魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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殺人事件

 ──殺人が起きた。事実の指摘でしかないだろうその言葉で、サンドリウムは頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えた。目の前の遺体からは、どくどくと血の海が広がり続けている。治療は……間に合わない、だろう。もう死んでいるのは見てわかる。

 

「ひぃっ……!?」

 

 ミーツから悲鳴が漏れる。魔法少女たちも騒然としている。わざわざ裁判だなんて牽制がされていたにも関わらず、本当に殺人事件が起きてしまった。しかも第一発見者がカムナで、その背中には血痕がべったり。こんなもの疑われるに決まってる。

 

「あ、あの、あの」

「……わかってる。カムナは見つけただけ、だろ」

「わ、私が……私が全部悪いんです……」

「……は?」

「私がギーノさんと離れたから……私がひとりでやるって言ったから……と、というか、私が来たせい、ですよね、だって私が来なかったら」

「っ、やめろ! お前がやったんじゃないだろ!?」

「私のせいなんです……」

 

 いつもの悪癖が、こうも悪い方向に出るか。振り向いたその時、見下ろしていたのは外交部門の魔法少女たち。

 

「……容疑者は決まり?」

「待て、まだカムナだって決まったわけじゃない」

「自分で言ってるのに」

「すみません……念の為、ですが、カムナさんのお話を聞いてもよろしいでしょうか」

 

 見下ろすアンブレンは完全にカムナが犯人だと見ている。ティーパティーナも、立場は中立でいようと努めているが、カムナへの疑いは隠しきれていない。ここで拒否するのも彼女のためにはならない。サンドリウムは、離れていくカムナのことを見送る。その背中にはやはり鮮血が着いている。何かを背負った時にできるような痕だった。

 

「すまない。アンブレンがあのような態度を」

「……いや。プロウド局長に謝られるようなことじゃないです」

「彼女も動転しているだろう。証言だけで全ては決まらない……君は監査だ。捜査員なのだろう」

「……」

 

 プロウドはそう言うと、サンドリウムの傍から離れた。そうだ。サンドリウムは捜査員である。事件が目の前で起きたなら、やることはひとつ。真実を追求すること。即ち捜査を行うことだ。今まで通りにすればいい。まずは自分が落ち着くところから始める。

 

「失礼いたします。これより検視を行います……ジェリーマリー、器具を」

「は、はいっ」

「……同席させてもらっても?」

「捜査ですね、構いません。情報は役立てていただきたい」

 

 研究部門からはフォーマルメイドがジェリーマリーを連れて現れ、遺体の状態を確認し始めた。その間、サンドリウムはまず現場の状態を見る。

 

 この部屋はまず、他の部屋と同様に、ガラクタの類が落ちている。手をつけた形跡はほとんどない。不安定な木箱は重なったままで、開いていない宝箱が存在する。被害者のアルレッギーノが倒れている下にあるアイテムは、そのまま血に塗れていた。

 その中で明らかに目立つのは血のついたナイフだ。店売りのアイテムと同じ形状で、先程宝箱からサンドリウムが発見したものとも同じである。

 血痕は被害者の周囲、流れ出た結果出来た血の海……だけだ。通路の方にはほとんどない。ほとんどというのは、例外がひとつある。岩だ。

 カムナが運び出した、入口を塞ぐ岩のうちいくつかに、べったりと血がついている。だからこれを運んだカムナの背中に血が付着したのだろう。……無造作に並んだ岩のうち数個だけに付着する、ということは有り得るのだろうか? 

 

「あ、あの」

「……あぁ、結果、わかりそうだったか」

「はい。えっと……死因は……見ての通り、出血性ショックと思われます」

「見ての通りですね」

「周辺の血があまり変色していなくて、そこから見るとあまり時間は経っていないようです。一時間ほど……でしょうか? 外傷は……首に、大きく、こちらです」

 

 ギーノの首を、近くで見せてもらった。深々と抉られた喉。鋭利な刃物によってつけられた傷だろう。同じ洞窟内、しかも洞窟ということは声も響くだろうに、何も聞こえなかったのは、一撃で喉をやられていたということか。悲鳴をあげることも許されなかったのだろう。

 

「他に目立つ外傷はありませんし、この喉の傷が致命傷かと」

「……ありがとう」

 

 心の中でギーノに詫びつつ、写真を撮らせてもらった。遺体の状態は大事だ。何かしら記録に残しておかなくてはならない。そうしてその写真を、改めて見る。

 傷の大きさからしても、あのナイフによる刺突があったのは間違いなさそうだ。となると、ナイフを買い、持ち出せる人物は……全員、になるか。仮にキャンディが初期値しかなくモンスターと戦っていなかったとしても、店売りのナイフは宝箱からも出てくるのだ。

 

「あ、でも、すみません」

「?」

「ご遺体の……床側に、擦り傷がありました。恐らく、倒れた際にできた傷……ですかね?」

 

 遺体の下には大量のアイテムが落ちていた。そのいずれかに擦れてできた傷だろう。体温のない体を持ち上げ、ジェリーマリーが拭いてみせたそこには、皮膚が裂けた痕が白っぽくなり残っていた。どのアイテムが原因だったかは、それらが軒並み血まみれなことでわからないが……ここも、端末で写真を撮っておく。

 

「一応、全員にアリバイを聞いておきたいんですが。研究部門のみなさんはどちらに?」

「我々は街の付近の調査を続けていました。目立つ収穫はありませんでしたが、研究部門の外だと、レイヴンさんが一緒にいましたね」

「そうでしたか。レイヴンさんは……」

「あぁ、プシュケちゃんと一緒だったねえ。メイドさんもジェリーさんもずっと壁に向かってたよお」

「……研究部門なわけがない。そんなやり方ができるやつはいない……」

「その再確認でした。ありがとうございます。あ、広報さんとは途中まで一緒でしたよね。ショコラさんとテレプシコーラさんが移動したのは?」

「二時間くらい前、だねえ」

 

 サンドリウムが宝箱と格闘していた時間とだいたい一致している。それもそうだ。リビングデビットが広報部門を出迎えると言い、皆と別れたのがそのあたりだろう。

 

「外交の皆さんは、別の場所でしたね」

「狩り場を移動はしたけど、逆方向に移動してた。今から行けば、プロウドが戦った痕が残ってると思う。それに」

「となると……やっぱり洞窟側にいた人物か」

 

 外交と研究を外したなら、監査か宿舎か広報か、になってくるだろう。

 

「ショコラ副部門長とテレプシコーラさんはどうでした?」

「一時間前? ってことでいいのかな? その時間なら、リビデビさんミーツさんといたよ」

「あぁ……」

「あんまり思い出したくはないですけど……」

「私は特ダネを探し回っておりましたね。その間に、集中しているサンドリウムさんも見てますよ。この通り」

 

 リビングデビット、ミーツ・ミーツ・ミーツは互いを目を合わせ、首を振っていた。ショコラが何をしていたのかはさておき……その時は一緒にいたのだろう。

 テレプシコーラにはその時間のアリバイはない、が、空間に魔法によって投影された映像には、サンドリウムが宝箱と格闘している光景が流れている。

 

「ああ、そうそう。もう少し、さらに一時間と少し遡りますと……実はこんなものが」

 

 テレプシコーラはここでぱちんと指を鳴らした。ぷつんと映像が切り替わる。立ち並ぶ岩の数々、洞窟内の映像であることには変わりないが、その奥の方で声がしていた。ふたり……ギーノとカムナが何か話しているらしい。

 

『こんなこともできないノ? もっと頑張ってヨ!!』

『そ、そんなこと言われてもっ』

『だーかーらー、努力が足りてないんじゃないノ? 実はアレルギーに興味があるノ?』

『ひえぇっ! すみません! 私のせいですよね!』

『もういいノ、別行動にしヨ。その方がいいかラ』

 

 ギーノが背を向け、小部屋に入っていったところで映像が途切れた。終始不満な顔のギーノに、終始謝り倒しているカムナ。まあ、カムナの相手をしていたら、怒りたくなる気持ちもわかる。ふたりで行動する組み合わせが悪かったかもしれない。

 

「それ以降でカムナを見た方は……」

「私は外に出ましたので、その後は何も」

「ショコラちゃんも見てないなあ。こっちに来てから洞窟に入ってないからね。ふたりを堪能してたのも洞窟の外だよ。中だと声が響いちゃうからねー」

「……いや本当に最悪だな……」

「うぅ……」

 

 リビングデビットとミーツが揃って胸元を押さえたのは見なかったことにする、として。

 

「あれ。そのサンドリウム様は何をしてたの?」

「……? 私はずっと洞窟内で宝箱を……」

「一人で? そう。ふーん」

 

 アンブレンからふいに逆に問われ──なるほど、自分も孤立していることを思い出した。自分がやったわけがない以上、それは捨て置くことになるが。

 

「一応、課長はどこに?」

「私は巡回中だったからね。移動中だったよ。だが研究の……いや、広報か。レイヴンくんのカラスが、私を尾けていただろう?」

「……あ。バレちゃってたんだねえ」

「あのくらいはね。こうして証明になるだろうから放っておいたが」

 

 レイヴンがつけていた尾行の是非はともかく、これでアリバイの有無は出揃っただろうか。ここまで聞く限り、やはりカムナと会った者もいないらしい。

 

「……あとは、そうか、あっちも見ておこうか」

 

 テレプシコーラの証言映像にあった、ギーノが入っていった部屋。そこも一応調べた方がいいだろう。確か視点から考えると、もう少し奥の方だったはずだ。現場を出て、隣に移動してみる。特に代わり映えはしない。調査は行われたのか、アイテムは回収されていて、地面には見当たらない。

 

「……ん?」

 

 サンドリウムはふと気になり、地面を指で擦った。そうして取った砂を部屋の奥、壁際と見比べてみる。壁際の砂が、やや多い。そして質が異なっている。ゲーム内がゆえにどこまでこれが影響しているのかわからないが……部屋の形が不自然だ。一部の壁が明らかに凹んでいる。そんな壁ながは触れてみても何も起こらず、ゲームのギミックではなさそうだ。覚えて置いた方がいい、だろうか。

 

「本当にこれで真犯人がわかるのか……?」

 

 魔法少女による殺人だ。その魔法が絡んでくるのは道理だろうが……それが可能なのは誰だ? 

 

「……もう少し、調べるか? だとしたら何を……」

「失礼します。そのもう少し……が終わり次第、お願いしますね。こちらは、カムナさんにお話を聞き終えましたから」

 

 ふいに声をかけてきたティーパティーナの横で、アンブレンが睨み、カムナが震えながら見つめてきていた。不安の目だ。息を整え、サンドリウムは覚悟を決める。

 

「……お茶会の用意をしておいてください。もうすぐ行きます」

「わかりました……では、噴水の広場でお待ちしていますね」

 

 真実を究明し、監査の捜査員としての役目を果たす。この先に待つのは法廷──即ち、真実と不実とを分かつ審判だ。息を整えて、サンドリウムは駆け出した。

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