異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい 作:パンデュ郞
その日から、俺とメグリテのアイドルレッスンが始まった。
まあ俺にできることは、アイドルとしての心構えを教えることだけだ。実際の歌唱力や、ダンス力を俺がトレーナーになって鍛えることはできないからな。ぶっちゃけ前世で詳しかったわけでもないんだ、雰囲気でやってるので許してほしい。
ただ、意外というかなんというか、実際歌を聞かせてもらったが上手かった。これはそういうものだから仕方がないんだろうが、アイドルらしい歌ではなかったけれど。ジャズとかそっち系じゃないかな、音楽詳しくないから適当だけれど。
そう考えてみれば、アルテシアちゃんの歌はアイドル寄りだよな。
先駆けだからとあんまり気にしてなかったけれど、そういう風習がないのにどこからああいう歌を引っ張ってきたんだろう。気になる。お抱えの作曲家でもいるのだろうか。
まあいいや。それを知ったところで俺にできることはない。
メグリテに紹介もできるわけでもないしな。
ただまあ、ここ数日彼女に引っ張り回されてわかったことは他にもある。
それは……想像の十倍彼女は考え無しってことだ。
「あら、来ましたのね!」
「ああ。流石にあんだけ来い来い連呼されたらな……」
「当然です、私の相談役なのですから!」
「はいはい」
今日の俺は、なぜかメグリテの屋敷に招待されていた。
ハージャド伯爵家。それがメグリテの実家だ。領地も持っているらしいが、メグリテは基本的に王都の屋敷に滞在しているらしい。
隠してるつもりなのに実家に招いてもいいのか? という疑問はあるものの、断るのも角が立ちそうなので素直に招待された。
そして、来てみたら門の目の前にメグリテ本人が陣取ってるという。
普通そういうのは使用人の役割なんじゃないのか……? 王女様も毎回メイドさんに案内させて、本人はあの部屋から出てこないぞ。少なくとも俺の前では。貴人としてそれでいいのかメグリテ。きっと何も考えてないだけなんだろうなメグリテ。
「ふふん! 屋敷でなら、外では話せない話もできるでしょう!」
「ああ、なるほど……」
確かに、これまでは黄金の稲穂亭で話をしていた。俺の借りてる部屋に連れ込むわけにもいかないし、共用部分で毎回話をしていたわけだから、周囲の視線を気にして話せていないことは多々ある。
例えば……メグサさんなんかに聞かれた日には、その情報はどこでと一生問い詰められそうなものは絶対に話せない。転生したから知ってますなんて、そんな妄言じみたこと言えないからな。
メグリテになら、まあ話してもいいだろう。悪い子ではないのは分かったし、何よりそこまで深く考えず目先の事に囚われてくれる。詮索されることはないはずだ。
「何をしてますの、早くこっちへ来なさい!」
「はいはい」
「ふふん! 私が直々に案内してあげること、光栄に思いなさい!」
今日も元気いっぱいだなぁ。
もうちょいでアルテシアちゃんのライブの日だけれど、見せたらどんな反応するんだろう。
実物は見たことがないそうだから、反応が楽しみだ。
少しだけ現実逃避を挟みつつ、俺は素直に案内される。
貴族の邸宅だけあって、やはり豪華だ。よくわからん壺とか良くわからん絵とかが廊下に飾ってある。王宮で慣れててよかった、見慣れてなかったら委縮してしまってたかもしれん。
それと、一つだけわかったことがある。
メグリテの奇行は今に始まったわけではなさそうだということだ。
すれ違う使用人の視線が、またですかみたいな視線になっている。流石に俺の姿を見て首をかしげてはいたが。
「一応聞くが、俺が来ることは家の人には伝えてるんだよな……?」
「ええ! お客さんを招いたと説明してますの!」
その説明でただの一般冒険者が来るとは思わんだろうよ。しかも、見た目的に一般人に見えなくもないんだぞ俺は。普段から仕事着来てるわけじゃないからな。
「さあ、この部屋です! ついてきなさい!」
目的の部屋にたどり着くや否や、即座に部屋の扉を開けて中へ入って行ってしまった。
別にプランニングするつもりはないが、メグリテのアイドルとしての形は見えてきたな。応援したくなる、ファンと一緒に成長していくタイプの売り方にはなるだろう。
ただ、その形がこの世界で通用するのかどうか。俺にはわからない。
少なくとも、アルテシアちゃんとは少し変わった客層にはなるだろう。彼女は完成度の高い芸を披露するタイプのアイドルだからな。
そんなことを考えながら、部屋に入る。
瞬間、思考が飛ぶ。
「……おい」
「どうかしました?」
「この部屋って、何の部屋だ?」
「? それはもちろん、私の自室でしてよ!」
でしてよ! じゃないが?
え、普通にありなのこれ。いいものなの。
年の差はあるぞ、メグリテは全然若い、見た目からして十代前半から半ばぐらいだろう。だから俺はそんな気にはならない。
でも、貴族ってそういう評判どうなんだ? 知り合ったばかりの異性を平気で部屋の中に連れ込む貴族令嬢が許されるイメージはないぞ。
頭が痛くなってきた。
これ、後で誰か捕まえて聞いておくか。雇われてる家のお嬢様の進退に関わる話なら聞いてくれるだろ。
「何をぼーっとしてるんですの! 早く入りなさい!」
「はいはい……」
今は大人しく従うとしよう。今更引き返してもどうにもならん。
部屋の中は、なんともまあ少女趣味な部屋だった。
ぬいぐるみやらなんやらがベッドの上に置いてあって、きっと一緒に寝てるんだろうなと思わされる。
部屋の装飾も華美ではなく、ファンシーな感じが多い。
目立つ、ということにこだわっていたにしては、思ったよりも平凡だ。もっと成金ギラギラでもおかしくはないと思っていた。
「あまり淑女の部屋をじろじろ見るものではありません!」
「いや、淑女は知り合ったばかりの男性を部屋に招かないと思うんだが?」
「あなたは私の相談役でしょう! 他人のようにふるまわないで!」
なるほど。相談役に任命された時点で俺は身内判定されていたらしい。
大丈夫かこのお嬢様。俺でも不安になるレベルってやばいぞ。俺は俺がダメな奴って自覚があるんだからな?
「さあさあ座りなさい! そして私にアイドルのなり方を教えなさい!」
「……はぁ。わかりましたよ」
大人しく言うことに従い、椅子に座る。
にこにこ笑いながら対面に座ってくるのだから、まるで年の離れた姪を相手している気分だ。生意気具合がいい感じに親戚の子っぽさがある。
その後は、意外と普通に話は進んだ。
アイドルとは何かの再確認から始まり、歌と踊りについて。心構えについて。何より、この世界において先駆者であるアルテシアちゃんについて。
色々と話しながら教えて、彼女はやかましくも素直に話を聞いてくれていた。
実際に歌ってみせたり、その場で踊ってみせたりしてくれたが、俺にはそこまで細かな良しあしはわからないので、少し褒めるぐらいにしてはぐらかした。
アルテシアちゃんと比較してどうかと聞かれたので、アルテシアちゃんの方が優れてるとは言ったが。もちろん不貞腐れた。
そんな感じで色々と話をしつつ、時間が過ぎていくと……。
「メグリテ、お客さんがいると聞いたんだが……」
「お父様!」
お父様!? ハージャド伯爵か。
「入るよ。いいね」
「ええ、構わないわお父様」
部屋の扉が開かれ、俺もそちらの方を向く。
ハージャド伯爵と視線が合うと同時に、向こうの表情が驚愕の色に染まった。
「おま、いや、あなたは……っ!」
「はい?」
なんか、一方的に知られてる関係だったらしい。
もちろん、俺に覚えは何一つとしてない。
一体何なんだろうな。