魔法少女育成計画PlayfulGale   作:皇緋那

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幕間:ラズベリー探偵事務所Ⅱ

 ◇ダーティ・エリザ

 

 監査部門の本部はかつて学校だったものを改装して使われている、ということを、エリザはこの日訪れて初めて知った。魔法の国の施設にしては、パッと見の荘厳さというか、凄味がない。これなら裏城南の──かつてエリザが戦った相手の方が豪華な施設を使っていたのではないか。

 これでも、後援のオスク派閥が以前より便宜を図ってくれてはいる、らしい。全くそんな事情を知らぬエリザが、レーニャが嫌味ったらしく言っていたことを鵜呑みにしただけでしかない情報だが。

 

「こっち」

 

 元は魔法の国で暮らしていたがゆえか、レーニャは慣れた雰囲気で歩いていく。慌てて後をついていった。歩幅が小さい彼女にはすぐ追いつく。受付を通過し、来客証を首から提げた。

 

「レーニャ、あんたここ来たことあんの?」

「何回か。で。ディティック・ベルの知り合いとやらは?」

「ああ。時間通りだし、迎えに来るって言ってた。待ってればそのうち」

「ようこそ正義と誠実を愛し悪を許さず人に捌けぬ悪を裁く魔法少女によるすべての魔法少女のための最速最強の部門監査部門へあなたたちがベル先生の臨時助手ですね我らが盟友ジュエリーゼリーから話は聞いていますどうぞこちらへ広くはないですが迷子にならないようにお願いしますまあ迷子になっても最速で見つけますが最速最強の監査にあって最速が私なので」

 

 振り向いた。その時にはもう彼女は背を向けていた。白く流線型のボディ、新幹線を思わせるコスチューム。そして車両が通り過ぎたかのような一方的な早口。何を話していたのか全く頭に入ってこなかった。ディティック・ベルの……ということまでは連絡を受けている。つまり彼女が、その教え子であり、監査所属の協力者、シン・ソニックだ。これらの特徴はディティック・ベルに聞いた通りであり、半信半疑だったのにそのままが現れて、エリザの理解は追いつかなかった。

 

「行くわよ」

「おう……」

 

 とにかく足を前に出す。元々図書室か何かだったであろう部屋に案内されていった。中には魔法少女が何人かせっせとコンピュータに向かって働いている。

 こうも話が早いのは、まあ明らかに即断即決そうな彼女が窓口だったのもあるだろうが、もうひとつ。監査でも、これが異常事態だと認識しているということだ。

 

「失礼いたします天網寺董子事務局長お忙しい中すみません以前お話した魔法少女同時多発失踪の件で天網寺董子事務局長にお調べしていただいたデータをご共有いただけますでしょうか天網寺董子事務局長」

「…………えっと、そんなにフルで呼ばなくてもいいですよ……」

 

 三回も事務局長と呼ばれた魔法少女は、やはりこの一息での言葉の量に圧倒されつつも、コンピュータを操作した。

 

「監査で連絡のつかない者がこれだけと、他に捜索願の出ている魔法少女がこちらですね」

 

 人事のデータベースとはまた違い、監査に直接通報が届いたものたちだ。あの日……スワローテイルが消えた『儀式』の日の後に明らかに捜索の届出が増えている。

 

「こちらのデータ、いくつか頂いてもいいですか」

「すみません、少し手続きがありまして」

「話を通してきます」

 

 振り向くとシン・ソニックは既に走り出していた。というか、走っている姿も見えなかったので、声だけ残して消えたという方が正しい。エリザたちの前髪が揺れる。

 

「……ええと。おふたりは探偵さんのお手伝い、でしたか。あなたたちもどなたかを?」

「ああ。一番大事な友人……な、レーニャ」

「……」

 

 無言で、深く頷くレーニャ。彼女にしては珍しい反応だ。それはどうやら、事務局長にとってもそうらしい。

 

「ルーディス卿のご令嬢がそう言われるなんて。サンドリウムさんが聞いたら驚くでしょうね」

「サンドリウム?」

「分家出身の魔法少女で、監査部門に所属になった方ですよ。捜査員として活躍されているとか」

 

 以前からレーニャが監査に来たことがある、というのはそういうことらしい。家出したお嬢様だと聞いていたが、こう聞くと色々訳ありだ。深くは聞かないが……魔法使いの貴族が、他人の施術で魔法少女になっているあたり、察されるものはある。連絡を取っている様子もない。

 

「あいつは従姉妹みたいなもの。顔合わせたくはないけど」

「仲悪いの?」

「別に。互いに嫌いあいなだけ」

 

 ため息混じりの答え。ここはレーニャらしい。事務局長も苦笑いだ。

 

「あはは……そういえば、サンドリウムさんも行方不明者になっているような……」

「は?」

 

 董子事務局長が操作し、見せてくれた記録によると、確かに連絡が取れていないらしい。最後の任務が──見覚えのある日付。例の儀式の日だった。スワローテイルと同じだ。

 

「あいつまで……その儀式って、本当になんなの」

「お待たせしましたただいま戻りましたデータの件ですがすぐにでもベル先生に送っていただきたいとパルコ様とテラニーヤ様がご相談の末に仰っておりましたでは送りますね失礼します送りました」

「ああっ……」

 

 戻ってきたかと思えば割り込んだシン・ソニックはそのまま何かしらの操作の末、転送を完了していた。あらゆる行動が速い。ありがたいと思うのも何拍か遅れてからになった。

 

「えっと……あ、ありがとうございました」

「あ、あぁ、はい」

 

 なんとも煮え切らないままだが、情報そのものは回収できた。一応、監査部門への用は終わりだ。事務局長にも礼を言う。

 

「他の部門はどうだろうな」

「……儀式に何かあるのは目に見えてる。人事部門長の依頼の目的がわからない。儀式のせいなの見え見えなのに。スワローテイルはどうなってるの」

「ここでキレてもどうにもなんないからやってんだ。それに、みんな助けてくれてるだろ」

「でも」

「ご安心ください魔法少女学級卒業生の盟友たちとベル先生の力で必ずや」

 

 シン・ソニックの言葉は力強かった。人事部門長への協力が、その先でスワローテイルに繋がっていると信じる。それはレーニャもエリザも変わらない。他にも身内が巻き込まれていることを知った今、レーニャには焦りが出ている。

 

「魔法の国を揺るがす大事件になるのは、間違いないでしょうね」

 

 事務局長の言葉に、エリザも拳を握る。

 

 

 

 ◇ディティック・ベル

 

 各部門や施設から得られた情報を整理する。

 

 人事のコルネリアからは儀式についての情報も受け取ることができた。多数の要人が参加し、その悉くが消えている。

 宿舎からは、儀式に参加した者のみならず、獄中からも消えた者がいると伝えられた。看守として務めるマスカット・マスケットが先輩のフィルルゥと一緒になってアワアワしていたという。

 外交部門及びパナースからはさらに、普段なら喧嘩を売ってくる連中が現れないとも言っていた。常連客が来ない、とも。連絡が取れない魔王塾生もかなりの数だ。

 研究部門は役職持ちの他にも、実験中の魔法生物が消えたという。ジュエリーゼリーの所属する海洋研究所もだ。ついでに言えば、デリュージからはプリズムチェリーがいない、と言う声も届いている。

 監査は行方不明者のリストを届けてくれた。これがあれば、一般の魔法少女のうち巻き込まれた者も特定出来る。

 派閥からは現身候補だったナンバーツーが軒並み儀式絡みで消え、それに伴い親衛隊だの儀礼隊だの、まるごと減っている。

 広報はプラリーヌから、ショコラとフレーズというごく近しい相手の失踪を聞いた。いつもの余裕が剥がれており、広報内でも混乱が広がっている。

 一方で、ディティック・ベルが直接連絡を取った分界派は、儀式以前にそのリーダーの行方がわからなくなっていた。今回の件には関わりがない、と思われる。

 

 ……84名。

 プフレや現身を含め、彼女の言う『ゲーム』に巻き込まれたであろう魔法少女は、それだけいる。とんでもない数だ。以前の……ディティック・ベルたちが巻き込まれたあのゲーム、『魔法少女育成計画』事件でのプレイヤーは16人。その6倍余りなんて。

 作成された名簿は震える手でプフレへと送信された。少しして、着信音が鳴る。

 

「……はい、ディティック・ベルです」

『お疲れ様。時間通りで助かるよ』

「協力者のお陰です」

『84か。私含めて……少し足りないな』

「足りない?」

『ちょうど100になると思っていたんだがね。16足りないとは』

 

 冗談、には聞こえない。その数字には根拠がある。

 

「まさか、今行われているのは100人でのゲーム、なんですか」

『そのまさかさ。まったく、100人とは……どこかの話を思い出す規模だ』

「その参加人数は表示されていると」

『ああ。しかも着々と数が減ってしまっている』

「減って……」

 

 あの名簿のうち何人かは、既に命を落としている……のか。ゲームの中とリンクした死。それで思い浮かぶ可能性は単純だ。あのゲームを、規模を拡大してやらせているのだ。

 しかし、誰が、なんのために? キークは当然宿舎の奥深くにいるまま。現身まで巻き込むことができるとは、いよいよもって犯人のことがわからない。

 

『次の連絡はまた3日後にしよう。どうやら、あの時とは違って、時流は外と内で変わらないようだ』

 

 言われてはっとした。あのゲームの時は、ゲーム内での時間は圧縮されていたが、今度はされていない。キークとやり方が違うのは、推理の材料にはなる。例えば、ゲームをやらせること自体は目的ではない、とか。

 

『ともあれ助かった。こちらの予想も当たりそうだ。では、また』

「え、ちょっ」

 

 プフレは一方的に告げると、通話を切った。

 予想。彼女は思い当たる可能性がある。儀式絡みか。それとも。……不可解な電脳の存在なら、ディティック・ベルにも嫌な思い出がもうひとつある。ヴィリース(アイツ)のことか。

 

「ベルっち。次はどうするっすか」

 

 いつ帰ってきたのやら、隣にいたラズリーヌの言葉に、息を吐いた。

 

「外から干渉する方法を探す」

「あのゲームにっすか?」

「うん」

「そんなことできる知り合いいるっすか!」

「……いるよ。とびきり、性質の悪い奴が」

 

 選ぶ連絡先は、宿舎宛てだ。

 

「キークを引っ張り出す」

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