魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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砂姫様と非日常

『モンスターが出現しました』

 

 足を止めたのはそのウィンドウのせいだった。前方を確認する。サンドリウムの目の前に、下卑た面で涎を垂らす、なるほど醜悪な小鬼どもがいる。アンブレンが気持ち悪いと評するわけだ。異様な生物だが、考えてみればホムンクルスと大差ない。ちょっと気持ち悪いだけだ。

 彼らはサンドリウムが構えるや否や、棍棒を振り回して暴れ出した。こちらに向かって突撃してくる。襲ってくるなら対処するしかないだろう。対話が不可能ならば、できるのは駆除だけだ。

 己の魔法で砂を出す。一箇所に集めて硬化させ、振りかぶって放つ。砂による斬撃が戦闘の一匹を切り裂き、そのまま二匹目にも突き刺さる。さらに飛び込んだサンドリウムがヒールの先端に纏わせて蹴撃、つま先で三匹目、踵で四匹目を同時に切り裂いて、返り血は砂の壁で防ぎつつ、その壁を押し付けて飛びかかってきた個体を絡め取り、飲み込んだ。サンドリウムの砂は自由自在。圧力を高めるのも造作のないことだ。哀れにも捻り潰された小鬼は、断末魔を上げることもなく、砂の中に消えた。

 

「……はあ」

 

 息を吐く。普段監査が相手にしている連中に比べれば、塵芥もいいところだ。この程度であれば、鍛え抜かれた部門所属魔法少女が遅れをとることはないだろう。武器にしている棍棒も粗末なもので、試しに拾ってみるが、サンドリウムでもヒールで踏みつけてやれば砕ける程度だった。

 それから、端末を起動しマジカルキャンディとやらの数値が増えていることを確認しつつ、先を急ぐ。確か言われていた場所はこっちの方だったか。

 

 岩肌にぽっかりと口を開けた岩窟があるのを見つけ、サンドリウムもそちらに向かう。内部はダンジョンめいた構造になっているが……まずは砂を伸ばし、なんとなくの道を確認する。行き止まりの脇道が複数ある程度で、そう入り組んでもいないらしい。奥の方の空間から話し声がして、寄り道せずにさっさと進む。すると、そこに見慣れた魔法少女の姿がある。頭の触角に背中の重そうなリュック。カムナだ。その隣にいるのは、写真にも映っていた宿舎の魔法少女だ。見るからに道化師のメイクをした彼女は、カムナと肩を組んでいる。

 

「ナイスだヨー、カムナチャン。次はあれ運んでヨー」

「えっ! さすがに重そうですよ!」

「なんだヨ、友達の言うこと聞いてくれないノ?」

「あっえっいえ! がんばります! よい、しょ!」

 

 どうやらとにかく岩を運ばされているらしい。先に進むために邪魔な岩盤を、コスチュームのハサミ型両手袋を装着、そして魔法を使うことによって運搬している。彼女の『背負う』魔法なら、重さを無視して持つことができる……が、それで潰されないのは足腰が強いだけである。

 確かにカムナは元々雑用係を買って出ていたが……見かねて声をかけようとする、と、また別の方向からカムナが話しかけられていた。

 

「こちらもお願いします。この辺がごちゃごちゃのじゃまじゃまでして」

「はい! やります! お願いされます!」

 

 床に転がる木箱やガラクタの類も片付けさせられていた。依頼をした蜂蜜らしき甘い香りの魔法少女は、そのガラクタの中からアイテムや宝箱を物色している。これも探索、と言えば聞こえはいいのだが。

 

「あ、そっちに置いた端末取って欲しいヨ」

「はい!」

「ついでにその金のやつ拾ってくれませんか」

「はい!」

「ありがト。あとこの石あっちにやっといテ」

「はい!」

「すみませんがその足元のシャベル、こっちにお願いできますか?」

「はい!」

「ちょっと待っテ、それスコップだヨ。シャベル隣にあるじゃン」

「はい?」

「いやシャベルですよ合ってますって。ギーノさん頭よわよわですか?」

「はい……?」

「はぁー? ちょっとカムナチャン、そのスコップでアイツしばいていいヨ」

「は、はい」

「いやいや、しばかれるべきはギーノさんですよね? カムナさんもモチモチそう思いますよね?」

「はい……」

「あーおいちょっと待った。人を挟んで喧嘩するなよ」

 

 さすがに見ていられずに声をかけた。全員の視線がこちらに向く。縮こまっていたカムナの顔が明るくなる。

 

「サンドリウムさん! あっすみません巡回中なのにここにずっといたらおかしいですね私のせいなんです本当に」

「責めに来たわけあるか。普通に応援だよ。見るからに何かありそうだし。それと」

 

 宿舎の魔法少女……確か、アルレッギーノと、ミーツ・ミーツ・ミーツだったか。カムナを挟んでいたふたりに、言っておかなければならないことがある。

 

「スコップとシャベルは東西で呼び方が逆だって聞いたことがあるが」

「そうなノ?」

「ギーノさんの頭がよわよわなわけじゃなかったんですか」

「誰が脳みそまでピエロやねン」

「そうは言ってないだろ」

「例え鼻が真っ赤でも頭の中まで真っ赤になるな! とは副所チョーの言葉だヨ」

「その捏造がまっかっかですよね?」

 

 結局やいのやいの始まってしまった。またエスカレートする前に割って入っておく。

 

「とにかく。監査は監査で巡回中なんだ。探索の手伝いもいいが、無理に言われたら断るんだぞ」

「その、でもこれは私のせいで、宿舎さんを担当してるのも」

「それは課長の指示だ」

「巡回止めて手伝ってるのもその私の判断でしかないので、はい」

 

 本当だろうか。とはいえ、探索を手伝うのも悪いことではない。現に、サンドリウムが応援に来たのも、恐らくはこうなっていることを察してだが、探索の人手を増やす意味でもあったわけだ。

 

「おふたりもあまりカムナに色々言わないでくれ、こいつ鵜呑みにするから」

「失礼失礼。カムナチャンが頼りになっちゃうからついネ」

「頼りになる……! はい! 頼りになります!」

「……確かにちょろちょろですね」

 

 カムナは魔法少女の中でも力が強い。サンドリウムが腕相撲に勝てないくらいには。それだけでも役に立つだろう。見ている自分はそれでいいのかと思うが。

 

「監査と宿舎は業務上距離が近いですから。親交を深めておくべきですよ」

「私らの部署はあまり関わらないんだが……」

「あの! ギーノさん? とミーツさん? は、どのようなお仕事を?」

「聞いちゃウ?」

「気になります?」

 

 第九宿舎は新しい施設だ。サンドリウムもその業務内容はよくは知らない。いち看守のやることはそう変わりはしないはずだが。

 

「宿舎はネー、大変なんだヨ。問題児の相手しなきゃいけないシ」

「そ、そうなんですね」

「罰を与える時は心が痛むんだヨ。アレルギーの魔法で過呼吸になって涙ぐんでるのをみると……ぷ……くくっ」

「笑いこらえてないか?」

 

 大丈夫なのか、第九宿舎。不安とともにミーツの方を見ると、彼女は彼女で、嫌そうな顔をしていた。

 

「第九は忌級……つまり、表に出せないやばやばな連中しか来ない場所です。場合によっては苦痛を伴う罰も辞さないんですよ」

「それはまた……」

「元々の宿舎系の体質というか……看守側もここだけの話、鼻つまみものですよ。所長だって左遷されて来てるんですから……こそこそ話ですよ? 知ってる人も、もしかしたらいるかもしれませんが」

 

 ミーツはそう吐き捨てて、嫌そうな顔をしている。監査が捕縛した魔法少女の中にも第九に送られた者は少なくない。サンドリウムとしては、それがどうしたという話ではある、けれど。人によってはそうではないだろう。監査の人間としては、もう少し話を聞いておきたいところだが……ミーツはそれ以上は話してはくれなかった。丁度、上司が戻ってきたのだ。

 

「おー……お疲れ。進捗ありそう?」

「お疲れ様です。ええと……」

「ん、監査の。悪いなあ、迷惑かけてるだろコイツら」

 

 リビングデビットはギーノとミーツを指した。そんなことないですよとカムナが言うものの、あれでかけられてなかったらなんなのだと思う。

 

「てか喉渇くし腹減ってきたな……ゲームの中だからなんだっけ。街に戻る……のはめんどいな」

「でしたら私が行きましょうか。どうせ巡回中です」

「いや、いいよ。使うから」

 

 リビングデビットは胸元のポケットから、何かのロゴマークの描かれたカードを取り出すと、軽く振ってみせた。すると軽快な効果音と共に、目の前にいきなり段ボールが現れる。側面には、カードと同じロゴマークだ。これがリビングデビットの魔法か。彼女は段ボールを、半ば破壊しながら開封し、中から取り出したものを部下たちに配り、そのままカムナとサンドリウムにも渡した。お茶とおにぎりだ。

 

「奢りだ」

「……ご馳走様です」

 

 魔法まで使ってもらって遠慮するわけにもいくまい。貰ったおにぎりに手をつける。よく見る、大手コンビニチェーンのものと全く同じデザインだ。開けて、食べてみて、全く同じ味がする。つまり魔法によって、コンビニのおにぎりを購入したのだろう。このゲームの中でも市販品が出せるとなると、かなり有利に働く場面があるに違いない。

 

「さすが副所チョー。わかってるネ」

「うまうまです」

「お前らの好みくらい覚えてるよ。お二人さんは?」

「安心する味です」

「ごちそうさまでした!」

 

 カムナはもう食べ終わっている。魔法少女では本来食事は不要なはずが、このゲームの中では必要だ。それを分け与えられるのは、思っている以上にありがたいことのはずだ。

 

「……よし。それじゃあ私は洞窟の外の方を見てるよ。広報の連中が来るとか来ないとかって連絡があったしな」

 

 一足先にリビングデビットがその場を後にした。彼女は彼女で大変そうだ。周りがうるさいのはサンドリウムと一緒だが……彼女の場合はさらに管理職。ゾッとしないでもない。

 

「食べ終わったら、手分けして調査しませんか? 部屋はたくさんあるみたいですし……」

「巡回は休憩か?」

「手がかりがありそうじゃないですか?」

「まあ。じゃあ、課長に伝えておくよ」

「あっ! お願いします!」

「そうだネー、じゃあカムナチャンとギーノ、ミーツとサンドリウムサンでどう?」

 

 カムナからの提案で、二手に分かれることになった。とはいえ、さっきのカムナの調子だと、サンドリウムと離れるのは不安というか。

 

「わかりました!」

「……大丈夫なのかよ?」

「はい! 大丈夫だと思います! がんばります!」

 

 この気合いが空回りしないといいのだが。ため息混じりに、見送ることになる。

 

「じゃ、やりますか」

 

 サンドリウムはミーツと一緒に、今の石室を出て別の行き止まりに移動した。カムナたちが行ったのとは逆、奥の方だ。色々と転がっている場所もあれば、特に見所がないところもある。次に見つけたのは宝箱だった。解錠しなければ開いてくれないらしい。

 

「鍵なんてばきばきに壊して何とかできませんかね?」

「できたらいいんだが……悪い、少し集中する」

「はい。他のところ、見てますね」

 

 ミーツはミーツで別の箇所を調べてもらうことにして、砂を鍵穴に詰め込み、内部に集中することにした。鍵というのは、単純なこともあるが、複雑なこともある。そしてこれはゲーム内がゆえか、簡単に解錠できそうにない。構造を解析し、うまくいくパターンを見なければならない。総当りだ。中に詰めた砂を少しずつ動かして、ピッキングを続けていく。目を閉じて砂に感覚を集め、確実に、ひとつずつ可能性を潰していく。

 

 ──かなり集中していたかもしれない。自分の感覚では大したことはなくても、恐らくは数時間が経って、ようやく、手応えがあった。その時が訪れたのは、いきなりのことだった。

 

 がちゃり。

 

「……っよし来た!!」

「お! 開きましたねえ!」

「うわっ!?」

 

 いつの間にか、後ろに誰かがいる。ミーツのものではない声がして驚き振り返った。彼女は確か……テレプシコーラ。広報部門の、報道系の部署にいる魔法少女のはずだ。広報、あぁ、そういえばリビングデビットが、広報が来るかもとこぼしていたか。

 

「いやあお疲れ様です。はてさて、気になる中身は?」

「あぁ……」

 

 宝箱を開ける。中には……何かが入っているわけではない。代わりに、『キャンディと武器を手に入れた』と空間にメッセージが表示され、見ると端末内でのマジカルキャンディが増加していた。ついでに、端末の中にアイテムが追加されている。名前はそのまま『武器』。試しに、端末内にデータ化され収納されていたのを出してみる。

 と、手元に出てきたのは、簡素なナイフだった。この表記と見た目、覚えがあるのは……そうだ。街の中で売っていた、マジカルキャンディで購入する武器だろう。別にサンドリウムは武器に困ってはいなかった。

 

「……頑張った結果がこんなもんか」

「おやおや。この様子だと、そもそも鍵も近くにあったかもですな」

「それ落ち込むな……」

 

 苦笑いで答えつつ、この場所の探索は切り上げようと立ち上がった。そうだ、別の場所に行くと言っていたミーツの姿がない。そろそろ移動もするわけだし、他のメンバーの様子も見た方がいいだろうか。

 

「すみませんがテレプシコーラさん、うちのカムナ見ませんでしたか?」

「でしたらあちらの方で。何やら運んでおられるようですよ」

 

 運んでいる? まさかまたギーノに雑用を押し付けられているのか。通路に戻ってみる。と、確かにせっせと岩を背負って運び出しているカムナの姿があった。

 

「おやおやカムナさん、先程のはよろしかったので?」

「よ、よろしくはないですけど……あっ、サンドリウムさん」

「なんだ? これ」

「この道だけ、不思議と邪魔なものが多くって。何かあるんでしょうか?」

 

 だとするとやたらとゲーム的だ。宝箱がああだったことを考えると、一気に退かすギミックを起動させることを本来は想定した作りだとか、そういう可能性は有り得る。

 

「手伝うか?」

「いえ、大丈夫です! 頼りになる子なので!」

「そうか」

 

 張り切っているならそれでもいいか。そうだ、あとはミーツの姿がない。入口の方に戻ればいるのだろうか。テレプシコーラに聞き、肯定され、浅い方に戻ってくる。ミーツの姿も、他の広報部門の面々の姿もあって、戻ってきたサンドリウムの顔を見たキューティーショコラが駆け寄ってくる。よりにもよって、だ。

 

「あ! お疲れ様ー、会いたかったよサンドリウムちゃん!」

「……なんですか」

「冷たいなあ。ショコラちゃんとは実家で会ってるでしょ!」

「……自分は、縁切られたようなものなんで」

「どういうことです? 広報副部門長さんですよね? つよつよのえらえらなのでは?」

「……いや。別に。カッコ悪いし話したくないですよ」

 

 首を傾げたミーツがさらに話しかけてくるが、サンドリウムは身の上話は嫌いだ。ショコラと顔見知りな理由も、単純だが、自分の口から言いたくはないことだ。サンドリウム自身から言い出せば、自分が吐きそうなくらい嫌悪感が溢れ出すだろうから。

 

「じゃあ話題変えよう! 探索は順調そう?」

「えぇ、まあ、さっきもカムナが何か──」

 

 見つけたみたいでしたよ、と続けるはずのところで、洞窟の奥から悲鳴が聞こえた。明らかに何かが起きた時の声だ。サンドリウムは全速力で来た道を戻る。そうして一番に到着して、カムナの開いた道の先を見ると。

 

「あ、あ、サンドリウムさんっ、あの、ど、どうしましょう、あの」

 

 ──倒れたまま動かない、道化師の姿。

 アルレッギーノが血溜まりの中にうつ伏せになっていた。

 傍らにはナイフが落ちている。薄暗い中でも刃は明らかに目立っていて、確かに彼女の遺体にも目立つ傷がつけられている。

 

「あっ、あの、あ、わ、私っ」

「……落ち着け。ホトケさんくらい見るだろ」

「でも、でも、でも」

「だから落ち着けって……!」

 

 そうして宥めようとして、気がついてしまった。カムナの背中にも血痕が、べったりと付着していることに。犯人に襲われ怪我をしている、というわけではない。傷はなさそうだ。だが……ではないとしたら、それは何なのかという話になってしまうではないか。

 そうこうしているうちに、他の魔法少女たちも現場に次々と駆けつけてくる。そしてその最中、誰かが言った。

 

「あーあ。起きちゃった、殺人事件」

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