魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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第一次お茶会裁判・弍

 レディ・プロウドにカムナの背中を見てもらう。固まり乾いたその様子を見て、指で触れ、彼女は「二時間は経っている」と呟いた。だとすると、だ。

 

「二時間前……ということは。広報部門のお二方が洞窟側に来た時間です。リビングデビット副所長もそうだ。それに、ミーツさんと私が別行動になった時間でもある」

「……つまり?」

「ショコラ副部門長。テレプシコーラさん。リビングデビット副所長。ミーツさん。以上四名の可能性が返ってきます」

「カムナとサンドリウムも単独行動だったんでしょう。そこのアリバイもない。それに他の人達にもろくに聞かずに、その中に犯人がいるって言うわけじゃないよね?」

「あくまで……容疑者の範囲を広げただけ、ですよ」

「それにこの血の時間経過も解決してない。研究の見立てでは、血の海はできてから一時間なんでしょ? どういうこと? まさか研究が嘘ついてたとか……」

「そんなんあるわけないけん、言いがかりはやめて」

 

 アンブレンの目はエリに向き、エリは言い返す。ジェリーマリーが縮こまる。それに対し、フォーマルメイドは一切動じることなく、無表情のままだ。

 

「うーん、こういう時……やっぱり暗い星の力で増幅された心の闇とかが原因じゃないのかねえ?」

「……その設定はギャラクシーでしょ、オタク」

「ここにいるのはショコラティエ〜ルとエンジェルフェザーなのにねえ」

「アルタイルならどんなに頼りになったことか」

「それは……あの人すごいからねえ、作中に負けない活躍しちゃうからねえ」

 

 レイヴンとプシュケが好き勝手話している中、これまで真顔のままで臨んでいたフォーマルメイドが、いきなり口を開いた。

 

「確認しますが。遺体と、洞窟内にいた魔法少女たちの証言からして、彼女は喉を一撃で突かれ死亡した、ですね?」

「は、はい、そう見えますけど」

「ではこの凶器のナイフですが。付着した血液は、血の海と同様、あまり酸化していない血でした。お二人共に、これはそう見えますよね」

 

 捜査に従事したジェリーマリー、血液ならば状態の解るレディ・プロウド、ともに頷いた。

 

「であれば、壁の血と時系列が矛盾しませんか?」

「刺さっていたものが抜けたんじゃないの」

「その程度であれば傷口から漏れ出しているはずです。俯せだったなら、柄まで血塗れだったでしょう。だがそうではない。凶器は、このナイフではないのでは?」

「……は? じゃあなんだって」

「わかりません。無いのでは?」

 

 フォーマルメイドの言い分はあらぬ方向に着地……した、ようでいて、あらぬ方向でもないかもしれない。これが凶器じゃない証拠は……どこかにあるはず。

 

「あのぉ……」

 

 何か言いたげなジェリーマリー。どうしたの、と声をかけたのはショコラだ。

 

「その傷口……なんですけど、なんか……」

「なんか?」

「端の方と真ん中の方で、傷の幅が違うんです。ズレてるように見えませんか?」

「何が言いたいの」

「ふぇ……」

 

 怪訝な顔をしたプシュケの言葉で縮まるジェリーマリーだったが、続けてもらわないと困る。

 

「あーちょっとちょっと、聞かせて」

「は、はい……2回、刺されてませんか? これ」

「相当な殺意があったんだろう」

「そうじゃなくって。死んでから……時間が経ってから、刺してます。恐らく、そのナイフで」

「っ、1回目の凶器は違うんだな?」

「は、はい、私の見立てで、ですけど」

「確かに……言われてみれば傷口の形が違うね」

 

 ナイフではない凶器の存在……つまり、店売りの刃物による犯行ではなくなった。真犯人は別途刃物を用意できる者に限られるのだ。

 なぜ二度傷つける必要があったのか……は、血溜まりを見れば推測がついた。その血溜まりこそが目的だったのだ。死んだ後にもう一度首を刺した理由、それは凶器を店売りのナイフに偽装するため、そして首に溜まっていた血を解放するためなのだろう。

 

「つまりだ。犯人は鋭利な刃物で被害者の首を切り裂き殺害した後……犯行時刻を偽装しようとして……一度、被害者の首の傷を塞いだ。その、両方ができる人物は……!」

 

 切断と傷の手当て、相反する両方ができる魔法の持ち主は──。

 

「……魔法使えば複数人ができそうじゃない?」

「サンドリウムちゃんもできるよね!」

 

 そうだ。これでもまた絞りきれはしない。サンドリウム自身が容疑者に残る。それでもカムナは外れてくれるのが幸いだ。彼女が容疑者の中に残ったままだと、ろくな証言にならないし、架空の自供を繰り返すのは想像できてしまうからだ。

 これで疑えるのはサンドリウムと、他は……。

 

「リビングデビット副所長では。内情をよく知り、アイテムならなんでも出せるんでしょう」

「……え? 私? は? なんで?」

 

 いきなり指名されて、自分を指さしたままわけがわからないという顔をする彼女。確かになんでもできるだろうが……。

 

「部下殺しって! んなことこでバレるリスクあるのに殺すくらいならもっと賢いやり方するよって……っあ、やば、いやあくまでやるならだから……やらないからね? やってないからね?」

「わかりました! それで、凶器はどこに捨てたんですか?」

「やってないからね!?!?」

 

 態度は、怪しいかといえばすごく怪しい。しかし、見落としているものがまだあるような。

 

「凶器が……ない、としたら」

 

 仮に凶器が一瞬しか出ないもの、だったなら。例えば流体操作。プロウドやプシュケのものがそうだ。鋭利で深い傷にも説明はつく。けれど、それなら血の中にその液体が混ざってくる。プロウドとジェリーマリー、どちらかは反応するはず。それが全部可能な魔法なんて。

 

「いや……ある。この人なら……」

 

 魔法少女たちの魔法は聞いている。ここにいるのは部門所属の職業魔法少女で、虚偽報告を起こすのは難しいはずだ。ならばそれが可能なのは、本来の用途ではない場合に限られる。

 

「ミーツ、さん?」

「──私? いや、副所長以上にありえない、ナイナイですよ、どのへんがですか」

「『透明な壁』を使い、傷をつけ、そして塞いだ」

「切断って、そんなこと……」

「……できるよ。だろ。よくやってる」

「う、ふ、副所長っ……」

 

 目を逸らすミーツ。引きずり出された時のリアクションはリビングデビットと同等か、それ以上に見える。

 

「ギーノを殺すなんて……いや、そんな、確かにクズでしたけど、殺すとか……」

「ナイナイ、なんだっけ?」

「っ……じゃあ! 副所長ならわかりますよね! 壁が自分の近くにしか出せないこと! 見てください、ギーノはあんな変なところで死んでたんですよ。カムナさんが動かさなきゃ、岩が邪魔で中に入れなかった場所でしょ!? 私じゃ近づけません、そもそも腕力が足りないですから」

「遺体の腹部や脚部に裂傷がありました」

「は? 裂傷……? 何の話で」

「いずれも遺体の下部です。にも関わらず出血がほとんどみられない傷でした。私はこれを、死後にできたものと推定します」

 

 突然入ってきたフォーマルメイドの言葉に、だったらなんで私がと反駁しかけたミーツ。その言葉を遮ったのが何か閃いたエリだった。

 

「もしかして、遺体を奥に目掛けでぶん投げたってこと?」

「じゃあ……そのナイフは?」

「刺してから、一緒に投げ入れたんだ。魔法少女の力なら、この岩は異様に重くて動かせないが、遺体ならあそこまで投げ飛ばせる」

「……っ……適当、な、こと……!」

 

 歯を食いしばる彼女の喉の奥から、恐らくはいくつもの言葉が出ようとして消えていた。何度も歯噛みをした末に、ティーテーブルを勢いよく叩き、衝撃でティーカップの紅茶の水面が揺らぐ。

 

「あっちょっと! 暴力は禁止ですよ!?」

「このっ……だったら! どこで殺したんだよ!? 血痕なんてどこにもない! 魔法の壁についた血だって消せるわけないんだからっ、地面についてるはずでしょう!? 」

「そ、それ以上叩いたりしないようにお願いします、お茶が溢れます」

 

 ティーパティーナが静止しても、取り乱したミーツからこちらに怒号が飛んでくる。こちらは落ち着くべきだ。突きつけるべき事柄を、頭の中でしっかりと整理する。

 

「現場なら、テレプシコーラの映像で示されていた。最後にアルレッギーノが入っていった部屋だ」

「隣の小部屋に血痕なんてどこにも」

「あったんだ。動かされただけで」

 

 歯を食いしばるミーツ。もう少しだ。もう少しで、全貌にたどり着く。

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