私は予定が決まっていない日は適当に里の中をぶらつきながらやることを決めることが多い。
それだけでも子どもの相手をしたり、道行く人を驚かせたり、困っている人のお手伝いをしていれば暇な時間というのは意外にもやってこない。
こうして聞くと、自由奔放に過ごしているだけに聞こえるが、これでも一応私のおうちでは鍛冶屋をやっている。
家屋自体は小さな場所なので、居住スペースをしっかりと侵食する形にはなってしまってはいるが。
依頼の量はその時々によってまちまちで、忙しいピーク時には夜通し鉄を打ったりすることもある。
騒音トラブルも、私の家は人間の居住区とはかなり離れた場所に構えてあるのでモーマンタイだ。近くに住んでる知人の赤髪妖怪は喧しいって偶に乗り込んでくることもあるけども。
でもまあ結局私にはお金の使い道なんかほとんどないので、そっちの方は適当に気分でやっているものだけどね。
もしも今の私の本業は何なのかと聞かれるなら、きっと何でも屋と答えるのではないかと思う。所謂お悩み解決マンである。
「つまり、ここはこうで………という訳だ。」
現在も私は慧音にお願いされて寺子屋の授業の補助を行っている。彼女も異変の後始末やらなんやらで色々と疲れが溜まっている筈なので、偶には楽をさせてあげなくては。
これまでにも寺子屋で慧音の手伝いをすることは何度もあったのだが、基本的に私が教壇に立つことはない。
これでも人並みの教養はあると思っているので教えることは恐らく可能なのだが、慧音は知識を教える順序をとても大切にしている。
私がいきなり教壇に立ち、やりたいように授業を行ったところで、子ども達の知識として定着しないのだそうだ。
教育に関しては慧音のやり方に私が口を出すことは無い。彼女は何百年も人里で寺子屋をやっているプロだ。それ故私が出来ることは限られているのかとも思うが。
「小傘ちゃん小傘ちゃん。」
「ん、どうしたの?何か分からないことでもある?」
「…授業がつまんない。」
「…。」
授業の間は基本的に子ども達の様子を見て回ることをお願いされているのだが、この歴史の授業だけはいつも皆眠そうにしている。
歴史以外の慧音の授業は分かりやすく丁寧。内容もとても面白く、私自身勉強になることもある。
だが何故かこの歴史の授業だけはまるでお経でも聞いているかのような退屈さに襲われるのは何故なのだろうか。
「もう小傘ちゃんが教えてよー。」
「この分野は慧音の専門でもあるから…。」
昔一度だけ慧音に苦言を申したことがある。慧音が大事だと思うことであっても授業が難しすぎると子ども達の頭に入らないからもう少し簡単にした方が良いと。
当の本人もそのことに納得して一件落着かと思った。しかし後日授業を改めて聞いても全く変わらなかったのだ。
何故かは分からない。そして生徒達に授業がつまらないと言われると本当に落ち込むのだから正直手が付けられない。
「これが終わったら私も皆と遊べるからもう少し頑張ろ?」
「え、小傘ちゃん遊んでくれるの?やったー!」
授業が終わる頃には大半の子が眠っているこの授業も、今日はほとんどの生徒が真剣に話を聞いていて、慧音は嬉しそうだった。
飴と鞭とはこういうことを言うのだろうか。しかし慧音にとっては悪い方向に自信を付けさせてしまったかもしれない。どうしたものか。
***
子ども達が遊ぶ時は、いつも手毬や鬼ごっこで遊んでいる姿をよく見かける。その遊びに私自身混じることはあるのだが。
「よっ!ほっ!」
「凄い凄い!」
今私は子ども達にせがまれて、毬を使った傘回しを披露している。この傘回しは里の大人も子どもの頃に一度は見たことがある程には昔から持っている私の十八番である。
練習を重ねて身に付いたものというよりは子ども達にせがまれて傘を使っている間に自然に身に付いたもので、割と評判は良い。
別に曲芸師を目指している訳では無いが、パフォーマンスで魅せることは子ども達の喜ぶ顔に加えて驚きの感情もあるため、お腹も満たせて一石二鳥と言う訳だ。
「行くよー。はいっ!」
傘の上の毬を子ども達に向けてパスをし、投げ返してきた毬を再び傘の上でキャッチして転がす。
「「わーっ!」」
歓声を浴びるのはとても気持ちが良い。次は何の技を披露しようかな。
「小傘―、行くぞー。」
子ども達の歓声の奥の方から、声が聞こえてくる。どこか聞き馴染みのある声の方に目を移すと、見知った顔の人物が手に無数の弾幕のようなものを構えているのが見えた。……え、嘘?
「ちょ、ちょっと待って。」
「ほいっと。」
彼女は放射状に球状の弾幕を一個ずつ私に向かって放ってきた。構えている数的に傘の上に全て乗せることは無理なので、お手玉の要領で何とか傘の上でバウンドさせるように傘を回す。
「おー!きれー!」
私からは見えないが子ども達には色とりどりの弾幕が上空で円環しているように見えているだろう。
しばらく時間が経つとその弾幕は霧状に変化し、まるで空に虹が架かったような風景が出来上がりフィニッシュ。
お辞儀ををすると盛大に拍手をしてくれ、綺麗だった!凄かった!などの声が上がる。
「ありがとー!」
少し疲れたので子ども達には少し休憩させて欲しいと伝え、寺子屋にある縁側で子ども達の遊びを見守ることにする。
「妹紅!弾幕が子ども達に当たったらどうするんだ!」
建物の中では案の定私に向かって弾幕を放ってきた彼女が慧音に怒られているところだった。
「小傘なら大丈夫と思って。そんなに怒んないでよ慧音。」
反省の様子が見られない白髪の彼女の名前は藤原妹紅。人里から少し離れた迷いの竹林で過ごす不老不死の人間だ。
慧音と仲が良く、私とも…まあそれなりに顔を合わす機会が多い。彼女も私と同じように寺子屋に顔を出しに来る者の一人だ。
「言っておくが小傘はかなりおっちょこちょいだからな。反応できなくて転んだりすることも全然ある。」
「それは確かに。」
急にこっちに飛び火してきた。…私ってそんなにおっちょこちょいかな。
もし仮に転ぶとしてもちゃんと子ども達に当たらないようにすることくらいは出来るだろうし、もし弾幕が人間に当たっても威力からして少し痛い程度で済む。
妹紅は力加減を調整するのが下手な部分があるので、危なっかしいことには変わりないが。
矛先を変えてきた二人に対して苦言の意を示すようにじっと見つめていると、私の視線に気付いた妹紅が挑発的ににへらと笑う。
「何だ小傘。別に火の玉を放っても良かったんだぞ。これでも抑えた方…」
「何だと!」
…そろそろ休憩は終わりにして子ども達の元に戻ろう。
***
外で遊ぶ時間も終わり、子ども達は各々自分達の家へ帰っていく。
あれから鬼ごっこやらかくれんぼやらだるまさんが転んだやら、途中から慧音と妹紅も加わり夕刻前まで遊んだが子ども達の体力には毎度のことながら驚かされる。
子どもにとって遊ぶことは仕事の一つであり、毎日のように遊んではしゃぎ回っているあの子達には毎度のことながら適わない。
「ご苦労様。小傘、妹紅。」
姿形が見えなくなる距離まで態々振り返って手を振ってくれる子ども達に手を振り返して見送る。時折飛び跳ねて私達に見えるようにアピールする様はとても可愛らしい。
「手伝いも何もしてないけどね。」
私がやったことといえば精々傘回しと皆の輪に混ざって遊んだくらいだ。
「お前らが来てくれると皆本当に喜んでくれるんだ。だからもっと顔を出しに来てくれ。」
「はいはい。」
改めて先生というのは毎日子どもの面倒を見るという点において大変だ。しかも慧音は毎日ほとんど一人でこれを行っている。私には到底真似できそうにない。
慧音の先生としての在り方は一朝一夕で真似できるものでは無く、本当に人間が好きだからこそできることだ。
「私はまだこの後作業が残っている。夕餉ぐらい食べて行ってもらいたいところなんだが…。」
「いいって、少しは自分の身体も労われよ。お前がいないと私と小傘で子ども達の面倒を見ることになる。」
「妹紅は何も教えられなさそうだもんね。」
「…お前よりはましさ。」
慧音の言う作業とは明日生徒達に教える内容の確認だろう。単純作業なら手伝えるのだが、こればかりは手伝っても邪魔になるだけだ。
私と妹紅は慧音に挨拶をして帰路に就く。夕陽が出ている方向とは反対の方に歩くと、自分の影が逆光で伸びているように見えるのはとても面白い。
「慧音は頑張りすぎだよなー。もっと私らみたいに気楽に生きればいいのに。」
「まあ分かるけど、やっぱり里での慧音の尽力は偉大だよ。人間は皆、慧音の寺子屋を通して立派に成長していくから。」
慧音が来る前のこの里には元々寺子屋は存在しておらず、当時の子どもは物心がついたら両親のお仕事の手伝いをすることが一般的だった。
寺子屋が出来て私が一番に実感したのは、里の人達同士の横の繋がりがより広く、深くなったことだ。
寺子屋という学び場で心身共にお互いが成長し合う時間の中で関係が生まれ、それは寺子屋を卒業し大人になった後でも繋がっている。
そのおかげか慧音が来る前の人里に比べて活気溢れる賑やかな場所になったと思う。
「まあ、年寄りらしく私らで慧音を見守っていこうぜ。」
「そうだね。……その見た目で年寄りは無理があるでしょ。」
妹紅は慧音より遥かに長生きをしている。そして恐らく私よりも。
彼女が里にこうして偶に顔を出すようになったのは、慧音が竹林で一人で生活している妹紅を見かねて無理矢理連れて来たことが始まりだ。
それでも当時の妹紅自身はそれを嫌がり、しばらくの間は里に連れ戻したい慧音と竹林に戻りたい妹紅の攻防戦のようなものが繰り広げられていたようだが。
今ではこうして偶に里へ自分から顔を出しに来てくれるようになっているが、竹林暮らしは変わらない。あんまりあっちの方面には行ったこと無いけど多分通うの大変だと思う。
「そうか?まあ何でもいいさ。それより小傘、今日この後特に何もないよな。」
そう聞かれて隣にいる妹紅の方を見ると、悪戯を考えたような子どもみたいな顔で私を見ていた。
ああ、結局いつもの流れだ。顔を合わせる度に行ってくるこの誘い文句を、私は未だに躱せたことがない。この次に放ってくる言葉。それはうんざりする程聞きなれた誘い。
「今から飲みに行くぞ、ついてこい。」
「…はぁ。」
筋肉痛と二日酔いのダブルコースが確定した瞬間である。
***
妹紅は大の酒豪である。彼女からお酒の席に誘われたのは…もう数え切れない。人里では慧音が中々時間を取れない関係上、都合のいい私が良く巻き込まれてしまうのだ。
私自身お酒自体は強いのだが、そこまで大好きという訳ではない。だが彼女からしてみれば誘われたらのこのこと付いてくる私は飲み仲間という認識なのだろう。
幾度にも及ぶお酒の席のおかげで妹紅とは打ち解けることが出来た?のかもしれないが。変な酔い方をするので、人里の中でも奇行に走ることがあるのでそれは辞めてもらいたいものだ。
「妹紅って私に凄く遠慮が無いよね。ちょっとは私の気持ちも考えてくれたら嬉しいんだけどな。」
「いつも暇してるんだから別にいいだろ?それにストレスの捌け口にお酒は打って付けさ。」
まさに今彼女の強引さにストレスを感じているのだが。…まあもうこうなった以上何を言っても無駄なので、文句は心の内に留めておく。
「人里の外に最近通ってるいい店があるんだ。今日はそこに行こう。」
…人里の外にお酒が飲める店?そんなもの初めて聞いたが。空を見ればもう日は沈みかけており、もう少しすれば妖怪が活発になる時間がやって来る。そんな時間に里の外でお店を経営とはなんと無謀な。
そうして妹紅に連れられるまま里の外に出ると、すぐにどこからか香ばしい匂いが漂ってくる。
炭の匂いとタレが混ざったその美味しそうな匂いは、立地さえ良ければ極上の客寄せになっていたことだろう。そのまま匂いの発生源に向かって辿るように歩いて行くと、そこには
「…屋台?」
小さな提灯の明かりと古びた木製の屋台。暖簾を見ればそこには大きく『夜雀屋台』と書かれている。
…え、もしかしてこの屋台って妖怪のお店なの?確かにそれならこんな場所に店を構えている理由も納得できるけど。
少し不安感が増してきた私に対して、妹紅はそんなことは関係ないとばかりに暖簾をぞんざいに潜る。そうして聞こえてくるのは屋台の店主であろうまだ幼さを残した元気いっぱいの声。
「いらっしゃいませ!……ってなーんだ、妹紅さんですか。」
「何だとは何だ。」
私も続いて暖簾を潜るとそこには女将さんの服装を纏い、桃色の髪にバンダナを付けた鳥の妖怪がいた。暖簾の文字通り夜雀であるこの子が一人で切り盛りしているお店なのか。
「あ、いらっしゃいませ!」
制服を可愛らしく着こなしている彼女は、私を見ると笑顔で挨拶をしてくれる。
「こんばんは。珍しいね。妖怪が営んでいる屋台なんて。」
「ええ!人間の見様見真似ですが味は保証しますよ!妹紅さん。ご新規さんを連れてくるなんてやるじゃないですかー。」
「さっきは嫌そうな顔をしていたくせに。調子いい奴だな。」
辺りの何もない寂しげな風景とは裏腹に、とっても明るい子である。背中からひょこっと出ている羽が料理に落ちないかとか衛生的な問題はあるが、隠れた名店かもしれない。
「私は夜雀のミスティア・ローレライ。ミスチーって呼んでね!良ければこれからもうちの店を利用していってください!」
新しいお客さんが来てくれたことがよっぽど嬉しいのか、満面の笑顔でそう話すミスチー。
こうして私のようなお客さんが一人増えるだけでもこうして喜ぶ辺り、小さい屋台ながらも真面目に経営しているのだろう。
人間と妖怪、どちらの客層をターゲットにしているのかよく分からない立地だが、匂いといい今網の上で焼いている魚といい、期待大のお店である。
「それじゃあ早速…ご注文はどうされますか?」
「よし来た。とりあえず焼酎と焼き鳥を頼む。」
「は?」
…絶対それ地雷でしょ。
***
「…だから慧音には余計な世話なんて必要ないって言ってるのに、休みの日はいっつも私の家までやってくるんだ!」
「…はあ。」
「お前は里で居を据えるべきだって。…困ったもんだよ。」
妹紅とお酒の席で話すことは、現在の近況だったり愚痴だったり、ほとんど大した話はしない。
彼女も最近は里で自警団の指南を任されるようになり、結構な頻度で里に出入りしている。
彼女に会った日には大体開催されてしまうこの集いも、最近は増えてきているが、話の種は尽きることなくどちらかが永遠と喋り続ける席なのは昔から変わらない。
「気に掛けてもらえないよりはいいでしょ?慧音も妹紅が心配だから様子を見に行ってるんだろうし。」
「そうだけどさー。忙しいあいつの時間を削ってると思うと何だか心がいたたまれなくなるっていうか…。」
「まあ分かるけど。」
何だかんだとうんざりする程開かれてきたこのお酒の席の中で、妹紅がどんな人間なのかは知ることは出来た。
だから妹紅が悩んでいることも分かる。彼女は不老不死であるが故に人間、半妖、妖怪の誰よりも長く生きる。だからこそいつか来る別れを恐れているのだ。
誰かと親しくなって永遠の別れが来た時の悲しみに耐えられる心の器が彼女にはない。だから人里で暮らして、今以上に人間に近づくことを無意識に忌避しているのだろう。
「妹紅は今を生きようとしなきゃだめだよ。」
「というと?」
「色々と考えすぎってこと。将来こうなるかもしれない、ああなるかもしれないとか不安になって今を楽しく生きられないのはもったいないと思うよ?」
私もこれまで幾度と親しい人間との死別を繰り返してきた。その悲しみは決して慣れるものでは無く、経験するごとにどんどん溜まっていく。しかし仕方ないのだ。
彼らは寿命の短い人間であり、それを受け入れないと彼らの素晴らしい人生を否定することにもなる。だからこそお墓を立てて年に一度は必ずその人間を想い祈るのだ。
悲しい記憶だけ残すのではなく、楽しかった思い出がいつでも思い出せるように。
「頭では分かっていても私には難しいことだ。」
「ゆっくりでもいいから答えを出した方が良いんじゃない?人と縁を断ち切り続けるのは妹紅の性格的にいつか限界が来ると思う。」
「…限界か。」
「今日の里の子ども達の顔、見たでしょ?里にもちゃんと居場所はあるんだから。」
彼女自身は無為に長生きを続けた結果、自らを人間ではない化け物だと認識している節がある。
竹林に住み続けているのがまさにそういうことだ。だが千年以上生きている彼女が今もこうして人間らしい悩みを捨てきれないことが、今の妹紅を人たらしめていると私は思っている。
人間はどれだけ周囲との関係を遮断しようとも、一人では生きられないものだ。彼女はこれから先何千年生きようと、他者との繋がりを求めようとする心を消すことは出来ないのではないだろうか。
…まあ、不老不死という永遠の年月を生きる彼女の気持ちを完全に理解することなど私には出来ない。恐らくこれから先数えきれない程妹紅は悩んで生きていく。
ただそんな時に未来の妹紅が、これまで幾度となく繰り返してきた飲み会の中でそんなことを喋っている友人がいたなと思い出せることが出来るならこの集まりにも意味はあったのではないだろうか。
「…はぁ。やっぱり人生相談の相手はお前に限るな。そういう仕事でも始めてみたらどうだ?」
妹紅は残っているお酒を一気に飲み干し、おっさんみたいな声を上げる。辛気臭い話を打ち切ろうとしているのがばればれだが、彼女がそうしたいなら合わせよう。
「やめてよ。そんな柄でもないし。」
私は串に刺された八つ目鰻を口いっぱいに頬張りお酒を流し込む。濃厚なタレと炭で焼いた鰻の香ばしい香りが合わさって絶妙な味が口いっぱいに広がる。
ここまで美味しい八つ目鰻は初めて食べた。この味を出すのに随分と研究したのだろう。ミスチーとも知り合いになれたことだし、是非ともまた立ち寄らせて頂こう。
「あの…!」
次はおでんを頂こうと思ったら厨房で料理をしていた筈のミスチーから呼び掛けられる。口をあんぐり開けたまま前を向いたのできっと彼女からは滑稽に見えているだろう。
「小傘さんって人生相談もされているんですか?なら私も是非相談したいことが!」
「…え?」
カウンターから身を乗り出してこちらに詰め寄るミスチーはきらきらとした目で私を見ている。先程の妹紅との話の中で何に感銘を受けたのか分からないが、そんな期待されるような目で見られても困るのだが。
「あっはっは!人望があるなー小傘は。」
他人事だと思ってゲラゲラと笑う妹紅は置いておいて、別に私は悩みを聞いて解決する専門ではない。
話を聞いてあげるだけで楽になることもあるからこそ妹紅の話を聞いていたのであり、相談事として聞くには少々荷が重いのだけど。
……さっきからミスチーが純真に向けてきている視線が痛い。ここで断ればこのキラキラとした目をしょんぼりさせてしまうことになる。…断れる空気じゃない。
「ま、まあ話を聞くだけなら…。」
「やった!それじゃあこの店についてのことなんですけど…。」
何を思ってミスチーは今日初めて会った私に相談しようとしているのか。私なんかただ里でのんびりと暮らしている一介の化け傘に過ぎないのに。
…人間も妖怪もそれぞれ色んな悩み事を抱えていて、誰でもいいから話を聞いてもらいたいんだろうなぁ。