~Stage3~ side 博麗霊夢
春眠暁を覚えずと言うが、個人的に布団の中にいて気持ちが良いと感じるのは冬だ。
それはただ単に寒い朝が苦手な者の言い分にも聞こえるが、昔から早起きは三文の徳と言い聞かされてきた私にとって、布団の誘惑など取るに足らない。
境内を綺麗にして日の光を浴びながら見る神社からの日の出は本当に気持ちが良い。
「…寒。」
そうやって規則的な生活をしている私にとって、日常の何気ない変化は敏感に感じ取ることが出来る。
例えば今まさに続いている終わらない冬のことである。
今この時期の私は春を満喫している筈なのだが、何故か幻想郷には桜一つ咲いていない。
明らかに誰かが作為的に春を独り占めしている。
許せない。今春こそお花見の中であいつと一緒にお酒を飲もうと桜が咲くのをずっと待ってたのにすべて台無しである。
手編みのマフラーを深く巻き直す。今回の異変の首謀者は再起不能にしてやらなければ気が済まない。
そう覚悟を決め、視界が悪い中勘を頼りに進んでいると、いつの間にか魔法の森に辿り着いていた。
此処は古くからの友人が住んでいる場所だ。こんな陰鬱な雰囲気の場所に住むなんて私だったら真っ平ごめんである。
「こんな所で奇遇ね。」
"偶然"を装って私の前に現れる人影。少し前から先の方で誰かが待ち構えている気配を感じ取ってはいた。
そもそもこの視界が悪い中ピンポイントで遭遇することの方が稀だ。
声が聞こえた方に目をやると、周囲に人形を浮かべた金髪の少女がそこにいた。
「何か用?今私は虫の居所が悪いんだけど。」
主に目の前に出てきた奴のせいで。
「旧友に何の挨拶もないのかしら。」
「あんたのことなんて覚えてないし興味も無い。」
「辛辣ねぇ。」
「とりあえずぶっ飛ばしておくわ。」
怪しい奴は話を聞く前にぶっ飛ばしておくに限る。
首謀者だったら万々歳、違ったら他を当たればいいだけだ。
私は懐からお札を取り出して構える。
「…はぁ。貴方いつもこんな感じなの?まあいいけど。」
相手も仕方なく人形を前方に配置して闘いの準備を始める。
「話も碌に聞こうとしない愚かな巫女には制裁を与えてあげる。」
「その余裕の表情。いつまで続くのかしら?」
***
弾幕ごっこが始まると、相手は整列させていた人形を即座に展開し弾幕を張り始める。
手の動きから、人形は糸か何かで動いているのだろう。
人形の操作をしながら弾幕を避けたり撃ったりするのは相当難しいと思うのだが、随分器用な奴だ。
手の動きだけで人形がどう動くのかを読めず、実質的に複数人と相手している気分になる。
蒼符「博愛のオルレアン人形」
早速スペルを切ってきた相手は、自らの中心にして環状に人形を配置する。
人形自体はくるくると回り始め、弾もそれに呼応するように人形の周りで踊り始める。
青、白、赤、緑と色が変化するごとに弾の量が増えていき、やがてこちらに放たれていく。
弾幕の広がり方からも演出に凝ったスペルのようだが、案外躱しやすい。
「流石。弾幕を避けるのは上手ね。」
相手はまだまだ余裕そうに弾幕を張り続ける。様子見をしているのだろうが生憎私は時間を掛けるつもりは無いのだ。
霊符「夢想封印 散」
周囲に炸裂弾を撒き散らし、相手の弾幕を打ち消しながら弾幕を浴びせる。
しかし弾は周囲の人形に受け止められてしまう。
あの人形が相手を守るように動いていることは分かっていたがまさかあれを喰らっても壊れないとは、見た目に反して頑丈である。
お互いのスペルはこれで打ち消し合う形になり、状況は白紙に戻る。
雅符「春の京人形」
と思っていたらまたすぐにスペルを放ってきた。先程と同様に新たな人形を自身の周囲に配置して回り始め、今回はシンプルにこちらに弾幕を放ってくる。
弾の軌道自体は読みやすくなっているが、その量は先程のものよりも明らかに多くなっている。
人形の数は十体以上。しかしその動きは先程と同じで的は絞りやすい。
闇雲に相手を狙っても、威力を分散され耐久されてしまうため、まずは数体の人形のみに集中して弾幕を当てていく。
やがて人形が墜落したら、出来た人形の隙間から本体を狙い撃つ。
「やるわね。」
相手がそれを躱すと、残りの人形達が消え去ることでスペルが終わる。
「…今のもう終わり?あっけないわね。」
相手は器用にも数十体の人形を動かしながら、自らも好きに動くことが出来る。
数体人形を破壊したところでまだまだ動けたと思うが。
「同じ攻撃を長引かせるのは美しくないもの。」
再び人形を呼び出しスペルを構える相手。
多彩な色の弾幕やスペルごとに異なる人形。妙に変なこだわりを持っている奴だ。
勝敗に拘っていると言うよりは、弾幕と人形をどのように魅せるのかに注力している感じがする。
「芸術ってやつ?私には分からないわね。」
このくだらない人形劇に終止符を打つべく私もスペルを構える。
咒詛「首吊り蓬莱人形」
霊符「夢想封印 集」
***
「それじゃあ知っていることを話しなさい。」
「さっきの闘いは何だったのよ。」
弾幕ごっこは、相手が白旗を上げたことによって私の勝ちになった。
元々本気で相手する気が無かったのだろう。終わった直後でもピンピンとしているこいつを見ていると腹が立ってくる。
私から喧嘩を振ったとことをいいことに新しいスペルの実験体として使われただけなのだ。
寒空の中態々待ち構えていたのもきっとそういうことなのだろう。
いいように使われるのも癪なので何か情報を聞き取らなければ気が済まない。
「あんたが真面目にやらないのが悪い。」
「いつだって私は大まじめよ?」
隣に浮いている人形と一緒になって首を傾げてこっちを見てくる。
この人形はまるで生きているかのように動くのね。
…っていうかこいつが今懐から出した水色の人形ってまさか…。
「…?そんなに人形をじっと見つめて、興味があるの?」
「…そんなわけないでしょ。ぶっ飛ばすわよ。」
「その脳筋思考どうにかしなさいよ。」
…駄目駄目。今は異変のことに集中しなきゃ。
最近中々来てくれなくてちょっと郷愁感に襲われてたけど、異変が終わればまたいつでも会えるものね。
「…で、異変のことね。首謀者は知らないけど冬が長引いてる理由はこれ。」
そう言うと人形を使って何か私に渡してくる。これは…道中でも見かけた桜の花びら?
「その花びらは言うなれば春の欠片。誰かがそれに春を閉じ込めたせいで冬が続いているのよ。」
確かにこの花びらからは少し温かみを感じる。
これが春の欠片として春を封じ込めている原因なのか。
となると首謀者は単に気候を操れるような者ではなく、春を封印することが出来る大妖怪程の力を持った奴だということになる。
…こんな器用なことできるの何てあの胡散臭い妖怪以外に思い浮かばないが。
「解析も終わったことだし手持ちの花びらは全部上げるわ。いい加減この景色にも飽きてきたし早く解決して来て頂戴。」
「言われなくてもそのつもりよ。」
この花びらは木々に咲いたものが風に運ばれてきているというよりは、上空から降り注いできている。
ともなれば首謀者は空の上にいるのかもしれない。
「気を付けてね。」
人形遣いの声を背に白銀の世界に再び躍り出る。
早く解決して桜を取り戻さなければ。