究を続けることが私の生きがいなのよ。」
私自身魔法使いの理解がそこまである訳では無いのだが、魔理沙を見ている限り魔法一つ完成させるのにも途方もない時間が掛かるのは間違いない。
確かに魔法使いとしてはパチュリーさんの方が普通で、魔理沙のように色々と動き回っている魔法使いの方が異端なのかもしれない。
「成程。確かにそれだけの価値がこの大図書館にはありそうですね。これだけの本に囲まれて過ごすことができるのは私も羨ましいです。」
「あら?分かってるじゃない。魔理沙なんかよりよっぽど魔法使いに向いてるわ。」
「余計なお世話だ。阿求には知識量で負けてても探求心で負けるつもりはないぜ。」
「ふふ。私も魔理沙さんには負けるつもりはないですよ?」
こういう談笑の方が阿求にとって話題は掴みやすいのかもしれない。
これまで私は阿求がどういう縁起を作りたいのかあまりイメージ出来ていなかったのだが、こうして阿求の取材を聞いていれば分かる。
阿求は彼女らの生活や内部事情のような妖怪の"個"に焦点を当て、楽しめる縁起を作ろうとしているのだ。
妖怪をただの"敵"として書くのではなく、身近に存在する"隣人"として人間に伝えるために。
確かにそれは今の時代に必要な本だ。
最近は人間の里にも少しずつ妖怪が入るようになって来ている。ゆくゆくはミスチーみたいに好んで里で商売を始めたり、私や蛮奇ちゃんみたいに人間の生活に混じる者も出てくるかもしれない。
互いに生かし殺し合うような、価値観の大きく異なる二つの種族が共存していくためのマニュアル。
難しいことに違いはないが、だからこそ阿求はこうして危険を承知で足を運び、人間達に伝えていける手掛かりを模索しているのだ。
そしてそれはそれだけ阿求が一途に里の将来を思ってくれているということ。…ほんっと、私の周りの友達は凄い一生懸命で、応援したくなるような子ばかりである。
「パチェったら楽しそうに話しちゃって。私を除け者にするなんていい度胸だと思わない?霊夢。」
こっちではずっと静かに本を読んでいた霊夢がレミリアさんに絡まれている。
「今読んでいるのって料理本?…貴方が?ふふ。」
「これでも毎日作ってるんだけど。」
「あら、そうなの?意外と家庭的なのね。」
「家計を抑えるためには自炊必須よ。一日の食材費を抑えながらボリュームのある料理を作る為に日々研究。私も魔法使いみたいなものね。」
「ただの主婦でしょ。」
霊夢の料理本はかなり作る難易度の高いものを選んだつもりだが、満足そうで良かった。
「小傘さん。小傘さん。」
後ろから肩をちょんちょんと叩かれて振り向くと、小悪魔が耳元に顔を寄せてきていた。
「あちらの人間さんが書く本って沢山の人間さんに読まれるものなんですか?」
何故そんな耳元で囁くように話すのだろうか。
「そうだよ。里に保存されて少なくとも百年は人の目に触れられると思うけど。」
妖怪にとっては百年なんてあっという間だが、それだけ長く人間に読まれる本というのも中々ない。御阿礼の子らの縁起には私もこれまで散々お世話になっていた。
「成程。とうとう私の時代が来たということですか。」
「う、うん?」
どういうことだろうか。小悪魔はふっふっふと笑いながら俯いている。
「人間さんが私の英雄譚を待ち望んでいる。答えてあげるのが務めというものでしょう!」
勢いよくよく顔を上げて自信たっぷりに誇る小悪魔。…この子ポジティブだなぁ。声が大きすぎてもう私の耳で囁いた意味なくなってるし。
「さあ人間さん!私に取材をお願いします!何でも答えますよ!」
「え?…は、はい。」
三人の話の流れとか全く関係なく割り込んでいく小悪魔。ご主人の取材をしているから空気を読んでこれまで大人しくしていたっていう訳じゃなかったんだね。
「ごめんなさいね。この子偶におかしくなっちゃうから。」
「お前の使い魔だろ。」
「感情移入しやすいのよ。この前も休憩中に本を読んでたら涙で一冊駄目にしやがったわ。」
「…面白い奴だな。」
まだまだお話も長引きそうだし私もゆっくり本でも読んでいよっと。
***
そうしてしばらく本を読みながら時間を過ごしていると、突如後ろの方で耳を劈く爆発音が鳴り響いた。
何が起こったのか分からないまま後ろを振り向くと、入り口とは違う大きな扉が一部本棚を巻き込んで爆発して吹っ飛んでいくのが見えた。
そうして煙の中から出てきたのは一人の金髪の少女。彼女は私達を視界に入れると、甲高く笑い始めた。
「あれ?今日はお客さんがいっぱいでとっても楽しそう!」
武器かどうかも分からない棒を手に持ち、明らかに敵意剥き出しでその棒をこちらに向けてきている。どう考えても話し合いをする雰囲気ではなさそうだ。
「フラン…。今日は私の客人がいるの。大人しくしててくれない?」
レミリアさんは立ち上がり、彼女と相対する。どうやら侵入者の類ではなく、彼女もこの館の住民であるようだが。
「お前の都合なんて知らないわ。私は好きな時に暴れるだけよ。」
明らかな殺気を撒き散らしているあのフランと言う少女は、レミリアさんに負けず劣らずの妖力を持っている。
容姿も似ていることから血縁だろうか。それでもこの後多分、この二人は本気でぶつかる。周りの影響も考えずに。
「貴方達は巻き込まれる前に早くここから逃げなさい。」
パチュリーさんは私と阿求にそう言うなり、魔導書を持って何かを詠唱し始める。
どうやら私達に防護魔法壁を展開してくれたようだ。
阿求は霊夢や魔理沙と違い一発でも弾幕に当たろうものなら、たとえパチュリーさんの魔法があったとしても致命傷は避けられない。
今すぐにでも阿求を連れて逃げたいのだが、図書館からの出口は恐らくさっき私達が入ってきた扉だけしかなく、そこを通るにはあの少女の横を通り過ぎる必要がある。
今は動けない。事が始まってからそっと出口に向かうしかない。
「悪いけど私はこの子達と本を守るのに手一杯だからフランの相手は貴方達に任せるわ。」
「そういうことで人間さん。頼みましたよ!」
冷静に事態を分析し指示を出してくれるパチュリーさんと、本棚の影に隠れながらエールを送ってくれる小悪魔。…結構な非常事態なはずなのに少しこなれた感じがするのは何故なのだろうか。
「元々そのつもりよ。任せなさい。」
「…複数で一人を囲む真似したくなかったんだがな。仕方ないぜ。」
「私も援護いたします。」
霊夢と魔理沙、そして咲夜さんはレミリアさんの横に出て戦闘の構えを取る。何とも頼もしい三人だ。
私は何時でも逃げだせるように阿求の体を正面に抱える。
これでは前から来る攻撃の的にはなってしまうが、
傘を操って弾幕を防ぐことは出来るのでこの方が動きやすい。絶対に何事もなく阿求を帰さなければ。
「随分な歓迎じゃない。あれが前に言ってた貴方の妹かしら。」
「…巻き込んで悪いわね。こうならないようにはしたかったんだけど。」
「体動かしたかったし別にいいわ。」
「もう動いてもいい?それじゃあいくよ?」
その言葉を皮切りにとてつもない量の弾幕が相手から放たれる。
その攻撃は周囲の被害を全く鑑みていない、ただ相手を殲滅することしか頭にないもの。
私は視界が弾幕の光に覆われた瞬間に、相手の視界から外れるように本棚を隠れ蓑にして全力で走る。
「…わぁ。」
今まで大人しくしていた阿求が腕の中で感嘆の声を上げる。
頭上には吸血鬼二人と人間三人が色とりどりの弾幕の中で踊っている。人間離れしたその動きに圧倒されるのも無理は無いと思う。
出来るなら私も観戦したいところだが、そんな余裕はどこにもない。
本棚を上手く利用しながらひたすら地面を走り続け、なんとか入り口の扉まで辿り着く。
「勝手に抜け出そうなんて許さないよ!」
…!気付かれた。張られていた弾幕の檻の中からこちらに弾幕を放ってくる。…流石に逃げ切れそうにない。
「先に行って!」
阿求を地面に下ろし扉を開けるが、その間にも迫ってくる弾幕。私はそれを後ろに行かせないように体と傘を上手く使って全て弾く。
…防護壁があるのに、一つ一つの弾が当たる度にまるで鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。
それでも何とか気合いで数十発の弾幕を防ぎ切って、次の攻撃が来る前に扉を潜って閉める。どうやら追っては来ないらしい。
「ああもう、折角の弾幕パーティーなのに無粋な奴らね。ぶっ殺しに行こうかしら。」
「貴方のそれは虐殺って言うのよ。いい加減理性を働かせて行動することを覚えなさい。」
「またお説教?お姉様の分際で?」
「お姉様だからよ。」
「あっそ。でも最近はお前との殺し合いにもいい加減飽き飽きしていたけど、こうやって面白い人間を連れてきたことには感謝してるわ。」
「ふふ。私のお気に入りよ。当然ね。」
「あいつら戦闘中に何べらべら喋ってるんだ?」
「魔理沙。むかつくからレミリアの奴も一緒にぶっ飛ばして急いで小傘達を追いかけるわよ。」
「何だか分からないがもうロックオンしてるぜ。」
「……あれ!?いつの間にか二人からも狙われてる!?」
「お嬢様。あの馬鹿二人は私がやっておきますのでご安心を。」
「…何だか今日はお祭りみたいに騒がしい日ね。こあもあの中に入ってきたら?」
「嫌です怖いです。」
***
痛む体を我慢しながら紅魔館の廊下を走る。ここまでくれば安心だと思うのでちょっと休憩させてもらおう。
「小傘さん。本当に大丈夫なんですか!?」
「大したことないよ。まだ全然動ける。」
阿求は図書館を出てからずっと心配してくれている。まだじんじんと体は痛んでいるがどうということはない。放っておけば収まる程度の痛みだ。
「私の為に、申し訳ないです…。」
阿求は優しいのでこうやって心配してくれているが、護衛として私は不十分である。
霊夢や魔理沙のように弾幕のスキルがある訳でもない。レミリアさんのように妖力が沢山ある訳でもない。
誰かに襲われた時には盾になるというのが私の守り方だ。私はこの頑丈さでしか役に立つことが出来ないのだから。
「小傘さん?」
…いけない。こんなところで自虐をしている場合ではなかった。私は心配してくれてありがとうと阿求に一言伝え、今度は背中に阿求を背負って再び出口に向かって走り続けた。
しばらく廊下を進むとようやく外に出ることが出来た。門の前まで行くとそこには来た時と変わらず美鈴さんが立っており、お疲れ様です、お帰りですかと声を掛けてくれた。
私は彼女に図書館で起こった出来事を伝えると、彼女はその話を聞いてあーっと声にもならない声をだした後、事情を説明してくれる。
何でもあの金髪の少女はフランドール・スカーレットというレミリアさんの妹で、普段はあの図書館の地下で暮らしているようだ。
しかし偶にレミリアさんと喧嘩しに上がって来ては館の中なら所構わず喧嘩をして周囲の物を破損させていく。昔からある紅魔館の名物みたいなものらしい。
「取材してもらえないのは名残惜しいですが…今日はもう日が暮れてきていますし帰った方がいいと思います。」
空はもう茜色に染まっており、もういつ暗くなってきてもおかしくない時刻。
これ以上遅くなれば霊夢のお札があるとはいえ、私一人だけで阿求を連れて帰るのにもリスクが大きい。だからと言って霊夢もいつ戻ってくるのかも分からないし。
ここは美鈴さんが言うように大人しく引き返すのが最善だろう。
「そうさせてもらうよ。阿求、行こうか。」
「…はい。本日はありがとうございました。」
「いえいえ。またいつでも気軽にいらしてください!」
踵を返して空を飛ぶと美鈴さんは笑顔で私達を見送ってくれる。
最後はバタバタして皆に取材のお礼も何も言えないままになってしまったが、美鈴さんや咲夜さんに取材しにまた出向く機会もあるだろう。
…まあ今日みたいなことは心臓に悪いので勘弁願いたいが。
「今日は…いいお話を沢山聞くことが出来ました。小傘さん、ありがとうございました。」
背中越しに感謝を述べる阿求。今日はこの子も取材やら吸血鬼の襲撃やらで気疲れしているだろうに、声色は凄く満足そうだ。
それだけでもこうして連れてきた甲斐があるというものだ。
「どういたしまして。取材してる阿求の姿、立派でかっこよかったよ。」
レミリアさんの助けもあったが、思っていた以上に皆取材に前向きに協力してくれたのは嬉しい誤算だ。
そのおかげで阿求も活き活きと話を進めることが出来ていた。
「小傘さんには本当に感謝の言葉しかありません。…しかしこの取材は私と貴方が無事に帰還して初めて成功するものだということは取り違えないでくださいね。」
「ん?どういうこと?」
いまいち阿求が何を伝えたいのか分からなかった。
今こうして私と阿求は無事に人里へと帰っている最中なのだが。
「先程、貴方は私を助ける為にあんなに頑張ってくれたのに、それを自ら卑下しているように見えました。…それを見て私、凄く悲しくなったんです。」
卑下…か。確かにさっきは自分を責めていたかもしれないが、それで何故阿求が悲しくなるのか。…どうやら阿求からただ感謝を受け取るというだけでは済ませてくれそうにないみたいだ。
「貴方とはこれからも友人でありたい。御阿礼の子が受け取った沢山の恩は忘れていません。いつか返したいと思っています。」
「い、いや。そんなことしなくても…。私も阿求達にはいっぱいお世話になったし。」
これは本当だ。阿求は私にそう思ってくれているように、私もそう思っている。第一恩を着せたいから阿求とこうしていっしょにいるという訳では断じてない。
「…今のは失言でした。気にしないでください。でもどうかお願いですからもっと自分自身を大切にしてください。貴方がいなくなれば悲しむ人もいるのです。」
背中越しで本人の顔を伺い知ることは出来ないが、その言葉一つ一つに阿求の切実な想いが込められていることが分かった。
…悲しむ人。阿求もその中の人に入っていたりするのだろうか。その気持ちだけでも私は嬉しい気持ちになった。
阿求は幻想郷縁起を完成させる為に命を張っている。私もそれを支えたくて阿求を守ろうと命を張っていたのだが、きっと一方的に守り守られるだけの関係では対等な関係とは言えないと思っているのだろう。
さっきみたいに命を賭して守ってくれたなら少しは誇らしくしなさいということだ。
私の命の価値はそれ程安くないということを暗に伝えたいという阿求なりの優しさだろう。
…きっと私があの時暗い顔をしたのを心配してくれていたのだ。よく見ているなぁ。
しかし私は阿求とは違って背負っているものも何もない、ただ長生きしているだけの妖怪である。
人間は時を重ねるごとに体も心も子どもから大人になって行くけれど、私は何も変わらない。
私にはこの子達のような美しい生き方なんて決して出来ないのだ。
「ありがとう。肝に銘じておくよ。」
だから私はこうして人間を支えるだけの便利な妖怪として生きていけるだけでいい。
阿求は自分を大切にしなさいと言ってくれたが、私は私にそんな価値はつけられない。
だって…私の"替わり"なんてきっといっぱいいるんだから。