~Stage?~ 多々良小傘side
私の集中力は、周りと比べてそれなりに高い方だと思っている。
鍛冶や読書といった長年の習慣が積もり積もったおかげで、一度ゾーンに入ってしまえば喧騒の中でも気にならない。
つまり何が言いたいかというと、家の中でゆったりと本を読んでいる私の集中を削げるものなどそうそう無いということ。
「見ろ小傘。雪だるまなるものを作ってみたぞ。」
戸の隙間から漏れて聞こえてくる声さえなければ。
「蛮奇ちゃん、いい加減静かにしてよ。」
数刻前に遊びに来たと戸を開けるなり騒ぎ始めた蛮奇ちゃん。
彼女が来てからというもの、私の周りをちょろちょろと動いてあの手この手で邪魔しようとしてくるのだ。
流石にこれだけずっと絡み続けられると気が散って仕方がない。
今は外で雪だるまを作るのに夢中になっているようなので、多少は静かになったが。
「お前は最近家に籠って本を読んでばかりではないか。偶には外に出ないといけないぞ。」
蛮奇ちゃんが言うように、私は最近一日中本を読んで暮らしている。
外に出るのは本を返しに行く時ぐらいか。時間をほとんど気に留めていないせいか、読み始めてから一日経っていたこともある。
こんな生活を続けているのはあまりよくないのだが。
「体は丈夫な方だから問題ないって。」
私にはやるべきことがある。今遊んでいる余裕はあまりないのだ。
「そういうことではなくてだな…。あ!…ちょっと待っててくれ。」
蛮奇ちゃんはそう言うと何処かへ行ってしまった。
地面を強く蹴った音からして空を飛んで行ったのだろう。
戸の方に目をやると、その隙間から雪が少し入ってきている。
もう桜が咲いてもおかしくはない筈なのに、冬真っ盛りのように降りしきる雪。
恐らく異変だ。
冬が多少長引くのは自然現象として片付けることが出来ても、これだけ長引くのは流石に異常と言わざるを得ない。
まだ違和感を覚える程度の小さな変化。でも直に里の方でも食糧が危うくなってくれば危機感を持ち始めるだろう。
まあだからといって異変の解決に私から直接手助けすることはないのだが。
私に出来ることは里の警備と異変解決の要請をするくらいであり、異変解決の役割は人間にある。
だから異変に気付いても今こうしてゆっくりと本を読んでいる訳だ。
…突如外の方からポスン、と何かが着地した音の次に家の戸を開く音が聞こえてくる。また蛮奇ちゃんが家の中に入って来たのかと目を上げると
「見ろ小傘。大きい妖精を捕まえたぞ。」
蛮奇ちゃんが羽の生えた小さい少女を肩に背負って拉致していた。
「ひぃぃぃ!お助け下さいー!」
呼んでいた本を置き、蛮奇ちゃんの頭に強めの手刀を入れる。何をやっているんだ。
***
「た、助けていただきありがとうございましたぁ…。」
少女は体の自由を取り戻すと、真っ先にぺこりと私に頭を下げてお礼を言ってきた。
少し落ち着いたところでお互いに自己紹介をする。
少女はリリーホワイトと名乗り、後ろの小さな羽を見せてくれて妖精なのだと言った。
この子は確か冬が明けて暖かくなってくると春を告げにやってくる春告精だった筈。
この時期には決まって人里に現れては飛び回っているのを見かける。
「うちの馬鹿がごめんね。」
元々蛮奇ちゃんを放置していた私にも非があるので、お礼を言われてしまうと罪悪感が募ってしまう。
「馬鹿とは何だ。馬鹿とは。」
「うるさい。童女趣味の変態。」
どういう神経で何の悪さをしていない妖精を攫うことが出来るのか。
私達よりも一回りも小さいリリーを無理やり連れてきた蛮奇ちゃんはつまりそういうことなのだろう。
「誤解を招くからそういう言い方は…」
「や、やっぱりそういうことなんですか!リリーに近づかないでください!」
「oh…。」
リリーは私の後ろに隠れて服にしがみついたまま離れなくなってしまった。
突然連れ去られたことが相当怖かったようだ。
取り敢えずプルプルと震えている少女を落ち着かせるように話を聞く。
今日は人里に用があって来たのかな?
「…そうです。今年も春が来たのでそれを伝えに周っているのですが…。」
しゅんと俯いて落ち込むリリー。事情は大体分かる。
時期的にもう春なのにこんな冬のように吹雪いていたら春の妖精も悲しくもなる。
異変のことには気づいていないのかもしれないが。
「…うーん。申し訳ないけど人里の人間もまだ冬の季節だと思っているからね。」
「皆いつもなら温かく迎え入れてくれるのに…。リリーの声、誰も聞いてくれないのです…。」
どんどん声が小さくなりシュンと縮こまってしまうリリー。
その顔は凄く悲しげで、今にも泣いてしまいそうだ。
ど、どうしよう。慰めようにも今できることなんて…。
「ここは任せろ小傘。私が泣くのを忘れてしまうぐらい笑わせてやる。」
そう言うと蛮奇ちゃんは戸を全開にして外に飛び出していく。
また何かしでかしてくれるようだ。止めたいところだがリリーのしがみつく力が強すぎて動けない。
「見ろ!これが私の作った蛮奇ちゃん雪だるまだ!」
開かれた戸の方を見ると、大きな丸い雪の塊の上に小さな蛮奇ちゃんの頭がどや顔をして乗っかっていた。
頭と体のサイズのつりあいが全く取れておらず、物凄く顔が小さい人みたいになっている。
「ふふっ。」
「あっ、小傘は笑ったな。リリーもこっちを見てくれ。」
「えっ…。」
「ちょっと!リリーがそれを見ても怯えるだけでしょ。見なくていいからね。」
蛮奇ちゃんは誰しも首を取れるのがこの世の常であると勘違いしているのではないだろうか。
思わず笑ってしまったが、彼女の事を知らない者が見れば首なしの化け物か死体にしか見えない。
というかさっきの件でリリーから変質者扱いされているのにどうしてこんなことが出来るのだろうか。
…もう無視して話を戻そう。
「それじゃあ何とかなるように私も動いてみるよ。だから安心して。ね?」
リリーを落ち着かせるように体を抱きとめる。
この子にとっては一年に一度の見せ場が潰されたようなものだ。流石にこのまま放っておくことなどできない。
「うー。ありがとうございます…。リリーはお姉さんの優しさに感動していますぅ…。」
リリーはそう言うや否や、疲れてしまったのか、そのまま私の腕の中で眠ってしまった。
この子は今まで春を伝えるために、慣れない寒空の中飛び続けていたのだ。無理もない。
リリーは寝室にある布団の中に横にさせておき、出かける準備をする。
「蛮奇ちゃーん。ちょっと外に出かけるから留守番とあの子のことお願いしてもいい?」
「むっ。ついに私の出番が来たか。任せておけ。」
外から蛮奇ちゃんの首がすっと入ってきて、続いて体の方が戸に体を何度もぶつけながら入ってくる。
まずは首と体を繋げなさいよ。
「一応言っておくけど…変なことしちゃだめだからね。」
「分かってて言ってるだろ。早く行ってこい。」
曲がりなりにも家を預けれる程度には信頼しているが念には念をと釘を刺し、手編みのマフラーを首に巻いて外に出る。
…さて、そうは言ったものの異変を解決するのは人間の仕事である。
私が手を出しすぎるのもあまり良くない。
取り敢えずは霊夢と魔理沙に異変のことを伝えに向かうとして、その後は…まあ、付いて行ってサポートするくらいならいいのかな?
別に私がいなくともあの二人に任せておけばいずれは解決してくれるのだろうが、これ以上長引かせるのもリリーが可哀そうだし、約束した手前何もしない訳にも行かない。
最近ちょっと張り詰めすぎてたし、気分転換に今回はこのお祭りにちょこっと参加させてもらおう。
***
博麗神社、そして魔法の森にある魔理沙の家に行ってみたが二人とも留守のようだった。
もしかしたら既に異変を察知して解決に奔走しているのかもしれない。
そうなのだとしたら今日中には何とかしてくれそうだ。
しかし家から飛び出した手前、このまま手持ちぶさたに帰ってしまうのもリリーに悪い。どうしたものか。
「…小傘?こんな所で何やっているの?」
魔法の森の上空を飛んでいると声を掛けられる。声の方向に振り向くとそこには人形を携えたアリスがいた。
「アリス。こんな視界悪いのに…よく見つけられたね。」
「異変のせいで妖精やら妖怪が活発になっているみたいだから、森を人形達に見張らせているの。」
アリスはやっぱり異変のことについて既に察知していたみたいだ。
ここが具体的に魔法の森のどこに位置しているのかは魔理沙の家から出て適当に飛んでいたのであまりよく分かっていないが、この辺りはアリスの家では無い筈。
相当広い範囲に人形を飛ばして見ているのだろう。彼女の人形を操る技量には毎度のことながら驚かされる。
私は先程の質問に答える為、ここに至った経緯と、霊夢と魔理沙を探していることを伝える。
「博麗の巫女ならさっきここにきたわよ。」
「ほんと!?どこに向かったか分かる?」
そうしてアリスが指差したのは空の方向。どうやら霊夢はここから真上の方向に向かったようだ。
意図は分からないが、態々何もない上空に向かうということは手掛かりを見つけたのだろう。
「時間からしてまだそう遠くへは行ってないと思うけど。」
「分かった、追いかけてみるよ。ありがとう。」
アリスに感謝して教えてくれた通り空に向かって飛んでいく。
…時間もあまりないから触れないようにしたけど何でアリス私の人形連れてたんだろう。索敵には使えるのかもしれないけど戦闘機能とかはない筈じゃ…。
劇で使う以外に変な機能を付け加えてたりして。
…まさかね。