大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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第35話

 

 

 

「山は広いな大きいな~♪転びやすいから気を付けよ~♪」

 

「それ何の歌?」

 

「今の私の心情を表現した歌。どうかな?」

 

「う~ん。十五点。」

 

 

こいしちゃんに連れられて山道を進んで行く。

彼女はこの山の妖怪ではないらしいのだが、土地勘があるらしく迷う様子も見せずどんどんと先へ歩いて行く。

地に足を付けて歩くことに慣れている辺り、お散歩仲間としては気が合うのかもしれない。

 

 

「まあ音楽には無限の可能性があるから。こいしちゃんがあんまりだと思ってても私の歌を聞いて心動かされる人はどこかにいるからね。」

 

「不快だって思う人の方が多そうだね。」

 

 

どうやら私がこの山に入ってから誰にも気づかれずにここまでこれたのはこいしちゃんのおかげだったらしい。

なんでも、彼女の能力で私自身の姿を見えづらくしてくれていたのだと。

 

加えて、その能力で彼女自身も山に入った時から私とずっと一緒にいたらしい。今思えば急に目の前に現れたように見えたのは彼女自身も見えづらくなっていたからだったのかな。

 

 

「…じゃあデュエットにしてみよう。こいしちゃん、続きどうぞ。」

 

「私?…えーっと。山は身投げするのに一番~♪一緒に行こーよ極楽浄土~♪」

 

「一気に怖い歌になっちゃった…。」

 

 

何にせよ彼女のおかげで随分と気楽に山を歩くことが出来ている。

一応こいしちゃんには私の旅の目的を伝えており、妖怪達が沢山いる場所に向かってもらっている。

 

お願いしたら結構渋られちゃったけど。

…そんなに私に山から飛び降りて欲しかったのかなぁ。

 

 

「それにしても傘ちゃん、山に修行なんて随分と思い切ったことするんだね。」

 

「これも一人前の妖怪になる為。その為には日々精進精進だよ。」

 

 

私にとっての一人前が日々のご飯を自分の力で手に入れることの出来る力を持つことだとするのなら、早く一人前にならなければ死活問題なのである。

妖生山あり谷あり。でもそれを乗り越えた先には素晴らしい自分に出会えるのではないだろうか。

 

 

「でも傘ちゃんって絶望的に驚かせるの下手だよね。人間を驚かせてた時も物陰で待ち伏せして飛び出すの一辺倒だったし、そもそも隠れ切れてなかったりしたし。」

 

「…私も色々考えてやってるんだよ?今のところその方法が一番勝機が高いってだけで。」

 

 

そもそも相手を驚かせるためには自分自身がその感情について深く知っていなければいけない。

昨日今日と私は絶叫を上げたり気絶したり散々な目に遭ったのだが、逆に捉えれば何故その時自分が驚いたのかを主観的に分析することが出来るので、そういう意味ではあながち悪くは無いのだ。

 

そしてその結果、少し分かったことがある。

 

昨日のメルランの意表を突いた驚かし方。恐らく私の妖生史上最も恐れ慄いた瞬間であるのだが、実際彼女がやったのは後ろから声を掛けて驚かすというシンプルなやり方。方法だけを見れば私のやり方と変わらない。

 

では何故あれだけ驚いてしまったのか。

 

簡単な話、それは私があの場所をお化けという存在の住処であることを直前まで頭の中で思い描いていた前提があるから。

まあ実際にお化けではあったんだけど。

 

…まあ、頭の中が恐怖でいっぱいの状況の中、突然意表を突かれたことであんなことになってしまったということなのだ。

 

 

 

要するに、だ。

私という妖怪を人間にとって畏れられる存在として広めることであの状況下のような前提条件が付きもっと驚かしやすくなるかもしれない

そう思う訳である。

 

妖怪とは人智を超えた不可解な存在。

得体の知れないものを怖いと思うのは極自然なことだから。

 

 

 

 

じゃあ妖怪が人間に畏れられる為には何をすればいいか

 

 

 

 

 

 

「私は別に難しく考える必要ないと思うけどなー。驚かし方なんてそれこそ無限にあるし、傘ちゃんらしい驚かし方を見つけて行けばいいと思うよ。」

 

「私らしいって言われても…あんまりピンとこないけど…。」

 

「…まぁ今は取り敢えず傘ちゃんの要望通りにこの山の妖怪に会いに行こっか。話はそれからってことで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

~玄武の沢・河童の住処~

 

 

 

「…何この場所。さっきまでと全然雰囲気が違うんだけど。」

 

「ここは河童の住んでる沢だね。年中ずっと機械っていうよく分からないものを弄ってる奴ら。」

 

「河童!有名な妖怪なんだよね!」

 

「知らなぁい。こいつらは年中騒音と異臭を撒き散らしてる唯の害獣だよ。」

 

「…そ、そうなんだ。…でも見た感じ河童さん全く見当たらないけど。」

 

「家の中にいると思うよ。何処か適当に入ってみる?」

 

「うん。折角来たし。」

 

「はーい。じゃあお邪魔しまーす。」バキッ

 

 

 

「………何でドア蹴破ったの?」

 

「…?そこにドアがあったから。」

 

「…。」

 

 

 

 

 

「ほら、あの奥の方で何か作業してるのが河童だよ。多分今も機械弄りしてるね。」

 

「ほんとだ。こんにちはー!」

 

「能力解除しないと声聞こえないよ?」

 

「え?…じゃあごめん。解除してもらって…。」

 

「ドア蹴破ったの傘ちゃんってことになるけど。」

 

「…。」

 

 

 

 

 

「ほら見て。家中ゴミだらけ。こんなの作って何が楽しいんだろうね。」

 

「ゴミっていうのは酷いよ。ほらこういうのって何か用途があるんじゃない?ボタンみたいなの付いてるし。」

 

「確かに。適当に押してみよ。」

 

「…ねぇ。まず一緒に家主の河童さんに謝りに行こうよ。お話聞きたいし。」

 

「えー。嫌だよ。傘ちゃん一人で行ってきてよ。」

 

「こいしちゃん出て来ないと一人で喧嘩を売りに来た不審妖怪になっちゃうんだけど。」

 

「一人でも二人でもおんなじだよ。気付かれてないだけでもう私達とっくに山の侵入者だし。」

 

「……え?それじゃあもうどこ行ってもお話聞くどころか敵対されるんじゃ。」

 

「だから傘ちゃん何しに来たんだろうなーって。」

 

「…先に言って欲しかった。」

 

 

 

 

 

ピーピーピー

 

 

 

「何!?何の音!?」

 

「赤いボタン押したらこうなっちゃった。…よく見たら自爆スイッチだ!これ!」

 

「何やってるの!?」

 

「あはは~!逃げろ逃げろ~♪」

 

「ちょっとーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏はやっぱり花火だよねー。赤一色なのが残念だけど。」

 

「…はぁ、はぁ。し、死ぬかと思った。」

 

「あはは~。面白い顔してるね傘ちゃん。そんなに怖かった?」

 

「当たり前でしょ!とんでもないことしてくれたねこいしちゃん!」

 

「え~?傘ちゃんならあれくらいの爆発痛くも痒くもないでしょ?ほら。中にいた河童ですら黒焦げで済んでるし。」

 

「…あ、あああ河童さん!…なんてことを。」

 

「周りの河童が集まって来たね。まあ火事はあいつらがなんとかしてくれるでしょ。騒ぎになる前に離れよっか。」

 

「……む、無責任すぎる。」

 

「一緒にいたから傘ちゃんも共犯だけどね。」

 

「…嘘でしょ!?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

~妖怪の山・九天の滝~

 

 

 

 

 

「山の連中に喧嘩を売った。話し合いどころか戦争の一歩手前の状態。それでも私達は進んで行く。これが傘ちゃんの為になると信じて。」

 

「都合よく言ってるけど全部こいしちゃんのせいだからね?」

 

「まあまあ。そもそも私がいなきゃここまで登れてないんだから。寧ろ感謝して欲しいなぁ。」

 

「その図太さが一体何処からやってきたものなのか問い詰めてもいい?」

 

「時間がもったいないから却下。…ほら、あそこに白い天狗がいっぱいいるよ。何してるんだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

「沢の河童の家が何者かによって襲撃された。各部隊に取り急ぎ言伝を頼む!」

 

「隊長が言うには今朝方に怪しい傘の妖怪が山の麓にいたらしい。そいつの仕業の可能性が高いそうだ!」

 

「厄神に続いて河童までも被害に…。一体何が目的なんだ…?」

 

「見つけ次第捕えよとの命令だ。…全くどこの馬鹿が喧嘩を売っているのやら。」

 

「騒ぎが外に出る前に落とし前を付けなければ…最悪天狗の名に傷が付いてしまう。一刻も早く探せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

「あらら。傘ちゃんピンチだね。」

 

「…ううう。どうして私だけ…。」

 

「麓でやってたあのカッコ悪いポーズ見られてたんじゃない?」

 

「…助けて、こいしちゃん。」

 

「安心して!いざという時は私が全員蹂躙して上げるから!」

 

「物騒すぎるよぅ…。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

~妖怪の山・天狗の里周辺~

 

 

 

 

 

「結構高い所まで登って来たね。そろそろ山頂かな。」

 

「…ねえねえ。どうして追われてる相手の本拠地に来たの?あそこに見えるのって天狗さんの住処だよね?」

 

「意表を突く為に相手の懐に潜り込む。驚かす時の基本でしょ?」

 

「…これ以上騒ぎを起こして目を付けられるのは絶対嫌だ…。」

 

「え~…じゃあ折角ここまで来たんだし山登りを楽しも!山頂からの景色はほんとに凄いよ?」

 

「…いつ目的を修行から登頂にすり替えたの。」

 

「あー、別に天狗の住処に寄ってもいいよ。また家屋荒らしでもする?」

 

「…下山っていう選択肢は…」

 

「もー、傘ちゃんは修業に来たんでしょ?…ほら、駄々捏ねてないで行くよー。」

 

「こんなの私が求めてた修行じゃないー!辞めて!腕を引っ張って連れて行こうとしないでー!」

 

「大丈夫大丈夫。本当に悪いものじゃないから。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

こいしちゃんは私の腕を引いて山の上へ上へと進んで行く。

その足取りは軽く、私を急かす様に早歩きで前を先導してくれる。

 

 

 

道中では様々な妖怪に出会った。

 

皆が皆、私を探していた。

 

最早ここまで来てしまえば私はこいしちゃんの力無しに安全に下山することは叶わない。

付いて行くしかないのだ。嫌だけど。

 

 

 

どっちにしろもう修行どころの話ではない。

こんな騒ぎを起こした以上、金輪際山に近づくことは出来ない。

 

血眼になって私を探す数えきれない程の天狗。

道中聞こえてきたのは拷問だったり処刑だったり、震えあがる程恐ろしい言葉。

 

 

甘すぎた。

 

私はどこか頭の中で揉め事が起こったとしても弾幕ごっこで解決できると思っていた。

 

でも一線を越えてしまった。

あろうことか河童の住処を住人ごと燃やすなんてことを。

 

こいしちゃんの言うようにたとえやったのが私じゃないのだとしても、一緒にいたのなら同罪だ。

正直受け入れ難いけど言い訳も何もできない。

 

 

 

ある意味で良い教訓にはなったのかもしれない。

 

妖怪の恐ろしさを身を以て知った。

一人でも恐ろしい遥か格上の妖怪。それが群を成して統率を取り襲ってくる。

そうやって彼らはその絶対的な地位を守り続けてきたのだろう。

 

そりゃあ人間も恐れる訳だ。

あんなのに襲われたら対処しようも無い。

 

 

 

 

 

「…これからどうすればいいんだろーなぁ。」

 

 

 

 

天狗や河童に喧嘩を売ってこれからどう生きて行けばいいのかという話もあるが、今はそれ以上に虚しい感情に襲われていた。

 

 

 

人間を驚かせる技術の向上。それが私の当初の目的であった。

しかしどうだろう。修行修行だと言って、いざこうして山の世界に足を踏み入れてから私はずっと泣き言しか口にしていない。

 

 

 

 

 

いつの間にか気乗りしなくなってはいた。

 

 

 

この山の妖怪が人間に畏れられている理由なんてもう分かり切っている。

 

圧倒的な力の差。

大抵の人間は抗う術を持たないのに対し、妖怪は拳一つでその命を握り潰せる。

私がやったように逆鱗に触れてしまえばもうどうしようもなくなるだろう。

 

 

 

今まで深く考えたことは無かったけれど

 

要は暴力を以って恐怖を植え付けているだけに過ぎないという話。

脆弱な少数の被食者と強靭で多数の捕食者。

形は色々あっても、人間と妖怪の関係はきっとそこに帰着する。

 

そして私も例外なくその枠組みの中にいる。

 

 

 

「何だかなぁ。」

 

 

 

何をそんなに虚しく思うのか。

 

 

 

平和主義がどうとか人間が可哀想とか別にそういうのじゃない。

その因果関係でこの世界が成り立っているのならそれは必要なことなんだろうし、勝手にしてくれればいいと思っている。

 

だから私も彼の妖怪達が示した道を進むだけでご飯をお腹一杯食べることの出来る夢に近付ける筈。

 

 

 

それの何が気に入らないのか。

 

 

 

 

 

「傘ちゃん傘ちゃん。」

 

 

 

頬に冷たい感触を感じて思考の渦から引き戻される。

目の前には私の頬に手を当てて笑っているこいしちゃんがいた。

 

 

 

「言ったでしょ?難しく考える必要はないって。方法なんて無限にある。その中から傘ちゃんの思うやり方を見つければいいんだって。」

 

 

まるで私の悩みを見通しているかのように話すこいしちゃん。

 

 

「…そんなに難しく考えてる顔してた?」

 

「うん。思いっきり。」

 

 

…まあ動いていたはずの足も止まってることにすら気付かない程考え事していたし、そうなのかもしれない。

 

 

「さっきも聞いたけど…こいしちゃんのそれは答えになってないんだよ。やり方も何もそもそも思い浮かぶものが何も無いし…。」

 

「傘ちゃんっていつものほほんと何も考えてなさそうなのに、変なところで頭でっかちだよね。」

 

 

失礼なことを言われている気がする。

 

 

「答えが必要?方法なんてこれから探していけばいいじゃん。悩みを抱えて悶々とするより吹っ切って生きて行く方がよっぽど楽だよ。」

 

「でもそれって問題から眼を逸らしてるだけじゃ…」

 

「もう!言うことを聞きなさい傘ちゃん!頬っぺた抓っちゃうぞ!」

 

「え、ちょっと、実力行使に移るの早くない?…い、いふぁいいふぁい!」

 

 

 

…今どこにいるのかってあんまり分かってないんだけど、一応まだ私達って山の中にいるんだよね?

 

こんなことしてて本当に大丈夫なのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「…何も覚えてない貴方にこんなこと言っても伝わらないんだろうけどさ。貴方はね、私が地上に出て初めて出来た"覚えることの出来た"お友達なの。」

 

 

 

彼女と出会ってからというもの私はずっといいように振り回され続けている。

もしも一人で山に登っていたらこんな大事にはならなかったんだろうし、奥地まで来て危険に晒されることも無かった筈だ。

 

でもきっと一人だったら山に入ってすぐに追い返される羽目になっただろう。

そう考えると、得られるものがあった、という意味では彼女がいてくれてよかったのかもしれない。

 

まあ多分今がそれなりに安全だから良いように捉えられているだけなんだろうけど。

 

 

 

「だから大切にしてみようかなって。今日の記憶もまたいつか思い出すことが出来るかもしれないから。」

 

 

 

彼女はずっと笑っていた。

 

今までそれは、ずっと虚ろなもののように思えたけど、今この瞬間だけは心から笑っているような気がした。

 

それがちょっと、嬉しかった。

 

 

 

「…まあつまりだね。悩みの種なんてものは形や大きさは違っても誰しもが抱えてるものなんだよ。それが零れ落ちて発芽する前に刈り取るのが一番いいんだろうけど、上手く出来ない時もあるでしょ?そんな時はその種が成長して花を咲かせたとしても、その過程すら笑って楽しめばいいんじゃないかなって。私はそう思ってるんだー。」

 

 

「それはまた何というか…達観しているというか。」

 

 

 

目の前の悩みに対して不平不満を垂れるのではなく、それを飲み込んだ上でいつかどうにかなるさと笑い飛ばして生きて行く…ってことだと思う。

能天気で究極的な楽観主義と言われるならそれまでかもしれないけど、でも決して簡単に出来ることじゃない筈。

 

 

 

「大丈夫!傘ちゃんは頭お花畑だからやろうと思えば出来る筈だよ!」

 

「何かその言い方だとあんまり嬉しくない。」

 

 

 

そう言うこいしちゃんのほうが私よりもよっぽどお花畑なのは間違いないと思うけどね。

 

 

 

「お話はもうこの辺で終わりで良いかな?傘ちゃんが俯いて考え事している間にもうとっくに目的地に着いちゃったんだけど。」

 

「え?あ、そうなんだ。」

 

 

目的地と言われても私はただこいしちゃんに腕を引っ張られてここまで連れて来られただけなんだけど。

現状もう妖怪さんにお話を聞くことはもう叶わないし、修行ももう今となっては何をすればいいのか分からないし、ここにいても危険なだけで私は早く帰りたいんだけどなぁ。

 

 

 

「このままじゃ傘ちゃんの旅がちょっと残念な感じになるでしょ?だからどうせならここの景色だけでも一望してもらおうかなって思って。」

 

 

…よくよく考えればずっと登ってきてた訳だし、もうここは山頂に近い場所なはずだよね。

 

 

……帰りが億劫になってきたかも。

 

 

 

「その顔、期待してないでしょ。折角連れて来たのに酷いなぁ。」

 

「…いや、そりゃあだってこいしちゃんが無理やり連れて来たんだし…。」

 

「ふふふっ、旅の先輩として一つアドバイスしておくと、旅は寄り道が醍醐味!想定外のアクシデントは旅のスパイスだよ!」

 

 

…それはちょっと分かるけど。

でもそれだとアクシデントはスパイスが効きすぎてるかな。

 

 

 

「ここはまだ私だけの特等席。傘ちゃんに教えて上げるのは本当に特別なんだから!」

 

 

そんな自信満々に胸を張られましても、こいしちゃんが私の肩を掴んで目の前にいるせいで景色も何も見えない。

 

 

 

「それじゃあいくよ?目ん玉かっぽじってよく見てね。」

 

他に言い方あるでしょ。

 

 

 

そうしてこいしちゃんがすっと私の前から離れて目の前の景色が映し出される。

 

 

 

広がっていたのは一面空の青と遥か下に広がる緑の海。

どっちが近いのか分からない程高い場所。

青と緑の境界線に、私達は立っていた。

 

 

「………わぁぁぁ。」

 

 

思っていたものの何倍も綺麗で澄み渡っている。

誇張でも何でもなくきっとここはこの世界の全てが見渡せる。

 

 

「雲も霧も何一つ視界を遮ってない。今日は当たりの日だよ!」

 

 

方向的にあれが湖で…あれが妖精さんと出会った森で…。

 

あそこが人里なら…墓地はあの辺りにあるのかな。

 

 

 

 

……ああ。こうして見るとこの世界はやっぱり広いんだなぁと思う。

まだまだ行ったことのない場所もある。そこにはまだ見ぬ妖精さんや妖怪さん達が暮らしているんだろうなぁ。

 

心に沁みる風景。ずっと眺めていたくなる。

 

 

 

そうだ。

まだまだ私はこの世界のことを知らないんだ。

もっと色んな所を巡って、色んな事を知ってから答えを出しても、きっと遅くはない。

 

そういうことだよね?こいしちゃん。

 

 

 

「傘ちゃんの驚いた顔、やっぱり面白いなぁ。こんな間抜け顔が出来るのなんてそうそういないよ。」

 

 

 

……まあ、彼女も自分探しの旅みたいなことをしているのかもしれない。

私もそれを見習って、めげずに自分らしい驚かし方(在り方)を見つけられるといいなぁ…と。

今はこれくらいの考え方で十分かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、こいしちゃん。折角だし弾幕ごっこしようよ。この大空の下でやったら絶対気持ちいいよ。」

 

「ん?何その弾幕ごっこって。」

 

「…え?知らないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『妖怪の山。そこには天狗や河童、その他色々な妖怪がひっそりと暮らしている場所であった。縄張り意識が強く、群れを成して襲ってくる山の妖怪は恐ろしい存在ではある。だが当然彼らには彼らの生活があり、こちらから手を出さない限りは干渉してこない、妖怪にしては比較的温厚な部類ではないだろうか。(ただし逆鱗に触れることは無いようにしよう。きっと一生後悔することになる。)こちらから直接コンタクトを取ることは出来なかったためその辺りの情報は曖昧ではあるが。

 

道中、一人の変わり者の妖怪と出会った。その子は色々とトラブルを巻き起こしながらも、私を山頂へと導いてくれて最高の景色を見せてくれた。あの景色の中で一緒に踊るように遊んだ記憶は忘れることは無いと今なら断言できると思う。

 

当初の目的とは少しずれた旅にはなってしまったが、多くの感動と出会いがある有意義な旅であった。

 

一つも取り零すことなく思い出せるように、ここに記す。』

φ(..)メモメモ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“また一緒に遊ぼうね“

 

 

 

 

 

 

 

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