魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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鳴いた鴉と暴れた赤鬼

 ◇キューティーレイヴン

 

 ボスを出現させるためのミッションは、雑魚モンスターを多数狩ること、エリア各地にあるギミックを解くこと、ミッション用アイテムを購入すること、等複数に渡っていた。これらをクリアするためには多くが団結する必要がある。だからショコラは皆を向かわせたのだろう。レイヴンとプシュケもまた、既に取り掛かっているらしい外交部門の魔法少女たちのところを目指していた。

 

「全体ミッションの数字が増えてきてる。交戦中だねえ」

「外交部門なんてほっとけばいいのに。武力で威圧することしか知らない連中」

「まあまあ。それに強い人がやるべきってのはわかるけど、熟練のフリーランスとキューティーヒーラーなら戦える側じゃない?」

「暴力が生業の人間はそれしかやることないんだからそうすべき……私達がやる必要ある?」

「小学生からフリー活動してたプシュケだってもうベテランの暴力使いだよねえ。出たいならやるしかないんだってば」

 

 プシュケから出てくる不平不満は学級に入った当初よりはかなりなりを潜めたが、このゲームの中に放り込まれてからは再発している。

 レイヴンは、正直実感がない。目の前で起きた凄惨なことが全て、アニメの中のことのように思えていた。あまりにも、これまで居た現実とかけ離れている。魔法少女だらけの、騒がしく、しかし穏やかな生活はどこへ行ってしまったのか。

 外へ出る手段は……最も確実で、最も残酷なやり方は、考えたくもないものだ。そういう手を尽くすのはショコラがやっていることで、レイヴンは自分のやれることをやる。プシュケもきっと同じだろう。

 

「やることやるだけ」

「もちろん」

「こんなクソ殺風景の山の中にずっとなんていられるわけない」

「そこ、完全に同意見。来週のファンタジアニマのリアタイができなくなっちゃう」

「またキューティーヒーラー」

「そりゃ当たり前」

「学級もある」

「そう! このままじゃ単位とれないかもねえ」

「中学なんだから大丈夫でしょ」

「冗談冗談。でも夏休み前には出たくない?」

「授業はサボれていいけど休みを潰されたくはない」

「そういうこと」

 

 冗談でも、理由にする意味はある。今年度で卒業なのに授業にまったく出られませんでしたじゃあ学級生活も台無しだ。3年目のイベントくらい全部やりたい。夏休みの間に学級みんなで遊ぶ約束もしたい。閉じ込められた反動だ。

 

 だから、レイヴンもプシュケも揃って、目の前に立ちはだかった敵に武器を構えた。

 レイヴンの武器は使い魔だ。出現させたカラスを侍らせ、威嚇してくる小鬼たちに目を向ける。プシュケの持つ水鉄砲の銃口も、既に向けられていた。

 

「来るよ」

 

 叫びながら走り出したモンスターに対し、一斉に動く。カラスを二羽使い、一羽が翻弄、一羽かわ嘴による攻撃。そしてプシュケが上空を必死に狙おうとする小鬼たちを銃撃する。彼女の魔法の水鉄砲は中身を変えられる。化学物質を浴びて悶絶するモンスターたちに、カラスが追撃を加え、トドメを刺され消滅していく。効果音と共にキャンディが加算されている。ただの小鬼は所詮この程度なものだ。

 

 しかしカラスが突如攻撃を受け、羽毛を散らした。レイヴンが目を細めて状況を確認すると、棍棒を野球バットのように使い、石を拾いボール代わりに打ち上げている個体がいる。体躯のサイズから見てもこいつがボス格だ。使い魔は破壊はされていない。そしてただのバッティングならば回避は可能だ。目標をそちらに変え、レイヴン自身も動く。キューティーヒーラーといえば肉弾戦。鋭いパンチを放ち、同時にプシュケの援護射撃、バットによる防御を選ばれるが、放たれた液体は水銀だ。レイヴンは手袋に付着した銀の液を振り落とし、不幸にも浴びた鬼がもがき始めるのを一瞥し、トドメはまたカラスに任せた。多少傷ついても飛行能力は健在で、最高速の急降下には対応されることなく確かに頸を貫いた。

 

「今ので終わり?」

「クソ雑魚」

「まあまあ。これで少しでも」

 

 頭上に影が差す。瞬時に攻撃態勢に移り、咄嗟にプシュケを抱えて安全圏に飛び出した。プシュケはレイヴンの腕の中で、水鉄砲の乱射による迎撃を開始する。発射した化学物質は触れれば肌が爛れるような劇物だった。しかし振り下ろされた金棒の風圧により吹き飛び、レイヴンとプシュケも一緒になって吹っ飛ばされる。放り出されたプシュケはようやく体勢を整えている。現れた巨躯の赤鬼が吠え声をあげた。

 

「なんでここに中ボスがねえ」

「クソゲー、クソマップ」

「とにかくやるしかないねえ!」

 

 見たところ十数メートルはある、こんな巨躯がどこに隠れていたというのか。踏みつけるだけで地面が揺れ、カラスによる突撃も巨体には焼け石に水。その水を撃っている相方も、大したダメージは与えられずにいる。プシュケの水鉄砲では威力がどうも足りないらしい。振り回される金棒をかわしながら、プシュケの方を見る。彼女は水鉄砲を弄り、散布を霧状に変えて試していた。赤鬼の脚に広がる毒。それでも顔を顰めた赤鬼がプシュケへの攻勢を強めるだけで、ダメージとしては弱い。

 

「やたらタフだねえ……!」

「NPCのくせにクソ生意気!」

 

 文句が噴出する余裕がある。まだこちらもダメージは受けていない。というより、一撃でも受ければペチャンコだ。カラスに顔を狙わせる、がこれだけの巨躯なら手も大きく、叩かれて払い除けられた。相手にされていない。こういう時、先輩キューティーヒーラーなら渾身のパンチで巨躯も打ちのめせるかもしれないのに。

 

「止めるな! 本物なら!!」

 

 ──本物。そうだ。レイヴンは本物のキューティーヒーラーだ。打開策が見つからないくらいで止まっていられない。末席である以上、こんなの簡単に打ちのめせなければならない。叫んだプシュケと、息を合わせ同時に駆け出した。カラスを再度召喚し、上空からの攻撃も続ける。目の前で羽をバサバサ撒き散らして邪魔をしてくるカラスに、赤鬼が鬱陶しそうに手で払う、その間は金棒の攻撃が来ない。体の上を駆け上がっていく。レイヴンは目の前。プシュケは背中。これも振り払おうとしてくるが、身をかがめて抜けて、懐から武器を抜く。

 

「アセンションフェザーオーブ!!」

 

 エンジェルフェザーに支給されている武器だ。先端に羽飾りと宝石のついたステッキは、アニメ作中でも使われ、玩具としても発売されている。しかし本物は光り、鳴るだけに留まらない。魔法の国のアイテムであるフェザーオーブは、何よりも堅い。思いっきり振り抜き、顔を殴りつける。これでも大した衝撃にはなってくれない。それはわかっている。カラスがさらに鬼の瞼を啄み、さすがの鬼も怯んだ、その時、背面を登っていたプシュケが飛び出してくる。開けられた口めがけて、構えた水鉄砲。放たれるのはガソリンだ。

 

「やって!!」

「わかってるねえ!」

 

 こちらもカラスの性質を変化させる。口に向かって飛んでいくその体が、やがて火花を散らした。そして着弾の瞬間、魔法のガソリンが反応して発火、口内で爆発を起こし、赤鬼の顔全体を覆うほどになった。爆炎によってよろめく赤鬼、その脛をフェザーオーブで殴り、ついでにプシュケの放った猛毒でさらに追撃。それによりあの時に吹きかけていた毒が表出し、みるみるうちに赤い表皮が紫に侵されている。そんな腐った脚では立ち続けることはできず、赤鬼の巨躯がその場に崩れ落ちる。ズン、という重量の衝撃で地面が揺れた。それが最後だった。

 

「いやぁ強敵だったねえ」

「油断してたら死んでた、クソが」

「あれで終わりならよかったのにねえ」

 

 端末を見る。キャンディはかなり増えている。早めに回復薬と引き換えた方がいいだろう。それから、やはりアセンションフェザーオーブと水鉄砲では足りない部分もある。この先またこんな敵が出てくるなら他の武器もあった方がいいかもしれない。例えばエリが購入した時に現れていた実銃のような──考えるレイヴンの横で、プシュケが土を払いながら、その音の中に紛れて吐き捨てた。

 

「……助かったけど」

 

 ミッションの進捗を見るまでもなく、これは戦った甲斐があった。

 

「なになに、今の」

「うるさい」

「嬉しいねえ!! 帰ったらエンジェルフェザー全巻プレゼントしてあげちゃうねえ」

「もう押し付けてきたでしょクソオタク」

「であると同時に出演してるからねえ、で、なんだっけ、レイヴン様命の恩人大好き天才だったかねえ?」

「うるさい、違う、そこまで言ってない」

「そこまでじゃなかったら言ったんだねえ?」

「……クソ地獄耳!」

 

 やいやい言いながら、カラスの羽と血だけが残った戦場から歩き出す。端末上では、ミッションが『1/1 達成』の表示になり、より大きなボスミッションの項目が光っていた。

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