大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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第28話

 

 

博麗神社は阿鼻叫喚の嵐に包まれていた。

 

 

 

「ぎゃー!」

「な、なんだこのちび。どっから湧いて…」

 

 

 

突如として霧の中から姿を現した無数の小さな軍団。

それらが目に付いた者に見境なく襲い掛かっていったのだ。

 

 

 

「ほらほらさっきまでの威勢はどうしたー?遠慮なんか要らないから皆かかってきなよ。」

 

 

 

殴られて星の彼方へ飛んでいく者。

小突かれて泡を吹いて倒れ込む者。

逃げようとしたところを回り込まれて絶望している者。

 

自らより遥かに小さな存在に、神社にいた宴会の参加者らは次々と蹂躙されていった。

 

 

 

「いきなり現れて喧嘩だなんてどういうことだよ…ふざけてる。」

 

 

「喧嘩は祭りの華ってね。拳を交わすってのは心を通わせることとおんなじさ。祭りってのはこうじゃないとね。」

 

 

「何を言って…。ぎゃ、ぎゃあああ!」

 

 

 

先程までの宴会の楽しそうな声は悲鳴に変わり、今では拳が腹に打ち付けられる鈍い音が響くようになっていた。

気付けば神社の端では死屍累々と気絶した妖怪らの山が積み重なっていた。

 

 

 

それを一瞥して鬼の少女、伊吹萃香は溜息を零した。今の幻想郷にはこの程度で根を上げる奴らばかりなのかと。

彼女が本気を出せばここにいる連中のほとんどが手も足も出ないのは当然のことだ。

それでも力を何百個にも分散し、その上で更に手加減までしているのにこの様であった。

 

実際に対峙してみるとあまりの手応えの無さに失望を通り越して呆れていた。

ここはそこまで温くなってしまったのかと。

 

 

 

 

 

だがその一方で

 

 

 

いい意味で彼女の期待を裏切っている者もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法を扱う者。

 

 

 

魔符「アーティフルサクリファイス」

 

日符「ロイヤルフレア」

 

 

「ふふ、綺麗な花火。どうせなら神社ごと打ち上げちゃいましょう。(?)」

「…酔っ払いってほんとに面倒。」

 

 

 

 

 

 

 

火の妖術と体術を巧みに扱う者。

 

 

 

「っと。…数多すぎる。おいミスティア何で余計な奴らまで連れて来た!滅茶苦茶こっちに向かって来てるぞ!」

 

「チルノちゃん達放っておけなかったんですよ。四の五の言ってないで前見てください次来てます!応援してますよ妹紅さん!フレーフレー!頑張れー!」

「おうそうだ!誰か知らんが頑張れ!」

「が、頑張って。」

「Zzz…。」

「ひ、ひぃぃぃ!助けてぇぇ!」

 

「お前らも手伝えよ!」

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

人符「現世斬」

 

幻符「殺人ドール」

 

 

 

神社の本殿の中から三つの影が飛び出してくる。

土煙の舞う中、二人はそれを払うように同じ方向に向かって攻撃を仕掛けるが、そこには既に誰もいなかった。

 

 

 

「残念。こっちだよ。」

 

 

瞬間、頭上から鎖が降ってくる。それは二人の横を掠めたかと思えば、円を描くような軌道をして二人を捕えようとしてくる。

 

しかし両者ともその鎖の軌道を読み切り、危なげなく躱す。

 

その動きを見て、鎖を放った彼女はケラケラと嬉しそうに笑う。

 

 

「目を付けてただけはある。中々やるね。」

 

 

狭い室内から一転して外。

体勢を整えて戦況は白紙に戻ったかのように見えたが、鬼退治に挑む二人の少女、咲夜と妖夢の表情は曇っていた。

 

 

 

完全に遊ばれている。

 

 

 

周りを見渡せば目の前の鬼よりも一回りも小さい同じ姿の鬼がそこら中に溢れ返っている。そこには彼女らの主人である者の姿もあった。

 

 

 

所詮は分身。

 

 

 

こっちを早く終わらせてそっちの加勢に向かいたい二人だが、想像以上に苦戦を強いられていた。

 

まともな攻撃らしい攻撃を仕掛けて来ない。

それなのにこちらの攻撃はことごとくいなされるか躱される。

連携も何もないとはいえ、二人掛かりの連撃を容易く受け止める鬼。

 

単に力が強いだけではない。

 

明らかに自分達と比べて身体能力が並外れており、戦い慣れていると二人は悟る。

 

 

「貴方の本体は何処にいるの?さっさと姿を見せて欲しいんだけど。」

 

 

苛ついた表情を隠すことなく語気を強めて問い掛ける咲夜。

その様子を気にも留めず、鬼は相も変わらず余裕そうに笑みを浮かべている。

 

 

「ここにいるのは全部私の本体さ。分割して手際よく皆の相手をしてるだけ。今お前らの相手をしてる私は…まあ全体の十五%くらいってとこかな。」

 

 

手をグーパーと開いたり閉じたりしながら返す鬼。

 

 

 

 

「安心しなよ。さっきまでは神社を壊さないように動いてただけさ。次は…こっちから行くよ。」

 

 

 

 

 

 

瞬間、目の前から凄まじい轟音が鳴り響く。

 

それが地から足を踏み切った音なのだと気付くより先に、既に二人の眼下に潜り込まれていて

 

 

「…え?ちょ」

「行くよー。」

 

 

回避が遅れた妖夢の方が服の襟を片手で掴まれてしまい、そのまま軽々と持ち上げられて腕をぐるぐると縦に振り回される。周囲には凄まじい砂塵が巻き上がる程の回転で、次第にその腕には岩の塊のようなものが萃められる。

 

 

 

萃鬼「天手力男投げ」

 

 

 

スペルカードの宣言が聞こえたと同時に、その回転のまま腕の中のものが近くの森の方に飛ばされ、木々を薙ぎ倒す轟音と共に遠くに飛ばされて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はお前らみたいな弾幕を撃つってのに慣れてないんだよね。」

 

 

先程の接近に反応してすぐに距離を取った咲夜に向かって、鬼が笑いかける。

 

 

「私の武器はこの身一つ。悪く思わないでね?」

 

 

「…肉弾戦ならこっちも上等よ。やってやるわ。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

舞台は少し移って博麗神社上空。たった一人の鬼の大群によって地上で地獄絵図のような惨状が巻き起こっている最中、その上空でも闘いが巻き起こっていたのだが

 

 

 

事態は混沌を極めていた。

 

 

 

「あーあ。つまんないや。」

 

 

 

 

ボロボロになった二人の人間を見据え、鬼の少女は溜息を吐く。

 

 

 

「馬鹿みたいだよお前ら。お互いで勝手に削り合ってさ。」

 

 

 

そこで繰り広げられていたのは人間と鬼の対決…ではなかった。

 

 

 

「勝手に勝負に割り込んでおいてよく言うわね。」

 

 

「…邪魔だから消えろ。」

 

 

 

二人は喧嘩の真っ只中であった。

それ故に鬼が姿を現して話しかけても無視。

 

結果、それに苛ついた鬼は二人の弾幕ごっこに強引に割って入ることになったのだが。

 

 

 

「お前らって異変解決の専門家なんだよな?ほら、元凶が目の前にいるぞー。かかってこいよー。」

 

 

 

そう体全体でアピールをしているが、二人からは何の返事も帰って来ない。ただ喧嘩に集中している。そこに誰かが入り込める余地はなかったようだ。

 

鬼はこれ以上横槍を入れようにも、全く楽しめないことが分かってしまった。

 

 

再び溜息を吐く。

"外れくじ"を引いたなと。

 

 

 

「あーもう!辞めだ辞め。餓鬼の相手なんかしてられない。」

 

 

 

夜空に一面に広がる色とりどりの弾幕。

それは祭りの締めに相応しい花火のように辺り一面を照らしているが、彼女にとってそれは見て楽しむものでしなかった。

 

自ら弾幕を掻き消して肉薄することはできる。

だが仮にそれで二人に一撃を決め込むことができたとして、それは相手の土俵に立って勝つことが出来たとは言えない。

何故なら二人が行っているのは美しさを競う遊戯でもあるから。

 

 

つまりは仲間外れにされたということ。

 

 

 

「べーっだ。」

 

 

 

自身から割り込んだとはいえここまで露骨に除け者にされると思っていなかった彼女は、最後に二人への意趣返しに舌を出して馬鹿にし、地上の方に体を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

恐らく普通の鬼であれば、たとえ無視されようとも強引に自分自身に意識を向けさせるべく、力の限り暴れ散らかすことだろう。

 

しかし彼女は大人であった。

 

無視されたからといって子どもの喧嘩に自ら割って入る。そんな子どもみたいなことをする鬼では…

 

 

 

「…神社を破壊して分からせてやる。私を怒らせたらどうなるか。」

 

 

 

 

 

…いや。滅茶苦茶根に持っていた。

無視されたのが相当嫌だったのか少し涙目になっているようにも見える。

 

その姿はまるで子どもの遊びに除け者にされた…

 

 

 

 

「…。」

 

 

 

 

………睨まれた気がするのでこれ以上は辞めておこう。

折角高みの見物ができているのに絡まれて逃げるのも面倒臭い。

ここはお得意の営業スマイルで誤魔化しておくことにする。

 

多分あちらからは見えていないと思いますが。

 

 

 

 

あの方が何故今になって地上に姿を現したのかは知らないが、異変を起こした目的の根底にあるのが楽しむ為であることは、彼女自身の性格を考えても疑いようがない。

 

昔から宴会然り喧嘩然り、嫌が応でも周りを巻き込んでくる鬼だ。この方がいなければ私はこんなにもお酒が強くならなくて済んだでしょうに。

 

 

 

…実りの無い愚痴は辞め。

 

今はこっちが優先。

 

 

 

 

 

 

伊吹萃香は地上へと勢いよく下降していく。

博麗神社に狙いを定めるかのように拳を構えて。

 

先程の発言は冗談でも何でもない。

彼女は鬼の中でも少し特殊な性格をしているが、力に任せてものを言う鬼の例に漏れてはいない。

 

分身体とはいえ彼女は少しでもその気になればこの辺りを一瞬で荒野に返すことが出来る程の力を持っている。

 

この場所が幻想郷にとって重要な役割を果たしている場所であるなど彼女には微塵も関係がない。

 

 

 

ただ自らの抱えている苛立ちを晴らす為だけに

 

 

 

 

その拳が勢いよく地上へと…

 

 

 

 

「はいストップ。そこまでよ。」

 

 

 

 

叩き込まれる前に、何者かがそこに割って入ってその拳を手に持った扇で止める。

伊吹萃香は受け止められたことに少し驚いた表情を浮かべるが、何処からかふわっと現れたその者の顔を見ると凄く不機嫌そうな顔になる。

 

 

 

「何だよ紫。邪魔すんな。」

 

「ねえ萃香。無視された腹いせに物に当たるなんて餓鬼みたいだと思わない?」

 

「…あ"?」

 

 

 

どす黒い声と共に受け止められた拳に力が込められる。

するとミシミシと辺りに何かが壊れそうな音が響き始める。

これは…かなり機嫌を損ねていますね。

 

しかしそんな状態の彼女でも臆することなく毅然とした態度を崩さないのは、対等に渡り合えることの証。

 

 

 

八雲紫。恐らくこの幻想郷の中でもトップレベルで行動が予測できない面倒臭い妖怪だ。

 

 

 

「約束を忘れた?神社は壊すなって、再三貴方に忠告したじゃない。」

 

 

 

その言葉に伊吹萃香は、拳に込めていた力を徐々に抜き始める。

 

約束、という言葉に鬼の彼女は弱い。

何故ならそれを破った瞬間、自らが最も嫌う"嘘"を吐いたことになってしまうから。

 

 

 

「…分かってるって。冗談さ。」

 

 

 

誰が聞いても今の流れを見た上で冗談では無かったことは分かる。

明らかに彼女の落下してきた先には神社があった上、妖力もそれなりに開放していた。

 

 

 

だがそれの真偽は未遂である以上確かめようがない。

 

 

 

他者の使う嘘は嫌う癖に自分の都合のいい時だけはそれを隠れ蓑に使う。

私が彼女()を嫌う理由の一つだ。

 

 

 

「お前さんのお気に入りとは一戦交えたかったんだけどねぇ。」

 

 

「貴方が地上にいるならいつでも戦えるわ。」

 

 

「私のことを分かってないなぁ。喧嘩ってのは祭り特有の活気と酒気に満ちた場所でやるから面白いんじゃないか。一種の宴会芸みたいなものだよ。」

 

 

「迷惑極まりないわね。」

 

 

 

同感である。

 

 

 

 

「お前が私を焚き付けた癖によく言うな。どうせこの状況も勘定に入ってるんだろ?」

 

 

 

 

その伊吹萃香の問いに八雲紫は表情を手元の扇子で隠し、どうかしらと怪しげな笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

…ふむ。

てっきりこの異変は伊吹萃香が馬鹿騒ぎしたいが為に突拍子もなく起こしたものだと思っていたが、きっかけには八雲紫が一枚噛んでいたということか。

 

八雲紫と伊吹萃香が昔からの友人であることは知っている。

そもそも地底にいる筈の彼女とコンタクトを取れるのなんて八雲紫以外に思いつかない。

 

性格の悪いあの妖怪のことだ。

適当に理由をこじつけて地上に関心を持たせて自主的に伊吹萃香を引っ張り上げたのだろう。

 

 

 

よくよく考えればそっちの方がよっぽど迷惑である。

主に私の平穏を脅かす悪しき存在を連れてきたことが。

 

 

 

「異変を起こす私を上手く誘導してあの妖怪(・・・・)とその親交がある奴らを集めさせた。」

 

 

「…。」

 

 

「異変中は霧状の私を幻想郷全体に行き渡らせているんだ。私が気付いてないと思うなよ。」

 

 

…あの妖怪?何の話をしているのだろうか。

八雲紫は何か目的があって伊吹萃香を利用したことは間違いない。

それに伊吹萃香の言う妖怪が関係しているということなのか。

 

 

 

 

…いや待て。

 

そもそも何故あの妖怪が今日ここに現れたのかを考えると…

 

 

 

 

 

「…悪いけど私はまだ用事が済んでないのよ。暴れ足りないんでしょ?貴方に丁度いい相手を用意したわ。」

 

 

 

…いつの間にか足首に植物の蔦のようなものが巻き付いている。

考え事に集中しすぎて気付くのが遅れた。

何故空中にこんなものが…。

 

ってこれあの妖怪のスキマじゃ…

 

 

 

「貴方にならきっと気に入っていただけると思いますわぁ。」

 

 

「あはは。相変わらず準備がいいね紫は。まあこれでさっきのことは不問ってことでいいよ。」

 

 

 

ちょっと、何これ。全然取れない。

 

 

 

 

「それじゃあ私は動けなくなってる可愛い部下に挨拶でもしてくるよ。お前と一緒に酒を飲むのはまた今度ってことで。」

 

 

「ええ。ごゆっくり。」

 

 

 

…あ、あれ?

これってもしかして…やばいやつ?

 

 

 

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