◇リビングデビット
「いつまでついてくるんだ」
「それはもう面白い事が起きるまでいつまでも」
やたら同行してくるテレプシコーラ。痺れを切らして、先程一発殴ったのだが反省がない。頬が腫れているのに笑顔を作っている。そしてその暴力について騒ぎ立てないのは……殴られて当然だと思っているのか。そこも不気味ではないか。
「面白がってんなら他の奴んとこ行けよ。自分で言うのもなんだけど、面白いことなんて何も起きないっての」
部下が居なくなり、他部門との連携もできそうにない今、自分にできることはと言えばゲームの仕様を探ることくらいだ。多少の出費は割り切って、ゲーム内にない物品を購入し、何か起きないかと試したが駄目だ。爆竹も派手なだけで効果なしで、生き物を買って取り寄せようとしたが不発だった。だったら加工済みならいいのかと、ついでに腹が減ったのでコンビニのフライドチキンを購入。ゲームの中でも旨い。
隣で明らかに腹を鳴らしたテレプシコーラには、仕方なくあんパンでも買ってやって、与えた。彼女はよろしいのですかと言いつつも受け取っていた。これで買収できたらよかったが、さすがにあんパン1個で取材は止められない。もはや諦めていた。
そして適当なミッションを進めようと、とにかくスコップを使い穴を掘っていた途中、ふいに思いついて声をかけてみた。
「はぁ……疲れたな。穴掘るの手伝ってくれよ」
「えぇ? いいですけど」
「素直にやるのかよ」
「体験的取材? ですかね?」
なぜか人手が増えたことで、この埋蔵金サブクエストとやらを進めるスピードはかなり上がり、夢中になっているうちに、穴はかなり深くまで来た。もうすぐ、ミッションにある深さ2メートルに到達する。そろそろ宝箱に行き当たってもおかしくないはずだ。俄然やる気が出てくる。奮ってスコップを握る。
「おや。ボス倒したみたいですよ」
「……はい?」
そう言われて慌てて端末を確認。すると、レディ・プロウドからのメッセージを未読無視、キューティーショコラからの着信を不在着信にしていたことに初めて気がつき、そして今、ボスミッションなるものがクリアされて報酬が配布されているのを知った。貰えるものは貰っておくが、申し訳なくなる。
「ひたすら穴掘ってる間に色々起きてますねえ」
「これ太陽動いてたら日が暮れてたんだろうな……」
そう思うと悲しくなる。副所長の業務はあんなに忙しかったのに、今は、なんだこの時間の使い方は。ギーノとミーツも何してんだと殴りに来るに違いない。
「てか、いいの? 広報とも別行動だし」
「芸能人と記者が仲良しだと思いますか?」
「あー……」
「答えはわりと仲良しですよ」
「良いのかよ!?」
「でなければ自由行動を許されてませんからね。報道の自由です」
「ちょっと違うと思うんだが」
「まあ世の中には振りかざしすぎて解雇、追放、チョコレートファウンテンの刑になった人もいるとかいないとかですがね」
まさか、チョコの噴水でチョコまみれにされる拷問か。あの副部門長ならやりかねない。
「チョコレートファウンテンの話はまた今度しますよ。で……ああそうです、副部門長の方針ですよ。広報で固まらない方が良い、とのことで」
「……」
理由として思い当たるのは、相手をよく知るからこそ一線を踏み越えてしまった事例のこと。つまりギーノとミーツのことだ。頭が痛くなる。あるいは、別行動することでそれぞれ他部門の味方を作るのが狙いか。コイツに関しては、敵を作ろうとしているようにしか見えないのだが。
「まあ……もういいか。勝手に密着してろよ。手伝ってもらうだけだからな」
「いいですよ。キツい労働させられたって記事にしますから。悪意多めで切り抜きます」
「平常運転だろ? それ」
テレプシコーラはイヤイヤと言うものの、手放しで信用はしてはいけない。本当にやらかしてくる可能性は否定できないし。リビングデビットは自分の端末で、プロウドとショコラに何て言い訳するか考えていた。
「……ん?」
「どうされました?」
「いや……」
乾いた破裂音がした気がして、ふいに上を見る。壁は背丈よりも高く、そのせいで聴こえた方向まではわからなかった。デバッグ行為に使ったら爆竹の残りでもあったのだろうか。
◇レディ・プロウド
いくら待ってもアンブレンは来なかった。ボス討伐から一時間ほどで、撃墜王エリ、続いてレイヴンとプシュケが相次いで姿を現し、それに続いたのがサンドリウムとカムナの監査組だった。彼女らはこちらを見るなり、お疲れ様ですと会釈をした。
「プロウド局長。ボス討伐、局長と皆さんですか」
「あぁ。研究と合同でだ」
「声をかけてくださればお力になりましたのに」
「……連絡は入れていたはずだが」
それを聞いたサンドリウムが驚いた顔をする。
「ええと……すみません、確認不足なのか……」
「いや。君たちではない。課長に確認をした。忙しいと返事があった」
「課長が……?」
カムナと顔を合わせるサンドリウム。本当に何も知らされていない、という顔だ。プロウドは眉を顰める。0・ショックはああ言っておいて、協力を拒んだことを部下にも共有していなかったのか。せめて共有はすべき、だろうに。
「わ、私のせいでは……」
「どの辺がだよ。課長だってうちらがやれることくらい知ってるのに。何だ? あ、すみませんでした、その件」
「いや」
結果的に、倒すことはできた。ティーパティーナの件、つまりアンブレンの負傷があったとはいえ……待て。負傷。そうだ、アンブレンは攻撃を受けていたではないか。
「怪我人だ」
「はい?」
「怪我人なんだ。連れ帰らねば」
「アンブレンさんでしたら、見たところ深い傷ではないはずですが」
「見ただけだろう」
フォーマルメイドの言葉に即座に返す。そして、広場とショップ周辺、先程から戻ってきた者達がアイテムなどを売り買いして弄っているところにまで赴いて、プロウドは声を出した。
「アンブレンは!? 心当たりのある者は!?」
「あれ? それなら」
「あるのか!?」
「山頂付近の山小屋の方で見た気がするねえ」
情報を出したキューティーレイヴンの言葉に従い、とにかく飛び出した。何人かが着いてきていたが、着いてこられなくても構わない、振り切る勢いで山頂までを目指した。山小屋とやらの場所を探す。プロウドが街に戻る際には見つけられなかったが、どこにあるのか。走り回り、見つけた。山小屋ではなく、モンスターの群れを。
「……! ティーパティーナ?」
「あっ、局長……! 助けてくださーい……! 無我夢中で逃げ回っていたら……こんなところに……」
物陰に隠れているティーパティーナ。どうやらこのモンスターの群れのせいで、動けなくなっていたらしい。周囲のモンスターは嗅ぎ回っているらしく、何者かがいることはわかっているらしい。確かに大きめの種が複数体、まともにやりあえば面倒、やりあえない彼女には隠れる他ないか。どちらでもいい、今は彼女と話す時間が必要だ。
一瞬で片をつけるべく、マントの裏側から試験管を抜き、爆薬に変えて投げつけた。群れの中央に着弾して、起爆、一気に吹き飛ばす。それでも残った個体には飛びつき、爪を突き刺し、抉り、倒す。モンスターは消滅し、血痕が残る。プロウドはティーパティーナに歩み寄った。
「助かりました、ありがとうございま」
「アンブレンは?」
「した、え? あ、先輩なら山小屋で」
「山小屋はどっちだ」
「こっちです」
案内を急かすプロウドの脳裏には、焦りがあった。自分の嗅覚だ。信じたくない気配がする。モンスターの血の獣臭さではなく、もっと違う匂いがしている。まさか。いや、そんな、ことは。
「この小屋で……あっ局長!?」
駆け出した。そしてそのまま扉を開け放つ。勢いで小屋全体が揺れ、軋んだ。その上で、内部の光景を見た。アンブレンは……いる。そこにいた。机に突っ伏して。
「よかった、アンブレン。戻ろう。ボス戦の報酬は確認したかい。君が退屈しないようなものもあったはずだ」
返事がない。血の匂いがする。
「アンブレン?」
目の前には紅茶の入ったティーカップと、食べかけのお茶菓子。テーブルの上には、何やら書きかけの手紙らしきものがあり、下に転がっているのはペン。
そのすぐ近くの足元には水溜まり。赤い。水で薄まっているが、それがプロウドの嗅覚に訴えかける匂いの正体だと、脳が認識を拒んだ。
「ああそうか。疲れたから眠っているんだ。だろう、なあ、すまないが起きて──」
肩を掴む。揺らす。されるがままだ。
「そんなに深く眠るなんてすまない、余程無理を……」
「……局長」
ティーパティーナの声に、プロウドは振り向かなかった。しかし目の前の光景も理解はできなかった。なぜ……アンブレンは、目を覚まさないのか。答えは、彼女の体に刻まれていた。銃弾の痕だ。そこから、コスチュームが赤く染まっている。
「先輩……そんな……」
「っ……なぜ……なぜアンブレンをひとりにした!? 怪我を、して、いたんだろう!?」
「っ、きょ、局長、やめてくださっ」
「答えろ! なにをしていたんだ!? お前が! いながらっ!!」
「ぐ、ぅうっ」
「……!? プロウドさん! やめてください!!」
衝動のまま掴んでいたティーパティーナの喉から、割り込んできたカムナにより引き剥がされる。抵抗する。まだ答えられていない。何があった。アンブレンはどうなった。どうしてこうなっている。なぜだ。何が、何が起きている──。