魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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疾風迅雷やね

 ◇レディ・プロウド

 

 キューティーショコラからの連絡を受け、研究部門・広報部門との共同作戦に合意した。ミッションを進めるのはこちらも本意だ。ゲーム内に閉じ込められ続けるわけにいかない。状況を進展させるにはゲームを攻略する他にない。アンブレンも退屈している。ティーパティーナの封印は、外交にとって損失だ。プロウド自身も、より上の立場を目指す身である。だからこそ先陣を切ってモンスター狩りを始めていった。

 

 そして今。休憩を挟みながら、日が変わったであろう時間が過ぎて、ようやく数が揃った。空が変わらないせいで分かりづらいが、ゲーム内では既に数日が経過していることだろう。ミッションの中の最後、固有エネミーの赤鬼の撃破は誰かの活躍によって埋まっていた。ボス出現の条件はそれで満たされていた。

 

 山頂の火口付近、祠の設置された大きく開けた空間。それがボスの出現箇所であった。外交の魔法少女たちで先行したが、現場には明らかに不穏を漂わせる雲が渦巻いており、今にも現れそうだ。久方ぶりに見る曇りの景色に、アンブレンの頬がいつもより心做しか柔らかく見える。

 戦えないティーパティーナは後方に隠れてもらうことに決まっていた。街に残っているくらいならいっそ同行したい、という本人からの希望だった。プロウドも、いざという時に手が伸びた方がいいと判断しそれを飲んだ。

 

「テキストによれば、どうやらもうすぐ現れるみたいです。鬼の楔が外れた時、逢魔が刻に風雷が迫る……とかなんとか」

「研究部門には伝えてあるな」

「はい。あ、噂をすれば、です」

 

 フォーマルメイドが複数名の魔法少女を連れている。ショコラから聞いた通り、ジェリーマリーの代わりにキューティーレイヴンが一緒だ。彼女は戦闘員ではないのだろう。代役がキューティーヒーラーならば不足はないだろう。

 

「到着しました。ボスはどちらに」

「いたらもっと大騒ぎだ」

「あっきらかに怪しいのがあるけどねえ」

「嵐が来る……」

「久しぶりの風じゃけんど、気持ちのいい風やないね」

 

 プロウドとしては気にかかるのはやはりアンブレンと、撃墜王エリのことか。協力関係にある以上は有事とはならないだろうが、アンブレンの機嫌は良くなってくれない。アンブレンからはまだ警戒の矢印が強い。

 

「この雨も願い下げの雨」

 

 ボス出現の前兆か。降り始めた雨に、アンブレンが閉じてあった傘を広げ、エリの方に目を向けている。

 

「まだ信じてない」

「そりゃどうも」

「怪しい動きを見せたら敵とみなすから」

 

 まあまあと宥める間もなかった。端末の中にあるゲーム内時間の時計アプリで、長針と短針が重なった。同時に降りしきる雨の中には雷鳴が轟きはじめ、やがて稲光、直後の轟音とともに周囲が揺れる。地面が揺れ、魔法少女たちの間に緊張が走る中、吹き荒れる嵐の内よりゆっくりと立ち上がるのは、身の丈が3メートルほどある人型であった。仏像めいたいわゆるカミナリ様のイメージそのものの姿をしている。これがこのエリアのボスモンスター、『雷神』だろう。

 

「わ、私は隠れてますね!」

「早く行って!」

「はいっ!」

 

 ティーパティーナが引っ込んでいったのを確認し、そして魔法少女たちは一斉に戦闘態勢を取った。雷神がこちらを認識し、同時に動き出す。その荒々しい姿に反し、ゆっくりと歩き出したのだ。周囲にはしきりに雷が降り注いでいる。頭上からの雷撃が危険だ。が、関係ない。プロウドは魔法を使う。己の脳を巡る血を、限界を超えるための薬剤に変える。視界が狭まり、しかし研ぎ澄まされていく。低く構えたまま、飛び出した。

 

 敵は雷を落とす。手からも放ってくる。それを躱す。敵が指を差した先に落ちている雷が多い。念頭に置き指を潰しにかかる。ガトリングによる援護射撃の中、飛び道具が軒並み雷を盾にされ止められる中で、プロウドは飛びかかる。迎撃に来る雷撃を、差し出された魔法の傘が弾く。進路は彼女に任せた。そのまま導かれるように、本体に仕掛ける。

 殴り掛かる敵の拳を、受け止め、押し返された先の傘にバウンドし、そのまま体勢を整え、雷神に踵を見舞う。手応えは薄い。ついでに蹴りを入れて距離を取る、ように見せかけプロウドの背中を受け止める魔法の傘により、そのままもう一度飛び出した。

 迎撃に帯電した雷雲が敷き詰められ迫る、それを飛来した炎が焼き払い、そのまま通過、今度は殴りかかってきた雷神に、攻撃を受けて立つ。体躯の差など魔法少女の前には誤差ですらない。

 

 魔法少女は思いが全てだ。

 

 拳が何度も繰り出される。打ち合う中、拳が砕けようが、威力を込めた。そしてその最中に、少しだけ小細工を入れる。拳から滴った血を、液体窒素に変えてやった。突如凍てついた拳、危険を判断した雷神は風を吹き付けさせ、プロウドを吹き飛ばそうとした。対するプロウドは即座にマントの裏側の試験管を抜き、地面にぶちまける。血はみるみるうちに白い液体に代わり、それを踏みしめた。接着剤だ。己を接着し、突風を耐え、雷神の腕を掴み引き寄せ、食らいついた。

 吸血鬼の魔法少女ならば牙もまた武器。雷神が強靭な表皮だろうと筋骨隆々だろうと、食いちぎるなど造作もない。捕まえた腕を抉るプロウド。対する雷神も動かぬのならと、背負った太鼓を叩き、特大の雷鳴を轟かせた。口内に不快な味が広がる中、頭上に破壊の気配がする。しかしそれをアンブレンの傘が弾き、そして彼女が雷神の前に躍り出る。雷神は肉が裂けるのにも構わずプロウドを振りほどいて、狙いを彼女に定める。その瞬間、後方から炎。フォーマルメイドだ。傷口を狙い叩きつけられた一撃に、雷神がわずかに後退る。そのうえでアンブレンからの突きを受け、傷が増えていく。

 

 吹き荒れる風、そして鳴り散らす雷鳴。プロウドの他は近づくことすら困難であるらしい。ついてきているのは、炎を纏ったモップを振り回し、雷を叩き落としているフォーマルメイド。そして悪天候ならばものともしないアンブレン。それだけだ。

 フォーマルメイドはこちらを一瞥すると、構え、動いた。プロウドもまた、ひと呼吸を置き、そしてこの時初めて、雷神はただ雷を落としていたのではなく、周囲の配下達への指示、そして招集のために雷を使っていたのだと気がついた。確かに風に煽られたプシュケやレイヴンは苦戦しているが、彼女らは雷神ではなく、周囲の小粒と戦ってくれていたらしい。ならばボス自体はプロウドが取らせてもらう。プロウドは試験管を抜き、自身の足元に叩きつけて割った。中を満たしていた血を、魔法少女の接着剤の剥がし液に変えたのだ。

 もう一度食らいついてやる。まずあの腕からだ。飛び込み、仕掛け、空中で放つ蹴りが突風でズレる。空を切った脚、脇腹に繰り出される拳、体勢の崩れたプロウドを受け止める傘。その反発により上に跳び、上から試験管を投げつける。砕けた瞬間、血から変化した魔法の金属ナトリウム液が爆裂を起こし、雷神の頭部を襲う。

 

 それでも倒れない。ならば攻勢を強めるだけだ。空中を蹴る構えを取り、そして足の先に丁度差し出された傘を蹴って、加速した。爆裂により生じた頭の傷目掛けて爪を突き刺さんとし、避けられる。そのまま着地し、立ち上がるその一瞬、その間に今度は雷雲が生まれ、集束した電気エネルギーによる砲撃を開始した。

 アンブレンならば防御できるか、とそう考えた時、突風が吹き抜け、差し出されるはずの傘がわずかにズレた。彼女の精密なコントロールのみならばありえない事象だった。そのために砲撃はプロウドを掠める。頬が焼ける、が己の頬などどうでもよい。地を踏みしめ、今度はこちらから、行くつもりで目の前の充填を終えた砲台雲と向き合った。

 

「ッ──」

 

 攻撃に出るには一瞬、一瞬が足りなかった。それを解決したのは、炎でも傘でもなく、茶器、だった。投げ込まれたティーカップが、攻撃を指示しようとした雷神の顔面に当たり砕け、それが隙となった。ティーカップの持ち主を睨まんとする雷神の顔を蹴り抜き、よろめかせることに成功する。が、既に相手はティーカップの持ち主を捕捉していた。振り返る。

 

「なぜ手を出した! 今手を出せば……」

 

 隠れていたはずのティーパティーナの存在が知られた。彼女を狙っている。しかもそれが一体ではない。雷神は指を差して砲撃の用意、そしてその後ろで、金棒を振り上げている鬼が一匹。ティーパティーナは振り向き対応できるほど強くない。プロウドは脚に力を込め、しかし己の身に雷撃を受けた。麻痺させた痛覚でなお、感電による痙攣の違和感を味わう。歯を食いしばり耐え、しかしそれでは動けず、雷神にはフォーマルメイドが炎により殴り掛かるものの、砲撃の阻止には遅く。

 

「……ッ!!」

 

 飛び込んだのはアンブレンだ。体当たりでティーパティーナのことを吹っ飛ばした。後ろの鬼に傘で一撃を入れた後、砲撃を受け止めるために傘を差し出した。しかし鬼は倒れず、踏みとどまると、アンブレンに一撃を食らわせた。彼女の小さな体がよろめき、ティーパティーナに支えられた。頭から血を流している、が、あのくらいなら大丈夫、そのはず、だ。鬼は苦し紛れのティーパティーナに顔から紅茶を浴びせられ、怯んだ隙に彼女らを取り逃していた。

 

「よくも……よくも私の部下を!!」

 

 憤激に任せ、今度は雷神に向けて飛び出す。雷撃は食らってもいい。もう終わらせなければならない。

 

 

 ◇キューティーレイヴン

 

「とんでもないねえあれは!?」

 

 あまりの強風でレイヴンのカラスもプシュケの水鉄砲もうまく扱えない中、レディ・プロウドとフォーマルメイドはあの雷鳴の嵐を潜り抜け、傷を受けながらも無理やり攻撃を続けていた。もはやどちらが倒れるのが先かの勝負だ。

 

「こっちはこっちで……だけどねえ!」

 

 雷神は多数の取り巻きを連れていた。いや、それらは集まってきただけで、ただの労働力か。しかし一方で、対峙しているこのエネミーは、雲の上に乗り、まるで降りてこない、そういうボスだった。

 

「雷神がいるなら……風神もいるってわけ」

「いらないねえ……」

 

 相性はお世辞にもいいとは言えない。時折飛ばしてくる風の刃や突風はなんとでもなるが、やはり攻撃をどう当てるのか、考えなければ──。

 

「いーや。なんとかするけん、見よって」

「なんとかって」

 

 颯爽と、風雨の中へ飛び立つ機械翼。撃墜王エリだ。降り注ぐ攻撃を潜り抜け、彼女はハンドガンを抜いた。ともすればカラスの嘴よりも小規模な攻撃かもしれない。しかし、響いた銃声の直後、風神を支えていた雲が散り、『撃墜』されたその巨躯が地に叩きつけられていた。その瞬間、風雨が弱まる。それを逃す魔法少女たちではない。即座に使い魔も銃口も向けられ、頭部を破壊する。これにより、突風はなくなった。上空から戻ったエリは、その様に、Vサインをしてみせる。

 

「なんとかなったでしょ?」

 

 まだ雷神が残っている。風は弱まっても、雨はあり、雷鳴は轟いている。いや。雷鳴も既に弱くなりつつある。振り向くと、それもそのはずだ、かなり傷ついたレディ・プロウドと、それなりに傷ついたフォーマルメイドが、まさに雷神の胸を貫き腹を抉り首をねじ切り、ようやく斃すその場面であった。

 

「あっちも、なんとかなったみたい」

 

 赤鬼との戦いから、休憩は挟んだはずなのに、もう疲労感が果てしなかった。

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