魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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Papillon&Great

 ◇スワローテイル(儀式まで残り十日)

 

「おい。道間違ったりしてないだろうな」

「大丈夫なはず! たぶん!」

「ここまでのプログラムは正常に動作してる。迂遠なのはただ、魔法の国の悪い癖だと思う……」

 

 珍しく、エリザ──友達で相棒のダーティ・エリザの顔が不安の色だ。その隣の、レーニャ──友達のレーニャ・エレジィも似た色を浮かべている。スワローテイルはそんなふたりを連れて、どんどん進む。使い慣れない魔法の扉をいくつもくぐり抜けて、長い廊下を歩く。歩き続ける。長い。

 魔法少女だから気にせずいられるけれど、変身していなかったらもうへとへとだろう。建物にたどり着くまでも長ければ、たどり着いてからも長い。魔法の国にはよくあることだとレーニャは言うけれど、大変には変わりない。

 

「私はそれよりこれからの方が不安……本当に謁見なんて……」

「あぁ。確かナントカの偉い人と会うんだろ」

「魔法の国の! 三賢人!!」

「おう……その三なんとかはなんなんだよ?」

「魔法の国の始祖たる始まりの魔法使いには三人の弟子がいた。それが三賢人。今はその偉大な魂を現身の体に降ろしているの」

「はぁ……? すまん、アタシにはなにがなんだか」

「これだからっ……」

「んだよ!! なんか偉いんだろ!? それでいいだろ!」

 

 これから会うのは、なんだかとんでもなく偉い人だ。レーニャ曰くこんな新人の魔法少女が普通会えるわけがない相手だという。そんな相手だと知らずに、スワローテイルは手紙を送り、直接会いたいという返事が来て、こうなっている。確かに不安はあった。この建物も、なんだかおとぎ話に出てくるお城そのもののように複雑で、古めかしく、荘厳な気がする。

 やがて、というよりようやく、たどり着いた先の扉に、魔法少女が待っている。どんな怖い人がいるものかと思っていたら、犬モチーフの可愛らしい魔法少女だった。

 

「あっ、あ、えっと、スワローテイル、さん? あれ、誰がスワローテイルさん? あれ? スワローさん、テイルさん、あ、足りない?」

「スワローテイルはわたしです!」

 

 3人いることは知らなかったのか、わたわたし始める犬耳魔法少女。偉い人という感じはしない。むしろ困った顔は親しみやすい。

 

「大丈夫ですか? 友達も一緒に来たんですけど」

「えっ! だ、大丈夫……たぶん。えっと、スワローテイルさん! 謁見だよ、ね。案内役のたま、です。姫様、待ってくれてるから!」

 

 そう行って先を駆け出した犬耳の魔法少女『たま』はしばらく急いだ後、ふいに立ち止まって、いきなりなせいで早足だったエリザが激突、胸で弾かれレーニャを巻き込み転んだ。慌てて謝ってくるたま。この頼りなさに怒るふたり。まあまあと割って入る。どうやら道を間違えたらしく、リカバリーのため、肉球の手で器用に端末を触り始める。

 

「はあ……三賢人様とやらの部下がこんな感じでいいのかよ?」

「あぅう……」

「まあまあ。道間違えるくらい誰にでもあることだよ!」

 

 気を取り直して、たまの案内で進んでいく。今度はそう長くはない。途中、またひとつ道を間違えたのか、壁を引っ掻き豪快に穴を開け、ぶち抜いて進む……ということもあったが、その頃になるとエリザは何も言わなかった。冷や汗はかいていた。

 

「姫様! 戻りましたっ」

 

 これまでで最も大きな扉の前で声をかけ、よくわからないパネルらしきものを操作し、ようやく開く。内部はまるで王宮、圧倒的に煌びやかで落ち着かない空間が広がっている。そしてその中央、天蓋の内側に、まさにおとぎ話のお姫様、といった姿の少女が、膝の上で軽く手を組み、目を閉じ待っていた。たまに促されてスワローテイルたちが足を踏み入れると、瞳が開く。コスチュームに飾られた薔薇のように、深い赤の瞳だった。

 

「え、えっと」

 

 一目見られただけで、全てを見透かされたような感覚。足がすくんでしまう。そんなスワローテイルに向かって、真っ先にレーニャが跪き、こちらにも続くように身振りで伝えようとしていた。つられて同じ姿勢になろうとして、声が響く。

 

「跪いたりしなくてもいい。普通にして」

「っ、はっ、はい」

「……しかし現身様の前で」

「命令しなきゃ駄目……かな。『立って』」

「っ……!?」

 

 レーニャは何かに強制されて、立たされた。エリザもスワローテイルも感じ取る。今のはこの、お姫様による絶対の命令だ。格が違いすぎることを思い知らされながら、彼女がふいに、ふっと頬を綻ばせたのを見た。

 

「そう。そのまま、話を聞かせて。お手紙をくれた……裏城南の子。スワローテイル」

「……あの。お姫様には……わかって、ほしくて」

 

 スワローテイルが出した手紙は『裏城南を残して欲しい』というお願いの手紙だった。スワローテイルは覚えている。シルクウィングやオトマドベル──あの街で命を落とした魔法少女たちが、それが表に出せぬ掃き溜めであると自嘲しながらも、街そのものを愛していたということを。

 

「私もね。昔はN市に住んでたんだ」

「えっ? お姫様も?」

「だから、悪い人たちばかりなら、なくしちゃった方が良いって」

「……でも。わたしや、エリザや、レーニャちゃんみたいに……綺麗な場所だけじゃ、生きていけない人も、います」

 

 お姫様の目を見つめ返す。

 

「……すごいなあ。さすが、トップスピードの娘さん」

「えっ! お母さんのこと、知ってるの?」

 

 お姫様は微笑んだ。そこでふいに、エリザが声を出した。

 

「……あ。アンタ……まさか、魔法少女狩りの……」

「ちょっと! 現身様に向かってアンタって! 失礼でしょ!?」

「あ、いや、なんだ、すいません」

「いいの。そう。私は『アークプリンセス・スノーホワイト』。元、魔法少女狩り。貴女のお母さんと……貴女のお母さんも、知っては、いるかな」

「……!? ねえちょっと、どういうこと、何者なの、貴女たちの母親って」

 

 レーニャの方が驚いて、今度はこちらに向いてきた。話していなかったんだったか。わざわざ言うことでもなかっただけだが。

 

「わたしもエリザも、お母さんが魔法少女だったの」

「……な、るほど……それで……アークプリンセス様のお知り合いだった、と」

「それを喋ると……嫌な話になっちまうけど」

 

 スワローテイルも調べて、聞いてはいた。お母さんは『森の音楽家クラムベリー』という人の起こした事件によって、命を落としてしまった、と。エリザのお母さんも同じだ。そして、スノーホワイトも。

 

「本題に戻るね。裏城南は……オスク派で管理をします。魔法少女の行商も許可制で可能にしようと考えています。監視は必要だけど、潜られる方が困りますから」

「……いいの!? ありがとう、スノーホワイト様!」

「いえ……代わりに。スワローテイル。ダーティ・エリザ。レーニャ・エレジィ。3名に、裏城南地区の担当をお願いしたいと思っています」

「もちろん! 裏城南も、表のN市も、街はわたしが守るから!」

 

 スワローテイルは胸を張った。裏城南には、辛い気持ちも、苦しい記憶も、悲しい出来事も、たくさんあった。それでも楽しい思い出だってあった。何かを愛する気持ちには溢れていた。だから、いくら最初が悪意だったからって、ただ排斥するのは違うと思っていた。

 

「そうだ。ちょっと待っててね。お茶菓子を用意してくるから。たまちゃん、お願い」

「あっ、うんっ!」

 

 スノーホワイトが指した先に、ソファがある。そこでもう少しゆっくり話そうということらしい。たまに案内されるがまま、三人並んで座る。その時ふいに、エリザが「アンタ、本当すげぇよ」とこぼした。レーニャは「肝が据わりすぎている」と評する。

 

「えへへ、それほどでも」

「……褒めてるように聞こえたか? 今の」

 

 聴こえたからそう反応したのだが。

 

「えっと、ね」

 

 たまは何も喋らないと気まずいと思ったのか、気を遣って話してくれた。

 

「その、私がね、クラムベリーをその、やっつけた……んだけどね?」

「……はい? おい、ってことは『音楽家殺し』だよな!? 反逆者のIT部門長を処して、革命軍の蜂起を鎮圧したというあの」

「あっ、えと、みんなに助けて貰って……なら、やったと言えなくもない、なぁ」

「ま、マジかよ……」

 

 エリザは驚きっぱなしだ。その『音楽家殺し』──そう呼ぶのは、物騒だからやめてほしいと言われた──であるところのたまは、絞り出しながら話してくれる。

 

「私たちと同じ試験を受けた魔法少女が、もうひとりいて。その子が……トップスピードさんと、すごく仲が良かったんだけどね。今日は、忙しくて、離れてるんだ」

「そうなんですね。じゃあまた今度会えたらお話聞きたいです!」

「は、話しておくね……! わ、私は、その、あんまり仲は良くなくて、友達が送ってもらったとか、そういう話くらいしかないんだけど」

「えっ! 聞かせてください!」

 

 母の話はいくらだって聞きたい。どんなに細かいことだって構わなかった。母が生きていた、魔法少女だった証は、いくらでも集めたい。そうしてたまから話を聞いたりして、思っていたら以上に、ゆっくりとした時間が流れていた。

 

「あ、そうだ。スノーホワイト様は、今度の儀式には来られるんですか?」

「儀式? 私はなにも……」

 

 ふいに思いついたことを話してみたが──違っていた。魔法の国の偉い人だと言うのなら、関わっていると思ったのだが。

 スワローテイルは手紙を出すよりも前に、『人事部門長』さんから声をかけられて、今度の『魔法の国の儀式』に参加する予定だ。

 

「……儀式? おい、アタシらも知らねえぞ、それ」

「なんのこと? 怪しい儀式?」

「いや、人事部門長さんから聞いた、格式高いやつだって……」

 

 あまり詳細は漏らさぬように、と言われているんだった。うっかりだった、けれど、内容はぼかしておく。確か、何かの装置を新しくする……みたいな、そんな感じだったはず。

 

「……あ、スノーホワイト……様」

 

 ふいに食器類と茶菓子類が置かれ、見上げると、彼女が今まで初めて見るほどに怖い顔をしているのが見えた。そしてそのまま、ごめんね、また少し外すから、とだけ告げて、行ってしまった。

 何があったのだろうか。エリザもレーニャも、たまもスワローテイルも困ったまま。ただ、お茶菓子は美味しそうだったため、とにかく食べてみることにする。魔法の国のお茶菓子は、食べたことのない味がした。

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