大庭雨傘物語   作:Poko.bell

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第9話

 

「驚け―!」

「……う、うわ。…何だ小傘ちゃんかー。びっくりしたなー。」

「( -`ω-)✧ドヤ」

「…え、何これ。」

 

 

 

 

 

 

いつも通り今日のノルマを達成し満足である。

 

さて、今日は以前妹紅に無理矢理飲みに連れられた時の屋台の店主、ミスチーも一緒である。

彼女の屋台にはあれ以降も度々お邪魔していたりするのだが、今日里にまで彼女を連れてきた理由は、以前ミスチーから受けた相談事の件である。

本来であれば妖怪である彼女を里に連れてくるのはこのご時世まだまだリスクはあるのだが、私の目から見てミスチーは、ただ屋台の経営に懸命に勤しんでいる健気な妖怪だ。万が一にもお客さんになる人間に牙を剥くようなことはない筈だ。

 

「へー。すっごい人がいっぱいなんだね。友達の妖怪だったら我慢できずに嚙り付いちゃってるよ。」

「今の発言大分問題あるけど大丈夫?」

 

背中に生えている翼をすれ違う人達に見られながら私達はとある場所に向かっている。

彼女も里に入った時は少し居心地が悪そうな表情を浮かべていたが、沢山の商店が並ぶ場所にまで辿り着くと、興味の方が上回ったのか今では周囲のお店を楽しそうに眺めながら歩いている。

適応能力が高いのかもしれない。

 

「わ、私はその辺ちゃんと弁えてるから大丈夫だよ。それよりこんな人間が多い場所でお店が出せるって思うと楽しみだなー。」

 

ミスチーに考えて欲しいと言われていたこと。それは里で収穫された食材やらを自らの屋台で調理して出したいということ。そして里の人間を相手に商売がしたいという要望だ。

彼女は前々から里から少し離れた場所で主に店を出していたのだが、当然そのような場所では人間のお客さんは来ず、妖怪も中々寄り付かない。

大抵は私と妹紅か彼女の友人が偶に顔を出すぐらいで、儲けらしい儲けはほとんどないまま今までやってきたらしい。

ミスチーの料理は里の外で採れる食材を使ったオリジナリティに溢れたもので、面白いものが多い。

私としても彼女が里の食材をどう調理してくれるのか興味もあるということで、彼女の採ってきた外の食材と引き換えに少しずつ里の食材を少し譲ってもらえるように、前々から色々なところに呼び掛けておいたのだ。

 

「大まかにしかお店の人には説明していないから細かい食材の契約とかは任せるよ。問題が起こらないように付いては行くけど。」

「十分すぎるよ!小傘ちゃんには後で美味しいものを作るから、楽しみにしてて!」

 

ミスチーは人気のない場所で屋台を開く少し変わった妖怪だが、誰とでも打ち解けるような明るい性格をしている。

商魂逞しい里の人間達とも何だかんだと上手くやっていけると思っているのでそこまで心配はしていない。

交渉にはトラブルでも起きない限り口を出さないように見守るだけに留めておこうと思っている。まあ何とかなるだろう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「おう!それだけ貰えれば十分だ!明晩からうちの者に食材をお前さんのところに運ばせておくよ。」

 

「小さいのに立派な翼だねぇ。ほら、ついでにこれも持ってて。」

 

「えれえぺっぴんさんだなぁあんた!今度俺も飲みに行ってもいいかい?」

 

 

 

 

 

お願いしていたお店の人だけではなく、それに追随してミスチーに興味を持った人が話しかけたりと連鎖していき、予定よりも多くのお店と提携を組むことが出来た。

外のものは里の人間にとっては貴重なものも多い。少しばかりミスチーの負担が増えそうではあるが、軽く里の中で屋台を営業する宣伝にもなったしこれなら問題なさそうだ。

 

「べっぴんさんって言われちゃったよー。皆口が上手いんだからあ。」

 

色々と話が弾んだ結果、すでに空は茜模様に染まっている。流石に今日の仕込みは今から間に合わないので、明日から正式に屋台を開くと聞いている。

営業に関して私は首を突っ込むつもりはないが、開店後しばらくは新しいもの好きな里の人間でごった返しそうな気がする。

お客さんがいっぱい来て一人で大丈夫なのかと聞いてみたが、もし回らなさそうだったらがツケが溜まっている妹紅に手伝ってもらうつもりのようだ。

何でも彼女はいつもミスチーの屋台に来て飲んでいるからその場でレシピも再現してくれるだろうとか。そこらへんは適当に何とかやっていくらしい。

…やっぱりちょっと心配である。

 

「人間って凄いね。正直異端者の私をここまで受け入れてくれるとは思ってなかったよ。」

 

ミスチーはしみじみとそう語る。彼らと話す時、私もその勢いに圧倒されそうになることがあるので気持ちは分かる。

 

「あっちからして見れば人間妖怪関係なく皆お客さんだからね。いい所でしょ?ここは。」

 

里の人間は妖怪という存在を怖がっていないという訳ではない。

前の紅霧異変の際に起きた異常には、誰もが混乱に陥っただろうし、妖怪は人間を容易に殺すことが出来るということを頭の中では理解している。

それでも今回、彼らがミスチーを受け入れたのは何故なのか。

 

「うん、俄然ここでやる気が出て来たよ!明日から頑張らなきゃね。」

 

何も初めから人間達は彼女を信用していた訳では無い。

彼らはその存在が自らに害を及ぼすことのない者かどうか見定めるのだ。いざという時は自分の身は自分で守らなければならないということを知っているから。

相手の様相を見て対応を変えるというのは聞こえは悪いかもしれないが、彼らなりの護身術だ。

今回、ミスチーの気さくな性格が人間の緊張を和らげ、円滑に交渉を進めることが出来た。要は彼女の人徳なのである。

 

「因みに今日はプレオープンで小傘ちゃんの貸し切りだよ。先に言って準備してるから誰か連れてきちゃって!」

 

いきなりそう告げるだけ告げて、ミスチーは飛んで行ってしまった。…それ、先に言っておいてもらいたかったんだけど。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「それで私を誘いに来たのか?いつも嫌そうな顔してるのに心の中では私を求めてるんだな。」

「違うよ。暇そうな酒飲みが妹紅しか思い当たらなかったからだよ。」

 

この時間帯の妹紅は大体寺子屋か自警団の詰所で人間らに稽古をつけている。

もちろん里に居ない時もあるが、偶々通り過ぎた詰所から訓練をしている音が聞こえたので、立ち寄ったところを見つけることが出来た。

 

「稽古中だったっての。まあミスティアの奴の開店祝いなら行ってやらないとな。」

 

何だかんだと妹紅はあの屋台の数少ない常連客ではあるので、連れていくなら妹紅だとは思っていた。

屋台を開くのは大抵夜の時間なので、今までよりも詰所の帰りに妹紅も気軽に立ち寄ることができるだろう。

隠れた名店がこうやって明るみに出るのは、静かに飲むのが好きな私にとっては少し惜しい気持ちもあるが。

 

「貸し切りなら他にも誰か誘うか?折角の祝い酒なのに三人だけってのも味気ないだろ。」

 

偶には大勢でワイワイと飲むのも悪くないし、妹紅の絡み酒の身代わりになる者がいるならそれに越したことはない。

飲みに誘える人ねぇ…。慧音は明日も寺子屋があるから誘えないし、阿求は妹紅と同じペースでお酒を飲むと体壊しちゃいそうだし…。

 

「何だ?私の他に里でいつも暇そうな都合のいい奴はいないのか?」

 

うーん。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「呼ばれて飛び出て蛮奇ちゃんです。」

 

ドアをノックするとそう言って出てきた蛮奇ちゃんだが、隣にいる妹紅を見るとすぐに私の後ろに隠れて縮こまってしまった。

 

「こ、小傘。前にも言ったが私をいきなり知らない人間の前に出さないでくれ。」

 

相変わらず他人との距離感がよく分からない妖怪である。

 

「駄目。目指せ人見知り克服だよ。」

 

どうやら蛮奇ちゃんのおっちょこちょいは極度の人見知りによる緊張によるものではないか…とこの前阿求が分析していた。

なので人見知りを克服出来れば仕事も上手くこなせるのではないかと思うので、私は蛮奇ちゃんに厳しくすることに決めた。

 

「お前が小傘の言う暇な知り合いか?妹紅だ。よろしくな。」

「…赤蛮奇です。よ、よろしく。」

 

魂の抜けた顔をしながらも妹紅が差し伸べた手を握る蛮奇ちゃん。何だかんだと二人は変わり者同士仲良くできそうだ。

 

「これから屋台に飲みに行くんだけど蛮奇ちゃんも一緒に来るよね?あ、拒否権はないよ。」

「…。」

「容赦ないなぁ。」

 

いつも散々振り回されているので、これくらいの横暴は許して欲しい。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ミスチーの屋台は里の中心から外れた小さな広場で出すように言っている。

まだまだ受け入れられない者もいるだろうが、その辺りはこれからお店の信頼を頑張って勝ち取って欲しい。

幸いにも私や妹紅なんかは顔を出す機会も多いだろうし、何とかなるとは思っている。料理とお酒の味は間違いないからね。

 

「いらっしゃいませー。お待ちしてましたよ。」

 

いつも通り薄暗い視界の中にぽっつりと佇む小さな屋台。暖簾を潜れば女将さんスタイルの服装のミスチーが笑顔で迎え入れてくれる。

いつもと違うのはここは妖怪の住む領域ではなく、人里の中だということ。この場所なら匂いに釣られてやった来た野良妖怪を気にせずに、人間でも安心して食べることが出来る。

 

「ああ。やっぱり妹紅さんを連れて来たんですね。それと貴方は…初めましての方ですね!ようこそ!」

 

ああ。ミスチーの眩しい笑顔を見て蛮奇ちゃんが萎れてしまっている。彼女はまだこの子と接するには早すぎたかもしれない。

 

「新しく開店したと聞いたんだが、外装は変わらないんだな。」

「そりゃあいつもの屋台を引っ張って来ただけなんですから当然ですよ。でも明日からは料理もリニューアルするんで。楽しみにしていてください!」

 

ミスチーは料理の研究にもっぱら余念がない。いつも美味しい料理を提供してはいるが、里の特産品を用いた新しい料理。是非とも今後の参考にさせてもらおう。

 

「よし!じゃあまずは焼き鳥!」

「いい加減ぶっ飛ばしますよ?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「私はなぁ、これでも里の人間の為を思って指南してやってるんだぞ?妖怪と対峙しても生き残れる程度にはなってもらわないと。だからすこぉし厳しくなってしまうのは仕方ないと思うんだ。そうだろ?」

「はいはい。妹紅が頑張ってるのは分かってるよ。」

 

何度目か分からない妹紅の話に相槌を打ちながらも、手を休めることなくご飯を食べる。

やっぱりここの店の味付けは病みつきになる。ここでしか飲めないミスチーが作っているお酒。飲みやすいお酒ながらも料理一つ一つに合うように調整しているのだろう。

曰く製法は企業秘密だそうで。これもミスチーの研究の賜物であろう。

 

「おい小傘。」

「…何?」

「妹紅だけ褒めるなんてずるいぞ。私の良いところも褒めろ。」

 

…一つ誤算だったのは、まさか蛮奇ちゃんも妹紅と同じくらいに酒癖が悪かったということ。

これはこれである意味いつも通りの蛮奇ちゃんと変わり無さそうに見えるが、矯正しようと思っていた人見知りの部分が綺麗さっぱり消え、妹紅やミスチーに対してもいつものテンション感で話しかけるようになっていた。

あんまり嬉しくない。

 

「分かるぞ赤蛮奇。こいつに認めてもらえるとすごく気持ちが良いんだ。」

「うむ。そういうことだもこたん。小傘には甘やかして欲しい。」

 

もこたんて。お酒が入るとこうして他者とすぐに打ち解けられるのはそれはそれでいいのだが、仕事では活かせそうにはない。

誰が酔っぱらったろくろ首に仕事を任せようと思うのか。

 

「あはは。人気者ですね。小傘ちゃんは。」

 

こうして酔っ払いに絡まれる中での癒しはミスチーだけだ。

彼女は皿を洗いながらもこちらを見て楽しそうに笑っている。出来るならこの酔っ払いのどちらかの相手を請け負って欲しい。

 

「酔ってる二人から人気者でもあまり嬉しくないんだけどね…。」

「蛮奇ちゃんは分かりませんけど妹紅さんは素面の時でも小傘ちゃんにべったりしてませんか?」

 

別にそんなことはない。妹紅は気を遣わずにお酒を飲める私を都合が良い奴程度にしか思ってないと思う。

寧ろ妹紅とはそれぐらいの関係値が丁度良い。妹紅が私にべったりとか言われると逆に引いてしまう。蛮奇ちゃんじゃあるまいし。

 

「…小傘ちゃんはお酒を飲むとちょっと辛辣ですよね。」

「話を聞いて上げてるだけありがたいものでしょ。」

 

お酒を飲むと人が変わるとは言われたことはあるが、隣に座っている二人ほどではない。

っていうか素面でここまでしつこく絡まれたらムッとなっちゃうと思う。

 

「私は今日小傘ちゃんの人柄に助けられましたからね。もし貴方に人望がなければ私はこの場所にすら入れてもらえなかったと思っていますから。」

「…それは違うよ。きっかけはそうかもしれないけど受け入れてもらえたのはミスチーの人柄あってのものだよ。」

「違いませんよ。私一人だけでは絶対に交渉は上手くいきませんでした。上手くいったのは私の隣に小傘さんがいてくれて、それが里の皆さんが私を認めてくれる材料になったんです。」

 

有無を言わせない迫力でミスチーは私に語り掛ける。

そう思ってくれていたのは少し驚きだが、実際に今日人里を回ってミスチーが感じ取ったことなのだろう。

 

「これでも凄く感謝しているんですよ?謙遜なんかしないで少しは受け取ってください。」

 

…そう面と向かって言われると少しむず痒い。

私としてはこのお店にこれからも色々とお世話になる立場だと思っているので別に感謝されることでもないのだが、そこまで言ってくれるなら素直に受け取っておこう。

こういうことを恥ずかしげもなく正面から言ってくれるミスチーはやっぱり酔ってるのかな?

 

「分かったよ。でもまだまだミスチーにとってはスタートラインに立っただけなんだから。これから頑張らなきゃだめだよ?」

「言うまでもありませんね。今の私はこの屋台に全てを捧げていますから!」

 

ミスチーなら上手くやっていけると思っている。

私が里への出店を認めたのは彼女のやってやるという力強い熱意を感じたからに他ならない。そういう活力に満ち溢れた者を応援したいといった気持ちは誰しもが持っている感情ではないだろうか。

 

「ちなみにミスチーは稼ぎを何に使うつもりなの?」

「えへへ。秘密です。」

 

いつの間にか隣で盛り上がっていた二人は幸せそうな顔をして眠っていた。…これ私が連れて帰るの?

 

 

 

 

 

 

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