魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

13 / 47
Pneumatic Genesis

 ◇キューティーショコラ(儀式まで残り三時間)

 

「やあ、こうも集まっていただいたら壮観だねえ」

「気取った礼服がバラバラで、確かに祭典らしくて素敵じゃないか」

 

 ショコラが今日という日のため、お供に選んだのはキューティーフレーズだ。彼女の明らかに心にもないことを言う口ぶりがショコラは大好きだった。緊張する場所には、緊張とは無縁な誰かがほしい。だからフレーズだ。

 

「監査。外交。あれは研究? 知っているとも、あの人は私の友達の友達の友達の友達くらいの知り合いでね」

「百科事典サイトでリンクを何回か踏んだらどんなページにもいけるみたいなやつだねそれは」

「あの羽は本気を出すと羽毛が増えるんだよ」

「絶対嘘だね?」

 

 羽が骨だけの天使風魔法少女を指して話した彼女の冗談に笑いながら、ショコラは方々に挨拶をして回る。フレーズも外面は一緒に良く繕って、今回駆けつけた魔法少女たちとお近付きになろうと、握手をして回る。

 監査からの客人は、ショコラでも噂程度にしか聞いた事のない、ゼロ課……なる名刺を渡してきた。警備員や捜査員とは性質が異なるらしいが、物珍しいので話しかけておく。

 外交が寄越したのは主任に昇進したレディ・プロウドと、その部下だ。魔王派ではないがゆえ、魔王の権威が失墜した後一気に這い上がったと聞く。魔王の話題は避けて、握手まで許してもらった。

 研究部門とは元より仲がいい。同じプク派系だ。本来ならば副部門長であるジューべが来るところだったが、代理としてメイド服の魔法少女が来ていた。キリッとした感じが、いつも会っている研究の魔法少女とは系統が違う。

 続いてその研究よりも新設、まさにできて一年も経たない第九宿舎の魔法少女とも話すことが出来た。看守長のリビングデビットはショコラとの交流にも乗り気で、あれは二度くらい食事に行けば落とせると見た。

 

 肝心な人事部門長、ほぼ主催者に近い立場である彼女は、この場には姿がない。それもそうだ、中枢に関わるのなら、その指揮をしているのだろう。せっかくなら挨拶をしておきたいが、邪魔になっても困るか。

 

「あっ!!」

 

 こちらを見て声を出したのは、小柄な蝶の魔法少女。直接会うのは初めてだが、彼女はスワローテイルだといのはすぐにわかった。彼女が魔法少女となり、そしてこの魔法の国へと来るまでに至ったきっかけである事件。そこにショコラはラムを送り込んで、色々間接的に手助けをしたりしていたわけで。ついでに視聴者だったらしく、移動中にも関わらず、彼女はフレーズと一緒に握手を求めてきた。もちろん応じて、手を握っておいた。小さい手だった。

 

「スワローテイルちゃんが鍵だから、がんばってね」

「はい! あ、えと、ラムお姉ちゃんにはすっごく助けてもらって! いつかまた会ってお礼がしたいな、って」

「……ふふ、そうだね! ラムお姉ちゃんに伝えとくね。すっごく喜ぶと思う」

 

 やはりラムを向かわせて正解だったかもしれない。この子が元々こうなのか、お互いに影響があったのか、どちらにしても、放映中はどこか冷めていたラムにとってはいい事だった。

 

「ちなみに……ショコラティエ〜ルで好きなのは!」

「えっ! えっと……えっと……皆さんかっこよくてかわいくて……でも、フレーズさんの、『正しいのは真実とは限らない』のシーンとか、すごく好きです!」

「へえ? だって、フレーズちゃん」

「やめてくれよ、照れるじゃないか」

 

 頬を赤くして顔を隠すなんて大袈裟なリアクションをするフレーズ。真っ赤になるのはモチーフ通りのいちごみたいになって可愛らしい。

 

「ああいう子供は苦手だね」

 

 そして隠していた手を下げたフレーズの顔は嘘をついている顔だった。照れていたのも嘘だろうが、子供好きなのは知っている。ショコラティエ〜ルはだいたいみんな子供好きだ。

 

「あー、あと。ここにはいないけど、もっと偉い人もいるはずだよ、ね」

 

 今回は現身までも、特等席から御覧になるという。数年前にお隠れになられた空席のプクを除いた二派からは、双方ともに現身がこの場を訪れている。

 

「よくここまで集めたよねー。いっそダッチ様も、公で来てもよかったんじゃない?」

「揃い踏みはもはやその方が偉業になってしまわないか」

「っていうか、もうほとんど偉業か」

「揃っていなくても、私がシャドウゲールならプレッシャーでむしろ膨らんでいるね」

「膨らむことはないでしょ?」

 

 何がむしろなのか。フレーズの言葉は思っている通りには飛んでこない。それが楽しくて好きだ。せめてそれ以外のことは全て想定通りに動いてくれたらいいのになあ、と何気なく思い、ショコラはひとつ、欠伸をした。大きかった。

 

 

 

 ◇プフレ(儀式まで残り二時間)

 

「お嬢、装置の用意、終わりましたよ」

「お疲れ様。護は配置に戻ってくれ。今日は君が主役のようなものだからね」

「はいはい」

「手順は覚えているね? その通りにするだけだ」

「わかってますよ」

 

 当日を迎え、プフレが用意した土地の山中に、複数の魔法少女たちが行き交う。ほとんどは雇われか、部門所属だ。プフレはこの日のため、古典を引きずり出し、始まりの魔法使いの遺物を真に復元するものとして、管理といった場所を除きほぼ全ての部門に協力を約束させ、人員を出させた。うちほとんどは、オスク派のナンバーツーであるレーテと、カスパ派の実質的なナンバーワンであるアガペマナエポクリプシカの威を借りたものだったが、魔法少女学級の件が成功してくれたおかげか、話は通りやすかった。

 ただひとつ、先日、緊急で設けられた会談の場で、オスク派の現身であるスノーホワイトには、激しい追及を受けた。彼女がこの儀式に対していい顔をしないことは初めからわかっていたことだ。だからこそここまで秘匿してきた。

 現身に見つかったのは、確かに望んでいなかったことだ。それでも想定外ではない。彼女には、本気でやらなければならないと諭し、幸運にも同時に他の緊急事態が挟み込まれたことで、スノーホワイトの追及はかわしきった。儀式の用意は進み、そして完遂している。

 

 プク派から理由をつけて奪い取った『装置』。N市で起きた裏城南絡みの生き残り、スワローテイル。そして儀式の中核には……シャドウゲール。それさえ揃っていればいい。

 

「……失礼……します……」

 

 魔法少女たちが忙しなく出入りする中、丁寧に戸を叩き、無口な使いを寄越し、わざわざ親衛隊を並べて入ってくる特別待遇の来訪者が現れる。アガペマナエポクリプシカだ。現身の器に準ずる、カスパ派の新たなるリーダー候補として生まれた彼女は、この儀式にも積極的な協力をしてくれていた。

 

「これはこれは。プシカ様直々に足を運ばれるとは」

「ちょっと興味がわいただけだよ。どんな顔をして待っているんだろう、と。君が胸をときめかせている、あるいはそうだな、高鳴っている顔をしているのも、見てみたかったのかな」

 

 アガペマナエポクリプシカは目の前に、わざわざ自ら椅子を用意してまで、こちらの顔を覗き込んでくる。高貴だからこそ、礼などというものの埒外にある。他の現身やナンバーツーの器にはない近さだ。レーテならばこうはならない。

 

「存外に普通だね。当たり前をこなしているだけのようだ。あるいは、そう確信して動いているだけ、かな?」

 

 儀式を成功させる、というのは手順通りに事を運ぶだけのことだ。特別なことはそこにはない。当たり前とも言える。わざわざそう答えもしない、が、しきりに話しかけてくるプシカ。彼女は腹芸をしに来たのではない。ただ、話に来ただけだ。それ以上でも以下でもない。

 

「もっと教えておくれよ。例えばあのシャドウゲールという魔法少女、どういう関係?」

「部下だよ」

「いいねえ。強大で、それを強大とも思っていない……あるいは、気づいていない? 芯が太いのかな」

「そういうものでもないさ」

 

 プシカは首を傾げ、やがて親衛隊の、神々しい姿の魔法少女に耳打ちをされ、名残惜しそうに椅子を立った。無口な親衛隊と悪魔風の親衛隊が即座に、手際よく片付けてくれる。

 

「私も装置の方に合流でも──」

 

 不意に、遠方から爆発音がする。……来た、か。目を細め、聞こえてきた方角を見つめ、ため息を吐く。不届き者が必ず居るだろうとは予測していたが、やはり仕掛けてくるか。とはいえ、腕の立つ者に溢れたこの場に仕掛けてくるとは、相当な命知らずだ。深く息を吐いた。そして、通信機から連絡を飛ばそうとする。が、まだ何も話していないのに、正面の迎撃に向かいます……という、雇っていた魔法少女の声が聞こえ、途切れた。

 

「……これは何かの干渉か……」

『ご明察。もちろん、私だけじゃないけどね』

 

 聞こえてきた電子音。合成の音声だ。まさかと思うより先に、体を動かした。

 プフレは車椅子を走らせ、最重要の地点へと向かう。猛スピードで走る車椅子に追いつける者は、大抵居ない。仕掛けるとすれば、即ち待ち伏せか、あるいは車椅子そのものに対する特効か。

 

「……っ!?」

 

 咄嗟に車椅子を乗り捨てた。軌道が明らかにプフレによる操作を超えていた。ガシャンと音を立てて、車椅子が何かに引き寄せられる。それはひとりの魔法少女だった。赤と青の目立つコスチュームに、大きく書かれたNとSは、明らかに彼女が磁石の力を持っていることを示していた。魔法のアイテムであっても、魔法のかかった磁力には引き寄せられる、という理屈だろう。

 

「どこ行くんだよ人事部門長サマさあ。部門長ってのはふんぞり返ってるだけの仕事なんだろぉ!?」

 

 答える価値を感じない。プフレは逃げ回り、連絡を繋ぐ方法を探す。

 

 

 

 ◇シャドウゲール(儀式まで残り一時間)

 

「わっ、な、何!? なんですか!?」

 

 周囲を取り囲んでくる魔法少女たち。十字架を背負った魔法少女、ウェイター風の魔法少女、そしてウェディングドレス姿の魔法少女。この位置は結界で出入りが制限され、ついでに情報も統制されていると言っていたはずが、

 

「シャドウゲールさんは下がってください! わたしが戦いますから!」

 

 箒を構え、庇ってくれるスワローテイル。さっきまで、シャドウゲールの仕事道具にとにかく目を輝かせていた子供とは思えない勇猛さだ。囲まれても一切怯んでいない。

 

「我々は貴方がたを傷つけたいわけではありません。ただ、この儀式を正したいだけなのです」

「正す……?」

 

 シャドウゲールもスワローテイルも、プフレに頼まれた通りに動いているだけだ。それが間違っているだとかなんとか言われても困る。そういうことはプフレに言ってほしい。

 

「あのですね、私たちは働かされているだけでして」

「始まりの魔法使いの遺物を使うというのに、賢人が欠けているというのはおかしな話でしょう。愛式(いとしき)さん」

「はぁい」

 

 十字架の魔法少女がそれを掴んで振るい、装置に向かって振りかぶった。間に飛び込んだスワローテイルが、瞬時に拳に蝶のさなぎをグローブ状に纏い、拳を叩きつけて受け止める。衝撃波が迸り、シャドウゲールは無意識に帽子とスカートを押さえた。

 

「ちっちゃいのにすごい力だねぇ」

「壊すつもりですか!?」

「いやいやぁ、愛式の力じゃ壊せないなぁ。でも、できることはあるわけ」

 

 これは明らかな襲撃だ。シャドウゲールはスイッチを押して、防衛のために作らされていたドローン集団を起動する。魔法少女なら気絶させられる魔法のスタンガンを主武装としたそれらは、一斉に襲撃者のところに飛びかかっていく。が、ウェイターの魔法少女が立ちはだかり、そのミトンでドローンを掴んでは、あっさりとパーツを引きちぎって機能を停止させてしまう。まさにちぎっては投げるかのごとく壊滅させられるドローン軍団。しかし時間は稼いでいる。その場から駆け出して、装置の方に、隠れ場所でもないかと探す。

 

「無駄ですよ。プフレさんも来ません。大人しく儀式を我々に明け渡してください。さもなくば命は保証できませんよ」

 

 ウェディングドレスの魔法少女が、懐から、ファンシーなデザインの施された、キャンドル型の拳銃を取り出して、銃口を向けてきた。その穴は深い。黒く、暗く、向こう側が見えることはない。

 

『君は、私が死んでくれと言ったら、死んでくれるかい』

 

 ふと、庚江の言葉が反復された。彼女がそれを望むのなら、投げ出すのが従者の務めだ。それは今更、当たり前のことで、それを確認したということはつまり、なんて思考が巡る。シャドウゲールは深く息を吐いた。

 どうせなら、だ。

 

「はぁああっ!!」

「きゃっ!?」

 

 スワローテイルが十字架を押し返し、手にしていた魔法の箒に備えられたスラスターを点火、急発進による突撃で彼女に打撃を与えた。その時、十字架に貼り付けられていた、宝石、結晶のようなものが溢れ、こちらに転がってくる。魔法の宝石の結晶だ。これだけあれば、本来の儀式の工程は、大幅に短縮できるかもしれない。シャドウゲールは咄嗟に、それを掴んだ。

 

「スワローテイルさん!!」

 

 シャドウゲールは装置に向かって飛び込んだ。そして内側から、ハサミとレンチを突き立てて、改造しにかかる。驚いた顔で追いかけてくる魔法少女たちだが、装置の外壁はどれだけ攻撃されても傷つかない。スワローテイルがその魔法を使い、手の形をしたレバーと握手をすることで、彼女の魔法に反応を示す。スワローテイルの蛹は転生の象徴。そしてシャドウゲールが改造したこの装置が、本来示す機構もまた、魔法的な物体を作り直す、そういうものだ。装置が正しく起動し、自己修復の機能を最大限に発揮したのなら、儀式はそれで完成する。装置の覚醒により、次々と始まりの魔法使いの足跡に近づける……と、ほとんどはシャドウゲールの憶測でしかないが、そういうことなのだろう。ならばこれが起動した時点で、既に勝ったような──。

 

「……あれ?」

 

 ──装置の対象が切り替わらない。そんな機能をつけた覚えはない、のだが、急激にシリンダーが回転を始める中、咄嗟に閉じた出入口が、回転のせいで触れられもしなくなっているのに気がついた。

 どこからともなく光が溢れ出してくる。何者かに、暖かく抱きしめられるような感触がする。それと同時に、己が引き剥がされるような、どこかへ連れていかれるような感覚と共に、周囲の風景が曖昧になる。やがて脳裏に、いくつもの映像が流れ込んできた。外では、取り囲んでいた魔法少女たちでさえ何が起きているのかわからない様子で、狼狽えているばかりらしい。どこかの廊下では、プフレが魔法少女と対峙している。他も同じだ。レディ・プロウドが、(ゼロ)・ショックが、フォーマルメイドが、キューティーショコラが、レーテが、アガペマナエポクリプシカが、この儀式を行う一帯が歪み始めていることに驚き、空を見ている。

 

『おいで』

 

 心地いい声だった。そうしたら、シャドウゲールのやりたかったことが、やらなければならないと今思うことが、間違いなくできるのだろう。

 あらゆるデータと、あらゆる光と、溶け合っていく。力が入らず抜けていく。呼吸さえ必要なくなる。そんな感覚を受け入れて、ただ、生まれ変わるとはこういうことかと、ぼんやりと考えながら、沈んで、溶けて、ばらばらになって──。

 

 

 

 ◆儀式まで残り零時間

 

 

 

 そして目を覚ました時。その視界は全てのカメラを網羅していた。動かそうとすることができる神経が、先程までの比ではなく増えていて、落ち着いて整理する。百五十二対目の脚を動かし、五百七十一個目の体を伸ばすつもりで、シリンダーを止め、展開し、組み直す。

 

 見上げていたウェディングドレスの魔法少女は、言葉を失ったまま、ただ跪いた。ウェイターと十字架も続いた。スワローテイルは呆然としていた。そんな彼女を、装置から伸ばしたマニピュレータで撫でて、シャドウゲール自身は第一頭部スピーカーの動作をチェックしつつ、設定を更新、よって頭上に光輪が灯る。

 外部のカメラと『友達』になり、今の自分を客観的に映像で確認した。なるほど、確かにシャドウゲールの面影を残していながら、これはもはやシャドウゲールではないだろう。

 

「プク様……いえ、天使……機械仕掛けの天使(ゲール・エクス・マキナ)……様」

 

 ウェディングドレスの魔法少女がそう呟いた。ゲール・エクス・マキナ。機械仕掛けの風、あるいは天使……なるほど。そう映してくれているらしい。今なら、やりたいことができる。

 

 背面の機械翼と、周囲全域の魔法機械を『友達』として同調する。実行権限を移譲して貰いながら、ひとつ、誰かの願いを叶えるためのプログラムを実行する。

 

「風が吹き荒れます。ご注意ください」

 

 救いと祈りの風が、魔法少女たちの頬を撫でる。戦っている者も、そうでない者も、全て巻き込んで。光の向こうにいた何者か(プク)がそう囁いたように、『おいで』と誘う。ひとり、またひとりと倒れ、誰も残らない。天使が導く先は、ここではないどこかだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。