◇サンドリウム
飛び出したレディ・プロウドをどうにか追いかけて、行き着いたのはボロボロの山小屋。そして、そこが第二の事件の現場だった。
到着するや否や、目に飛び込んできたのはプロウドがティーパティーナの首を絞めている瞬間で、サンドリウムが砂を飛ばすより先にカムナが飛び出し、引き剥がす。が、プロウドは恐慌状態。見るからに平静を失っており、カムナのことも振り払おうともがいていた。
魔法で砂を使い、拘束を追加。まるでこの事件を全てサンドリウムたちがやったかのように、ひどく暗い目で睨まれながらも、まずはじっとしておいてもらうため、拘束は一切緩めなかった。
「げほ、げほっ……!」
「大丈夫ですか?」
「はい……でも」
ティーパティーナは無事だったが、小屋の中には遺体がある。テーブルに突っ伏したまま力尽き、動かないアンブレンだ。飲みかけの紅茶、食べかけのお茶菓子、書きかけの手紙……どれも、彼女がまだ死ぬつもりなどなかったことを示している。
「……起きちゃったんですね、事件……」
「あぁ……」
レディ・プロウドが我を失うのもそうだろう。彼女はアンブレンのことを相当可愛がっていた様子だった。そんな状況だ、今は落ち着くまで拘束させてもらうほかない。睨まれていても、監査として、サンドリウムたちがするのは真実の追求だ。
「捜査……しよう。アンブレンさんがどうして、死んでしまったのか」
「うん……やらなきゃですよね。私だって捜査員だもん」
「……私からも、お願い、します。もう、裁判なんて、したくなかったんですけど、ね」
ティーパティーナも相当にショックを受けている。しかし、レディ・プロウドはこの有様、アンブレンがもういない、となると、彼女の護衛がいなくなる。他部門には犯人がいる可能性が残っていて、まだ信用するには早い。ならば辛い光景だろうが、ここでカムナとサンドリウムが護衛を兼任する他になかった。
「外、出ましょうか。火薬と血の匂いがしますから」
「いえ、大丈夫です。……私は大丈夫なんです、局長」
拘束されたプロウドの隣に座るティーパティーナ。彼女は彼女で、プロウドのことを案じている。奪われた者のことを思うなら、やはり真実はあるべきだ。
「他部門の人にも連絡を……ん、あれ、繋がらない」
研究や広報、宿舎もそうだが、せめて課長には報告をしておこうと思ったのだが、しかし誰も出てくれない。見ると圏外だ。そんなに街から離れているとは考えにくい、というか、ゲーム内なら電波はどこでも飛んでいるんじゃないのだろうか?
「……まあ、ここに来てることは街にいた人は知ってるか。まずは、遺体の状況を」
「ティーパティーナさん、プロウドさんはアンブレンさんのこと、動かしたりしていましたか?」
「いえ、揺さぶった程度かと」
「かなり激しくですか?」
「それなりに……です。不安定なテーブルで、紅茶がこぼれるくらい」
言葉の通り、テーブルの上のティーカップからはいくらかお茶がこぼれていて、残っているのはわずかになっていた。
「……失礼、します」
手を合わせ、遺体に触れていく。アンブレン本人は机に突っ伏している体勢だ。ぎゅっと目を閉じたまま、眠るように力尽きている。遺体の外傷は、頭に殴られた痕、それと背中の銃創……以外には、大きなものは見当たらない。念の為両方の傷をじっと調べておく。頭の打撲は塞がりつつあり、髪の間に凝固した血が見える。一方、銃によるものと思われる傷は、裂けた皮膚がそのままになっている。これが致命傷だろうか。
「直前までエリアのボスと戦っていたんです。私を庇ったアンブレンさんが後頭部をやられてしまって。回復薬はひとつ使ったんですが、ひとつでは足りなかったみたいで……」
後頭部の傷の様子はティーパティーナの証言と一致している。間違いなさそうだ。
「あ、あの、これ……」
カムナが指したのは、書きかけの手紙だ。アンブレンの手で隠れていて全部は見えないが、隙間から見る限りでは……謝罪、だろうか。子供っぽい丸文字だが、確かに、紙にペンで謝罪の言葉が連ねられている。誰かに謝りたかったのかと目を細める。しかし宛先はまだ書かれておらず、ずっとわからないままになってしまっていた。けれどもしかしたら……。
「『疑いをかけてしまったことを謝らせてください』……と。これ、カムナ宛か?」
「え、わ、私?」
「遺書の類とは考えにくい。本当に書きかけなんだと思う。何かメッセージは残してくれてないか?」
「うーん……あ、端の方が、水で滲んでます」
雫が滴ったような痕跡。本人のコスチュームが濡れていることから、ボス戦で浴びた雨の雫、あたりだろうか。
滴りといえば、アンブレンが座っていた椅子の下には赤い液体の水溜まりがある。ほとんどはアンブレン自身の血だろうが、水が混ざったことで薄くなっているのか、あまり乾いていない。
「この山小屋、すごく古くてボロボロ……その気になれば、丸ごと持ち上げられそうです」
「持ち上げてどうするんだ」
「例えですよ!」
「わかってるって」
天井からは雨漏りをしているし、壁も隙間がある。そんなあばら家の壁面の一部に、血が付着している。さらに銃弾の痕らしき丸い傷が壁についている。これも何かの証拠になる、のだろうか?
「外も調べてみませんか?」
言われて山小屋の外に出る。特段何かはなさそうだが──と、歩き出そうとし、立ち止まった。ちょうど小屋周辺の地面のぬかるんだ部分に目を向けると、そこに目を引くものがあったのだ。靴跡だ。小屋に向かって、いくつか点々と続いている。誰のものだろう。見てもわからないため、とにかく写真に残しておく。
「やっているみたいだね」
「わっ!? 課長!?」
「あ……えと、お久しぶりです! ええっと、えっと、あの、課長……課長……お名前はなんでしたっけ?」
「オー、ショック! そこまでの時間は経ってないよ!」
カムナの表現は誇張しているが……課長が姿を消していたのは確かなことだ。そうだ、このことは問い詰めておかなければ。
「課長」
「どうしたのかね?」
「ボス戦のことですが。我々の参戦を拒否したと」
「うん? あぁ! 確かに。モンスターとの戦いで消耗すべきではないと判断したんだが」
「……私のせいですね。私が頼りないから」
「そうではないよ」
「でも……参加していたら……もしかしたらアンブレンさんが負傷することもなく、それで負傷した彼女がここに運ばれることもなくて、それなら……」
「そうはならなかったんだろ」
カムナと話す時は必ずこうなる。適当なところで切り上げさせなければいけないのだ。
「あ、そうだ、課長……お願いがあるんですが」
「はいはい?」
「街にいるみなさんを連れてきてくださいませんか。端末が通じなくて」
「うん? こちらでも一応やって……いや、無理か。機種変した方がいいのだろうか」
「そういう端末のパフォーマンスとかの話じゃないんですって……すみません、お願いします」
「わかったよ」
そう言って離れていく課長。そこで気がついた。これもまた単独行動だ。けれど、それ以上のことは言えそうにもない。ただお願いしますと見送った。
「……さて」
次は、魔法少女たちへの聞き込みだ。証言を集めなければ。