◇バックパッカーカムナ
裁判と処刑の後。恐怖はいまだに魔法少女の間に焼き付いている。ファヴの姿は消え、ティーパティーナのお茶会は終わった。残ったカプセル……つまりミーツの遺品は、リビングデビットが回収していた。それから洞窟、つまり事件現場に行ったのを見る限り、ふたりの遺体をどうにかしようとしてくれているのか。ついて行こうとして、サンドリウムが止めた。
「あの人は今、心の整理が必要なんだと思う」
部下をふたり立て続けに失い、宿舎の魔法少女はもうリビングデビットだけになってしまったのだ。しかもあんな凄惨な処刑で……戦慄が背中に残っている。カムナはずっとそうだ。自分が余計なことをしようとしなければ、自分がこんな性格でなければ、ミーツはそもそも犯行に出なかった。ということは、カムナの存在が彼女を犯行に至らせたと言ってもいい。自分のせいでふたりもいなくなった。いっそカムナも処刑されてしまった方がよかったのではないか……。
そう思って、ふいにサンドリウムに肩を叩かれ、顔を上げた。彼女が指した先で、リビングデビットが真剣な顔でいた。戻ってきたのか。
「ひぇ!? な、なんでしょうか」
「話があるってさ」
「……はい。この度は。ミーツのしたことであらぬ疑いを向けてしまい」
「えっ? あ、う……いや、私のせいでもありますよ……」
「……いえ。違います。ギーノは殺されるような奴だった。ミーツは殺すような奴だった。それだけのことです」
否定されてしまった、けれど、自責はどうしても消えない。今すぐにでも殻の中に閉じこもり、出てこないでいたい。けれどそうはいかない。本当はそれを変えたくて監査に入ったのに。監査としての役割なんてまともに果たせていない。
「あの。おふたりのご遺体は……」
「魔法で棺桶を買いました。後で、埋めてやります」
「お手伝いします」
「……いや、これはウチの後始末なので」
「せめて、手は合わさせてください」
「……そう、ですか。ありがとうございます」
そういうサンドリウムと一緒についていく。洞窟の奥で、棺桶がふたつ、同じサイズで並んでいる。そしてリビングデビットはどこからか取り出したカードを空にかざし、振りぬいて、魔法を使っていた。その場にシャベルが現れて、この岩盤の中ではなく、どこか別の場所を探そうと歩き出した。
サンドリウムはその並ぶ棺桶の前に屈み、手を合わせる。カムナも同じことをした。ごめんなさいと心を込めた。
「カムナ。ギーノさんのこと、運んでやれないか」
「あ、はい!」
棺桶を背負う。人間一人分の重さなら簡単に背負える。もう一方、小さなカプセルにされてしまったミーツの、せめてそれだけ人並みの大きさの棺桶を、サンドリウムが持ち上げた。そうしてリビングデビットの行った先を目指す。彼女はシャベルで彼女らを埋めるための穴を掘っており、棺桶を届けたふたりで、遠慮を押し切って手伝った。砂の魔法を持つサンドリウムならば穴も簡単に広げられ、カムナはただただ力仕事が得意だった。
「本当に……すみません。結局手伝ってもらってしまって」
「気にしないでください。あと、カムナも気にするなよ」
「え、まだ何も」
「そんな顔してた」
サンドリウムにはわかられてしまっていた。わかっている。カムナだって、もっと、ちゃんとしなきゃ、なのに。自分に言い聞かせながら、とにかく運ぶ。無心だ。
「……あれ? 課長?」
ふと姿を見つけた。そういえば、本人がいたからいいけれど、報告も指示もまだだ。一応声をかけておこうと手を振ると、彼女は周囲を確認し、それから警戒の色を一気に弱め、いつもの雰囲気で歩み寄ってきた。
「いやあすまない、こちらで少し捜査がしたくてね。今は……あぁ。そうか」
「は、はい、お手伝いを」
「もうしなくて済むといいんだけどね。弔いも、推理も裁判も」
元々ゼロ課の仕事は未然に防ぐことだ。今は協力者がいない。実働隊だけでは何も防げないのだ。0・ショックがあんな釘を刺したにも関わらず、殺人は起きてしまい、そしてそれを利用したファヴが処刑を行ってしまった。これでもし殺意を抱く誰かがいても処刑されると知ってはそうしないだろう、けれど、前はそれで起きてしまったのだ。
「私はもう少し単独で動くよ。カムナくんとサンドリウムくんはふたりで動いてくれ」
「わ、わかりました」
「指令はすまないが出せそうになくてね、あとは現場判断でなんとかしてくれ」
「はい……え、えっと、あの」
「どうかしたかな?」
わざわざ引き止めることではないかもしれない。しかし、カムナの中にはやはり、心に背負って下ろせないものばっかりになりつつある。それを少しでも軽いと思うために、聞きたいことがたくさんある。
「課長もその、後悔とか、自分の責任だと思うことって、ありますか」
「あるよ。今回もそうだ。あと少し到着が遅れたせいで、なんてこともある。けれど、起こってしまったことはどうにもならなくても、それ以上を食い止めるには真実が必要なんだよ。事件が起きた時も、起きていない時も、やれることをやる。それが監査だよ」
「課長……」
いい話を聞かせてもらってしまった。息を整えて、できる限り自分を悪くないと言い聞かせて、そうですよね、なんてとにかく頷いた。
「あ、すみません、引き止めてしまって」
「いや。せっかくだから、もう少し話していようか。なあリビングデビット副所長」
振り返ると、棺桶はもう埋め終わっていて、シャベルを置いた彼女は墓標がわりに突き立てた木の角柱を見つめていた。
「構いませんけど……アイツらのことならもう話すことはないと思いますけど」
「君はこのゲームをどう思う?」
「どうって……クソったれてるなと」
「だよねえ」
皆、このゲームの世界に強制的に巻き込まれ、そして殺人が起きてしまった。ファヴと、彼が従っている黒幕がいる。それは間違いない。
「我々の中にひとり、『エリアマスター』の権限を持つ者がいる。それが他のエリアにもいて、最後の一人になるまで潰し合う。出られるのが最後の一人だけ。じゃあ他の魔法少女はどうすればいい? マスター資格を奪わなければならないのか。エリア総数も不明だが、この端末の数字は残る参加者数だろう。現状のルールでは、百名から一名だけが残る」
「生き残らせる気がない……」
「そうだ。そしてここにいるのは人事部門を除いたほぼ全部門の、それなりの地位にある者達。そもそも、あの儀式そのものが、我々を消すために用意されたものだった可能性すら出てくるじゃないか」
「つまり、黒幕は」
「ただの疑惑さ。今断定したとして、本人に連絡がとれないんだからどうしようもないし、ね」
冗談めかして軽い口調で話されても、カムナはそれが本気なのかどうかわからない。人事部門長が悪者、なのだろうか? 儀式が襲撃された時、とても焦っていたようにしか見えなかった、けれど。
「これは邪推でしかないからね。今私が抱いているのは全部邪推だ。予防というのはそういうところから始まる。ただ、君たちはそうはならないでおくれよ」
「は、はい」
よくわからないが返事をした。サンドリウムは顔を逸らして、何も言わなかった。リビングデビットも同じだ。小さくため息だけを吐いた。
「信じられるのはお金だけなんだよ、いつでも」
呟いたリビングデビットの手には力が入っていた。彼女が不愉快そうなのは、きっとカムナが0・ショックを無理に呼び止めて、話しかけさせたせいだ。