魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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個性派揃いの子供達

 ◇ロスト・セレスティア

 

 ファヴは消えた。魔法少女たちはそれぞれ好き勝手話している。馬鹿馬鹿しい。こんな意味のわからないゲームとやらに巻き込まれた時点で、何者かの悪意に晒されているくらい覚悟しておかなかったのか。

 

「なるほど。ではそうだな!! この場で8人いなくなってもらうのが早いか!!」

 

 ミステリークだったか、真っ赤なザリガニ女が、ファヴのいなくなった途端高らかにそう言い出した。それに食ってかかるのは、きわどいバニーガールの格好をした魔法少女。彼女もさっきから大声でファヴに食ってかかっていて、ということはこっちにも噛み付く。感情的な馬鹿だ。

 

「アンタ話聞いてたウサ!? あの潰れ白黒饅頭に殺し合えとか言われて素直に殺し合うとか、ありえねーウサ!!」

「そう言われても今はそれしか方法がない。全員協力だなんて夢を見ているのではあるまい」

「アンタもファヴのこと知ってんだろ!? アイツが……アタシ、んん、ウサ達に何をしてきたのか」

「あぁ! 忘れるものか! なあカプセラ! フィッシャー!」

 

 カプセラの方は相変わらず端末を触り続けて興味がなさそうだ。一方のフィッシャーラッシャーは、魔法のアイテムであろう釣竿を構え、釣り針をつけなおしていた。こちらはやる気だ。

 

「なんでもいいんだけど水辺に行けるならそうするしかないと思う」

「であろう!!! ちょっとちょっとカプセラ、合わせて」

「んえ? いやぁでも、ミッションとかあるし図鑑とか出てきたし埋めないと」

「それがコロニー間移動をしなければ埋まらなかったらどうする! 嫌だろう!」

「うーん嫌かも。じゃあ」

 

 カプセラもまた、武器らしい大きなカプセルを両手に構えている。ミステリーク海賊団は気まぐれなようでいて行動指針は明確らしい。バニーガールの魔法少女は、腕っ節の強いタイプではないのか、ほんの小さくながら怯え声を漏らすと、その後、胸と虚勢を張りだした。

 

「う……ウサだって出るとこ出るウサよ!!」

「出るところとは何だ! その強調された胸か尻か!? 胸はほぼ出ていないぞ!」

「声がでけーウサ!!!」

 

 セレスティアは静かにため息を吐いた。馬鹿馬鹿しいにも程がある。そんなことで脅しにかかるならさっさと手を出して殺せばいい。ここであのウサギにつく、弱い者が好きな物好きが出てこないとも限らない。……セレスティアの思った通り、すぐ後に、カプセルと釣り針が襲いかかってくるのを遮って、黒くてらてら光る液体の壁が現れた。鼻をつくのは油の……石油の匂いか。バチャバチャ音を立てて油の壁が、カプセルの殻と釣り針を飲み込んだ。

 

「そのへんにしておきなさい? 容赦しなくていい相手だと思われたら袋叩きに遭うわ」

 

 石油の主は常に全身に石油を纏い、歩いた跡に足跡どころか引きずったような石油の道ができているレベルであった。酷い匂いだ。かかわり合いにはなりたくない。

 

「……!! 水辺……水辺来た!!! これは勝つる!!」

「は? 話聞いてまして……?」

「魚!! 大物来た!!!」

 

 しかしフィッシャーラッシャーがここで豹変。ぐいと釣り針を引くと、石油の中から突如怪物魚が登場。空中を泳ぎまわり、石油とウサギの2人組に向かって突進していく。乱闘はこういうところから始まる。セレスティアは深いため息を吐いて、仕方なく、その場で強く地面を蹴りつけた。衝撃が広がる。セレスティアのボロ布のヴェールが、己の魔法の発動に靡く。直後、石油の壁もカプセルの殻も釣り針も、迫り来る巨大魚もその場から消し飛んで、さっぱり何もなくなっていた。

 

「なっ……」

「……あれ? 私の……大物は?」

「……これは今のうち! 脱兎だウサ!!」

 

 ウサギは真っ先に逃げていき、石油は置いていかれていた。付き合ってられない。やがて蝶と忍者が間に割って入り、ミステリーク海賊団を宥め始めた。それがどうなろうと、セレスティアにはもはやどうでもいい。ゲームに従ってやるつもりもないセレスティアは、さっさとその場から離れようと背を向けた。

 

「ねえ、今の、青ちゃんがやったの!? すごい! すごいよね! ボク感心しちゃった! あれが魔法? それとも超高速で攻撃したとか!?」

「……」

「ねえねえ! あ、もしかしてソロ縛りしたいの? せっかくだしパーティ組もうよ、ほら、なんか登録機能みたいなのがあってー、ねー、聞こえてる?」

「……うるさい」

「あ、聞こえてる」

「ついてこないで。その青ちゃんとかいう安直なあだ名もやめて」

 

 付き纏ってきているのはドット絵がいくつも描かれているようなコスチュームの魔法少女だった。振り向いた途端、スポーティーな帽子の角度をぐいっと直し、目が合ったのを喜んでにっと笑っていた。面倒なのに目をつけられた。さっさと撒こうと歩き出す。

 

「あーもうねえねえ待ってよ、あだ名やめてほしいなら名前教えてよー」

「……ロスト・セレスティア。これで満足でしょ」

「満足するとは言ってないじゃん。セレスちゃん、パーティ組もうよー。あ、もしかしてセレステ? 青いし。やっぱり青ちゃんじゃん!」

「……」

 

 拒否されていることを理解しようともしていない。どうやら馬鹿らしい。深いため息を吐いて、セレスティアは地面を蹴り速度を上げた。『青』と呼ばれるのは不快だ。セレスティアを拾い上げて修行をつけておきながら、勝手にいなくなったあの師匠(おんな)のことを思い出すせいだ。

 

「お、追っかけっこ? じゃあ勝負開始だ! あの木のところを通過したりさせたりした方が勝ち! よーいドン!!」

 

 セレスティアとてそれなりに速度を出しているつもりだった。しかしそれ以上に速いものがセレスティアを追い抜いた。あれは、小石、か。こいつが投げたものらしい。音速を超え衝撃波を放ち、勝手に目標にされた木を貫通していた。

 

「勝負あり〜、勝者、ボクの水切りテク!」

「……あんなの水切りじゃない」

「でも勝ちは勝ちだもーん」

 

 無視して動こうとしていたのに、足が止まってしまった。まさかとは思うが、勝手に勝負を仕掛け、勝利すれば利を得られる、そういう魔法の持ち主か。

 

「……なんなの、何が目的」

「だからパーティ組もうって。あ、ボク、細戯遺失(さざれいし)。サザでいいよ」

 

 勝手に吹っかけられたものであっても、敗北した、と判定されているらしく、セレスティアはろくに抵抗もできず、素直に端末を操作するしかなかった。パーティ登録のボタンを押すと、一覧のページに『細戯遺失』が追加される。彼女はその様子に大変ご満悦らしく、笑顔で握手を迫られた。……これ以上変なことをさせられるのを避けたかったセレスティアは、応えはしたが、笑顔からは目を逸らした。

 

「……パーティになったから何だっていうの」

「なんだろうね?」

「……利点も知らないで誘ってたの」

 

 こいつも馬鹿だ。セレスティアは思わず目を細める。細戯遺失はまるでそんなこと気にも留めず、端末をああでもないこうでもないと触っている。

 

「……これは?」

「およ? おー、すごい、相手の現在位置がわかる。位置情報共有だ! すご!」

「……はぁ……」

 

 やはりろくでもない相手に捕まった。先が思いやられ、ゲームに付き合うつもりなんてないはずなのに何の先かと自らに疑問を抱き、ため息に変えて吐き出した。

 

「……私の目の前で死んだら容赦しない……」

「へ? あぁ、うん、これ残機ないんだもんね」

 

 現実を軽く考えすぎだ。やはり、今の勝負を無効にし、今からでもパーティを取り消し脱出すべきかもしれない。

 

「なんか出てる。ミッションだって。報酬1000キャンディ! よくわかんないけどやるっきゃない! 1000個だよ1000個!!」

「……仕方ない……」

 

 1個あたりの価値も不明なくせに、数字の大きさだけで欲しがるのも馬鹿らしかった。

 

 

 ◇スワローテイル

 

 ミステリーク海賊団、主に船長のミステリークは、ゲームに乗って進めようと考えている。カプセラとフィッシャーも同じだ。しかしそれは他人を脱落させるということで、そしてこのゲームは死が現実とリンクする。つまり人殺しになる。それを見過ごせるわけがない。

 

「ダメだよ、あんなの」

 

 ミステリーク海賊団と、再び油をドロドロ出しつつある魔法少女との間に入って、とにかく止めた。リップルは連れ戻そうと手を掴んでくるが、大丈夫だと頷いてみせ、止めてもらう。

 

「みんなで協力すれば……その必要もないかもしれないでしょ! だから、ね!」

「むぅ? お前もハサミのサビに……いやしかし……広報とは今後もよいお付き合いをしたい……」

 

 ミステリークは何かを考えた後、急に爆裂的にひらめいたのか、手を叩いて大きな音を出した後、部下を無理やり連れて「さらばだ!!!」と広場を離れていった。やっと落ち着ける。胸を撫で下ろし、改めて、石油を出している魔法少女に手を差し伸べた。

 

「大丈夫ですか?」

「触らない方がいいわ。見ての通り石油だから。一度触れたら最後、その羽ベタベタの油まみれにして、二度と飛べなくしてやるわよ」

「……あはは、ごめんなさい、お気遣いありがとうございます」

 

 触れるな、と言われ、手を引っ込めるしかない。どうやら歓迎されていないらしい。

 

「名前だけ教えてあげる。私はジュー・ユー。マジカル石油女王よ」

「そ、そうなんですね」

 

 マジカル石油女王とは? 疑問を抱いても、当の本人がそれ以上話したくなさそうで、聞けなかった。

 

「なんと、あのマジカル石油女王か」

「知ってるんですか、フレーズさん」

「いかにも。あれは先のマジカルオイルショックによる魔法の国の一大危機を救い、ハイパーインフレを食い止めたという伝説の……」

「全然違いますけれど」

 

 フレーズはまったく嘘の情報を喋っていたらしく、去り際に本人が否定していった。ジュー・ユーについては、それ以上の情報はない。ついでに、いつの間にか残る魔法少女たちの姿ももうない。

 

「ブギー、ここ、留まる、嫌」

「確かに……なんだか空気がよくない気がします。町を出ませんか……?」

 

 ブギーとのっこちゃんの言う通り、なんだか空気がよろしくない。油の匂いではなく、なんだかこう、淀んでいるような。

 

「……? あっ、あれ」

 

 スワローテイルが見つけたのは、倒れている少女だ。これまでに喋っていた覚えはない、つまり新顔だ。背中にカゴを背負い、中には様々なガラクタが入っているようだが、よくわからない。そして明らかに顔色が悪く、具合が悪そうである。彼女を抱え、大丈夫ですかと声をかけた。

 

「……あかん……」

「何があったんですか?」

「町から……出な……」

「大丈夫ですか! しっかり……げほっ、げほ、げほっ」

 

 急激に胸が苦しくなって、スワローテイルは咳き込んだ。それに続き、リップルも、のっこちゃんも同じように。唯一、顔を布で覆っていたブギーだけが咳き込むことはなかったが、倒れていた少女も合わせて、咳がこだまする。止まらず、涙が出てくる。何かが起きている。何だ。周囲を見回すまでもなく、そんなスワローテイルたちの様子を、物陰からニヤニヤと見つめている者の姿があった。

 

「げほげほっ……! あ、あの人たち、は……!?」

 

 このコロニーにいる魔法少女たち、最後の三人。最初から噴水広場にいた、ゾンビ化した警官のような格好の三人組だ。姉妹なのか、仲良さそうに、くすくす笑ってこちらを見ている。

 

「キヒヒッ!! エピ姉エピ姉、苦しそうだね」

「本当。ひどいねえ、パン姉は」

「エピもエンも……私はあんなゲームだって予想して……こうしたんだからね……?」

 

 遠巻きに、咳き込み苦しむスワローテイルたちを笑っている。いい気分じゃない。まるで、幼稚園で、自分を仲間はずれにしてきた人達に、また笑われているかのよう。咳はやがて、いきなり発熱や頭痛といった症状にまで悪化しつつある。そんな中、苦しいであろうリップルは立ち上がって、武器を構えた。

 

「思い……出した。あいつら……スノーホワイトが、逮捕した……っ、クズども……『病原三姉妹』……!!」

「げほ、げほ……病原……?」

「一般市民にも魔法の病気をばらまいて、魔法の国から指名手配された……極悪人。長女『パン・デ・ミク』、次女『エピ・デ・ミク』、三女『エン・デ・ミク』……」

「おや……知ってくれてるみたい……じゃあ毒を強くしないと……」

 

 パン姉、と呼ばれていた魔法少女が、ふーっ、と息をこちらに向かって吹いてくる。するとまたしても、全員の体調が悪化する。吐き気がして、口元を押さえた。この空気を吸い込んではいけない。彼女らは、ここでスワローテイルたちを、病毒で殺すつもりなのか。

 

「ま、待っ、て……! 戦わ、なくたって、ゲームは……!」

「関係ない系じゃん?」

「うん……別に……だって、苦しんでるところ……見たいだけだし……?」

「キヒヒヒヒッ!!!」

 

 ……ミステリーク海賊団よりも話が通じない。スワローテイルは膝をつく。せめて、少しの間、集中して蛹を作る暇があれば、肺を綺麗に生まれ変わらせられるかもしれないのに。

 

「ここは私に任せてくれないかな?」

 

 フレーズがここで、リップルより前に出た。先程まで一緒になって辛そうにしていたし、今もぜえぜえ息をしながらだが、表情だけは、いつも通りのすまし顔だ。

 

「だって私は『毒なんて効かない』からね」

 

 フレーズが構える。病原三姉妹はそんな魔法少女たちを笑い、まるで相手にしていなかった。

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