街には既に多くの魔法少女たちが集まっている。サンドリウムが到着して、これで、アルレッギーノを除いた15名。全員だ。立ち位置はほぼ部門の通りで、他部門との対立は見るからに深まっているように思える。特に元より内向的な者は引っ込んでしまって、こちらとも目が合うや否や逸らされるくらいだ。
そんな中、震えているカムナが目に入り、声をかけようとした。そして目の前に差し出された傘で遮られる。アンブレンだ。彼女は冷たい目で睨みつけてくる。
「っ……外交らしいやり口だな」
「容疑者に入れ知恵されたら困る」
「アンブレン。やめないか」
レディ・プロウドが言っても、彼女はまだこちらを睨んでいた。敵意は剥き出しのままだ。そもそも確かに、外交と監査は仲が良いとは言い難いが──。
「な。こんな時に部門同士喧嘩しよる場合?」
「喧嘩じゃない。正当なリスク回避」
「カムナだって知る権利があるはずだ」
「外交にはティーパティーナがおるけん、そんなことせんでもええでしょ? 公平性を保つのが今の外交の……」
「知ったような口をきかないで」
その間に入ろうとする撃墜王エリ、彼女にアンブレンの矛先が向く。
「まあまあ。アンブレン先輩。落ち着いてください。すみません本当に」
「喧嘩ならいつでも買うから」
「こんなとこで殺し合うなんてありえん」
「まあまあまあ……あはは……」
これはサンドリウムの方がいたたまれなくなる。自分が睨まれるのは慣れていても、他人が険悪なのは慣れない。最終的にアンブレンが拗ね、プロウドに抱きつき頬を膨らませたのを最後にその場は収まった。プロウドは慰める素振りをした隙に頬を触っていたが……見なかったことにしておこうか。
「それでは、皆さんお揃いですし、お茶会を始めようと思います」
ティーパティーナはついに魔法を使った。目の前にティーテーブルが出現する。それぞれの席がネームプレートにより明示されている。己の名が記された場所に立ち、椅子を引いた。隣にカムナがやってきて、サンドリウムはその時、彼女の背中を叩いた。驚く彼女に対し、返すのはアイコンタクトだけにした。
「それでは……アルレッギーノさん殺人事件についての、お茶会を始めます。このお茶会の最後に……犯人を、投票で、決めたいと思います」
言いづらそうに、この場に課せられたルールが告げられる。ティーパティーナとて、そんなことをするために持って生まれた魔法ではないだろう、と同情したくもなる。が、今は真実を追求しなければならず、その場が必要になる。サンドリウムは己の手を強く握る。
「それでは──」
『お、やってるぽん? ちょうどよかったぽん』
「……!?」
ティーテーブルの中央に、浮かび上がるホログラム。魔法のお茶会への乱入はティーパティーナの魔法により禁じられているだろうが、これは映像でしかないからか。現れた電子妖精はふらふらと浮遊し、今までよりも元気がない様子ながら、その合成音声を響かせた。
『こっちのエリアは優秀で助かるぽん。第一エリアなんてみんな殺し合いしてくれなくて困ってたところだったぽん』
「……何しに来たん」
『褒めに来たんだぽん。ご褒美を持ってきたんだぽん』
電子妖精は耳障りな音で続けてくる。明らかに不快感を示した撃墜王エリが握りこぶしを作っていた。
『処刑のことだぽん。せっかくだから、処刑装置を、こっちで用意してあげたぽん。全身痛くて痛くて大変だけど、ファヴがんばったぽん』
「ファヴ……!? やっぱり、お前」
『がんばって犯人探してぽん? 間違ってても、容赦なく処刑はしちゃうからぽん』
電子妖精……ファヴは消えた。ファヴといえば、森の音楽家の……あれは破壊されたはず、なのだが。しかし驚く間もない。そもそもこれから裁判が行われるのだ。意識を戻す。犯人は処刑される、それを明確にされたのは、裁判の進行において心理的抵抗を産んでしまうが、もはや進む他にない。疑われているのは、サンドリウムの仲間なのだ。
「あ、あの。まずなんですけど……モンスターが出た、とかはないんでしょうか……」
小さく挙手したのはジェリーマリーだった。こんなこと、心底からしたくないのだろう。死体を調べた彼女自身が言うのもおかしなことだが、誰かに否定してほしいというなら、するしかない。
「傷口は鋭利な刃物によるものだった。このエリアのモンスター……鬼の武器は棍棒だ。あの傷はつけられない」
「で、ですよね……」
「私からも。モンスター図鑑アプリの『第二エリア』の項目は、残りのボスモンスターのみだ。ボス出現ミッションとやらは、達成されていない。他のモンスターは知能も高くない。アルレッギーノの喉を突いた可能性は限りなく低い」
プロウドが見せた自身の端末によると、モンスター図鑑は確かに埋まっている。ではやはり、この中の誰かの仕業になるのだろう。
「しかし、なぜアルレッギーノなんだ? あいつは看守だ。弱卒じゃないはずだ」
リビングデビットの疑問に、答えようとしてくるのはテレプシコーラだ。彼女は指を鳴らし、さっきまで電子妖精がいた場所に、別の、彼女自身の魔法によるホログラムを映す。サンドリウムに見せたものと同じ、カムナとギーノが共にいる場面だ。これを見れば、確かにカムナは不満を持っていてもおかしくない。ただ、まずはこれについて確認しないと。
「カムナ。あれ、本当のことなのか?」
「はい……本物の映像だと思います……同じことを言いましたし、言われました」
本物か。だとして、口論になっていたとしても、このカムナがそれで動くのだろうか。
「私のせいですよね……私が使えないから、ギーノさんは単独行動をしてしまって……」
「……カムナ?」
「は、はい?」
「つまり、お前はやってないんだな?」
「そう、なんです、けど……考えれば考えるほど……私かも、って……」
「あのな……!!」
カムナの気質は、今更どうしようもない。ただ、カムナ自身も身に覚えはないのだ。また余計なことを自分のせいだと言い出しているだけに過ぎない。これで容疑者というのは無理がある。
「動機……動機……他の動機となると、やはり単純に、ゲームを進めたかった……だとか?」
「あれだけ釘を刺されても、か? 有り得なくはないが……それこそマスターだったなら……」
「ちょっと待って〜」
ショコラが手を挙げた。いったい何かと全員の視線が集中する中、彼女は口元に指を持っていき、ゆっくりと離した。そうして指したのはリビングデビットとミーツ・ミーツ・ミーツ、暗い顔をした宿舎のふたりだ。
「第九がどういう場所だったのか、みんな、知ってるよね」
「どういうって……忌級、つまり表に出せない連中を入れておくための、極悪監獄みたいなものでしょう」
「そう。それができたのは、第八でちょっと事件が起きたからだったりするんだけど、それは置いといて。事業を買い占めたのはプク派で、もちろん働いてるのもプク派系出身だよね」
「……そうですけど、何かありました?」
「ううん、ここまではただの確認。でも、悪い噂のことも話しておこうと思って。宿舎では収容した囚人への虐待や拷問があった、っていう」
「……ッ」
「ギーノちゃんがそれをやっていたから……とか。有り得るよねって思って。ね、これ、知ってたよって人」
手を挙げて、とでも言うような言い方だが、それでは自ら容疑者に名乗りをあげるようなものだ。当然宿舎の面々はそう言われていたことは知っているだろうが……他部門の中にも、目を逸らしたり、やや態度が変わっている者がいる。その中で、0・ショックは平然と手を挙げた。
「あぁ。その話ならば聞いたことがある。事実とは思わなかったが。それがどう関係するのかな?」
「事実かどうかじゃなくて。それをやってたかもしれないって知ってたことが必要なんだよ。動機らしい動機じゃないかな? って」
「拷問人だから殺した、と」
「うん。知り合いが第九に送られてる人だって、中にはいるはずだからね」
アルレッギーノを狙ったのは、私怨は私怨でも、もっと以前からの……と、いうことなのか。しかしそれで名乗り出るわけもなく、動機から考えるのが不可能になっただけに過ぎない。
「凶器はあの店売りの武器なんでしょ。凶器も誰でも手に入るもの。動機も誰にでもあって、じゃあアリバイしかないんじゃないですか?」
ミーツの言葉の通りかもしれない、が……。
「では考え直しましょう。考慮していないことは多量にあります。順番に、確実に行くべきです」
フォーマルメイドの言葉で皆が前を向く。疑いあいながらも、真実に向かうためだ。
「監査の子がやったんでしょ。その血痕とか、あまりにも怪しい」
「こ、これは……」
カムナの背中の血痕……それは明らかに不自然だ。アルレッギーノは喉を切り裂かれて死んでいた。だとして、殺した上で背中だけに返り血を浴びるのはおかしな話だ。血のついたものを、背負いでもしない限り、そんな血の付き方はしないはずで。
「……あの岩だ」
「岩?」
「あの岩だよ。カムナが退かした、遺体発見現場の入口を塞いでいた岩」
「あれか。私も確認した。血は間違いなく、被害者と同じ匂いがしたよ」
レディ・プロウドは吸血鬼だ、血液の同定に関しては間違いないだろう。
「カムナはあれを背負って運んだ。その結果背中に血がついたんだ」
「でもなぜ岩なんかに血が……?」
「それは……まだわからないが」
血痕の場所については事実だった。カムナに擦り付けるために血を塗った、ということは考えられるけれど……それだけなのか?
「あの、写真、ありますか?」
ジェリーマリーに聞かれ、確認する。一応撮っておいたはずだ。それを見せる。撮影時刻は、ジェリーマリーたちが遺体を調べているところに同席している最中だった。同時に、ジェリーマリーが端末で遺体の写真を表示した。
「何かわかりますかね……?」
「……待て。色、おかしくないか?」
「色……あ、えと、もしかしたら酸化して黒く……」
「だとしてもだ。乾きすぎじゃないのか、これ」
サンドリウムはカムナの肩を掴み、背中を確認した。べったりと付着した血痕だが、ほとんど褐色で、液体というよりもベタベタの『痕』という方が近い。時間がかなり経っていなければこうはならないはずだ。
「血痕は薄い方が乾きやすい」
「……だからって、服に染み込まないほど乾くか?」
「何が言いたいんだ?」
「アルレッギーノが殺されたのは、一時間前じゃないかもしれない」
眉を顰め、困惑する者もいる。ただ、カムナが容疑者である前提を全部壊さなければ本当の犯人は見えてこない。ここから行くしかない。