「戻ったよ。お待たせだ」
「やっと追いつきました。皆様こちらにいらしたのですね」
アンブレン発見から数十分ほど経ち、0・ショックに連れられた研究部門の面々が遅れて到着する。事件が起きていることを初めて知り、しかも殺されたのがアンブレンであると伝えられたうえで、拘束されたまま憔悴しているプロウドの姿を見ると、研究部門の面々は言葉を失っていた。
「また……捜査しなきゃ、なんでしょうか」
「でしょうね。犯人が連続殺人鬼でないとは言いきれませんし」
ジェリーマリーが吐き出した弱音の手前の呟きに、フォーマルメイドから冷徹な声色の言葉が出る。こんな場面に出会したいわけがない。それでも調査はしてくれる。その様子に、カムナが何か言いたげで、そこに声をかけるのもまたフォーマルメイドだった。
「どうかしましたか?」
「えっ、と……その、大丈夫だと思うんですけど、一応、先に皆さんのアリバイとか……ボス戦の後って、どうされてました?」
「私はプロウドさんの回復を。ジェリーマリーはショコラさんと一緒にいたようです。反抗はどちらにせよ不可能かと」
「あ、はい、だったら、その、大丈夫です」
「……確認くらいは取った方がいいんじゃないのかよ」
プロウドはこの場にいるが質問に答えられる状態にない。なら少なくともショコラに連絡をと端末を使おうとして、しかし、やはりまだ繋がらなさそうだった。ジャミングがされている状況では、別行動である魔法少女たちに、殺人が起きていることすら伝えられない。どうにか探したいが、やはり単独行動は避けたいところで。
「あぁ。通信妨害ですか。そうですね、エリ、解除していいですよ」
「……ッ、ちょ、フォーマルさん」
「なにか?」
そしてその指示により、その場にいた撃墜王エリが上着の内側から何か機械を取り出し、パチンとスイッチの音が響く。直後、皆の端末から一斉に通知音が鳴る。それぞれが取り出して確認し始めたところで、端末から立体映像が飛び出した。白と黒の、見たくもない相手だ。
『一斉送信だぽん。殺人事件が起きたぽん。現場はボスゾーン中腹の山小屋で、あ、えー、お、これ聞こえてるぽん?』
「……!」
『やっと通信妨害がなくなったぽん。誰のせいぽん? まったく。あんまりやり過ぎると、ゲームマスターからお仕置が飛んでくるぽんよ』
つまり、今までの妨害はエリによるものだった。今のやり取りを見る限り、指示したのもフォーマルメイドで明らかだ。その後ろで、プシュケからの視線が、今にも詰め寄ろうとしているかと思うほどエリを睨んでいた。しかし詰め寄る間も弁明する間もなく、立体映像のファヴの合成音声が続く。
『そろそろ裁判、始めるぽん?』
「……もう少し待ちますよ」
『そうぽん? 裁判長がそう言うならそうしとくぽん』
「ッ……やめてください、それ」
ティーパティーナは明らかに不愉快を露わにしていた。例の処刑を目にして、ファヴへのヘイトは全員から向いている。特にエリからは酷く、今回も銃を抜こうとしている。それを認識した上で、今度は一斉送信だから無駄ぽん、とエリに伝えた上で、通信が切れた。裁判が始まろうとすれば再び現れることだろう。
「……今のは」
「通信妨害に関しては、ボス戦に不要だったからですよ。むしろファヴの介入は遮断した方がいいに決まっています。奴に邪魔をされてはかないません」
「ふざけないで」
「誰にも言わずにすることじゃないよねえ」
「まあ、まあ。とにかく調査をしてもらわないと。もう監査である程度は見てる、けど本職が見ればわかることがあるだろうから」
部門内でまた一触即発になりそうで、さすがにそれは仲裁に入らざるを得なかった。それから、研究部門による調査が入る。ジェリーマリーが血痕を調べ、しかし水が混ざって薄まってしまっているせいで、出血からの時間の特定は難しい様子で、その量からも道具もなくてはわからないとしか言いようがないらしかった。遺体の傷は銃撃で間違いないとは言うが、体内に銃弾も見つかっていない。彼女の細い触手でそっと傷口の内側を調べても、実物は出なかった。
「すみません……」
「大丈夫! マリーちゃんはいつでも頑張ってるもん!」
「そんなことは……って! いつの間に!?」
当たり前のようにキューティーショコラが立っている。彼女もまた前に出て、遺体の状態を見る。それから大袈裟に首をかしげ、頭を悩ませた後、肩を竦めてみせた。考えるのをやめたのか。
「私の役目はこっちじゃないよね。はい、プロウドさんにプレゼントだ〜」
「ッ、やめろ、私は」
「はい、あーん」
ショコラが無理やり、どこからか取り出したチョコプリンらしきものをスプーンに乗せ、無理やり開けさせたプロウドの口に流し込んだ。拒否していた彼女だがさらに追加でチョコを入れられ、強制的に飲み込まされる。そして噎せ返った後、これまでよりも落ち着いたのか、息は荒くも、視線を返してくれていた。
「何を食べさせた……!」
「サングイナッチョ・ドルチェ、ショコラオリジナルバージョン……ってところかな。鎮静剤入りってだけだけどね」
「……そう、か」
魔法の鎮静剤だとすれば効能も早く、プロウドはようやく、怒りではなく、寂しさのような、諦めのような目を見せた。
「アンブレンは……誰がやったんだ」
「まだわかんない。よね?」
「は、はい、それを調べている途中です。あ、えっと、一応、銃撃の後が」
「銃撃だと」
「はい……」
「アンブレンが撃たれて死ぬはずがない」
アンブレンは銃弾くらい簡単に受け止める傘を持っている魔法少女だ。そんな彼女が、正面から撃ってくる相手に対処しないはずはない。強いて言うなら、壁にも似た、弾痕のようなものがあるのが根拠のひとつだろうか?
「ここにも銃弾の痕がありますよ」
「……目の前で外したか、アンブレンは一度逸らした? それで殺されるのか? アンブレンはそんな弱卒ではない」
「いやでも……」
「もっと卑劣な手を使ったはずだ。こと不意打ちを相手に対応した経験なら、私よりずっと多いはずだ」
「それは……」
少なくとも外交部門の魔法少女が、直接の襲撃を受けてろくな抵抗もできなかったなんてことは、実行犯にも相当な実力が要求される。その条件を満たす者はこのエリアの中には確かにいるはいる、けれど、その実力や立場があって、アンブレンを殺害しようとなどするだろうか。彼女を可愛がっていたレディ・プロウドと、外交部門に対する宣戦布告に等しいのでは。
「失礼。報告を」
プロウドと話している間、フォーマルメイドは外に出て、靴跡を見てくれていたようだった。彼女は冷静に、淡々と、魔法少女たちの足元を見て、そして、断定した。
「わかりました。外にあった靴跡」
「あぁ、足跡があった。写真に残してある」
「その靴の主はエリです」
「……は?」
フォーマルメイドの口から出てきたのは彼女自身の部下の名だった。そして呼ばれた当人も、またありえないという顔をして、目を丸くしていた。
「足跡って、そんな、待って」
「完璧に一致しています。サイズも靴裏も」
ぐいと無理やり持ち上げられるエリの足。その靴底は、確かにサンドリウムが見た足跡と一致している。
「一緒……だ」
「そ、そんなわけ! だってウチは飛んで移動して」
「飛行していては山小屋には入れない。着地したんだな」
「違う……」
「その腰の銃!! アンブレンを、撃ったんじゃないのか!!」
「ウチじゃない!!!」
「はいはい、だから、ちょっと待つ。その話は裁判でね」
プロウドの頭に再び血が上りはじめたところでショコラの仲裁があり、それ以上は互いに何も言わなかった。だが、印象はどうも傾いている。前回カムナに向けられていた視線が、今度はエリに向きつつある。
「あの! 疑うは……よくないです。全部、揃って、検証してから、すべきですよ」
それをカムナが言うと実体験の話になってくる。その危険性を注意するには一番の発言者だ。自分のせいですと言い出さないのが偉い。
「……なんという空間だ。血が腥い……人のものではないな、これは」
「人のものでは……?」
「水で流されているが。風神とでも戦ったのか」
プロウドは、倒れたままのアンブレンの頬を撫でる。もう硬くなってしまっているかもしれない。それでもそっと撫でていた。こんな場所で死にたくなかっただろうにと呟いた言葉が、その場の魔法少女たちの同情を誘った。
「……お、本当にあった……これだよな。すみません、探すのに手間取ってしまって」
「ええまったく。密着取材をしていたらまた、突然殺人事件だと。出遅れましたね、不覚ですよこれは」
遅れてきたリビングデビットとテレプシコーラが顔を出す。これで、全員が揃ったことになる。サンドリウムは魔法少女たちの顔を一通り見た後、ティーパティーナを見る。
「このまま、ここで裁判をしましょう」
山小屋の前には、ぬかるんでいない空間も多少はある。そこにティーテーブルが設置されればいい。そうして、第二の裁判が始まってしまう。