竹藪の中を掻い潜るようにスイスイと進んでいく…のをただ眺めている私。
この竹林地帯に入る直前は暗いのかなとか思っていたが、入ってみれば意外と月明かりが入ってくるお陰で視界は悪くない。
本当に今見えているお月様が偽物なのかは未だ半信半疑ではあるが、今日のお月様は心無しか大きく感じる。
「今日はお月見前夜。どうせ月を見るなら明日本物のお月様の下で美味しいものを食べながらにしましょ?」
上を眺めていると耳元で幽々子が囁いてくる。
…正直今疑うべきは彼女のことなんだけどね。
こうやって竹林の奥深くまで私を連れて行こうとしている辺り、怪しさ満点である。
「妖夢の作るお団子は絶品よ。月の兎がついたものよりもきっと美味しいわ〜。」
幽々子がみたらし団子、三色団子と一人で団子の連想ゲームを始める。
「糯米…。人里にまた買いに行かなければ…。」
後ろから着いて来ている妖夢は真剣な顔をして何かブツブツと呟き始めた。
果たしてそれは今考えることなのかとさっきから同じ所をグルグルと回っている気がする二人に問い掛けたい。
一体何を思ってこんな場所に足を踏み入れたというのか。
「…あのー、私達って今どこに向かって?」
本来最初に問い掛けるべき疑問。
彼女たちの会話が今の状況とかけ離れたフワフワとしたものばかりだったので、聞くタイミングを完全に逃してしまっていたのだが。
「ふふふ、いい質問ね。正解は……私にも分からないわ。」
「…えー。」
「私達は今回最後尾。前の連中が薙ぎ倒していった道をゆっくり進んで行くのが一番楽だわ。」
うむむむむ。……よく分かんない。
「…今更ですけど幽々子様、その妖怪を持っていていざという時動けるのですか?」
「何を言っているの。敵を薙ぎ倒すのは貴方の仕事よ妖夢。貴方が闘っている間、私はこの子とお喋りしてるから。」
まさかのお喋り要因だった!?
「お言葉ですが幽々子様、それでは時間がですね…」
「そこでごねるから貴方はまだ半人前なの。もう少し自分に自信を持ちなさい。」
「…は、はい。」
…この二人の関係。多分会話の流れからして主従関係ではあるんだろうけども、ちょっと普通のものとは違う気がしている。
その理由というのも…まあさっきから後ろの妖夢という少女から向けられている"妬み"の感情なのだが。
「えっと…。妖夢…で合ってるよね?」
「……何ですか?私は貴方と喋る気はあまりないのですが。」
不機嫌そうな顔を隠そうともせずぶっきらぼうに言葉を返す妖夢。
…ちょっと言い辛い。
「気軽に妖夢ちゃんって呼んでいいわよ~。私の方は幽々ちゃんで。」
「幽々子様は黙っていてください。」
妖夢に一蹴されておどけたように悲しむ仕草を取る幽々子。
真面目なのか戯れなのかもうよく分からない。
「ごめんね?貴方の大切なご主人を独り占めしちゃって。」
「………は?」
そもそも私も被害者なので謝る必要も無いと言えばないのだが、彼女の立場からしてみればそれは面白くないものに見えても仕方ない。
最初睨まれていたのはつまりはそういうこと。
「私が羨ましかったんだよね。貴方の大好きな幽々子さんに抱き着かれているから。」
「…はああああああああああ!?」
静かな竹林に響き渡る叫び声。びっくりしちゃった。
「何を言って…!そ、そ、そんな訳ないじゃん!」
「あら妖夢♪いいわよ、交代する?」
「しませんって!もうそんな年じゃありません!」
「恥ずかしがらなくていいのに~。」
顔を真っ赤にして声を荒げる妖夢。口では否定してもそれだけ顔を赤らめればもうばればれである。
うーん。やっぱりこうして見ると主従関係というよりは親子の方が近い気がする。
親離れできない子どもとその成長を見守る母親的な。
…これ以上口にするのは辞めておくが。
「…幽々子様、その妖怪を離してください。今すぐ成敗してやります!」
「え?私何も悪いことしてないよ?」
「うるさい!早く幽々子様から離れろ!」
獣のように息を荒げながら刀を私の方に向ける妖夢。
…興奮しすぎて感情が凄いことになってる。
目の焦点が定まらなさ過ぎて正直滅茶苦茶怖い。
「ね?うちの妖夢ちゃん可愛いでしょ?」
「うわああああああああ!!!」
私が悪かったからこれ以上火種を撒かないで。
***
竹林に入ってから数刻は経っただろうか。
景色は変わらずそこら中に生えしきる竹しか見えない。
一体何処まで続いているのか。
「…。」
後ろから来る視線が更に鋭くなってしまったせいで居心地が悪い。
もう自分で動きたいんだけどな…。どうせもう帰り道も分からないからこの二人に付いて行った方が色々と安全そうだし。
「止まりなさい。そこの幽霊。」
変わり映えしない景色の中から一つの影がこちらの進行方向を遮る形で飛び出してくる。
銀色の髪に…何だか見たこと無い服を身に纏っている。穏やかじゃないのはその右手にナイフを構えていることか。
「あ、咲夜だ。こんばんは。」
後ろにいた妖夢が前に出てきて挨拶をする。
「こんな所で奇遇だね。貴方も異変の解決に来たの?」
ナイフを構えて敵意剥き出しの相手にまるで友人に話しかけるようなテンションで話す妖夢。
…お相手さんあんまりそういう雰囲気じゃないんだけど。
「…調子狂うわね。ええそうよ。妖夢達も?」
「うん。月がおかしいからって幽々子様が。」
聞いた話では異変を解決するのは人間の巫女だったのに、巫女以外の異変解決者がいるのかという疑問。彼女らみたいに他にもいっぱいいるものなのかな?一応あの咲夜という少女も人間みたいだし。
っていうか…あれ?私達の目的って異変解決だったの!?
「私達と同じ…ならここから抜け出せないのも?」
「同じだね。」
「はぁ。」
その漏れ出た溜息からはどうしようもない苛立ちを感じられた。
ここにいるということは彼女自身もこの竹林が怪しいと思ってやってきたということ。っていうことはやっぱりここに異変の原因がある可能性は高いのかな。抜け出せないこと自体が相手方の罠だったりして。
「イライラするわ。ストレス発散に目の前の幽霊でもぶった斬ろうかしら。」
「喧嘩の前口上雑じゃない?」
「貴方が最初に潰したんでしょうが。」
あれ?これ闘う流れなの?
「私達には時間が無いって言いたい所だけど…正直前の雪辱は果たしておきたいし…よろしいですか?幽々子様。」
「いいわよ〜。頑張ってらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
二人は空に飛び出し、互いの得物を構える。
「前は不覚を取ったけど今の私を甘く見ないで本気で来てね。」
「最初からそのつもりよ。…行くわよ。」
そうして始まったのは弾幕ごっこ……。
いや、よく見たら刀とナイフでバチバチに斬り合ってる!?
「今の妖夢ちゃんがあのメイド如きに負けることは無いわね。まあすぐ終わるでしょう。」
…ああ。受け入れてる感じなんだ。
どんな弾幕が見れるのかちょっとワクワクしたんだけどなぁ。
でもあれはあれで見てる分には動きの参考にはなるの…かな?
凄く物騒だけど。
「やあ亡霊。今宵は妙に肌寒い最悪な夜だね。」
瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
「お前が出しゃばって来るなんて、明日は雪でも降るのかしら。」
心臓の鼓動が耳に反響して聞こえる。その度に痛みが膨れ上がり、喉の奥から声が悲鳴として湧き出てくる。
「…がっ!」
だけど声が出ない。というか…息が出来ない。
何これ…。苦しっ
「相変わらず幼稚な吸血鬼ねぇ。喋るならその威圧を解いてからにしなさいな。」
幽々子に背中をさすられる。すると何故かは分からないが徐々に徐々に息苦しさが無くなってきた。
「これが私の挨拶代わりなのよ。邪魔な羽虫避けにも使えるしね。」
目一杯息を吸って吐き出す。
ふぅ。よく分からないけど危なかった。
「そんなことより小傘。久しぶりね、元気にしてた?」
***
声の主に目を向けるとそこには翼の生えた薄い青髪の幼い少女。見覚えの無い彼女は名乗った覚えもない私の名前を呼んだ。
「私のこと、知ってるの?」
「ええ。まあ貴方は覚えてないんでしょうけど。」
ふぅ…と小さく溜息を吐くと、彼女は近くにある竹に寄り掛かって座り、上空で今も金属音を響かせ合っている二人の方に目を向ける。
「私はレミリア・スカーレット。貴方が分かるように言うなら阿求の知人とでも覚えておけばいいわ。」
…え?阿求ちゃんの知り合い?
……顔が広いんだなぁ。
「それで…亡霊。小傘をこんなところに連れてきて、お前は何をやっているの?」
「ん〜。強いて言うなら…顔合わせ?今回はもうこっちのことは間に合いそうにないしねぇ。」
「…お前はスキマと同じ側じゃないの?」
「別に〜。私は私なりのやり方で動いてるだけよ。」
ああ。また会話が置いてけぼりに。
もういいもんね。
レミリアという少女の言っていたことは気になるけど上の二人の観戦に集中しちゃうんだから。
「何の介入もなく放置するだけじゃあの日の二の舞になるだけ。この子がトラウマを克服できるようにならなきゃ何も解決なんてしないわ。」
「ごもっとも。よく分かってるじゃない。でも具体的な策をお前は何か持っているの?」
…妖夢と闘ってるあの人間さん、瞬間移動してない?
全く目で追えないんだけど。
「記憶は脳に収納されてるんじゃなくて、刻み付けられている。あくまであのスキマがやったことは刻み込まれた文字を解読出来ないように暗号化しただけだから、いずれは解読される。…ってパチェから聞いたわ。」
「成る程。おつむが足りないから魔法使いに分かりやすく教えてもらったのね。」
「後で殺す。」
「もう死んでるわぁ。」
ナイフも虚空から生まれているような気がする。
えっと……魔法使いか何かなのかな?
「今のお前は爆弾を抱えているようなもの。それも些細なきっかけで簡単に爆発してしまいかねないようなね。それを分かっているのかって私は聞いてるの。」
「そうね〜。分かる分からないで答えるなら分からないが答えね。貴方の質問の意味が。」
「…何?」
「私は爆弾なんて持ってないわ。小傘ちゃんを抱えてるの。この子をそんな風に言わないで頂戴。」
「…頭にお花畑でも植えた?」
「うふふ。綺麗な桜の花が咲いたらまたお花見しましょうね。」
おお!
それに妖夢はしっかりと反応して躱わすどころか、反撃まで加えている。
凄い凄い!
「…情でも移ったの?」
「そう見える?うふふ♪」
「…はぁ。…別に私はお前のやることを否定したい訳じゃない。有耶無耶にしたいのか知らないけど真意を話して頂戴。いい加減面倒臭いわこの会話。小傘も今絶対耳に入ってないだろうし。」
応援の対象が妖夢の方に寄っているが許して欲しい。少しの時間とはいえやっぱり面識がある方に肩入れしてしまうのは観戦者の性というやつである。
単純に二人とも動きが早すぎて興奮している自分がいるのも否定しないが。
「この子も大概面白いわよね。天然さで言ったら妖夢ちゃんにも引けを取らないわ〜。」
「馬鹿なだけに一票。」
「酷い言いようねぇ。小傘ちゃんは、ただ目の前のことに直向きに頑張ろうとしてるだけよ。その健気な心に私は助けられたんだから。」
「お前の起こした異変のことか。」
「これでも本当に感謝してるの。…西行妖の過ちに身を挺して向かってくれたこと。これ以上…人間を殺させたくなかったから。」
「…恩義ね。それときっかけを作ってしまった罪悪感かしら?」
「…小傘ちゃんが受けた弾幕は死に誘おうとする何千人もの人間の怨念の集合体のようなもの。そもそもそれを直に受けて生きていること自体信じられないけど、少なからずそれが彼女の負の感情を引き出したのは間違いないわ。」
「…。」
よくよく考えたら思いっきり刀とナイフで斬り合ってるけど…大丈夫だよね。一応弾幕ごっこの範疇で闘っているようには見えるけど、決着はどちらかの四肢がもがれるまで続いたりして…。
「私にしてみれば貴方の方が意外だけどね。傲慢で我儘で不遜な貴方が小傘ちゃんのことを知人と認めてたなんて。」
「…私は芯の通った奴が好きなだけよ。自分の身を犠牲にしてでも成したい、守りたい何かがある奴にはつい手助けしたくなる。悪魔らしい考え方でしょ?」
「やっぱり何言っているか分からないわ。」
闘いが長引けばこの辺り一体に血の雨が降り注いでくる…?
ちょっと待って想像したら滅茶苦茶怖くなってきた。
「それにこいつは咲夜のことを変えてくれた。そのお陰であの子は友人と呼べる存在を作るようになった。」
「人間の友人関係を気に掛けてる時点で悪魔らしさなんて皆無だと思わない?」
「咲夜は私のだからいいのよ。…そっちの妖夢も小傘のこと、慕ってたんでしょ?ならお互い、動く動機はあるんじゃない?」
「今の言葉すっごく世帯染みているわね。悪魔ポイントマイナス100〜。」
「…よくよく聞いてれば貴方自分のこと話したところ以外は私を茶化してしかいないわね。はぁ。」
………いやそんな訳ないか。
そんなことより闘いもピークになってきている。
ここで声を出して応援しなければいつ声を出すというのか(?)
「私は私で勝手に動くから。吸血鬼さんもそうしたいなら勝手にすればいい。つまりはそういうことよ。」
「…元よりお前の力なんて借りるつもりもない。」
「ちょっと二人ともいつまで話し合ってるの!一緒に応援しなきゃ!」
「え?…急に何を言って」
「そうね〜小傘ちゃん。私達の可愛い子の為に思いを込めて応援しなきゃよね〜。」
「じゃあ一緒に応援するよ!…せーのっ!」
「頑張れ〜妖夢ちゃん〜!」
「え、えっと、頑張るのよー咲夜ー!」
「頑張れー!二人ともー!」
TIME OVER
ENDING No1. みんなで一緒に応援!