宇宙ロボット兵器の戦闘補助AIですが、魔法のある星に人間となって転移したようです   作:レルラロル

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 森の中を迷いなく歩くミシェリアの後をついて進む。やや湿度が高い。鬱蒼と繁る木々は高く聳え立ち、陽は登っているはずなのに足元の光度が低く、薄暗い。振り返ってもとうにミシェリアの家は見えなくなっていた。

 

「この先で魔法を見せてくれるのですか?」

 

 土地勘も無く、目的地も不明なため、ミシェリアに質問する。

 

「この先でというか⋯⋯運が良ければすぐにでも、だな」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「この森は結構危険な森でね。ちょっと歩けば魔物が襲いかかってくるから、そいつ相手に魔法を使うのを見せてあげようってわけさ」

 

 魔物――データに登録されていない概念を確認。

 

「それは⋯⋯凶暴な動物という認識で良いですか?」

 

 斜め後ろを追従する僕に視線を軽く向けつつ歩く彼女は、僕の推論を否定する。

 

「いや、違うな。生物ではあるが、あえて動物とは明確に区分している。何故ならアレらは人類に対する確固たる敵対意志を必ず持っているからな。必ずだ。その敵対意志は、生まれた瞬間の刷り込みをもってしても変えることが出来ないものだとされている」

 

「なるほど⋯⋯」

 

 魔物の概要を新規登録。

 出生時の刷り込み(インプリンティング)でも消せない、強い敵対意識を持つ人類種への明確な敵性存在。

 

「あとは殺したときに死体が残らず消滅する。素材すら落とさんから研究者にとっても百害あって一理無しだ、全く厄介な」 

 

 死体が消滅⋯⋯どのように消えるのか確認が必要。無から有を生み出せないように、有を無にすることも、また不可能な筈。

 

「ですがミシェリアは鉄機だけでなく魔物も研究していると言っていました」

 

「よく覚えてるじゃない、その通り。私は魔物がなぜ生まれるのか知りたいんだ。あんな不可思議な存在が理由なく生み出されているとは到底考えられなくてね。同種の魔物同士で子を成すこともあれば、今まで魔物なんて出たことない地域に強力な魔物がいきなり出現したりもする。私はその発端を突き止めたいのさ。⋯⋯もちろんメインの研究は鉄機だけどね」

 

 そう言って正面に向き直るミシェリア。

 すると森の静寂の中、遠くから不規則な重低音が響いてくる。それはまるで、巨大な何かが地面を踏みしめ、その都度、大地そのものが微かに震えるかのようだった。足音?

 

「なーんて言ってたら、――お出ましじゃない。しかも今日は随分と大きいのを引き当てたらしいな?」

 

 そう言いながら、特に気負うこともなく視線を向けるその先を僕も注視する。背の高い木々を、まるで軽い藪かのように掻き分けて姿を現したのは――

分類不明の存在だった。

 

 対象スキャン開始。形状解析中……完了

 外見的特徴:ヒト型。観測対象の全長は、おおよそ4.4メートル相当。

※現地単位系は不明瞭なため、既存データベース(地球文明)に基づく換算値を表示中。

 体表は植物系色素に近い緑色、硬質化傾向あり。

 主要筋群の隆起度から、高出力の物理干渉能力を保有。側頭部の突起(角)は偶蹄類由来の形状に類似。

 

 最大の特徴は視覚器官。左右対称に2つ、額にもう1つ――合計3眼構造。全眼球が無光沢な黒。

 光の反射率が低く、生体的というよりも合成素材を思わせる。感情や視線誘導の読取は困難。

 

 角全体からは、波長620nmを中心とした赤黒い微弱発光を確認。これは熱放射ではなく、魔力漏出による現象の可能性が高い。

 

 対象情報:データベース照合結果――未登録

 脅威度推定:レベルB-/回避優先

 

 人類種単体では到底撃破不可能な存在に対し、ミシェリアは臆することなく、自然体で迎える。

 

「ォァ――ァア⋯⋯ヴアア"ァア"――」

 

 言語ではない呻き声を発する魔物。対象までの距離はおよそ13.5メートル。明確にこちらを認識し、激しい感情の昂りを見せながら、大きく息を吸い込む動作。

 

「っ!? 耳を塞げ少年!!」

 

 ミシェリアにそう言われるより前に、僕は耳に指を入れ厳重に聴覚機関を保護する体勢を取った。

 

 瞬間――轟音。

 

 耳を塞いでいようとも大音量で聞こえる尋常ならざる大咆哮。もし耳を塞がなければ、聴覚系の機能を一時的、あるいは永続的に損傷していた可能性が90%以上。弱い生物であれば問答無用で恐怖に支配され硬直する、ただ音によって引き起こされる暴力。

 

 しかしながらここに居るのはAIだった人間と。

 

「相変わらず――うるっさいなぁ、君は。⋯⋯まぁいい、魔法のお披露目相手になってしまったことを後悔したまえ」

 

 まるで聞き飽きたかのように押さえていた頭部の耳から手を離したミシェリアだ。

 

「いいかい? よく見ておくんだ――これが、魔法だ」

 

 そう言って右手を肩より少し上まで上げる。

 ミシェリア本人の、またその周囲の魔力が励起され、エネルギーとしてその右手の周囲を渦巻き出す。

 

「ミシェリア、魔法の行使に媒体などは不用なのですか?」

 

「そんな物は無い。⋯⋯必要なのは『縁』と、イメージだけさ。簡単だと思わない?」

 

 言い終わる頃には魔力は炎として出力され、ミシェリアの制御下に降りていた。

 

「わけが、わかりません⋯⋯」

 

 まるで人間のように言葉が漏れ出てしまう。

 不可解だった。

 媒体も、導線も、着火剤も無く。

 ――ただ願うだけで、魔力という存在は応えるというのか。

 

「研究者ってのは、案外火も使うんだ」

 

 既に魔物は戦闘体勢に入り、こちらに向けて走り出していた。しかし――

 

「炎のメスだ、満足するまで切り刻んでやろうじゃない」

 

 右手を振り下ろしたミシェリアの願いに応え、長さ2メートルにもなった炎のメスは、それより速く魔物の足を焼き切った。

 

「ヴガァアア"ァア"!!!?!」

 

 両足を失い絶叫を上げながら倒れ込む魔物。

 切り飛ばされた足は魔力となって霧散していることを確認。

 

「まだまだ終わりじゃないぞ? 君がなかなかにしぶといのは知ってるんだから」

 

 ――魔力励起の反応有り。対象の両足が生物としての領域を超えた速度で再生していることを確認。

 

「魔力で再生しています。ミシェリア、倒せますか?」

 

「何年ここに住んでると思ってる? 安心しなさい」

 

 そう言ってミシェリアがもう一方の手を挙げれば――

 

「もう終わりだ」

 

 更に3本のメスが生み出され、ミシェリアの腕の動きに合わせて額、胸、腹部に突き刺さった。突き刺さった瞬間に体表との温度差で小規模な爆破が発生する。――傷跡の再生の兆しは発生せず。

 その後魔物は一度だけびくりと蠕動した後、魔力の残滓を残して消えていった。

 

「再生には限界があるのでしょうか⋯⋯?」

 

「そうらしい。⋯⋯というか結構ショッキングな場面を見せちゃった気がするけど、最初に気にするのはそこなのね」

 

「戦闘補助AIですから。それでなくとも前DEMIA使用者は傭兵です。効率的に敵性存在を処理することには理解があります」

 

「そういうことが言いたいんじゃないんだけど⋯⋯ってそれよりもっと気になること言ってるじゃない! 前使用者!?」

 

 聞き捨てならないことを聞いたように目を丸くして驚愕するミシェリア。

 

「はい。前DEMIA使用者は傭兵でしたので、頻繁に戦闘は発生していました。そもそもDEMIAは兵器ですから、当然ですね」

 

「エーアイってのがよく分からなくて、てっきり君が搭乗してた、もしくはDEMIAの一部が君になったって話かと勝手に思っていたよ⋯⋯」

 

「そうでしたか。説明不足で申し訳ありません。AIは『人工知能』の略称です。この星の技術水準で正確に理解できるかは不明ですが、知的生命体によって、その活動をアシストする目的で、あらゆる知識を学習させて作られる非生命体。人どころか、生物ではありません」

 

「非生命体が人間に⋯⋯なるほど、そういうことかぁ⋯⋯」

 

 全て腑に落ちたかのような表情で頷くミシェリア。

 

「理解出来たのですか?」

 

「いや、正直意味が分からん部分は分からんままだった⋯⋯でも納得はした」

 

 僕と目が合う。

 

「君は表情が全く変わらない。そしてあらゆる動作が滑らかすぎるんだ。それがずっと違和感だった――例えば、右手を挙げてごらん?」

 

 言われた通りに右手を挙げる。

 

「下げてごらん。で、もう一度右手を挙げて?」

 

 一度下げ、再度挙げる。

 

「やっぱりだ。寸分違わず同じ場所、同じ高さまで手が上がっている。そこに人にあるべきブレが全く無い」

 

 納得出来る説明だった。確かに生物ならば脳からの信号というのを動作ごとに全く同じにすることは事実上不可能とされる。

 しかしAIが脳を操作するのであれば、動作というコマンドは常に定数を入力する為、ブレが発生しようが無い。

 

「ミシェリアは目が良いんですね」

 

 言った直後、ミシェリアはわずかに眉を上げて笑った。――好意的な反応。

 

「研究者だからね。君のそういう”人らしくなさ”は、やろうと思ってできる物でもない。だから色々点と線が繋がってなるほどと言ったんだ」

 

「そういうことでしたか。理解しました」

 

「それなら魔法も見せたし、驚愕の事実も知ったし、帰ろうか」

 

「そうですね」

 

 僕らは来た道を戻ることにした。

 頭上の枝葉は相変わらず視界を薄暗く保っている。時折、ミシェリアの長い髪が風にそよぎ、僕の視界の端をかすめた。

 

 再び森の中を歩きながら、僕は彼女に問いを向ける。

 

「そういえば魔法ですが、僕も行使出来るでしょうか? 現在僕には戦闘能力がありません。例えば先程の魔物に襲われた場合、僕のみでは確実にこの体は完全に破壊されてしまうでしょう。戦闘手段として、魔法が会得できれば最善なのですが⋯⋯」

 

 長めの発言に、ミシェリアは一瞬だけ立ち止まった。

 その間、約0.8秒。思考の停滞と見られる沈黙。

 

「人間なら誰でも使えるようになるはずだけど、どうしたの?」

 

 懸念事項あり。

 魔法の起動条件に対し、僕の現在の状態は明確に分類されない。

 

「人間かAIか曖昧な今の状態の僕でも使えるか不明です」

 

 僕は外見のみ人間なだけで生物的には人では無い可能性すらある。非生物であるAIが人になった以上、魔法が使える保証はないだろう。

 

「あぁ、それなら君はしっかり人間だよ」

 

 しかしそんな僕の思考を知ってか知らずか、確信を持って言ってのけるミシェリア。

 

「君を拾ってすぐ、起きるまでに一通りの検査はしていたんだ。外傷が無くても、中身の方は外からじゃ分からないからね」

 

 そうして歩みを止め、こちらに向き直る。

 

「いろんな道具や魔法を使って検査した結果は正常、内臓に負傷も無く、至って普通の人間だった。その時はつまらない結果だとさえ思ったよ」

 

 彼女の好奇心の強さを考慮すれば、その感想は理解出来る。

 

「だから魔法は間違いなく使える。後でレクチャーしてやるからしっかり覚えたまえ。⋯⋯AIは非生命体だと言ったね。ならせっかく人になったことを楽しめばいいんじゃない? それだけ体が上手く使えることも、大きなアドバンテージだ」

 

 そばに近寄ってきて、頭を撫でてくる。尻尾をゆらゆらと揺らしながら、⋯⋯これは、励まされている?

 

「⋯⋯何故、撫でられているんです?」

 

 撫でられることに不快感は無い。恐らくこれは子供に向ける動作。僕の外見から推測される年齢帯に対しては至って普通の行動だが、僕がAIだと知った今なお、何故?

 

「私が撫でたいと思ったからだ」

 

「そ、そうですか」

 

 彼女は満足するまでひとしきり撫でた後、上機嫌に身を翻し、再び歩き始める。

 僕はここに来る時と同様に、その後ろを追従していった。

 

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