魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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Puppeteers&Ghouls

 ◇メルン・チック(儀式まで残り九日)

 

 他二派に比べれば派手さがない、資金も人材も足りない弱小派閥……と散々な言われようの噂は知っていたが、実際声をかけられると、あの三大派閥のひとつだと高揚するものだ。ついに我がチームの名もそこまで轟いたかと、鼻にかけたくなる。鼻にかけて話してやる相手は何年も前からいない。

 そして実際招かれてみると、その邸宅は、素人目には他派と遜色ない、というより違いがわからない。いくらメルン・チックがベテランの傭兵だとしても傭兵は傭兵。魔法の国のお偉いさんの邸宅を見比べるなんてしたことはない。見たことがあるのは、込み入った事情で訪れた情報局系の施設くらいなものだからだ。

 目の前に座る魔法少女──警護に親衛隊をつけているあたり、恐らくはかなり高い身分だろう、銀髪の少女。彼女は書面を出した。魔法の国の文字か。ペリング……今は亡き友人に、教えてもらったことがある。堅苦しいが、むしろ形式ばっているおかげでそれなりに読める。書面の最後に記された『アガペマナエポクリプシカ』の文字、これが彼女の名前だろうか。

 

「儀式の警備の仕事、ですね」

「あぁ」

 

 メルン・チックの呟きに、アガペマナエポクリプシカは頷いた。魔法少女傭兵グループ……とはいえ構成メンバーはメルン・チックひとりだけだが、この『Ennui(アンニュイ) Groomy(グルーミー)』をご指名の依頼とあらば話を聞かざるを得ない、が。些か、あまりメルン向きの仕事ではないような気がする。何も起きないただの警備ならば、ここまで考える必要性はない、けれど。

 

「ただの儀式ではない。これがうまくいけば……あるいは魔法の国を揺るがす一歩になる。杭に向かって、抉り込む一歩に。あるいは布石……路傍の石、さりとて侮ることなかれ、いつかその石はあなたを躓かせ得る、といったところか」

「は、はぁ」

「公的な私としてはぜひ受けて欲しい。私個人としては大変受けて欲しい。君を頼りにしたい。あるいは、頼りにされたい」

 

 平然と、口説き文句みたいな言葉で勧誘してくる。変な気分だ。だが。メルン・チックは手を挙げる。黙ってはいられないことがある。

 

「ひとつ、よろしいでしょうか。アガペマナ……」

「アガペマナエポクリプシカだ」

「アガペマナエポクリプシカさん」

「プシカさんでいいよ」

 

 いいのかよ、と言いたくなるのを抑え、代わりに本当に言いたいことを吐き出す。

 

「なんでこいつがいるのでしょうか」

 

 そして横を指した。そこにいるのは頭にアンテナを生やした魔法少女。彼女もまた手元の資料を読んでいる、ということはメルン・チックと同じように呼ばれたということだ。ありえない。こいつと同列にされたくはなかった。

 

「まあまあ、フリーランス同士で、仲良くしているんじゃないのかい」

「そんなわけないでしょう!?」

「こちらとしても心外。いつまでもぬいぐるみ遊びしてる奴と一緒とか」

「あんたのもお人形遊びみたいなものでしょーが!?」

 

 この仕事をしていると色々な奴と一緒になる。まともな奴、イカれた奴、調子に乗る奴……自己評価は異常に低いくせに無自覚に人をおちょくり自分のことを雑草と呼びはばからないような奴もいた。どんな奴とも仕事をこなしてきた。こいつとも、初対面ではない。ないが。こいつだけは認められない。なぜなら。

 

「同じメルン同士なのに仲良くないんだね」

「だから仲良くないの!!」

「名前が被ってるから相容れないんだっての」

 

 そう。このアンテナ魔法少女の名はメルン。メルン・チックとは、後半がないだけで丸被りである。どうしてこんなふざけた事態になったのかは、単純、人事部門が適当に通したからだ。魔法少女になったのはほぼ同時期。どちらが先かはタマゴとニワトリの域。そして別の担当者が、出されている申請をろくに照らし合わせもせず、そのまま通してしまったらしい。結果がこれだ。互いに改名を迫ったことは一度や二度ではない。そして互いに直接戦闘を得意としないため、決着はまともについたこともない。よって、もはや迫ることすらも諦めている。そのことを面白がる、あるいは近縁の魔法少女だと思い、メルンとメルン・チックを同時に雇おうとする者が現れては、こいつと顔を合わせて嫌な思いをするのだ。

 

 しかも。こいつは魔法少女狩りに惨敗し、思いっきり収監されていたことがある。その時期には仕事が激減した。風評被害だ。本当にありえない。

 

「まあ。人選は悪いとは言えないんじゃないか。事前の用意さえしてしまえば、シャッフリン数セットぶんの働きはできると聞いている。我々カスパ派も財政難なんだ。シャッフリンのような高級品は使えない」

 

 メルン・チックは隣のメルンと顔を合わせ、互いを睨む視線を交わした。

 アンテナのメルンが持つ人を操る電波の魔法は、人間を労働力とできるなら、なかなかの人手になる。ホムンクルスあたりを操れるなら上々だ。

 ぬいぐるみのメルン・チックが持つ綿の魔法は、詰め込んだぬいぐるみを動かせる。こちらも魔法がかかったものを材料にしたぬいぐるみなら性能は上がる。

 シャッフリン──群体による人手の代わりに用意するものが、洗脳電波とぬいぐるみの群れとは。代替できるのかは微妙なところだが、アガペマナエポクリプシカがそれでいいと言うならそれでもいい。

 

「そして、ふたりは受けてくれるのかな?」

 

 メルンたちは同時に首を縦に振った。派閥直々の依頼には変わりないからだ。

 

「ありがとう。本当に助かるよ。これで予算が浮いた。よし、残りは今夜はずっと行きたかったファストフードのお店に」

「プシカ様?」

「…………冗談だよ。ふふ、興味が暴走するところだった」

 

 大丈夫なんだろうか、カスパ派は。大丈夫ではないから、メルンふたりに目を付けた……というのは、納得できてしまうから嫌だ。

 

「あぁ、今のは冗談だから安心してくれ。ちゃんとこの、ラツムカナホノメノカミ様の妹分、あるいは現身補佐であるこのアガペマナエポクリプシカが、責任を持って支払うからね」

 

 親衛隊の魔法少女たちの表情が強ばっている。本当に大丈夫か。不安は残る。

 とはいえこちらはただの警備役。下っ端も下っ端だ。ならば、期間と場所以外に聞くこともない。それも書面で把握している。手を離し、指でなぞる所定の動作を行うと、魔法によって書類はひとりでに燃え、消えた。機密保持の魔法だ。ちゃんと記憶したまま、カスパ派の施設を出ていく。

 

「この後、どう? 超龍行く?」

「なんであんたと行かなきゃいけないのよ」

「前回の決着ついてないし」

「人のそこそこいるところに行きたいだけでしょ! させるもんですか!」

 

 相容れないが、軽口を叩かれても見逃す度量は互いにある。ほんのじゃれ合いだ。そうして施設を出て、門をいくつか使い、仕方なく行きつけの魔法少女ラーメン店に向かってやることにする。一時期は務めてやっていたこともあるのだが──。

 

「見つけた」

「……はぁ?」

 

 声がして見上げると、魔法少女がいる。メルン・チックはメルンと同時に身構える。メルン側は主に逃げの体勢だが、直接戦闘できないのだから仕方ない。周囲に群衆はいない。となると、やはりメルン・チックが、皆の力を借りるしかないか。明らかに何かを狙い、見るからに弓を番えたその魔法少女に対し、メルン・チックは戦闘態勢に入る。

 

「行くわよ! ドッチ! マーリー! ペリング!!」

 

 かつて凶刃に倒れた仲間たちの遺骸、そこから造ったぬいぐるみだ。生前の固有魔法を、フルスペックではないが多少は扱えるし、基礎能力も魔法少女に迫ることができる。これを以て、今のメルンは魔法少女4人分の動きが出来るというわけだ。番え、放たれた弓を軽い詠唱からMs(ミス)・ペリングの初歩攻撃魔法で迎撃、さらにゴム・マーリーからのゴム鞠の発射で牽制、続いてドッチウィッチが突撃、道路標識でぶん殴る。単純な制圧だ。だが相手には対応されていた。放たれた矢は本命ではなかったのだ。その手には中華風のお札がある。それをぬいぐるみのドッチウィッチに押し当てると、吸い込まれるようにして消えてしまった。

 

「なッ──!?」

 

 多少の損壊ならばどうにでもできる。ばらばらに吹っ飛ばされようとも、心を痛めながら直してきた。だが消失とはどういうことか。中にあったはずの魔法の綿も、動かせないどころか位置すら把握できない。わけがわからぬまま、さっさと逃げ出そうとする敵魔法少女の動きに気がついた。

 

「あっこの、待ちなさい!! 何をしたの!? このっ!!」

 

 出鱈目に攻撃を仕掛けるが、チャイナドレスの裾がなびき、天使の羽が少し揺れるだけで、あっさり取り逃した。姿は見えなくなり、詠唱からペリングに探知魔法を使わせても、いない。酷い逃げ足だ。

 

「私の……商売道具を……仲間を……!!!」

 

 何が目的だったのかはわからない。しかし、このような狼藉、決して許すことはできない。隣にいたはずの魔法少女の方を振り返る。彼女はマーリーのぬいぐるみの陰に隠れており、全く頼りにはならない。

 

「ッ……隠れてないでなんかしなさいよ!!」

「む、無理だし……てか、い、今のさ」

「は? 何よ、さっさと言いなさい」

「恋々じゃなかった?」

「はぁ……?」

「なんか変だったけど……コスプレ? なんで?」

 

 メルン・チックは知らない名前だった。メルンは知っている顔なのか。だったらもっと早く言ってくれればいいのに。

 

「何か知ってるなら教えて。当日までに取り返すから」

「え、いや、あ〜……じゃあとりあえず、超龍でいい?」

「……ふん。そうよね。落ち着いてラーメンも食えなきゃ駄目だわ。えぇ、わかったわ、行きましょう」

 

 心を落ち着ける。超龍のラーメンは魔法少女にとってのソウルフードだ。怒りを抑え、飛び出していきたい心を宥めるには、油しかない。メルン・チックは拳を強く握り、残されたペリングとマーリーのぬいぐるみに自分の頭を撫でさせ、それでも落ち着かずにメルンを不意にビンタした。

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