突入、第三エリア
◇スワローテイル
ファヴが落としていったマスターパスと、ランダム抽選から入手した通行証により──死亡したリップルを除いた──7名ぶんの移動手段が用意された。このエリアから7名が移動すれば、ショップでも販売が始まる。これで全員が移動できるようになる。
その状況が確定した時、第1エリアの魔法少女を全員集め、話し合った。元より話し合う気のない者はほぼ同席しなかったが……先遣隊のメンバーはそれで決めた。
まずはスワローテイル自身。
通行証を引き当てたというのっこちゃんとブギー。
単独での別行動を希望したキューティーフレーズ。
そして──。
「さあいざ行かん!!! リップル氏の無念を晴らすために!!!」
「釣り場〜釣り場〜」
「まだ見ぬレアアイテムが……うひひ」
船長、釣り人、コレクターの三人組。ミステリーク海賊団だ。意外にもいの一番に名乗りをあげてきた彼女たちは、スワローテイルがその海賊団の臨時手伝いとして入るよう提案してきた。
今まではリップルがいつも隣にいてくれた。彼女が……もう、いない以上、スワローテイルひとりではパーティは組めない。外に出たいと強く思っている彼女たちを味方にするのは、きっと合理的だ。
スワローテイルはそう自分を納得させた。
最も緊張が走ったのは、エリアを出る瞬間だ。結界から出られることを恐る恐る手を出して確認し、それからミステリーク海賊団の駆る巨大ザリガニ潜水艦の歩脚で出撃した。潜水艦の動きではない完全に十脚目の動きでの移動に、スワローテイルは船内の様子に目を輝かせる暇もなく、カプセラと共にじっと外の様子を窺っていた。
リップルが今際の際に言い残した「狂ってる」「生きて」という言葉。彼女をあんな風にした者が、外側にいるはず。
しかし道の上には何もおらず、広がっていたのは、どこか見栄えに無頓着な、ゲームめいただの通路だった。
「このエリア」
海賊船を進める中、反応したのはフィッシャーラッシャーだった。
各エリアの結界へと続く道は殺風景で、近づくと突然結界の外周が現れるような造りになっていた。最初に山岳の景色が現れたのを通り過ぎ、次には木々のシルエット、森林らしい景色が現れていた、その時だった。
「森林エリア。大物の予感がする」
「つまり魚か! 魚といえば水辺!! つまり我ら海賊団の主戦場だな! いざ行かん!」
「えっ、即決!?」
「うちらいつもこんな感じだからね〜」
わざとらしく肩をすくめるカプセラ。大声で乗り気の船長。誰も止める気はない。とはいえ、スワローテイルだって宛がない。最初の理由がどうあれ、進展があるならそれが良いに決まっている。
三人の視線がちらりとスワローテイルに集まる。
「うん、行ってみよう」
「そうこなくっちゃね」
「わかってくれるか釣り人魂」
「わっ、それはわかんないかも!?」
カプセラとフィッシャーに肩を組まれつつ、ミステリーク船長がザリガニを動かす。金属音とともに、沈み、風景ががらりとその色を変える。
内側に入ると──スワローテイルたちを出迎えたのは、豊かな自然、とは言い難い光景だった。
「……なんだこれは。ここは荒野エリアだったのか?」
抉り取られた地面。明らかな戦闘の跡。血痕。残された金属やコスチュームの切れ端。この場で何か起きたのは目に見えている。驚く船長に、水辺を探して目を凝らすフィッシャーを横目に、ハッチが開く。真っ先に飛び出したのはカプセラだ。
「うっわー、なんもないね。これは期待が外れた? っていうか」
床を調べ、飛び散った金属片を調べている。モンスターのものではなさそうだ。となると魔法少女のものか。スワローテイルもその隣に行き、しげしげと眺めた。
「うーん……?」
「武器の破片? なんかレアリティ低そうな雰囲気だけどー」
空にかざす。光が反射して、鈍く輝いた。魔法の武器ならばそうそう砕けたりしないだろうが、つまりコスチュームの一部か──と、光の加減を変えようと手をずらした時、飛び込んできた光の眩しさに思わず目を覆った。
「ぎゃっまぶしっ!!」
カプセラも一緒になって声をあげた、それがおかしいことを、彼女がさらに呻き声を出してようやく察知する。視覚を遮断したまま気配だけで構え、殴りつけられるのを腕で受け止める。鈍器か。痛みは来るが、折れてまではいない。後方に飛び、空に出て、薄目を開けながら、今しがた打撲を受けた箇所を蛹で包んでもう一度飛び込む。
「はぁっ!!」
硬化した蛹と、敵の武器が激突する。青白い光を乱暴に輝かせながら、ぶつかってきたのは懐中電灯らしかった。相手の魔法のアイテムなのだろうか。深く被った警備帽の横から白い耳をぴょこんと飛び出させながら、彼女はクマの色濃い目でじろりとこちらを見た。目に光がない。まともな精神状態にない者の瞳だった。
「……見つけた……最後のひとり……ボクのジェルミナール……」
「なにそれ、誰? わたし、違うよ?」
「違う……? 違う……探さなきゃ……探さないと……」
「くらえカプセル殴り!!」
カプセラが直接外殻で殴り、吹っ飛んでいく襲撃者。懐中電灯の光を警戒しながら構える。が、今度はまた別の方向から光が飛来した。
「ディジービーム!!」
どこかで聞いたことのある声。そしてどこかで聞いたことのある掛け声とはちょっとだけ違う掛け声。スワローテイルが咄嗟に飛翔し、カプセラも殻を使い防ぐ。すると軌道の曲がったビームはなんとハッチの方に飛んでいった。
「何事だ!! ……うぎゃーっ!?!?」
そしてミステリーク船長がビームを受けた。彼女は目を回してフラフラになりながら、その場で回り、倒れ、フィッシャーに支えられた。
「船長ー!!」
「め、めが、世界が……回る……回る……」
あのビームはどうやら目を回してしまうものらしい。直接の攻撃力はなくても厄介だ。そしてそれを撃った本人はというと、懐中電灯使いの隣に着地し、これまた見た事のある決めポーズをしていた。
「戦う光のお姫様! マジカルディジー!!」
「あれは……デイジーポーズ! まさか……あの魔法少女……超強火のマジカルデイジーファン!?」
「巨大生物による破壊行為……あなたたちの仕業ね! 許さないんだから!」
マジカルディジーと名乗った魔法少女。その既視感はそうだ、アニメになっている魔法少女『マジカルデイジー』だ。良く考えれば名前も真ん中の「イ」が小文字になっただけである。そしてどうやら彼女は勘違いの只中にあるらしかった。それも、この戦場の有様が、スワローテイルたちがやったという勘違いの。
「待って! 誤解だよ!」
「じゃあどうしてこうなっているの? イルミナースのライトだって反応してるんだよ!」
イルミナース、というのがその隣にいる懐中電灯使いの名前らしい。このゲームの中だ。敵と看做すのは、ルール上は間違っていない。けれど。
「待って! わたし達、別のエリアから来て……!」
「見つけなきゃ……ボクが……」
イルミナースはスワローテイルを見ている。いや。もっと向こうの何かを見ようとしていた。とても話を聞いてもらえる状態ではない。
どうすれば話し合いに応じてもらえるか。考える。周囲の状況を見て、手元の金属片を見て、これで誤解を解けたら……!
「こうなったら……フィッシャー! これ!」
カプセラが自分のコスチュームにあるハンドルを回して、ガチャガチャポンと何かを取り出し、投げた。受け取ったフィッシャーがそれを開けた途端に水が溢れる。反応したフィッシャーは即座に、まだ水の溜まっている半球に釣り針を沈めた。彼女の魔法には、深さも何もかも関係ない。虹色に輝くウキが何者かの力で沈み、ごく小さな水たまりからありえないサイズの影が引きずり出される。
「なっ……や、やっぱりお前たちが!」
現れたのは人喰いザメだ。釣り針から解放され空中に投げ出されたサメは大口を開けてふたりの魔法少女に襲いかかる。イルミナースのライトも、ディジーのポーズも構えられた。上空からの影が、ふたりを覆い、そして、ある時急に晴れた。
「なっ……」
サメはそのほとんどが齧り取られていた。上顎はなく、後ろ半身がただ食べ残されていた。
スワローテイルは見た。それを捕食した存在を。サメのかぶりものをベースに、様々な生物をコラージュしたようなコスチュームに、口元に血を滴らせた者の姿を。
それはこちらを見向きもせず、ただ通り道にあったから、あるいは同族だと思ったからこそ、喰らっただけのように見えた。
「次から次へと……コンプが近づくねえ!」
なぜかテンションの上がるカプセラ。上空を見上げたまま固まるディジー。落ちてくるサメの残骸を、冷ややかに見つめるイルミナース。
第三エリアのファーストコンタクトは、めちゃくちゃなまま始まってしまっていた。