サンドリウムの提案は受け入れられた。ほとんど、アンブレンの近くから離れたくないプロウドの強行だった面もある。しかし、異論がある者もいたわけではない。山小屋の前、戦闘の痕が残るその上に、ティーパティーナの魔法によってテーブルが出現した。
魔法少女全員がテーブルに着く。当然、人数は減っていて、明らかな空席ができている。その光景に心は痛む。しかし痛めている場合では無い、と空気が伝わってくる。通信妨害が解除され、ファヴにもこちらが捕捉されているのだ。今突き止めなければ。誰よりもプロウドが許さないだろう。
「では……アンブレン先輩殺人事件についての、お茶会を、始めます」
お茶会の主の宣言により、全員の前にティーカップと紅茶が出現する。アンブレンが残した飲みかけの光景を思い出し、それもまた、いい気分にはなれない。
「アンブレン先輩は、その山小屋の中で亡くなられています。死因は恐らく、背中の銃創による失血……」
「誰だ。アンブレンをやったのは。名乗り出ろ。あの巫山戯た処刑なんかに取られてなるものか、私が処刑してやる、誰だ!! 出てこい!!」
プロウドがテーブルを叩く。残るのは静寂だ。萎縮する者、様子を見る者に分かれただけで、議論は始まらない。深く息を吐いて、サンドリウムが先導しようかと考えた時、先に隣のカムナが声を出した。
「あの! ま、まずは、皆さんの、ボス戦前後のことを確認したい……です。それじゃあその、私たち監査から……その……はい……ぇと……」
ようやく議論が進むかと思いきや声が小さくなっていく。注目されて、全員を疑っているような視線ばかり向けられて、そうなるのもわかる。だったらサンドリウムが割って入った。
「私とカムナで一緒に行動していました。ボス戦のことは知らされていませんでしたから、山頂には行っていませんでした。ボス出現の通知も通信妨害で入っていなかったようで……様子がおかしいので街の周辺の調査はしていましたが」
「あ、はい、そうです、そんな感じで」
カムナとサンドリウムに関しては今回には関わっていない、これは互いに確実だ。そして同様に、ふたりで行動していたのが複数組。話を聞くと、リビングデビットはテレプシコーラと穴を掘っていて、ショコラはジェリーマリーと街から出ず、レイヴンはプシュケとずっと一緒に探し物をしていたと言う。
特にリビングデビットからは、別の新たな証言も得られた。
「そうだ。穴掘ってる途中……丁度、ボス戦の少し後か。そのくらいに、銃声が聴こえてきたけど」
「そうでしたか?」
「だよ。時間もだいたいわかる。切り抜き、出せるか」
「それはできますが」
「一応、見ておきましょうか」
ティーパティーナからの許可により、テレプシコーラが魔法を使う。空間に映像が映し出されていく。確かに穴を掘っていたし、確かにそこにリビングデビットとテレプシコーラの他は登場せず、そして、投影の最後の方に、環境音の中に混じり、確かに乾いた破裂音が入っていた。
「銃声ね……」
「自分らが持ってる情報は、以上。次は」
この銃声は、確かに手がかりになるだろう。
「私ですね。ボス戦攻略後からずっと、プロウドさんの介抱をしていました」
「……間違いはない」
続いて、フォーマルメイドとレディ・プロウドが組になる。そしてティーパティーナは被害者のアンブレンと共に行動していた。と、なると。
「エリさん、貴方は……?」
「ウチは……」
エリが言い淀む。そこから怪しいと踏んだのか、プロウドが再び机を叩く。
「ウチはフォーマルさんの指示で、アイツが来ないように……通信の妨害をしよう、って、アイテム組み合わせて工作してたんよ」
「それはボス戦より前の話だろう。その後は? 一時間は戻って来なかったはずだ」
「仕掛けた装置の回収をしてたけん。飛び回っとっただけ。戦ってたりもしてない」
「誰にも会ってないんだ。足跡があったのに」
「ウチやない!!」
山小屋前の靴跡はエリのものだった。そして銃弾の痕があり、銃声がしていて、銃創が遺体にあった。そしてもうひとつ。
「エリさんはアンブレン先輩に、その、かなり敵視されていましたよね。何かあったんですか? そのことでまた……」
「ウチはなんも知らん……ほんとに、信じて」
「ジャミングしといてよく言える」
「それは!」
「何も言われなかったら黙って解除だけしようとしてたんじゃないの」
立場上は先輩であろうに、エリに向けて強めの言葉を投げつけていくプシュケ。ティーパティーナや彼女の懸念の通り、アンブレンは撃墜王エリを嫌っていた。敵視されていたというのは、殺害の動機にはどうしても成り得てしまう。ただ、プシュケの詰め寄り方には、それだけではないようにも見えた。
「まあ、まあ、話を進めませんか」
「あなたが言うこと?」
「被害者の……アンブレンさんはボス戦の後、ティーパティーナさんと一緒に山小屋に避難したんですよね。その後は何があったんですか?」
話を打ち切って、ティーパティーナの方に回した。彼女は視線を落とす。
「私も私で打たれ弱く酷かったもので、回復薬が必要だったんです。でも街に向かおうとしたら、すぐにモンスターに囲まれてしまって。プロウド局長に追い払ってもらうまで、隠れてやり過ごしたりしてました。殺されてしまったのは、その間です」
「なぜアンブレンを、ひとりで残した」
「そ、それは……私の落ち度です」
「あ、あの、今はそうじゃなくて、真実を探しましょう……私のせいでもあるかもですし……というかそれならモンスターのせいというか……って! ええと、あの紅茶はその前に?」
「そう、ですね。離れる前に、私がアンブレン先輩に出した紅茶です」
原因なり責任なりの話にカムナが絡むとややこしいことになるのだが、今回は自分で無理やり軌道修正していた。
「あ、後は課長ですよ! 課長はどうなんですか!?」
またいきなり飛んできたことで、課長、0・ショックはいきなりは答えを用意していなかったが、頭を掻き整理する。
「それは……さて。なんと言ったものか」
「そういえば課長とはぜんぜん会ってないような……何をされてたんですか?」
「独自調査だよ。それで街の方に」
「……つまり、アリバイはないんですね」
「いや。あることにはあるんだけど、その、ね」
見るからにやりにくそうな0・ショック。サンドリウムからしても初めて見るような振る舞いだ。上司だが、疑わしいものは疑わしい。カムナを一瞥、互いに同じことを思い頷き合い、続ける。
「煮え切らない返事は怪しまれますよ。答えてください」
「……言うね、君は。しかし……」
「お願いします、このままだと容疑者ですよ!」
「……」
0・ショックの視線がちらりとショコラの方に向く。彼女はきょとんと、首を傾げてみせていた。
「その時間は街の中にいたんだ。それで、見ていたんだ。ショコラ副部門長が、ジェリーマリーくんの胸を……して……するところを」
「えっ……」
証言のため、具体的に述べられそうになり、ジェリーマリーが一気に赤くなった。それで注目が集まるのはショコラの方だ。それでも、ショコラは平然としている。
「キューティーヒーラー式の触診だよ?」
「そんなのないよねえ」
「うん、ないけどね。でも、そんなに細かく覚えてるなら、本当のことなんじゃないかな」
これをアリバイとしていいのだろうか。恥を忍んで──最も辱められているのはジェリーマリーだが──それを言い出して、ショコラが否定しないなら、アリバイにはなるか。うん、なるはずだ。そしてこの件はあまり触れたくない。
「出揃いましたね。さて、アリバイがないのは……エリだけではないでしょうか?」
「お前か」
「……違う」
「殺せという指示はしていませんよ」
「……違う!」
「逃げても無駄だ」
「だからっ、ほんとに、ウチやないんよ、こんなん真犯人の思うツボなんやから、ねえ、落ち着いて」
「私は落ち着いている」
それでも首と両手を振るエリ。普段の様子よりもかなり精神的に摩耗しているのか、声が震えているし、視線も定まっていない。どこかで見たような様子だと、思い隣を見ると、あぁ、そうだ、前の裁判の時のカムナがそうだったと思い当たった。そのカムナが、どんと机を叩いた。
「わ、私は……! エリさんじゃないと、思います。もう少し……そうだ、まずはお茶を飲んで、落ち着きましょう。お茶を……飲んで……」
手元のティーカップに視線を落とす。このままではエリに票が集まるだけだ。それで決着するのは煮え切らない。なら、もっと煮詰めるしかない。そうだ、紅茶を、飲んで。
「……あの。お茶を、取りに行っても?」
「取りに……ですか?」
手を挙げ、よくわからないという様子のティーパティーナの許可を得て、立ち上がった。向かうのは小屋の中だ。遺体に小さな声で、ごめんなさい、と謝りながら、机上にあった飲みかけのカップを取る。それを持ったまま、サンドリウムは己の席に戻る。そして、アンブレンが飲んでいたであろうそれに、口をつけた。驚きの目線が向けられる中、考慮していた可能性が、全身で証明される。
「ッ、く、ぅ……なるほど……ッ、これ、やっぱり……
「毒──!?」
死因の可能性が変わってくる。直接は銃撃だとしても、毒により動けないところを狙ったのだとすれば、手練の彼女がやられた理由にもなる。
「……ミリオタ先輩なら毒くらい作れるんじゃないの、ジャミングなんてできるくらいなんだから」
「そんなの……」
プシュケの言葉に何か言おうとしたエリが、歯を食いしばり、何か言葉を噛み潰したらしかった。
「ともあれ、だ。銃も毒も用意できないといけないわけだ。それができるのは」
「なんでも買えるリビングさんもそうですね!」
「……いやまあ買えるけど。それを言ったら、大して絞れないんじゃないのかよ」
重大な発見だが、エリの可能性の排除には遠い。と、すれば、他に検討すべきなのは。