大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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第33話

 

 

『沢山の妖精がいた森を抜けると、そこには遠く地平線の彼方まで続くくらい大きな湖があった。』

φ(..)メモメモ

 

 

 

大ちゃんに別れを告げ、妖怪の山に向けていざ出陣と足を踏み出したらそっちは人里の方向だよと出鼻を挫かれたのがさっき。

 

方向音痴と揶揄されながらも、道を教えてもらい、歩いて数分で森を抜けることが出来た。

 

 

緑緑しい場所を抜け、視界の先に広がったのは

 

 

「壮観だぁ…。」

 

 

透き通る程透明な湖に空一面の青が反射し、湖と空が鏡合わせみたいになっている美しい青の風景。そんな青が遥か遠く先の方まで続いていた。

 

湖の近くに寄って水面を傘で突いてみる。

突いた場所から振動が生まれ、それが波紋のように先の方へと伝わって行く。

ちょっと面白い。

 

 

この辺りは本来霧が深くて視界が悪いと大ちゃんから聞いていたのだが、どうやら今日はそんなこともないらしい。

 

霧は何処からやってきて何処へと流れていくのか。もしかしたら私と同じで霧さんも旅をしているのかもしれない。今度出会えたなら霧の吹くまま流されてみるのも面白そう。

 

 

 

遠くの方に薄らと見えるどこもかしこも真っ赤かな赤い館。

あそこには行かないようにとも言われている。

なんでも、危険な悪魔が住んでいる館なのだとか。

度胸試しという意味では寄ってみるのもいいのかもしれないが、悪魔を驚かせるのは多分私にはまだレベルが足りない。とっ捕まって食われるのがオチである。

あの真っ赤な館に行くのは山で修行してからかなぁとは考えている。

 

 

 

それにしても…妖怪の山とやらはこの湖のほぼ反対側のところに位置しているのか。

近付いてはいるようだが、湖の広大さも相まってまだまだ遠く思えてしまう。

…うーむ。これは迂回して歩けば山に辿り着く前に日が暮れてしまうかもしれない。さてさて、どうしたもんかな。

 

飛んで行けばそりゃ楽に辿り着けるだろうけど、それじゃあ面白くない。

地を歩き苦難を乗り越えることこそが冒険の真髄と言えるのではないだろうか。知らないけど。

 

 

 

「…まぁいっか。歩こー。」

 

 

湖の所々には妖精達が遊んでいるのが見える。

驚かせながら進むのもありだが、こんな隠れるものも何もない場所で気付かれずに近付くのは私でも不可能である。

さっきみたいに絡まれてしまうとそれはそれで時間が無くなってしまうので、迂回して歩くことにした。

 

こうやって湖に沿って歩けば迷うこともないしね。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

気付けばお日様は沈みかけている。歩いて風景を眺めたりしているだけで時間っていうのは簡単に溶けちゃうものなんだねぇ。

美しい湖の上で踊るように遊ぶ妖精。森の方に咲いている名も知らない花々。

何もかもが新鮮。旅の醍醐味と言うやつだろう。

 

 

 

 

…さ~てと

 

 

 

 

…辺り一面緑のここは…どこかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いや、違うんだよ。

 

花の匂いに釣られて自然と体が動いたというか。聞いたことのない虫の音が聞こえたから何の虫なのか気になったというか。

目的を忘れてフラフラと寄り道していたら気付けばまた森の中で、どっちが湖の方向なのか分からなくなってしまっていた。

 

 

「くっ!不覚…。」

 

 

こんな時はこういうリアクションが正解か。

 

私も自分に驚いている。

未知のものへの探求心に満ち満ちていることが。

 

 

 

後悔はないよ。

楽しかったし。

えへへ。

 

 

 

 

「…もう日が暮れちゃうなぁ。」

 

 

 

別に今日山に辿り着けなくてもどこか適当な場所で野宿するつもりではあったのだが、せめて真っ暗になる前には湖のところへは帰っておきたい。

多分こっちだと思うんだけどなぁ。

 

 

でもそれでまた逆方向に歩いていたら本当に目も当てられなくなる。

ここは空を飛んで辺りを見回すことにしよう。

 

地を歩き苦難を乗り越えてこそ冒険の真髄?

…はて、何のことだか。

 

 

 

「……逆だった。」

 

 

 

悲しいかな。私の勘はとことん鈍いらしい。

木々の間を飛んで抜け出し辺りを見回せば、案の定湖と反対方向に歩みを進めていた。

湖に沿って歩けば問題なく山に行けるのにどうすればここまで離れてしまえるのか。

 

 

 

好奇心は猫をも殺すとはこのこと。

つまり私は迷い猫。

ミャアミャア泣いていれば誰か保護してくれるかもしれない。

 

 

 

「ミャア♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実逃避の後我に返る瞬間って上手く言葉に出来ない虚しさがあるよね。

 

 

「…早く戻ろ。」

 

 

 

 

そうして高度を上げて戻ろうとすると、湖からちょっと逸れた方向に館が森の中に隠れるようにポツンと建っているのが見えた。それもかなり大きい館だ。多分私一人じゃ持て余してしまう程の。

 

あれって……さっきも見えた大ちゃんが言ってた館かな?

でも私の目がおかしくなければあの館は赤いっていうよりは白い見た目をしているけど。

 

興味から少し近付いてよく見て見る。

 

これは…館っていうよりも廃館…?

壁の白い塗装も結構薄汚れてるし、窓も半分以上が割れている。

少なからず外を見た限りでは誰か住んでいる形跡はない。

 

 

 

ふむふむ。成程。

 

森の中にある隠れた廃館。

こういうところにはお宝が眠っていると相場が決まっている。

 

お宝。つまりは冒険。

 

 

 

『湖の外れにある廃館。その中あるものとは…』

φ(..)メモメモ

 

 

 

こんな面白そうな場所、行くしかない!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「お、お邪魔しまーす。」

 

 

たとえ廃館であっても家にお邪魔する時は一言挨拶を添えましょう。

これでも最低限の常識は持ち合わせている。…どこで身に付いた常識なのかは知らないけど。

 

ギギッと耳の痛くなる錆びた音を響かせながら入り口の扉を開く。

建物の中は灯り一つない真っ暗闇で窓から微かに差し込む光だけが唯一の光源。目に映る限りでは、二階へと続く階段だったり小部屋へと繋がる扉だったりと、外から見たものそのままにとても広い。蜘蛛の巣だったり壁や床が壊れているところにさえ目を瞑れば、偉い人が住む大豪邸である。

 

 

 

「お、おおー。」

 

 

 

うちのお墓に負けず劣らず中々に雰囲気がある。今はまだお日様の光が多少入って来ているけど、全部沈めばそれはそれはとんでもないことになるだろう。

森に囲まれてるしお月様の光もほとんど入らないでしょこれ。

人間はこんなとこまで絶対来ないだろうし、妖怪やら妖精も足場とか虫とかで寄ってこない筈。住むどころか誰も入って来ない場所なんだろうなぁ。

 

 

 

足場が悪いので少し浮きながら中に入る。

 

 

すると

 

 

バタン!

 

 

と、さっき入ってきた入り口が凄い音を立てて閉じられる。

 

 

 

「わっ!……びっくりしたぁ…。」

 

 

 

風か何かで勝手に閉まったのだろうか。

 

…今日そんなに風強かったっけ。

 

 

 

外界からの主な光源が遮断され、一層辺りが暗くなってしまった。

一応窓から入ってくる光が少しでも残っていれば見えるので問題は無いのだが、何かあった時の為に逃げ道は確保しておきたい。ここが変わり者の妖怪の住処であっても、お邪魔しましたと一言添えて逃げれば勝ちだからね。

 

そうして戻って扉に手を掛けると

 

 

 

「…あ、あれ?」

 

 

ガチャガチャと取っ手を押しても引いてもびくともしない。

錆びているとはいえさっきは普通に開いたんだけど…

 

 

ガタッガタッ

 

 

近くの小部屋の方から何やら音が聞こえてくる。

…もしかして…誰かいる?

 

さっきまで凄い静かだったのに

気付けばその物音はそこら中から聞こえてくるようになってきた。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。誰かいるんですか?」

 

 

 

普通であればここで声を出して自分の存在を明らかにするのは危険なのだが、私の頭の中には危険な妖怪とかよりももっと怖いものが頭の中に浮かんでいた。

 

それは…

 

 

パリン!!

 

 

「ひ、ひぃ!」

 

 

 

二階から花瓶が落ちた音が響き渡る。

や、やっぱりそうだ。

 

ここには…

 

悪いお化けがいる!

 

 

 

 

 

は、早くここから出ないと!

 

 

 

でも扉はどれだけ強く押しても引いても開いてくれない。

これもお化けの仕業なのだとしたら私をここから出さないようにするつもりなのか。

 

後ろから聞こえてくる音はどんどん増えてきている。

まずいまずい…どうすれば。

 

…いや。出口ならここ以外にも窓があるじゃないか。

割れてるけど私一人くらいなら通れるだろうし、そこから出よう。

 

 

 

そうして扉から手を離し

 

振り返ると

 

 

 

 

 

 

 

「ベロベロバア~!!」

 

 

 

「きゃあああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

青白い髪のお化けが目の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騒がしいと思ったら…何やってるのよ、メルラン姉。」

「あ、リリカ?お客さんが来たからちょっとお出迎えをね。あは♪」

「…そのお客さん、白目剥いて気絶してるけど。」

「反応が面白そうな子だったから…ちょっと驚かせすぎちゃった。」

「…絶対やりすぎてるでしょこれ。この妖怪どうするの?」

「うーん。取り敢えず起きるまで放置?」

「…はぁ。…私、ルナサ姉呼んでくるから。その間にこの妖怪、私の部屋のベッドに寝かせておいて。」

「は~い♪」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

…んんん。

何やら背中に柔らかいものを感じる。

その感触を意識しながらも閉じていた目を開ける。

見知らぬ天井。

どうやら私は今寝転がっているらしい。

 

 

 

…ええっと?状況がいまいち分からないけど…どうして私はこんなところに

 

 

 

「ばあ♪」

 

「え、うわああああ!」

 

 

 

突然天井一面の視界が舌を出して戯けた誰かのもの変わり驚いてしまう。

 

 

…って思い出した。

その顔、ついさっき見た青白い髪のお化け…

 

 

 

「わわあああ、悪霊退散悪霊退散!荒らすつもりはなかったんです!ただちょっと好奇心で入ってしまっただけで!」

 

 

「あはは!どう?すっごく反応いいでしょ?こんな反応してくれる子中々いない…って痛!」

 

「また驚かせてどうするのよバカちん。」

 

 

目の前のお化けに手を合わせ、見逃してくれるよう懇願しながら頭を下げていると、目の前のお化けの頭に手刀が入る。

そうして次に顔を覗かせたのは、金髪のお化け?だった。

 

 

「その…。ごめんなさい。うちの妹がご迷惑を掛けてしまったみたいで。」

 

そのお化けはそう言って頭をペコリと下げて私に謝罪してくる。

ん…んーっと?

 

 

「メルラン姉は後先考えずに行動するからね。そそっかしくて私達姉妹の中でも問題児なの。」

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ?何かと問題を起こしていつも手の掛かるのはリリカの方じゃない。」

 

「鏡見直した方がいいよ?メルラン姉。」

 

 

……何だか違う意味で騒がしくなってきたせいで怖さよりも戸惑いの気持ちの方が勝ってきた。

お化けってこんなものなのかな。

 

 

「二人とも喧嘩なら後にしなさい。…ともかく、私達が幽霊であるのは間違いはないのだけど、悪さをする悪霊ではないから…ね?安心して。」

 

 

そうして金髪の幽霊に頭を撫でられる。

多分私が涙目になっているせいで罪悪感を感じているのだろう。

随分と良心的なお化けである。

 

お化けに泣かされ、お化けに慰められる。

一体何が何やら。

 

 

「ルナサ姉が珍しく優しい顔してる。最近はずっと鬼の形相ばっかりだったのに。」

 

「それは貴方達の問題行動のせいってことを自覚しなさい。」

 

 

まあこの三姉妹?ルナサ、メルラン、リリカっていう幽霊達は、多分本当に怖がる必要のないお化けなのだろう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「…と、まあこんな感じでリリカは目を離せばすぐに一人でどこかへ行ってね、探すのが大変なのよぉ。」

 

「別に一人で出かけるくらいいいでしょ。」

 

「血の気が多いリリカのことだし外で色んな妖怪やらに喧嘩を売ってるんじゃないかと心配で。」

 

「それは今日のことを考えても絶対メルラン姉の方でしょ!そうだよね!?ルナサ姉!」

 

「どっちもどっち。」

 

「あはは。」

 

 

 

 

 

あれ?私は何故永遠と姉妹のわちゃわちゃを見せられているんだろう。

ルナサという幽霊はともかく、メルランとリリカが一生言い合いしているのをベッドで横になりながら聞いている。

内容から三人共仲が良いのはよく分かったから、そろそろ帰らせて欲しい。悪霊ではないとはいえさっきのが残ってまだちょっと怖いし。

 

そうして私の様子をずっと見ながら妹の相手をしていたしっかり者のルナサに、アイコンタクトで帰りたいという意思をそれとなく伝える。

 

すると彼女はそれを理解して頷き、妹二人の喧嘩の仲介に入ってくれる。

 

 

「はいストップ。この子、メルランが驚かしたせいで心がまだ落ち着いてないから。騒ぐなら“あれ”でしましょう。」

 

「あ、それもそうだね!折角だしやろうか!」

 

「賛成〜。」

 

 

…何を言ってるのか分からないけど取り敢えず私のアイコンタクトが伝わってなかったことは分かった。

 

三姉妹は私のベッドの前で整列して、部屋の外の方へ手を向けたかと思うと、突然部屋の外の方からヒュンヒュンと何か奇妙な物体が飛んでくる。そのよく分からない形をしたそれぞれ三つの物体は彼女らが動かしているのか、それぞれの手元へとスッポリ納まった。

 

 

 

 

 

その瞬間、さっきまでの空気が嘘だったかのように静かな時が流れる。

 

三人を見れば目を閉じて何かに集中しているようにも見える。

 

何が行われるのか分からないまま、暫くその様子をじっと眺めていると、やがてルナサが足で床を一定のリズムで叩き、皆が一斉にそれぞれの道具を動かし始める。

 

 

 

 

 

 

 

始まったのは心地の良い音の連続。

暗く何も見えない廃墟に突然響き始めた三つの音。

その音は彼女達の持っている道具から鳴り響いているようだ。

 

 

 

それはまるで全てに安らぎを与えてくれるような優しい音で、私も目を瞑ればまだ見たことのない場所にいるようで。

 

 

どう表現していいのか分からない。この耳に残る音は一体何なのか。

 

 

 

 

 

……音が一瞬止まったと思ったら、音の雰囲気が変わり始めた。

 

 

そうして徐々に音が重なり合って、最終的にはとてつもなく大きい音がこの辺り一帯に響き始めた。

 

 

 

それは耳が痛くなる程大きな音の筈だった。でも不思議と、その音を全く不快なものだとは感じなかった。

静かに目を瞑り、それぞれの音に耳を傾ける。

その音は私の耳の奥に自然と入っていき、胸の中をどんどん熱くさせた。

 

 

 

 

すごい。本当にすごい。

あんな道具が出す音でこんなにも心動かされるものなのか。

 

この感動を上手く言葉で表現できないのがもどかしい。

まるで……音の中で長い長い旅をしているみたいな…。そんな気分にさせてくれる音。

 

 

 

やがて音が止まり、閉じていた目を開くと、終わりなのか三人は深々と頭を下げていた。

私は唯拍手をして彼女たちを称えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい!何今の!?聞いたこと無い心に響く音だった!今のって貴方達が全部やったんだよね!?」

「…え?あ、うん。そうよ。」

「何だか胸がポカポカする心地いい音で…でも心躍らせて熱くなる音!どうやってあんな音を出したの!?」

「え、えっと…。今のはこの楽器達を使って演奏したの。音楽っていうのはそういうもので…」

「楽器?演奏?音楽?…何それ何それ教えて!」

「え、ええっと…。」

 

 

「急に元気になったね。メルラン姉のせいじゃない?」

 

「ソロじゃないから違うわよ、多分。さっきまで怯えてただけで元々そういう性格なんじゃない?」

 

「それもそうね。…でもあの反応、練習してきた甲斐があったというか…ちょっと嬉しいかも。」

 

「確かに。いつも反応のない幽霊ばかりだからか新鮮ね。」

 

「ふ、二人共。話してないで…た、助けて。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

興奮冷めやらぬ何とやら。

ついつい気分が上がってルナサの首元を掴んでグワングワンさせてしまった。

 

 

 

「…きゅう。」

 

 

 

結果目を回してベッドに倒れ込んでしまったのは言うまでもない。

本当にごめんなさい。

 

 

 

「えっと…まあこれで私達が悪霊なんかじゃないってことを信じてくれたかしら?」

 

「それは、うん。色々疑っちゃってごめんなさい。」

 

「元はと言えば私のせいだし謝らなくてもいいよ。それよりも…さっきの私達の演奏、気に入ってくれた?」

 

「勿論。貴方達はその楽器を使って音楽を演奏したんだよね?そういうの初めて聞いたからちょっと感動しちゃった。」

 

 

 

虫や鳥の鳴き声、風の流れる音に木々の葉っぱが揺らされる音。

聞いていて気持ちが安らぐ音は今までにも出会ったことはあるが、今回の音楽という音は初めましてである。

 

その音は彼女たちの手によって人為的に鳴らされている音ではあるが、ここまで心が揺らされたことは無かったかもしれない。

 

 

 

「うんうん。そうだよね。…聞いたでしょルナサ姉。もっと私達は自分達の音楽に自信を持っていいんだよ。」

 

 

私と入れ違いでベッドに横になっていたルナサがまだ気持ち悪そうに頭を押さえながら起き上がる。

 

 

「そうね。…貴方達の言うように、いい加減地上で演奏会を開くのも…いいかもね。」

 

 

 

「やった♪とうとう許可が下りた!」

 

「私宣伝してくる。ライブは来週でいいよね?行ってきまーす。」

 

「あ、待ってリリカ!私も行くー!」

 

 

 

バタバタと壊れそうな床を走って二人は部屋の外へ出て行ってしまった。

あの二人はいつもあんな感じなのか。

多分考えるよりも先に体の方が動いてしまうタイプ。

私と一緒っぽい。

 

 

「本当に騒がしい子達ね…。そんなに嬉しかったのかしら。」

 

「またさっきの演奏するなら私も行くよ!まだ全然聞き足りないし!」

 

「そう?ふふ、ありがと。それじゃあ気合いを入れないとね。」

 

 

 

そうしてまた頭を撫でてくるルナサ。

気持ちがいいけどそれはまるで子どもに対してやってるものみたいで、複雑な気持ちになる。

 

或いは私は周りの者からは本当に猫みたいに見えているのかもしれない。

鏡見直した方がいいかな?

 

 

 

「今更だけど貴方、名前はなんていうの?」

「名前はまだ無い。」

「…え?そうなの?」

「嘘、ごめん。多々良小傘。傘の付喪神だよ。」

「何の嘘よ。…でもそういうお調子者のところとか、さっきの反応とか見てると、昔を…思い出すわ。」

「…昔って?」

 

 

その言葉は恐らく独り言で呟いたもののようにも思えたが、気になったので聞き返してみる。

 

ルナサは私の方を見て頬を掻き、聞かれたくないことを聞かれてしまったみたいに言葉が詰まる。意地悪しちゃったかな。

 

 

「…貴方のさっきの驚いた反応とかが…亡くなった妹にちょっと似ててね…。その子は人間だったんだけど…見てると何だか思い出しちゃうのよ。」

 

 

…亡くなった人間の妹さんに、か。

これはどうなのだろう。あまりよくないことを思い出させてしまったのだろうか。それとも

 

 

「…さっき貴方が褒めてくれた私達のこの演奏会はね、元はその妹への追悼が始まりなの。亡くなってしまったあの子に、私達はまだ此処にいるよって…。…それをどうにかして伝えたくて始めたの。意味のないことかもしれないけどね。」

 

 

 

 

湿っぽい顔になってしまったルナサ。

追悼とか難しい言葉の意味は分からないけど、要するに彼女はお墓に来る人間達と同じように死者を今も想い続けているということなのだろう。

 

普通に考えればもう会えない死人を想い続けることに意味はないようにも思える。

大事な存在と会えなくなった経験のない私には彼女の気持ちは分からず、何も言うことはできないけれど。

 

それでも、お墓に手を合わせに来る人間達を見て、私にも思うことはあった。

 

 

 

「…家族っていうのはいいものだよね。この世界からいなくなっても誰かから想ってもらえる人がいる。すごい羨ましいことだなあと思う。」

 

 

私はこの世界に生まれた瞬間、一人だった。

右も左も分からないままどうやって私は生きて行けばいいのかとかそういう不安に襲われたりもしていた。

 

でも生まれたからにはきっとこの命にも何か意味はあるんだろうって。そういう漠然とした何かを抱えながら今日まで生きてきた。

それは言うなれば死にたくないと私自身が思っているから生きているということ。

 

でも彼女みたいに家族がいる者はきっと違う。

そこにはきっと自分以外の誰かから自分自身に生きていて欲しいと願ってくれる存在がいる。

家族っていうのはそうやってお互い支え合って生きているものだから。

 

 

 

死者を弔うということもきっとその延長線上にある。

この世界から仮にいなくなって離れ離れになっても、その存在を忘れずに覚え続ける。

それが死者の為になる意味のあるものなのかどうかは私にも分からない。もしかしたら生者が勝手にやっているだけに映っているのかもしれない。

 

でも私は、阿求ちゃんからあの場所にある墓地の存在理由を知ってから、お墓に時折手を合わせにやって来る人間達を見て、その死者の為に祈りを捧げているその姿が、とても美しいものに見えるようになった。

 

忘れないでいることで、まるでまだそこで一緒に生き続けているような。

 

 

「…きっとその子も嬉しいと思うよ。私の勝手な解釈だけどね。」

 

 

だから羨ましい。

きっと人間やルナサ達姉妹がいる限り、弔われている者達は忘れられない(死なない)んじゃないかって。

自分自身のことを大切に想ってくれるものがいることはきっと幸せ。私はそう思う。

 

 

 

 

「…私達の勝手な思い込みでもいい。だって…私達は騒霊。天国だろうと世界の果ての果てだろうと私達の音を響かせてやるって誓ったんだから…あの二人を見習わないとね。」

 

 

 

そうしてまた独り言のように言葉を噛み締め、ふいに私の方に花のような笑顔を浮かべる。

 

 

 

「心配してくれてありがとう。優しいところもそっくりね…ほんと。ふふ。」

 

 

 

 

その瞳からはまだ憂いが抜けきってはいないようだが、きっと大丈夫。

 

だって彼女にも支え合える大切な家族が傍にいるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『廃館の中には騒々しいお化けの三姉妹が暮らしていた。彼女達はその館の薄暗さを掻き消すような、そんな細やかな演奏会を開いてくれた。その演奏の素晴らしさは文字にして起こすことは難しい。このメモを見て、その演奏のことを思い出すなら、現地に赴いて是非ともまたその音楽を耳に入れてもらいたい。儚くも、何か強い意志のようなものを感じられる、その音を。』

φ(..)メモメモ

 

 

 

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