大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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第37話

 

うらめしやうらめしや~。

 

 

 

肝試しを知っているだろうか。

恐怖心に抗う度胸試しとして、自ら恐ろしいと感じる場所に赴き肝を試すという遊び。

 

その遊びが最近人里の子どもの中で流行っているのか、日暮れの暗くなって来る時間帯に数人のグループで墓地にやってくることがある。

 

やっていることは皆で身を寄せ合って墓地を一周ぐるっと回るだけ。でも墓石の裏に隠れてその子達を覗き見ると、恐怖心は殆ど見えない。寧ろ楽しんでいる者が殆ど。

"遊び"なのだから当然なのかもしれないけど

 

 

 

 

なんて馬鹿な遊びだろうね。

それでもし妖怪に出くわせば人間は何も出来ないだろうに。

単に新しい遊び場を見つけただけなのか、私の噂を聞いてやってきたのかは知らないが、それが命の危険に晒されることを分かっていないのだろうか。

 

 

 

「おどろけ~!」

 

 

 

或いは驚かせても全くひるまず、寧ろこっちに寄って来るその子達の肝が据わりすぎているだけなのか。

怖いもの知らず。大人とは違い好奇心の赴くがままに好きなことをやってのける子どもは嫌いじゃない。

 

でも行きはよいよい帰りは怖い。その子らが帰る頃にはもう真っ暗闇の妖怪の時間。

それで妖怪に襲われても目覚めが悪い…と、最近は里の近くまで送り届けているようにしている。

 

 

 

…全く。どうして私がこんなことをしなくてはいけないのか。本来里の外に出ないようにするのは大人の役目ではないのか。そういう不平不満をぶつけたくもなるが。

 

 

 

「ありがとー傘のお姉ちゃん!またねー!」

 

 

 

別れ際に大きく手を振って感謝の言葉を伝えてくれる。

帰り道でも私に興味を持って色々と話を聞きたがる子どもは可愛らしい、と最近は思うようになってきた。

 

私を怖がらないのは釈然とはしないが。

 

寧ろおどろけ~って皆私と同じポーズを取って真似しだすし。

 

ちょっと馬鹿にされているのかな?

 

あはは。

 

 

 

 

 

でもその子達と話していると思うのは、皆里の外の世界のことを全然知らないんだなぁって。

妖精の遊び場に本物のお化け屋敷、大きな山の頂上から見える景色に一面の花畑。

話すと凄く驚いてくれる。そんなものがこの世界にはあるのかって。

 

それを直接見ることが出来ないのはちょっと可哀想だなぁって。

そう考えるとその子達が里の外の世界に興味を示すのも当然の結果なのかなとか。

未だこの世界のことを知る好奇心冷めやらぬ私にしてみれば気持ちも分かる気がする。

 

でもそれは叶わない。人間は脆く弱い存在だから。

それは何ともまあ、悲しい理だよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな私の最近の近況はそこそこにしておいて

 

 

 

 

 

 

 

月がピカピカと綺麗に輝くとある真夜中。

光が空の上からしか降り注いでこない暗い時間帯に、遠くの方で眩い光が見えた。

 

目を凝らして見ると、それは青白く光る人魂のようであって、何かが爆発しているようにも見え、夜空に輝く星の煌めきの様にも見える。

 

形や色を変え、光っては消えるを繰り返すもの。

私はまるで光に誘われる虫の如く、綺麗に光り輝くそれの正体を確かめる為に墓地から飛び出すのにはそれほど時間は掛からなかった。

 

 

 

「…この辺りだったと思うんだけど。」

 

 

 

そして悲しいことにその光を見失うのもそれほど時間は掛からなかった…と。

 

何かお祭りごとみたいな楽しいことでもやってるのかなぁと思ったんだけど、近付いても人っ子一人声も聞こえない。

聞こえてくるのは暗い暗い闇夜と時折響いてくる獣のような鳴き声といういつもと変わらない夜。

 

 

 

子ども達の送り迎えに何度も来てるから分かるけど、こっちって人里がある方向なんだよね。

 

どうしよう。この時間帯に里周辺をウロウロしていたら色々と怪しまれる可能性もある。

里には守護者なる存在もいるらしいし、見つかれば何奴って襲われる可能性も否定できない。

里には入らないように阿求ちゃんからも言われているからねぇ。

 

 

元はちょっとした好奇心から飛び出してきただけ。

里が目視できるところまで行って何も無かったら引き返そうと思いながら、木々の隙間を一つ越えた瞬間。

それは見えた。

 

 

 

地面に仰向けになって、ピクリとも動かない人の形を。

 

 

 

慌ててその倒れた者に近寄ってみると、そこにはボロボロになった青い服にスカート、少し乱れた青みがかった銀色髪。そしてヘンテコな帽子と、かなり異質な出で立ちをした女性が土の上で土汚れも気にせず寝そべって月を眺めていた。

 

てっきり意識が無いものだと思っていたのだけれど…。

ボロボロだし体が痛んでいるのかな?

里は…まだ見えないし人間ではない筈。

 

 

そんな思考をグルグルと巡らせても、何も分からず、走って駆け寄った手前この奇怪な存在に何と声を掛ければいいのか分からないまま立ち尽くすだけになってしまう。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

 

「あ、あのー…。」

 

 

 

何とか静寂を破る為に声を出してみるが、続く言葉が見つからなかった。

足音で彼女は私の存在に気付いている筈なのに、体はピクリとも動きを見せない。

 

 

「…。」

 

 

多分お邪魔虫みたいに思われているね、これは。

 

…体がボロボロなのはちょっと気になるけどここはそっとしておいた方がいいのか

 

 

 

 

 

 

「……お前も、異変をどうにかしようとここに?」

 

 

 

とか思ったっていたら彼女は視線そのままにに私に言葉を投げかけてくる。

 

 

 

「異変って?」

 

「……いや、何でもない。忘れてくれ。」

 

 

勝手に一人で完結させちゃった。

知らない妖怪への第一声がそれなのもよく分かんないし一体何が聞きたかったのか。

 

 

 

でも彼女は聞き捨てならない言葉を口にした。

 

異変。

 

異変である。

 

 

 

異変とは何ぞや。

 

 

…とはならないのが勤勉であるこの私。先生は阿求ちゃん。

 

 

確かこの世界で度々起こり得る怪異事件兼お祭りごとのようなもの。

誰かが身勝手な理由で異変を巻き起こし、それを解決する為に妖怪を退治する博麗の巫女という者が解決に動く。

つまりは誰かの悪戯を懲らしめに行くってことなのだろう。その異変が今この幻想郷で起こっていると…。

 

 

「えっと…今何か異変が起こっているの?」

 

 

だが異変のことが何なのか知っていても、今どんな異変が起こっているのかはまるで分からない。

至っていつも通りの夜だと思うけど。

 

 

 

「…見れば分からないか?本物の月が何処かの馬鹿に隠されたんだ。」

 

「…月?」

 

 

彼女と同様に上を見上げるとそこには綺麗なお月様。いつも通り立派にピカピカと輝いて夜の薄闇を照らしてくれている。隠されたも何も貴方が今見ているそれがお月様なのだが。

 

 

 

「妖怪ならあれが偽物だって気付けるはずなんだがな。」

 

 

 

…うーん。………駄目だ、全然分かんない。強いて言うなら少し欠けている気がするが、それ以外は毎日見てるお月さまと遜色ないように見える。

もし本当にお月様が入れ替わっているのだとしたらそれはとんでもないことをしているのだろうが、実害も何もないのでこれは本当に異変と呼んでいいのだろうかとすら思える。

 

 

 

「…貴方はこんな所で寝そべって何を?」

 

 

 

仮に異変のことが本当なのだとしたら、彼女は偽物のお月様で月光浴をしていたということになる。一体何をしているんだという話だ。

 

 

 

「…昔の教え子と闘って、少し感傷に耽っていただけだ…。」

 

 

 

彼女は少しだけ身体を起こして私と目を合わせる。

 

そこで始めて気付く。

泣き腫らした後みたいな赤く淀んだ目に。

 

 

 

「……どうして今なんだか。」

 

 

彼女はそう呟くと、今度は赤くなった目を隠すように片腕を顔に乗せ、時折声にならない呻き声を上げながらも再び何も喋らなくなってしまった。

 

 

…ここで何があったのかとかあの光の正体は何だったのかとか、そんな私の疑問は一旦置いておこう。

少なからず今精神が弱り切っている目の前の相手を無視してその話をすることはちょっと無理そうだから。

 

 

 

と、なると

 

 

 

「…良かったら話聞こうか?」

 

 

 

このまま放って帰っちゃうのも…後味、悪いよねぇ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

お月さまが照らす月明かりの下を歩く。

今日も眩しく夜を照らしてくれているのにそれが偽物だなんて未だに信じられない。

毎日会ってる筈なんだけどなぁ。

 

 

 

「…そこを、左だ。」

 

 

 

背中から聞こえる指示に従って体を転換させて歩みを進める。

別に偽物のお月様だろうと夜風に当たりながらの散歩は普通なら気持ちがいいもの。

 

 

 

「な、何でこんなことに。」

 

 

 

さっきまで私は気分の沈み込んだ妖怪さんの話を聞こうとしていた筈なのに。

どうして私は今彼女を家に送り届ける為に背中に背負って動いているのだろうか。

 

 

 

「お前が話を聞いてくれるって言ったんだろ?私は動く気力が無いし、どうせ話を聞いてもらうならついでだ。」

 

 

「ついでの労力が凄まじいんだけど。」

 

 

「何だ、私が重いとでも言いたいのか?ぶん殴るぞ。」

 

 

「その元気があるなら歩いてってー!」

 

 

 

さっきまでのしょんぼりした様子は何処へやら。

一応重い訳ではないけれども、こんな調子で歩いてたら夜が明けちゃう。

 

 

 

 

 

「異変だからかな。今日は少し感情が昂っているのかもしれない。…あ、そこ右だ。」

 

 

「…本当に異変なんて起こってるんだか。」

 

 

もう異変を言い訳に私をいいように使っているようにしか聞こえなくなってきた。

…でも私が見たあの色とりどりの光が弾幕ごっこによるものであったのは、彼女のボロボロの服を鑑みるに間違っていないだろうし…。

 

 

「さっき教え子にやられたって言ってたよね。誰に何を教えてるの?」

 

 

そうなると問題は彼女が誰と弾幕ごっこをしていたのかということになるのだが。

 

 

「人間への情操教育。里にある寺子屋の教師だ私は。」

 

 

…ちょっと予想してたけどやっぱりそうなんだ…。

異変を解決するのは人間。

だから弾幕ごっこをしていた相手も人間なのかなって。

 

 

「貴方って妖怪でしょ?それなのに人間の子どもに教えを説いてるの?」

 

 

「正確には半妖だがな。可笑しいか?私が人に教えを説くのが。」

 

 

少し頭の中で考えてみる。

 

頭の中にちらつくのは私と阿求の関係である。

 

半妖とはいえ価値観が大いに異なる人間に彼女が何を教えられるのかという疑問も、人間である阿求は妖怪である私に色んなことを教えてくれて、それが役に立っている。

 

まあつまりは人外だからとかそういうのは問題ないのだとは思う。

寧ろ長く生きている妖怪の方が人間よりも多くの教養を持っていても何ら不思議では無い。

 

後は彼女が人間の子どもと上手くやれているのかどうかだけど…

 

 

「…何かあればすぐぶん殴ろうとする暴力教師だとして…。」

 

 

「…おい。」

 

 

「暴力に物を言わせて子ども達に言うことを聞かせていた?…あ、だからその教え子がその教育に嫌気が差して制裁を…」

 

 

「それ以上喋るなら首を絞める。」

 

 

「ご、ごめん。」

 

 

半分冗談だったのに信憑性増しちゃった。

…今度また里の子どもがやってきたら本当のところどうなのか聞いてみようかな。

 

 

 

 

「…まあ可笑しなことじゃないと思うよ。種族の違いによる先生と教え子の関係はね。」

 

 

「…ほう。その心は?」

 

 

「…別にそれ以上何もないけど。でも何となく貴方はその教え子のことを大切に想ってるんだなぁってことは分かるかな。」

 

 

「……そうか。」

 

 

彼女が私に出会う前に月を眺めながら教え子のことを考えて感傷に耽っていたこと。

その人間と何があったのかは知らないが、少なからず彼女自身がその人間に悪い感情を抱いていないことは確か。

 

だって彼女は、その人間のことを考えて泣いていたんだろうから。

 

 

「まあその…なんというか、嬉しかっただけなんだ。昔問題児だった奴が今立派に成長している姿を見て、もう私の手の届かないところへ進んで行ったんだなって。」

 

 

「あはは。嬉し涙って、情に厚い先生だね。」

 

 

「…煩い。茶化すな。」

 

 

頭をポカっと叩かれる。

取り敢えずすぐに手を出すのは辞めた方がいいね。

 

 

「私は何もしてやれていない。あの子の今は…彼女自身の決意と行動で自ら掴み取ったものさ。…私はあの子の抱えていたものに気付くことすら出来なかった。」

 

 

「そんなに自分を低く見なくても…。」

 

 

「…お前が言う程出来た奴じゃ無いってことさ、私は。」

 

 

…難しく考えすぎているだけだと思うんだけどね。

素直に今のその人間の成長に喜ぶだけでいいのに、自分は結局何もしていないだの過去のことを引き摺っている。

 

その反省と後悔の積み重ねが彼女を先生たらしめているのかもしれないが。

 

 

「…実際のところ今だって何が正解か私には分かっていない。私がしてきたことは正しいのか?人に教えを説くに値する器なのか?…本当に、このままでいいのか…!?」

 

 

 

徐々に声を荒げ、時折声にならない嗚咽を吐き出しながら一人呟く彼女。

 

 

「…。」

 

 

 

きっとその涙痕は嬉し涙によるものだけではないのかもしれない。

彼女はさっきからずっと何かを後悔し続けているように聞こえる。それが何かは分からないけれども。

 

 

 

元より悩みが解決できると思って話を聞こうとした訳じゃないし、そんなに自惚れてはいない。

赤の他人である私でも、抱えているものをぶちまければ少しは楽になるかなと思って話を聞こうとしたに過ぎないのだが。

 

 

 

「…ごめん。」

 

 

私は悩みを蒸し返しただけにすぎなかったのかもしれない。

これは話を聞くだけでどうにかなる問題ではないだろうから。

 

 

 

 

「…私は、どうすればいいんだろうな…。」

 

 

 

その言葉に投げ掛ける言葉も思い浮かばず、彼女が問いかけた言葉は、露のように儚く夜の闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの静寂が辺りを包み込んではいたが、時間が経って少し落ち着いてはくれたようだ。

涙は止まったようで、嗚咽の頻度も少なくなってきていた。

彼女が時折小さく呟く道の指示を聞きながら、私はただ歩みを進める。

最初は何故こんな事をしなければならないのかと文句を垂れてしまったが、今はその気持ちよりも彼女を家に運んで休ませてあげたいという気持ちが強いのだが…。

 

 

 

さっきから道に違和感を感じる。

私の記憶が正しければ既にここって確か…

 

 

 

「なぁ……人間は好きか?」

 

 

 

暫くの間左右の方向しか喋らなかった彼女が突拍子もなくそんなことを聞いてくる。

…気まずさはあったけど話題選びもうちょっと何かあったでしょ。

 

 

 

「生憎私は貴方みたいに人間に特別何か感じるものはないよ。…まあ好きな人間もいれば嫌いな人間もいるって感じかなぁ。」

 

 

曖昧な答えにはなってしまうが真面目に答えるならそうなると思う。

私は偶々里から近い場所に暮らしているから人間と接する機会が多くなってはいるが、妖精、幽霊、妖怪のような種族の中にも友達はいるし、意地悪された妖精だったり妖怪だったりにはいい感情を抱くことが出来ない。

 

つまり何が言いたいかと言うと、種族関係なく気の合う者が好き…というのが答えにはなってくる。

 

 

 

「…そうか。…まあそうだよな。」

 

 

「貴方は…まあ聞くまでもなく好きなんだろうけど、どうしてそんなに人間に肩入れしてるのか、聞いてもいい?」

 

 

半妖で人間が好きで、それでいて教師をやっている。

どういう心持ちでそれをやっているのか。気にはなる。

 

 

「私は…とある奴に感化されただけさ。そいつの在り方を見習って…自分に出来ることをしようと寺子屋を始めた。まさか上手くいくとは思ってもいなかったが。」

 

 

「…出来ることって?」

 

 

「はは。興味を持ってくれるのか。嬉しいな。…昔は私も人間に肩入れなんてしていなかったし、寧ろ迫害されて恨みすら持っていたこともあった。…でもそんなものを抱えて生きてもどうしようもないって気付いた。私が恨みを持った人間なんて結局そこにいた一握りの人間に過ぎないって。この里に来た時に…そう感じた。」

 

 

「迫害…。」

 

 

「お前の感性は間違ってはいない。種族が違うという理由で横暴に態度を変える人間もいれば、思慮深く優しい人間も大勢いる。…じゃあその差異はどうやって生まれるとお前は思う?」

 

 

「…分かんないよ。」

 

 

「…思うにそれは人間という様々な段階にある集団の中で形成されてきた慣習や文化が個々の人間の性格に影響を成しているんだ。それは例えば家族だったり社会だったりと、人里という枠組みの中で形成されているそれぞれの集団。そこに所属している中で個々が学び、感じ取るもの自体が人間観に大きく関わっているのだと。」

 

 

「……え?」

 

 

「人間の情緒が育まれ、その者の根幹を作るのは子どもの頃。そこで学び知ったものがそのままその者の性格や考え方に投影される。つまり私が教師をやっているのは人間が間違った道を踏み外さず、誰かを思いやりながらも幸せを掴み取ることが出来るような、そんな人間になって欲しいからってことだ。」

 

 

「…そ、そうなんだ。」

 

 

 

半分以上何を言っているのかは分からなかったが、彼女が人間の事を想っている気持ちだけは伝わってきた。

 

…もう少し簡単に伝えることは出来なかったのかな。

それとも里の子ども達はこの難しい言葉を会話の中で理解できるくらいの教養を持ち合わせているのだろうか。

だとするなら彼女の教育の賜物であるとも言える。

 

…ちょっと気になるなぁ。具体的に彼女がどんなことを子ども達に教えているのか。

 

 

 

「私も今度何か教えてもらおうかなぁ。まだ生まれたばっかりでこの世界のことまだほとんど知らないし。」

 

 

「…はは、そうだな。……もしまた機会があるなら。」

 

 

 

でも元気が出て来たみたいで良かった。

…今度は若干眠そうな顔しているけど。

流石に今眠られてしまうと彼女の家なるものに着くことは出来なくなってしまうので少し歩く速度を速める。

 

もうそろそろ着くと後ろの彼女は言っているのだが、未だ周囲には建物も何も見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…人間に肩入れしなくても、お前はお前なんだな。ちっとも変わった気がしない。」

 

 

 

…?

言葉の意味が理解できず背中に背負った彼女の方を見る。

 

目を瞑ったまま独り言を言っている…のかな?

 

 

 

「似た境遇でも選んだ答えは違う。…私とお前の差異が何なのか知りたいよ…私は。」

 

 

……真面目すぎるのも考えものである。

思考の波に翻弄されて感情がぐちゃぐちゃになってしまっても考えることを辞めないから。

 

 

「…考えすぎてもしょうがないと思うけど。自分以外の誰かの為に悩むのはいいけど少しは自分のことも大切にしなきゃ、周りの人に心配されちゃうよ?」

 

「……。」

 

 

きっと彼女は誰かが休んでと言わないと自分のことを顧みず、一生心を擦り減らし続けていく気がする。

それが性分だろうから。

 

だからこれだけは言っておきたかった。

 

 

「貴方が人間のことを想っている分だけ人間も同様に貴方のことを想ってくれている筈だから。…もっと貴方の周りの人を、頼ってみてもいいんじゃない?」

 

 

彼女は半妖であってもきっと里で慕われている。

頼れる人もいっぱいいる筈だ。

 

だから一人で解決できないものならそれを誰かに共有するだけでも楽になるんじゃないかなって、私は思う。

 

 

「…お前が言っても説得力がない。勝手に独り言に入ってこないでくれ。」

 

「…もー。話聞いて欲しいのか聞いて欲しくないのかどっちなのー?」

 

 

耳元から聞こえる独り言を無視しろっていうのは難しいでしょ。

 

 

 

…まぁいいや。不機嫌にさせちゃったけど言いたいことは言ったし。

彼女が吐き出したいことを吐き出して少しでも楽になったならそれに越したことはない。

 

…さ。いい加減彼女の家とやらを探して…

 

 

「…ああ。もうここでいい。助かった、ありがとう。」

 

 

と考えていた矢先に、背中の彼女が地に足をつけて手を離してしまう。

…え、いや。まだ全然何も家らしいものの姿形も無いんだけど。

 

 

 

 

 

「…気付かないか?」

 

 

瞬間、目の前の景色が真っ白になる。

 

 

「…え?」

 

目がおかしくなったのかと目を擦る。

 

そうして次に目を開けた瞬間には、目の前に大きな建物が映し出された。な、何事。

 

 

「ここはもう人里だ。」

 

 

 

後ろを振り返る。

そこには整備された広い道と、並び建つ建物達。

 

 

「え、えぇ…。」

 

 

彼女の言う通り、ここは人間達の住む人里であった。

 

 

 

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