魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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Private&Grim reaper

 ◇ディティック・ベル(儀式まで残り十一日)

 

 曇りの空。ぼんやりとした初夏の、涼やかな朝。ふらりと出た軒先に、吹き抜けていく風にケープが靡く。過ごしやすい陽気の中で、ディティック・ベルは帽子の鍔を手でくいと直す。空を見て、変身を解除もせず魔法少女のまま寝た昨日の自分を反省する。

 

「ベルっちぃ、牛乳切れてるっすよぉ」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、こちらもまた魔法少女姿の少女が、虎のしっぽを揺らしながら顔を出す。助手のラピス・ラズリーヌだ。牛乳は後で買い出しに行かなければ。まずは事務所の表に『OPEN』の札を出し、深く息を吐いて、事務所の中に戻った。

 

 ラズベリー探偵事務所としての仕事を再開したのは、2月ほど前のことだ。ディティック・ベルとラピス・ラズリーヌは、魔法少女学級の教師として勤めていた。一期生である教え子たちとの濃密な……本当に、やたらと濃密な3年間を過ごし、彼女らを卒業式で見送り、堪えきれず盛大に泣いて、それを機に探偵業に天秤を戻した。学級は後任の先生たちに託している。要請があれば時々行くつもりだが、そう頻繁ではないだろう。先生たちも優秀だ。むしろ、よく自分が3年間走りきったものだろう。

 

「ラズリーヌ。今日の予定は?」

「こないだ入ってたメールの依頼人さんが来る予定っす!」

「メールの? あぁ……今日か」

 

 探偵としての依頼が個人の魔法少女からちゃんと届くのは珍しい。多くの場合、部門クラス……というか主に人事と広報からの無茶ぶりであったり、あるいは表の顔として何も知らない一般人の手助けをしてやるパターンの両極端だ。大物の仕事でも小粒の仕事でもないのはなかなかない。ただ魔法少女による人探しとなると、やはりその裏には事件が隠れていることも少なくないわけだが。

 

「そうだ、いっそ先に買い出しに──」

 

 言いかけたその時だった。事務所のインターホンが鳴る。まだ時間は早いが、依頼人の可能性は高い。慌てて立ち上がり、ラズリーヌも続いて、玄関まで迎えに赴いた。

 立っていたのは魔法少女だ。真っ先に目に入るのはその手に持つ大鎌。物々しい刃に思わず目を丸くする。それを持つ本人も死神のような風体で、自分が怪我をした時に現れたら本物と勘違いする見た目だ。聞いていた情報とは一致していた。彼女が依頼人の魔法少女、『ネフィーリア』だ。

 

「ネフィーリアさん……ですね?」

 

 彼女は小さく頷いた。そして、ぼそぼそと何かを話した。ディティック・ベルにはうまく聞き取れなかった。が、ラズリーヌは聞き取れたようで、中へどうぞっすよー、とあっさり案内し、自分もとりあえず続いた。まずは話を聞かないことにはどうにもならない。

 

「こほん。まず、私はディティック・ベル、探偵です。こちらは助手の」

「戦場に舞う青い煌めき! ラピス・ラズリーヌ!」

「……です。えっと。ご依頼でしたよね。人探しの」

「そ……メ……通……」

「えっ、と?」

「死ん……友達……探…………」

「友達を? ええと、ごめんなさい……」

「そのお友達はどんな人なんすか?」

 

 話が聞きたいのにまったく聞こえない。ぽつぽつとかすかな声だけはする、のだが、どうにも文章に繋がってくれない。しかしラズリーヌには完全に伝わっているらしく、話はそのまま続く。

 

「恋々……」

 

 ネフィーリアの懐から取り出されたのは書類だ。フォーマットからして恐らくは人事系のデータだろう。こちらが部門長からある程度貰っているものと一致する。魔法少女の名称は『らぶみー恋々(れんれん)』。そういえば、聞いたことがないこともない。事務所開業当初、競合っぽい相手として、一応存在を知ってはいた、程度だが。人間関係の悩みをメインに仕事をこなしている、フリーランスの魔法少女だったはずだ。

 

「この人を探せば……?」

「……違……違……ない」

「???」

「……恋々……でる……」

「えっ! ってことは、偽物ってことっすか!」

 

 話が見えてこない。ラズリーヌに顔を寄せ、耳打ちという形で助けを求める。

 

「あのさ、聴こえなかったんだけど、なんて?」

「らぶみー恋々さん、もう亡くなってるみたいっす。一緒の仕事を受けたけど、その中で事故があって……4年前、テイルっちたちが色々あったっていうあれっすよ」

「そこまで喋ってくれてたの!?」

 

 聴こえなかったのが大変申し訳なくなるが、視線を戻した先のネフィーリアには謝っても「……い……」しか返ってこなかったことで申し訳なさが引っ込んだ。これで聴き取れというのは無理筋である。これは訛りの凄まじい方言と一緒だ。ラズリーヌに任せた方がいい。

 

「えっと、それで……亡くなられたご友人を探している、というのは、どういう?」

「……見……目……」

「見たんですか?」

「……自分……以外……」

「自分以外からも目撃したと聞いた?」

 

 ネフィーリアが頷いた。話の方向性が見えてきた。死んだはずの魔法少女が姿を見せた、その正体を調査して欲しい、というのが依頼の本体だ。もはやオカルト調査に片足を突っ込んでいるが、幻影を見せたり姿を真似たりする魔法は世の中に存在している。それに、ディティック・ベルには、オカルトでも幻影でもない可能性に、ひとつ心当たりがある。

 

「……もし、プリンセス・マスカレイドだとしたら」

 

 以前、『死んだ魔法少女』に変身する、そんな存在に出会したことがある。それを率いた連中と思いっきり戦ったこともある。故人の魔法を悪用する何かがまた動いているというのなら、それはオカルトではすまない。大問題だ。

 

「わかりました。ネフィーリアさん自身にもご協力をお願いしたいのですが」

「……構……ない」

 

 今のは『構わない』だ。かなり音数が多かった。

 

「ありがとうございます。ではまずですが……恋々さんの、4年前の事件について、伺ってもよろしいでしょうか」

 

 気になるのは遺体の行方だ。

 

「あ……サタ……実験……」

「実験場っすか」

 

 実験場。ということはがっつりオスク派だ。あの時マスカレイドを使っていたのは研究部門系とプク・プック。相反するように思える。が、まだ思えるだけである。技術や兵器は奪い奪われ、盗み盗まれるものかもしれない。

 ディティック・ベルはいくら部門長との繋がりがあるとしても、一介の探偵に過ぎない。プリンセス計画に関する情報は皆無だ。そちら側からの確信は弱い。

 

「目撃情報のあった場所をお聞きしても?」

 

 ならば足で稼ぐしかない。こちらは魔法少女の探偵だ。ディティック・ベルにだって武器がある。魔法だ。自分の魔法は建物に作用する。街であれば、生物に頼らずとも情報が沸いてくるというわけだ。

 ネフィーリアが指したのは、ここからは遠く、街外れの廃墟だった。廃墟……となると、あまり使いたくないが、使えはするだろう。

 

「おっ、ベルっち、ということは?」

「うん。行こうラズリーヌ。探偵は足で稼がなきゃね」

「出たっす! ってことでネフィっちも来るっすよ!」

「……ネフィ……っち……」

 

 依頼人だとしても堂々とあだ名で呼ぶのはもはや当たり前の流れになっていた。今回は『っち』なんだな、まあ順当だなあ、とぼんやり思いつつ、その『ネフィっち』と共に事務所を出る。『OPEN』の表記を『CLOSE』にひっくり返して、ついでに買い出しできるよう、ポシェットに買い物袋を入れておく。

 

「そんじゃあしゅっぱーつ! っす! ベルっちネフィっち、ついてこいっす!」

「……なん……助手……」

「頼りにしてるよ」

 

 ラズリーヌを先頭にして、探偵と死神は歩き出す。隣のネフィーリアからは、『くしし』という、微かな、悪戯な笑い声が聞こえていた。

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