魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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シュガーレス

 ◇プシュケ・プレインス

 

「ま、待ってくださいぃ……」

 

 慌てて走り寄ってきたのはジェリーマリーだった。研究の口封じかと身構えて、けれどそうではない、らしい。どちらかといえば……ショコラなら味方についてくれるかもしれない、という期待か。いずれにしても、あの女がいるよりは、毒にはならない。息を切らした彼女は、手を膝に置いて、息を整え、ようやく呻きの類いでない声を出した。

 

「わ、私、また伝言頼まれてっ、フォーマルさんが──」

 

 フォーマルメイドが? プシュケは眉をひそめ、続く内容を待つ間もなく、響いたのは銃声だった。

 

「……は?」

 

 胸元を撃ち抜かれたジェリーマリーの傷口からひゅっと空気が漏れ、続いて血が溢れた。声は声にならず、こちらに向かって倒れてきた。唖然とする間もない。水鉄砲を抜き、せめて傷口を塞ごうと中身を魔法で粘着質のものに変え、絆創膏の代わりとして、しかしそんな生易しいものじゃない。

 

「端末! 回復! 早く!」

 

 短く伝えながらショコラが飛び出した。同時に端末が投げ渡されている。レイヴンだった遺体はそっと建物の壁に立てかけられていた。

 敵の姿は見回してもない。そうだ。銃撃なら銃があるはずだ。そしてプシュケの水鉄砲はここにある。ということは、と顔が浮かび、唇を噛むより先に、ショコラの端末で回復薬を連打した。受け付けられている、まだジェリーマリーは生きている。ただし安心はできない。

 

 数百メートルは離れた先で、音がする。見れば、小さなシルエットで見えるショコラが、玩具めいたステッキを振るい、岩を打ち砕いていた。ただの威嚇ではない。その陰から、何かが飛び出すと同時に銃声。今度はショコラが撃たれ、肩から血液が散る。その先に、指鉄砲を構えた人影。0・ショックだった。

 

「は!? なんで監査がこっちに襲いかかって……!?」

 

 考察する暇はない、相手は研究の人間を撃っている。ショコラの眉間にわずかに皺が寄せられていた。痛みか、怒りか。

 

「こちとら任務でね。最初からだ。我々は各部門内に紛れ込んだ、連中側の人間を探していた」

「連中……?」

「儀式襲撃に踏み込んできたプク派だ。脱出方法を優先すべきと思っていたが……もはやこうなれば看過できまい」

「……あは。全部喋るんだ」

「ああ。こちとら未然犯罪対策課でね。疑わしきは罰するしかない。言い当ててやらなければショックだろ」

 

 0・ショックは指鉄砲のまま、トリガーを引くような様子もない。そこから起きる銃声とまったく同時に、ショコラの体がビクンと震えた。それが彼女の魔法による銃撃だと理解するのが遅れた。ショコラはふらつきながら、その先で追撃を喰らい、また弾かれて体勢を崩した。飛び散ったのはその血だ。

 

「いったーい。銃撃で流血とか、キューティーヒーラーじゃ流せないよ」

「今ので死なないか。硬いな、正義のヒロイン様は」

 

 額を狙う銃撃。発生の予兆などないように見えるのに、ショコラはそれを感知し、身をよじった。脳天が撃ち抜かれることは避けたが、側頭部からは血液が迸った。続く一発、心臓の位置が見るからに撃ち抜かれたが、どういうわけか即死に至ることはなく、深呼吸ついでに立ち上がった。0・ショックは眉をひそめ、追撃の手を増やしていく。

 

「これで少しは犠牲者も報われる。広報にも、派閥にも悩まされた同胞たちもな。ショックに思うなよ」

 

 連続する銃撃。息をつかせぬつもりだ。彼女は喉から血を吐き、アキレス腱が弾丸に破砕され、毒の弾の作用か傷口が紫に爛れようとも、立っていた。

 

「……ショコラティエホイッパー」

 

 胸元から抜き放たれた、キューティーヒーラーの固有武器。いかにも玩具らしい造形だというのに、恐らくは腕力だけで地を抉り、土を巻き上げる。視界を潰しにかかったらしい。しかしそのうえで、0・ショックは乱射を選んだ。煙幕の向こう側からの乱打がショコラの体を襲う。ダメージは少なくない。しかし倒れてはくれなかった。

 ゆらり、ショコラが踏み込む。何発喰らおうが変わらない。真っ直ぐに飛び込み、土煙の中から一直線に0・ショックを捉えた。

 

「あれだけ受けてバラバラにならないとは」

「子供向け補正だよ」

 

 構える相手の懐に潜り込む。ホイッパーか。拳か脚か、相手が防御しようと腕を動かしたその瞬間の隙に、ショコラが選んだのはどれでもなかった。その唇が0・ショックの唇に重ねられる。後頭部は逃がさぬように抱え、その様だけ見ればただ見目麗しい少女たちの接吻だった。

 誰もが呆気にとられる。が、変化はその直後に訪れる。

 

「っ、キス……!? これが何の……」

 

 口を離したショコラがホイッパーをくるくると回し弄んだ途端、0・ショックの全身に、先程までショコラに刻まれていた傷の数々が浮かび上がる。突然の流血と、これまで当ててきたはずの弾丸のすべてを返され、彼女も対応できない。その場に倒れ、ショコラを見上げた。

 

「硝煙の匂い、だね」

「なっ……んだ、これは……貴方の魔法は、こんな……」

「せっかく混ぜてあげたんだから、そこはありがとうでしょ?」

「……受けた傷だけを……私に、混ぜ返した、と……? 出鱈目な……」

「毒までくれちゃって。きついことしてくれるじゃん?」

 

 突きつけられるホイッパー。指先が何かのボタンを操作して、カチャ、カチャ、と音を立てる。まるでリボルバーのシリンダーを回すように。やがて、そこには紫の光が灯り、引き金に指がかかった。

 

 火花が散り、小規模ながら激しい爆発が起きる。それは弾痕だらけの0・ショックの肉体を破壊するには十分すぎる威力であり、あれだけ血がどうとか言っておきながら、倒れ伏した敵は眼窩が破裂するほどのダメージを受けていた。

 対するショコラは、相手に押し付けたがゆえか、傷跡は薄れている。ホイッパーを再び胸元にしまい込むと、こちらに歩み寄ってきた。

 

「マリーちゃんっ! 大丈夫!?」

 

 その声色にも表情にも、純粋な心配が宿っている。ジェリーマリーの呼吸は安定していた。端末にあった回復薬はごっそりと、ほぼなくなってしまったが。

 

「よかった……プシュケちゃんのおかげだよ」

「監査に狙われる意味がわからない……」

 

 そもそも何かしでかしていなければ疑われようもない。そのうえでこれ、ということは。レイヴンの凶行も関係なく、ショコラの何かを知っていたのではないか。疑っても、目の前でレイヴンの遺骸を抱き上げる彼女に、それ以上は言えなかった。

 

「殺したら、裁判が始まる……隠滅でもした方がいいんじゃないの」

「裁判ね。もう、ないんじゃないかな?」

「は……?」

「考えることはみんな同じだから」

 

 手元の端末には、数字が浮かんでいる。『10/16』。明らかに少ない。ふと、それがショコラの端末であることを思い出し、差し出した。そっと受け取る手は、今しがた襲い来る正義を打ちのめした者とも、テレビの中の正義の味方とも思えなかった。

 

 それからジェリーマリーが目覚めるまでは、少し時間がかかった。目を覚ました彼女は平謝りした後、ようやく伝言のことを思い出したらしかった。

 

「そ、そうでした! 二時間ほど後に、集まって欲しいと……」

「二時間?」

「もう経ってる……」

「そっか! じゃあ、合流場所教えて!」

 

 起きたばかりでふらつくジェリーマリーを、自然な流れでショコラが支えたまま、魔法少女たちは歩き出すことになる。

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