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春に桜が咲き
夏に新緑が芽吹き
秋に赤く色付き
冬になって枯れ落ちる。
季節はくるくると回っている筈なのに私の時間は止まったまま。
色の無い世界に独りぼっち。
それでも私は今日もご主人様を待ち続ける。
***
今日もまた帰って来なかった。
これだけ遅いと何かあったんじゃないかと心配になってくる。
それでも私は何があってもここで待つと誓ったのだ。
道具である私がご主人様を信じられないなら傍にいる資格なんてきっとない。
だから私は明日も待ち続ける。
明日こそはきっと帰ってきてくれることを信じて。
***
私が役に立つことが出来たのはいつだって雨の日。
だから期待してしまう。雨が降るとどこかからひょっこりと出てくるんじゃないかって。
でも今日も帰って来ないことが分かると、期待を重ねてしまった分だけ、胸がギュッと締め付けられて痛くなる。
もっと気長に待たなきゃ。きっと今回も遠くまでお出掛けしているのだから。
…早く帰ってこないかなぁ。
***
もうここで私がやれることは既になくなっていた。
今の私のお楽しみは、雨傘としてご主人様の傍にいた頃の思い出に浸ること。
ご主人様は商人と呼ばれる仕事に就いていた関係で色んな人里を巡っていた。
時には山を二つ三つ越えたりするような長旅に赴くこともあったし、獣に襲われて逃げたり、野宿することだって度々あった。
私の他にも大きな荷物を沢山背負っていたし、大変だったと思う。
それでも、人里に着いたらそれはそれは楽しそうに商売をしていたのを覚えている。
たとえ雨が降らない日でも、私はご主人様の背中からその様子をずっと見ていた。
あの方が一生懸命頑張っているその姿を見ているその時間が大好きだったから。
そんな私はお日様が出ている日はただのお荷物にしかならなかったけど。
雨が降ってきたら雨風からご主人様を守ることが出来る。
それが雨傘としての私の誇り。
どうして今回の旅に私は置いて行かれてしまったのか。
それはご主人様に聞かなければ分からないけど。
またあの愛おしい日々が戻ってきてくれることを、
またお役に立てる日が来ることを信じている。
だから寂しくなんてない。
…早く帰ってきてくださいね、ご主人様。
***
待って待って待って待ち続ける。
それでもまだ…帰って来ない。
…時間というのは残酷だ。
思い出は胸の奥に大切に仕舞っていた筈なのに。
楽しかった思い出や過ごした時間、ご主人様の顔までも次第に思い出せなくなっていく。
忘れたくないのに。ずっと覚えていたいのに。
代わりに記憶に上塗りされていくのは一人の時間。
大事な思い出が薄れて行く。
何を根拠に帰って来ると信じ続けていたんだろう。
悲しい気持ちが溢れ出てくる。
やがて涙が止まらなくなってくる。
何でこうなっちゃったのだろうか。
よく分からない。
…お願いだから、戻ってきてください。
***
雨の日がまたやって来る。胸が痛む。
雨は涙を洗い流してくれる。
泣き声も消し去ってくれる。
でも慰めてくれる人はいない。
結局私の抱えているこの感情は無意味なものなのだ。
この気持ちがあの方に届くことなんてもうないのだから。
分かってた。
もうあの方が帰って来ることはないんだって。
どこか遠い所へ行っちゃったんだって。
でも…
諦めたくない。それを認めた瞬間本当に私は一人ぽっちになってしまうから。
裏切りたくない。信じるのを辞めた瞬間私とあの方の繋がりは無くなってしまうから。
必要とされなきゃ私なんている意味がない。
だから……まだ待たなきゃ……だよね。
まだ私は信じてるよ。
だから早く帰ってきてよ。
お願いだから…
***
同じようなつまらない日々を繰り返す毎日。
心の中が常にチクチクと刺されているかのように痛み、時折張り裂けそうなほど締め付けられて悲しみが溢れ出す。
この感情の矛先を何処に向けていいのか分からない。
心が壊れてしまいそうだった。
愛おしかった筈の日々はもう何も残っていない。
………もう、いいかな。
数えきれない時間を雨風に晒され続けたせいで、私の傘はもう既に使い物にならないくらいボロボロになっていた。
きっともうすぐ壊れる。
そうなったらきっとこの無駄な肉体も感情も綺麗さっぱりなくなってくれる。
所詮私は唯の
…結局こうなるんだったら、自我なんてない方がよかったなぁ。
お役に立てなくてごめんなさい。
せめて貴方がどこかで幸せに暮らしていることを…私は願っています。
***
残された時間に意味はない。
ボーっと空を眺めながら終わりが来るのを待つだけ。
次に生まれ変われるなら人間になりたいなとか、色んな場所を巡ってみたいなとか、身にならない妄想にふけるだけの時間。
無限のように思えた時間にようやく終わりが見えてきたからだろう。
この時間が少しだけ心地良かった。
でも運命とは不思議なものだ。思い描いていた結末とは全く違う方向に傾いていく。
「へー!森の中にこんな広い場所あったんだ。なんか小屋みたいなのもあるし秘密基地に丁度よさそう。……ってあれ?何かいる。」
それが私の中の時計の針が動き始めた瞬間だった。
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