◇キューティーショコラ
何者かの手によって閉鎖空間に閉じ込められ、少女たちがすることは何か。キューティーヒーラーの主人公であるショコラならばこう答える。こんな時こそ『仲良くする』ことだ。まずは相手のことを知らなければ始まらない。他部門の、役職持ちでない魔法少女と、こうしてそれなりに少ない人数で接することができる、そんな機会はそう多くないのだ。わざわざメモを送るために共有機能ではなく連絡先を交換したのはそういうことだった。
手分けしての捜索はもう始まっている。ある程度は部門で固まって行動しているが、混ざることもある。その例のひとつが、この広報&研究チームだ。元より同じプク派系としてそれなりに仲良くさせてもらっていたが、ここにいる彼女とは一緒に仕事をしたことはない。これを機に話しかけておく。
「ジェリーマリーちゃんっ!」
「ひゃわぁっ!?」
「あはは、ごめんね驚かせちゃって!」
「す、すみませんっ、わたしに何か……?」
「うん。マリーちゃんと話したくて。マリーちゃんって、確か海洋研究所の所長さんでしょ? ほら、いわく付きのM市の」
「い、いわく付き……かもしれませんけど」
ジェリーマリーは魔法の生き物の研究施設の、形式上責任者になっている魔法少女だ。水中でも地上と同様に行動できる魔法に目をつけられたのだろう。それ自体は派手なものじゃなく、水場がまるで見当たらないこのエリアでは可哀想なものだが、水中生物のお世話をするのならぴったりかもしれない。
しかしその海洋研究所もそう大きいものではなく、研究部門が抱える膨大なプロジェクトのうちのひとつに過ぎないだろう。そんな研究所の、一応後から任命された所長が、全部門が集まる大儀式に同行する、とは。
「儀式に連れてこられた時、びっくりしたでしょ」
「それは……はい」
「だよねー。フォーマルさんの指名?」
「いえ、部門長の……」
「ジューべさんかあ。あの人、冷血ぶってるから。ちょっと怖くない?」
「えと……それは……」
今回、研究部門の部門長クラスは、魔法少女でありながらあの儀式に出てきていない。ジューべもパペタもだ。こうなることを予見して、身代わりを選んだ……と、見ることもできる。
「こんなにかわいいマリーちゃんをいじめるなんてもう、まったく……許せないよね?」
さりげなく手を握る。研究部門での立場も強くないであろう彼女の泣きそうな顔の、震える頬に、そっと手を這わす。目と目を合わせ、ショコラしか見えないようにする。
「こわぁい研究部門の人達より、ショコラちゃんと仲良くしよう! ね、きっとその方が」
「そこまでにしといて? うちらのジェリーマリーだけんね」
間に入ってきたのは撃墜王エリ。冗談めかしてはいるが、ショコラへの警戒が見える。その上で、ショコラはエリにも声をかけたかった。ジェリーマリーから手を離し、今度はエリの方に伸ばす。しかし明らかに警戒されており、距離は詰めさせてくれない。それ以上踏み込めば撃つと言わんばかりに、機銃が鈍く光っている。
「あはは、ごっめーん、つい。でも、エリちゃんも勧誘したいとは思ってるよ?」
「え、ウチも?」
「もちろん! 広報なら嫌な仕事もしなくていいと思うし……エリちゃんならきっと良い主役になれると思うよ。メディアに出るだけが広報部門じゃないし、それに今のエリちゃんは……」
「……遠慮しとく」
「あ、フラれちゃった!」
撃墜王エリが有望株なのは本当だ。彼女は腕が立つ。フレーズのように、誰を踏み躙ってでも生き残ってきた魔法少女だ。ショコラティエ〜ル放映前に起きたとある事件でも、彼女は死の渦巻く中で戦い抜いたと聞いている。大きな試練に立ち向かう器は、ショコラの眼鏡に適う。とはいえその彼女は、潰れた片目を覆う眼帯としているネクタイらしき布に触れて、噛み締めるように、呟いた。
「ウチはもうそっちには行けん……」
その試練の中であったことを、かなり引きずっているらしい。肩でも揉んで癒してあげたいが、そういう状況でもないだろう。今回は素直に引き下がった。ちょっと息を吐く。さて、気を取り直してジェリーマリーをもっと口説こうか考えて、視線を感じ取る。
「何あの人……距離感おかしい」
「ショコラさんはああいう人だからねえ」
その様を見ていた魔法少女がふたり、ショコラの話をしていたのを聞き逃さなかった。気配を断ち、一瞬の隙を突いてふたりの後ろに回り、そっと肩を叩いた。驚き身構える少女たち、だがショコラのにこにこ顔を見ると構えもやめた。反応速度は悪くない。が、ショコラを察知できないのはまだまだか。
「なんだショコラさん、脅かさないでほしいねえ」
「レイヴンちゃんなら気づくかな? って」
「無理があるねえ……」
「やっぱり距離感がおかしい……」
「初めまして、プシュケ・プレインスちゃんだよね? 知ってるよー、一般受験枠を勝ち抜いて、魔法少女学級二期生として入学。後に研究部門からのスカウトで部門所属に……って」
「なんで詳しいの……」
「学級の生徒ならチェックしない手はないでしょ。エンジェルフェザーはそうやって生まれたんだからね」
「ホークちゃんたちのスカウトもショコラさんだったねえ……」
何を隠そう、広報所属の彼女……キューティーレイヴンが出るアニメを作る際、他メンバーをスカウトしたのも魔法少女学級からだった。もちろんその際に性格や経歴、趣味嗜好、魔法も身体能力からスリーサイズまでくまなく調査済みである。プシュケは明らかな水着の衣装でありキューティーヒーラーとは違う、が、露出度を抑えて黒でシックに決めたレイヴンとは並んだ時に映える。かわいい友達がいていいね、と勝手に認めていた。
「そうだなー、プシュケちゃんの勧誘はー、レイヴンちゃんに任せた!」
「裏切り者……」
「いやいや、見られても勧誘しないから安心して欲しいねえ」
「……しないんだ」
「あれぇ? これはした方がいいやつだった?」
「別に花形がうらやましいとか思ってないし芸能魔法少女界の闇とか知りたくないし忙しそうだし」
「忙しいのは否定しないけどねえ」
ショコラ的には、ふたりの間に入るのはよろしくない。学級の中に芽生える特別な絆というのは、羨ましくもあるくらいだ。願わくばその先も仲良くしていてほしい。ショコラティエ〜ルでもキューティープラリーヌが学級出身だが、彼女もまだ元クラスメイトと連絡をとっていて、そういうのはすごくいいなと思うのであった。
「ねー、フォーマルさん?」
「……? なんの事かは測りかねますが。私は引き抜いてくださらないのですか?」
「え? あっ、えー、いやぁ、外部協力者以外にも欲しいの? 欲張りなメイドさんだなあ」
彼女はとにかく肩書きが好きだという認識はあったのだが。状況的に神経質になっていると思っていたがゆえに、可愛げのある顔をされるとは思わなかった。それでいて岩壁を調べる手は一切止めない。
「さすがだね、フォーマルさんは。あ、そこ、ちょっと怪しい?」
「奇遇ですね、同じ感想です。ですがこちらの箇所が終わっていません。このまま進めばできるかと」
「そこはそういう感じなんだ」
さすがに彼女の邪魔をするのは悪いか。笑って手を振り、調査中……というより雑談中の研究部門とは離れる。そして合流したのは、同じ広報の魔法少女。ショコラよりもベテランのテレプシコーラだ。
「……さて。編集長はどう思う? この状況」
「なかなか刺激的だ。シナリオはいくらでも思いつく。元IT部門長の反逆、という線は強いが、面白くはないな。彼女は利用されているだけか、あるいはより強大な存在の方が面白い」
「面白いかどうかで決めちゃうよね、編集長は」
「真実かよりも大事なことだ」
テレプシコーラの記事は捏造ギリギリなことがある。広報部門の昔からのやり口だ。衆目を惹くことが最優先。ショコラの方針とは異なる……が、それが有効なこともある。こういう時だって、これは魔法少女同士のことなのだから、真実が理詰めの外にあることだって、少なくないはず。
「面白そうなところは保存しておいてね。後でこっそり見せて!」
「もちろんだとも。副部門長には良くしてもらっている」
「ジェリーマリーちゃんの着替えとか!」
「魔法少女が着替えるか……?」
「あれ絶対脱いだら凄いからね!」
「そ、そうか……」
映像を投影するテレプシコーラは、もしも何かが起きてしまった時には、有用に違いない。儀式の記事を書いてもらうつもりではあったのだが、人選に間違いはなかったと、ショコラはひっそり思っている。