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(おかしい……)
オールフォーワンは違和感を感じていた。もうそろそろ死柄木がオールフォーワン本体を奪取しにここ、タルタロスへとやって来てもいい頃合なはずだ。
なのにいつまで経ってもやってくる気配がない。もう一人の自分はどうなったのか……彼は今日の日付が気になった。
「今日はなんに……」
オールフォーワンが口を開いただけで辺りの銃口がこちらを向く。
「黙れ魔王」
「今日は……」
「許可なく喋るな!それ以上口を開けば発砲許可が下りる」
仕方がなく口を閉じるオールフォーワン。やれやれ、一体いつになったらもう一人の自分はやって来るのか。
だが彼が待っている人間は永遠にやってこない。
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日本中のヒーローを動員して行われた史上最大規模の大捕り物は、多くの犠牲を出しながらもヒーローの勝利と言って良かった。
超常解放戦線は完全に崩壊し、一人たりとも逃げることはできなかった。これで全て解決というわけではないが、ヴィラン連合から始まる一連のヴィラン犯罪は収束に向かう。
死柄木の崩壊でかなりの範囲が更地と化したが、個性社会故に復興は早い。死柄木との戦いの後、夏油も当然ヒーローとして、雄星教教祖としての両面で尽力していた。
そして夏油たち雄英生は進級して学年が上がる。こんな大事件に駆り出されていたが、彼らはまだ学生なのだ。彼らの学生生活は続いて行く。雄英体育祭では夏油が当然のように優勝をさらっていった。
そんな夏油はその後も活躍を続け、雄英を卒業するとすぐに事務所も開業した。そして圧倒的支持と事件解決数でナンバーワンヒーローになった。
ただ問題もあった。夏油は呪霊を管轄地域にばら撒いて市民を監視していたことにより、ヴィランが活動する余地がないほどの環境にしてしまった。
そのため夏油の管轄地域はそこだけ聖域のように犯罪率が低い地域となってしまったのである。それはそれでいいのだが、勿体ないということで夏油の管轄は期間で転身していく異例の形となったのである。
副業の教祖に関しても順調であった。信者が増えているというよりは、ヒーローに対して批判的・懐疑的な声が減ったのである。
夏油の理想とする社会、ヒーローを信奉する社会になりつつあった。彼にとってはB組の仲間たちが理不尽な批判に晒されないで活動できることも嬉しい。B組は夏油にとって家族も同然だ。彼らのヒーローになれていたら本望であろう。
私生活はさらに順調だ。ホークスに頼んで志村の戸籍を作ってもらい、高校卒業後すぐに正式に入籍した。ホークスは便利だと改めて思う夏油。そしてこれで堂々と志村の夫を名乗れるようになったのだった。
そして今日、夏油たちが雄英を卒業してから5年後、久しぶりにB組のメンバーが揃う。夏油は心を弾ませながら集合場所の居酒屋へと入る。もちろん志村も連れてだ。
続々と人が集まり拳藤の音頭で食べ始める。
「皆、今日は久しぶりに集まれて嬉しいよ!では~カンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」
夏油は当然に志村と隣合って座っている。そして周りには仲の良かった面子が揃っていた。
「やっぱ乾杯の音頭は拳藤じゃなきゃな!雄英に戻った気がしたぜ!」
「そうですな。やはり委員長は伊達じゃないですぞ」
「僕は暴力的な日々を思い出して震えが来るけどね」
かつての問題児たち、鉄哲、宍田、物間は好き勝手言っているが、これも親愛の裏返しだろう。
「たしかにこういうのは拳藤じゃないとね。無駄に声大きいし」
「傑、失礼だよ。ごめんね、いつまでも君たちには甘えてしまうんだよ」
夏油のおふざけを叱りつつ拳藤に謝る志村。
「いいんですよ、菜奈さん。雄英の三年間で慣れましたから。問題児なのは治らなかったな……」
「一佳、お酒飲むペース早いよ」
昔を思い出したのか酒のペースが早くなった拳藤を止める柳。ちなみに志村の本名は決戦後には明かしており、結婚して姓が夏油になったこともあり、女子からは下の名前で呼ばれている。
その後も昔話に花を咲かせていたが、ふと夏油と志村の子供の話になる。男性陣は相変わらず馬鹿話をしていたが……
「写真見るかい?今日はシッターさんに預けてきたんだ」
「見たいです!」
「私も」
志村が子供の写真を見せようとすると、
「夏油と菜奈さんの子供の写真?見たい見たい!」
「私にも見せて欲しいノコ」
「神からの授かりもの……無垢な子供はいいものですよね」
「ん」
いつのまにか志村の周りにB組の女子が全員集まっていた。
「そんなに期待を込められると秘蔵の写真を出したくなるな。ほらこれとか」
志村は息子と娘が手をつないで散歩しているところを撮った写真を見せる。
「「「「「可愛い~」」」」」
「そうだろう?可愛いだろう?可愛すぎて困っちゃうんだよなぁ~」
志村は自慢げだった。親バカを発揮している。
「おいくつですか?」
「長女が3歳と男の子が2歳だよ」
「へ~ちっちゃいなぁ~」
女子たちがキャッキャッと盛り上がっているのを見ながら夏油は考える。
(まただ。また長男とは言わなかった。やっぱりあなたは吹っ切れているようで吹っ切れていないね)
志村は戸籍があるが、あくまで死んだ人物とは別人の同姓同名の志村菜奈としているから戸籍上は弧太朗は息子ではない。同一人物だとすると流石に実年齢と見た目がおかしくなってしまうからこのようになった。
(吹っ切れてはいない。でも前に進んでいる。私はそれが嬉しいよ)
志村の子供を見る目はとても優し気で、母親の顔をしていた。
(私も前に進まなくては。猿は死んでも嫌いだ。この世界に生まれ変わった後もね。でも私にも大切なものができた。愛する女性と家族、大事な仲間たち。だから猿は殺さない。猿を殺さずに駆逐して見せる。それが私の新たな生き方だ)
夏油は改めて決意を明確にした。こうして前世で闇に堕ちたはずの男は、生まれ変わって光に堕ちたのであった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
途中、しばらく更新が止まってしまって申し訳ございませんでした。言い訳すると、忙しかったのと展開に迷っていた、あと批判が多かったことなどが重なりました。
批判も多くてへこむこともありましたが、何とか書き終えられたのは皆様の応援あってのことだと思います。ありがとうございました。
一応今後のことを。
とりあえずは今更新中の作品を完成させます。先に向こうを投稿し始めたのに順序が逆になってしまったので完結まで頑張ります。まだ先になりますが、それが終われば新たなヒロアカの二次を書こうと思っています。