大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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キャラ崩壊注意報




第3話

 

人里とは文字通り人が集まる集落のことを言う。妖怪が個として大きい力を持つ存在であるなら、人間は集まり群を成すことでこれまで生き延び、進化を遂げてきた。

対極にある二つの種族はこれまでにいがみ合ってきた歴史があり、上手く交わることはない。…かのように思うが、人間にも妖怪にも色んな者がいる。

人里から飛び出していった魔理沙や人間の生活に馴染んでいる私のように、種族関係なしに多種多様な生き方があるのだ。

 

私が思うに、その種族だからこう生きなければならないという絶対的なものはなく、そういう既定路線に囚われない生き方の方が楽しいことに沢山出会えるのではないかと思う。

 

 

 

さて、そんな話をしたのもここ一年くらい前から人里に住み始めた妖怪がいるからだ。周囲の人間に自らが妖怪であることを隠し、ひっそりと人里で暮らそうとしている妖怪。人間に悪事を成す妖怪ではないのだが…。

 

「蛮奇ちゃーん、いるー?」

 

名前は赤蛮奇。種族としてはろくろ首らしいが、中国の妖怪である飛頭蛮のように生首だけが飛んだり増殖したりするので実際のところはよく分からない。

私と同じく人里外れに建てられたその家屋に向かって名前呼ぶと、それほど時間も経たないうちに目の前の戸が開く。そうして出てきた赤色の姿が私を認識すると

 

「おはよう小傘。心配しなくても私の心はいつでもお前と共にいるぞ。」

 

開口一番ちょっと何言ってるか分かんないけど。

 

「おはよう蛮奇ちゃん。相変わらず元気そうだね。」

「元気もりもりだ。最近あまり顔を出しに来ないけどどうしたんだ?」

「結構出入りしてるでしょ。」

「ちょっと前まではもっと頻繁に来てただろ。このペースじゃ私の中の小傘成分が不足してしまう。」

 

このおちゃらけた妖怪との付き合いは、人里で暮らしたいと私のもとに彼女が訪ねてきたのが始まりだった。

出会った当時は無口で落ち着いた印象だったのも懐かしい。仲良くなっていくにつれ遠慮がどんどん無くなっていき、今では無表情で言葉を捲し立ててくるようになってきていた。

色々と癖がある子なので、こうして住居を提供した後も心配で偶にこうやって顔を出している。

 

容姿は赤い髪に青いリボン、更に大きなマントにマフラーのようなもので口元まで隠されている。人里ではかなり目立つ格好だ。

 

「蛮奇ちゃんってちょくちょく変態みたいな発言するよね。そういうのは控えた方が良いと思うよ?」

「私なりの愛情表現だ。ご存じの通り気に入った相手に執着するタイプなんだ、私は。」

「知らないけど。」

「これでも抑えてる方なんだぞ?その気になればそれはもうとんでもないことになるからな。」

「…言っておくけど何かやらかして里の自警団に捕まっても私は他人のふりするからね。」

「言葉では拒絶しても何だかんだといつも気に掛けてくれる小傘。よっ女神様。」

「もう私が通報しようかな。」

「美味しいご飯が出てくるなら私は捕まっても一向に構わない。あ、でもたまには顔を出しに来るんだぞ。寂しくて死んじゃう。」

 

この子との会話はいつも巡り巡ってよく分からないところに着地する。口が上手いのかマイペースなだけなのか。十中八九後者である。

用事があって訪れた時もこのペースで話し続けるので、最終的に何の用事が訪れたのか忘れることもしばしば。飽きはしないがとっても疲れる。

今日はもう早速本題に入ることにする。

 

「蛮奇ちゃん、宛行った仕事またクビになったんだって?」

 

このように人見知りで内弁慶な彼女も、偶に里の方に出向いて色々と仕事をしている。仕事をしたいというのは彼女の希望なのだが、理由は秘密だそうだ。

妖怪とだけあって、体力も力も並の人間よりも遥かに高いので役に立てる場所は多い。

妖怪としての素性を隠している蛮奇ちゃんを、そういう人手が欲しいところに"人間"として私は紹介していたりするのだが…。

 

「うむ。仕事のミスが重なって追い出されてしまった。心の狭い奴らだ。」

「…あのねぇ、蛮奇ちゃん。これで追い出されたの何回目になる?これ以上擁護するのも難しいんだけど。」

 

確かに彼女が今まで生きてきた妖怪の世界と今暮らしている人間の世界では全くの別物なのだろうが。

荷物の運搬中に転んでその物を破損させたり、建造中に転んで木材を上から落っことして危うく大事故になりかけたりと、とにかくドジを踏む。

それが一年を過ぎても変わらないとなればいい加減私も物申したくなるというものだ。

 

「このドジっ子属性は私の個性。多分一生治らない。」

「断言しないでよ…。もう紹介した人間達になんて言い訳すればいいのか分かんない…。」

「まだまだ。私の天職がどこかにある筈。諦めないぞ。」

 

心意気は素晴らしいんだけどね…。何よりも問題なのは…この子がドジをして転ぶ度に頭が取れて転がってしまうこと。

しかも多くの人間が行き交う里の往来でだ。最早妖怪であることを自らカミングアウトしに行っている愚行である。それが何十回と続けばそりゃもうね…。

 

蛮奇ちゃんはまだ隠せてるつもりになってるみたいだけど、もう多分人間達に気を遣われ始めているのである。

最初は頭が取れたことで阿鼻叫喚だった人間も、今では日常になってるみたいだし。もうこういうキャラクターとして売って行けばいいんじゃないだろうか。

 

「そんなごみを見るような目で私を見ないでくれ。照れる。」

「今最悪蛮奇ちゃんを切り捨てるところまで考えてる。」

「おい。私を見捨てるとやばいぞ?里の中央で泣き喚いてやる。」

「貴方をごみとして見る目が増えるだけだね。」

 

本当にこの子は私に出会うまでどうやって生きてきたのだろうか。

 

「はぁ。」

 

彼女が妖怪だと皆にばれてしまっている状況はもうどうにもならない。

今のところは彼女の人畜無害な性格も相まって里の人間からも受け入れられているようだが、彼女が引き起こす問題によってはいずれ外から追い出されてしまうことになってしまうのではないか。

 

迫害…という嫌な言葉が頭の中を過る。里の人間は優しい者ばかりなのでそんなことは無いと思ってはいるが。

 

「迷惑を掛けて申し訳ないとは思っている。さっきは茶化したが迷惑ならいつでも私を追い出してくれて構わない。」

 

…こういうことを真面目な顔をして言うんだもんなぁ。この子が里に来た目的も何も話してくれないので分からないのだが、少なからず何らかの覚悟があるのは目を見れば分かる。

 

確かに今はまだ物事は上手く運んでいないかもしれない。でもやろうとするこの子の気持ちがあればいくらでもなんとかできる。だったら私ももっと手助けする必要があるのかもしれない。

 

「…うん。私にも確かに、仕事を紹介するだけしてほったらかしにしてた責任がある。だから蛮奇ちゃんの天職を探すの、私も手伝うよ!」

「お?お、おー。」

「それじゃあ善は急げってことで今から頼まれてる薬草を外に摘みに行くよ!」

「話が早…っておう、強引。」

 

人間にとっては危険な里の外に出なければならない依頼。今までは里の中で出来る雑務の方を出来る限り回していたのだが、人にも妖怪にも適材適所というものがある。このような外に出る仕事の方が彼女には向いているかもしれない。時間はいっぱいあるのでこれから色々と試していけばいい。私は蛮奇ちゃんの手を引き、道中家にある竹籠を背負って薬草の生えている森の方面へと向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…で、何でこうなったの?」

 

場所は移り依頼の薬草が採れる森の中。霧の湖へと繋がるこの森は、昼間でも木々の葉っぱが陽の光を覆い隠していて少し薄暗い。

薬草は人里近くで採れるものではあるが、それなりの量が必要なので蛮奇ちゃんと手分けして探すことにしていた。

私はそれなりの薬草を集めて集合場所に向かっていたのだが、その途中助けを求める声が聞こえた。何か危険な目に遭っているのかとすぐにその場所へ駆けつけると

 

 

 

「この森が整備されていないのが悪い。」

 

頭だけの蛮奇ちゃんが地面に転がっていた。

 

「頭と体が分離して片方だけどっかいっちゃうっておかしくない?」

「木の枝に引っ掛かって転んだ拍子に頭が取れてしまって、そこに現れた妖精がこの頭を転がして体と離されてしまったのだ。」

「はあ。」

 

現在、転がっていた頭を拾いその場所へと向かっている途中である。薬草が入っている竹籠も体の方にあるので探さざるを得ない。

 

「このままでは私の体が弄ばれてお嫁に行けなくなってしまう。」

「貧相な体で何を言ってるの?」

「何を言うか。これでもお前に負けず劣らずの発育を…」

「ねえ蛮奇ちゃん。手に乗っている時ぐらい少し黙っててくれない?」

「こ、小傘よ、どうか怒らないでくれ。お前も首が取れる不便さを知れば私の気持ちが分かる。」

「そんなの知りたくもないよ。」

 

 

 

 

 

「…で、こっちの方向で合ってるの?」

「うむ。この奥に豊満な発育を遂げた体の気配がする。」

「体の自慢はもういいから。」

 

頭だけになっても体の感覚は共有しており、何となく場所は分かっているようである。

というかこの子頭浮かせられるのに何故私が持たなければならないのか。いっそ手毬みたいにバウンドさせて運んでやろうか。

 

…おっと、こっちの方角は霧の湖か。いつもは釣りをしにこっちの方面に来ることもあるのだが…

 

「遠くない?こんな場所にまで探しに行ったの?」

「いや、それが何とか頭を取り戻そうと体を動かした結果、恐らく逆方向に行ってしまったみたいで。」

「なにやってんの…。」

「頭を失って不安だったんだろう。今も木にぶつからないように手を前に出しながら動いているぞ。」

「ホラーすぎるよ。もうじっとしてて。」

 

頭の無い体が無作為に動いているとしたら妖精でも泣いて逃げ出しそうだ。というか何でこの子はこんな状況で冷静なのかな。獣や野良妖怪に襲われたら対処のしようがないと思うが。

 

「さっきは頭を持っていかれて慌てていたが故に間違えてしまったが、元々我々は二つで一人。体を動かし出会うことは造作も…うぇ、冷た!」

 

突然、蛮奇ちゃんが叫び驚いて頭を落としそうになる。

 

「どうしたの!?」

「…この感覚は水の中。どうやら湖に落ちてしまったようだ。冷たくて気持ちいい。」

 

湖って…。何となく予想していたが見当違いの方向に歩いていたか。いや待て…。

 

「まずい!薬草が水の中で散らばって回収できなくなるかも!」

 

湖の方向は分かるので全速力で走る。流石に今から蛮奇ちゃんの分も採り直しとなると陽が落ちる前に帰れなくなる。

 

「おう…。私の心配より薬草の心配なのか。だが安心してくれ、体がうつ伏せになっているおかげで竹籠の重さで水に浮くことは出来ている。だからすぐに見つかると思うぞ。」

 

浮いている姿を想像してみたが間抜けすぎやしないだろうか。

 

「よし森を抜けた。蛮奇ちゃんの体は……あれか…。」

 

湖の陸近くにスーっと流れに身を任せている物体。ろくろ首と分からなければただの水死体である。

 

「おー会いたかったぞ。元気そうで何よりだ。」

 

竹籠の中身はそれ程散らばっておらず、回収すれば帰り道に少し拾う程度で事足りるだろう。

私は背中に掛けてあった傘を操り、水に浮かぶ体を陸の方に押し出す。雑に石突きの部分を用いているが、当の本人はそんなことができるのかと感嘆の表情を浮かべるだけで、気にしていないのでよしとする。

ようやく頭と体のご対面である。

 

「よし、蛮奇ちゃん復活!時間を掛けさせてしまってすまなかった。」

「ほんとにね。」

 

蛮奇ちゃんの天職探しの第一歩としては出鼻を挫かれた気分である。

 

「やる気だけなら誰にも負けない、へこたれない。それが私の長所だぞ。」

 

この子の場合そのやる気が空回りして、トラブルを引き起こすことになってるんじゃないかな。今日何度目になるか分からない溜息を吐く。取り敢えずは事件解決である。

そうして元来た道を戻ろうと踵を返そうとしたその瞬間、突如湖の方角からざぶんと何かが出てくる音が聞こえてきた。

 

「蛮奇ちゃーん。久しぶりー。」

 

大きな水飛沫を上げて出てきたその姿は、一目見て人と何ら変わりないと思っていたが、よく見れば足が無く魚の尾ひれが付いている。人の身体に馬の脚と言えばケンタウロス。そして魚の尾ひれと言えば人魚ではないだろうか。

 

「おお、姫か。いつもは呼ばなきゃ来ないのに岸辺にいるのは珍しいな。」

「泳いでたら蛮奇ちゃんの水死…水の上で浮かんでいるのが見えたから泳いできたのー。」

 

今水死体って言いかけなかった?この子。

 

「そちらの方もこんにちは。わかさぎ姫と言いますー。いつも妖精の子達と湖で釣りをしている方ですよねー。」

「多々良小傘だよ。もしかしてこの湖に住んでるの?」

「はいー。私は人魚なので。」

 

尾ひれを見せつけるようにパタパタと動かしている様から、彼女の言う通り本当に人魚なのであろう。

人魚と言えばその肉を喰らうことで不老不死になれる逸話を耳にしたことがある。

真偽は分からないがこのような御伽噺を信じた人間から狙われたりもしたのだろうか。だからこそこのような場所でひっそりと暮らしているのかもしれない。

 

「この辺りで良く見かけましたけど貴方が蛮奇ちゃんのお友達だったんですねー。」

「いやいやそんな、友達なんて。」

「そこを否定されると悲しいぞ。小傘には里のことで色々世話になってるんだ。」

 

その"色々"に私の心労が詰め込まれているのだがこの子は分かっているのだろうか。わかさぎ姫は少し驚いたように口に手を当て、間延びした声でえーっと呟く。

 

「この子のことお世話するの大変でしょー。私達といた時もトラブルメーカーすぎて手に負えなかったんだから。」

「絶賛巻き込まれ中かな。…正直もうお手上げ状態だけど。」

「見捨てないでくれ小傘~。それか養ってくれ~。」

 

…これ以上甘やかしすぎると寄生されてしまうのではないだろうか。わかさぎ姫も身に覚えがあるのか苦笑いを浮かべている。

 

「まあ蛮奇ちゃんに私と影ちゃん以外の友達が出来たみたいで良かったよー。この子知らない相手だとすぐ人見知りしちゃって友達が増えなかったのー。」

「余計なことを言うんじゃない姫。友人が出来なかったのは私の魅力に気付かない愚者ばかりだからだ。」

「でも蛮奇ちゃん。何か出会いを求めて里に行ったんじゃ」

「…」

 

無言の圧力で蛮奇ちゃんがわかさぎ姫を睨んでいる。私に聞かれたくなかったことなんだろうが全部聞いてしまった。

 

「小傘。今のは聞かなかったことに…。」

「この前ここに来た時も小傘さんと仲良くなれて嬉しいって飛び跳ねてたんだからー。」

 

…わかさぎ姫はあれだ。隠し事ができないタイプだ。

 

「姫ー!!!」

 

そこからは二人の揉みくちゃのじゃれ合いが始まり、何故だか私も巻き込まれた。この二人は見るからに仲が良く後で聞くと、かなり長い付き合いなのだそうだ。

そうして二人のじゃれ合いを収めた後、わかさぎ姫と別れて里に着いたのは陽が沈んでからであった。

帰り道は少し気まずい空気になってしまったが、別れる頃にはいつも通りの蛮奇ちゃんに戻っていた。

やっぱり蛮奇ちゃんはこうでないと…と思っている私も、彼女に巻き込まれることを満更に思ってなかったりして。…ないか。

 

 

 

 

 

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