今回は5作目にして、5度目の最終章です。
前作で原作の時間軸を大きく飛び越えましたが、さらにその先へ進みます。
今回もお付き合いいただけると幸いです。
Prologue&Game over
◇
侵入者を拒む入り組んだ構造。護──つまり機械を改造できる魔法少女『シャドウゲール』──がせっせと作り上げたリラクゼーション区画。そして護が仕える相手たる人小路のお嬢様こと
さらに、隠しエレベーターからしか行けない場所が二桁ある。管理に使っていたアルファベットが足りず、二週目に突入している。パスワードと、忘れた時用のヒントが散りばめられた箇所もある。罠にかける専用のダミー区画だってひとつではない。
まるでゲームに出てくる悪の組織の本拠地だ。元々は普通の建物だったはずなのに、こうなったのは単純な理由だった。
遺跡での一件があって、さらにそこからいくつもの後始末が必要になって、余計な波紋がいくつも起こって、ずっと激動だった。魔法の国にとって重要な史跡を、魔法の国にとって重要なお方が、思いっきり壊し、そして討伐されたのである。混乱も必至であり、その騒動の真ん中に巻き込まれた護にも庚江にも、もちろん危険が降りかかった。それからというもの、ここ1年間は、シェルターとして作ってあった離にずっと避難していたのだ。
そして避難している間は、手持ち無沙汰になる。暇だから建物が快適になるように手を加える。そこに後からやってきた庚江がこれまた持て余し、魔法少女プフレとして各所に依頼し、円滑に魔法の国の仕事を行えるように改築……と、それを繰り返した。たった二年の間に、商売系魔法少女まで出入りするようになってしまった。暗号化された通信に、なんと最低限ながら食糧プラントまで備えられ、世界が例えゾンビパニックに見舞われてもどうにかなりそうだ。
そんな場所に籠っている、ということは。本来の生業であるはずの女子大生の部分は、この頃どこかへ行ってしまっていた。同じ大学に通う友人や、同じ魔法少女である友人は、今頃どうしているだろう。連絡は取り合っている者もいれば、返事が返ってこない者もいる。
「お嬢」
「なんだい護」
「そろそろ外出たくないですか」
「わかっているとも。だから安全の確認が取れそうな日程を選んで、君に予約をしてもらったんじゃないか」
読書をしながらモニターに向かっている庚江に、何気なく話しかけた。
知っている。一昨日も同じ話をした。引きこもっている間に完成し、いまだに行けていない近隣の新しい飲食店だ。二週間前からの予約が可能であるため、あらかじめ行くと決め、日程も相談の上、二週間後、庚江と食事会をするために予約の電話をかけた。それはそれで楽しみなものであるが、それまでの間は時間が有り余っている。
やはりまた空間の改造でもと考えた矢先、だった。ずっと庚江が弄っていたパソコンの画面が切り替わる。
「あ、なんか来ましたよ」
「ああ。返事が来たらしい」
魔法がかかっているのか、横から見ているだけの護にはまったくと言っていいほど解読できない。しかし庚江はすいすいと目を通すと、なるほどね、と頷き、メッセージを閉じ、開きっぱなしだった本も閉じて、護が持ち込んだ護の椅子にどんと腰掛けた。この体勢になった時は、お茶が必要だ。何か言われる前にすぐさま用意に取り掛かる。
「ここまで長かったものだ。水面下に潜り続けるのも簡単なことではないね」
「え。お嬢、今度はなんの悪巧みですか?」
「部門を跨いだプロジェクトでね。大掛かりに、魔法の儀礼を行わなくてはならない」
「それはまた……」
大掛かりな儀式。となるとやはり、思い出してしまうのは遺跡の件だ。またトーチカが関わっている、あるいはやらされているとしたら、気の毒で仕方ない。なんだかプフレになんでもやらされる自分を見ているようで。
「っていうかそれ、引きこもっていていいんですか?」
「逆さ。籠っていないと危険が飛んでくる。現に各地で小競り合いばかり。怪我人も死人も多い」
「酷い社会ですね」
「まったくだよ」
その一端が貴方では、とまではさすがに言わない。言わないが、そう思っていることくらい筒抜けだろう。
「その儀式なんだが、今から十二日後に行う予定だ」
「え、予約の日じゃないですか」
「時間は間に合う。間に合わせるさ」
「大規模な儀式なのにですか?」
「元より終わらせてから、後顧の憂いなく行くつもりだったんだよ」
完遂祝い、ということか?
確かに終わってしまったあとならば外出しても狙われる可能性は低くなるかも。そんなことくらい、先に教えてくれてもよかったのではないかと思わなくもないが、彼女のことだからまたそういう独自の考えの元に動いているんだろう。
とはいえ、そもそも儀式というのは、早く終わらせようとしてそうできるものなのか? 式典を途中で切り上げるというのも想像し難いのだが。
お茶を注ぎ終えた。彼女の前に、カップを供する。細い指がハンドルに通されて、それがゆっくりと口元に運ばれる。その横顔をぼんやり眺めたまま、ポットを置き、続いて庚江のカップが置かれ、ふいに言葉が響いた。
「なあ、護」
「なんですか?」
「魔法少女をやめる……ということは考えたことがあるかい?」
「急ですね。ありますけど……やっぱり嫌ですよ。今更普通の生活に戻れるわけありませんし」
「そうか。もうひとついいかな」
庚江はティーカップの縁を何気なく指でなぞりながら続けた。
「君は、私が死んでくれと言ったら、死んでくれるかい」
「……はい?」
意味が理解できず、思わず聞き返す。庚江は目を合わせてはくれなかった。目線はティーカップの中、水面に落ちたままだ。答えを待つだけの彼女に、護も視線を逸らして、また吐き捨てる。
「お嬢がそう言うなら、そうなんでしょう」
命令ならば従う。従者としては当然のことだ。そう教えられて育ってきた。かつて、護のかわりに命を落とした『守』もそうだったように。つまり彼女は、シャドウゲールを『有効に使う』つもりなのだろう。いつか来ると思っていた日が、ようやく訪れる。あの日──クラムベリーの血に塗れた試験で、百人余りを殺してみせたように。そしてそれを終えた時、過ったひとつのくだらない想像のように。いつか向けられると知っていた、銃口でしかなかった。
──儀式までは、残り十二日。
運命が