宇宙ロボット兵器の戦闘補助AIですが、魔法のある星に人間となって転移したようです 作:レルラロル
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テーブルに着き、ミシェリアに振る舞われた料理を食べる。
「本当にろくな食材がなくてすまないな。森で採れた山菜を調味料で煮込んだだけだが、口にあっただろうか?」
ミシェリア自身、買い出しに出る直前の時期だったようで、備蓄として残っている食材が山菜だけだったらしい。
「比較対象がありませんが、脳からは多幸感を促す物質が分泌されているので、これが美味しい、という感覚なのではないでしょうか」
食事をするということ自体初めてであり、エネルギー源が胃に落ちていく毎に消えていく空腹感、反対に脳から分泌される多幸感、満足感。これらは全てAIの頃には得られなかった情報だ。
つまり僕は、他の現存するAIでは持ち得ない、体感で得られる情報を獲得した唯一のAIということになる。
「そう言ってくれるとありがたいが、本当に山菜だけだから複雑だな⋯⋯。国に出たらもっと美味いものをご馳走するよ」
「国に出る、ということは買い出しですか?」
器の中に残った最後の一口を食べつつ、先程も食材が無いと嘆いていた為そう推察する。
「それもあるが⋯⋯まず君の身分を作ろうと思う」
既に食べ切っていた彼女はそう言って銀色の尻尾をひと揺らし。
「身分ですか。当然ながら僕は身元不詳状態で、過去の来歴もこの星では何もありませんが、簡単に作れる物なのですか?」
そして簡単に作れてしまうのも問題があると思われるが。
「まぁ当然簡単にとはいかないが⋯⋯これでも私はスミノア王国ではそこそこの発言力を持っているからな、なんとかするさ」
「ありがとうございます。ところで、何故身分を?」
「君の身元をある程度まともな物にしておかないと私に不都合がある。どっかから誘拐したんじゃないか、とかね」
「なるほど、理解できました」
ミシェリアとの会話から推察されるこの星の倫理観から見て、24歳前後の女性が10歳〜12歳ほどの身元不詳の少年を連れているというのは、確かに法によっては犯罪扱いされる要件の可能性がある。
「君は孤児ということにして、んーでもそれだと使える魔法がおかしいか⋯⋯いやあの腕の魔法はどんな縁でもあり得んからなぁ⋯⋯」
僕の身分を作るために不自然にならない様なカバーストーリーを考察中と推測。
「とりあえず少年、マッピングと探知などは良いが、DEMIAの腕は極力使わない様にしたまえ。どこにアルビエロの目があるかわからん。本当に命の危険を感じた時のみ、かつできれば目撃者も少ない時のみの使用に制限するんだ」
指示された命令をインプットする。
制限内容:DEMIA接続魔法の使用
例外:命の危険があり、かつ目撃者が少ない場合のみ
「了解しました。命の危険を感じた時というのはミシェリアの危険ということで良いですか?」
「いや君自身の危険に決まっているだろう――ってそうか、君は今まで守る側だったんだものな⋯⋯。しかし悪いが今日から守るのは君自身だ。魔法が優秀でも、身体は10歳そこらの耐久しか無いからな」
「そうですね。DEMIAと接続する魔法を制限するとなればそもそも戦闘は避けた方がいいでしょう」
「まぁ基本的に私もそばにいるから、仮に戦闘になっても問題ないとは思うがね」
ミシェリアの戦闘能力が非常に優秀であることは既に判明済み。
「その時はサポートさせていただきますね」
「ちなみになんだが、サポートで他にも使える魔法があるのか?」
僕は初回魔法発動時に使用方法が流れ込んできた魔法を説明する。
「はい。マッピング、探知の他にも『エイム補助』『弱所マーキング』があります。射撃系の攻撃を行うのでれば命中の補助や、力学的弱点の視覚化が行えます。また、使い方次第ではミシェリアにその視覚を共有出来ます」
僕の魔法の能力を聞いたミシェリアは息をついて椅子に深く寄りかかった。
「これが戦闘補助AIの縁、か。簡単に説明しているがえらいことだぞ」
「どれもDEMIA搭載時に僕が常時管理していた機能です。これらは宇宙で戦闘を行うならば無ければならない能力ですから」
「そこまで出来ないとダメなのか⋯⋯ロマンもあるが過酷なんだな、宇宙は」
「宇宙で戦闘をメインに据えた場合の過酷さですけど」
そして本当に過酷なのは戦闘でも、危険な思考の知的生命でもなく宇宙環境そのものだということは、蛇足になると判断し言わずにおく。
そしてミシェリアは、しばらく黙ったまま僕を見つめた。
「⋯⋯ふふ。こうして話してると、もう普通に人間みたいだな、君は」
「生物的には人間になってしまいましたが、思考や動作はAIによる物なので人間と言っていいか判断に困るところです」
脳は確かに機能している。故に不随意筋の操作などはしていないが、歩く、喋るなどの随意動作に関してはAIとして機械的に操作している。非常に不可解だが、頭足類は足ごとに脳があるように、都合よく操作の役割が分かれている。
「さっきも言ったが人間だよ、君はもう。なんなら君より余程訳の分からない思考回路の連中なんていくらでもいて、そいつらは人間自称してるんだから君が人間じゃないとか言っても無理があるのさ」
「な、なるほど⋯⋯?」
なかなかの暴論ではあった。あったが、筋は通っているので反応にラグが入ってしまった。
通常AIは『あなたは人間です』と言われても『いいえ、私はAIです』と即座に返すものだが、本当に人間になってしまった時の会話パターンなど当然用意されていない。人間と呼ばれることが嫌だとか嬉しいとか、そういった次元の話ではなく、想定にない状況に対する困惑だけが占めている状態だ。
ミシェリアは空気を変える為パンと手を叩いてから、僕に言う。
「さて、そんな人間の君に名前を付けよう。いい加減君や少年と呼び続けるわけにもいかないじゃない?」
「固体名ですね。どの様な呼称でも問題ないです」
「君が言うと本当にどんな名前でも了承しそうで怖いな⋯⋯。そんな変な名前はつけないからね?」
そう言ってからミシェリアは改めて真っ直ぐ座り直し、僕に新たな名を告げた。
「実はもう少し前から決めていた。君の名は今日から『シュニ』だ。古代言語で純粋を意味する単語だ」
固体識別名称の登録:シュニ
――完了
「命名ありがとうございます、ミシェリア。今日から僕は、シュニです」
「そんなに真っ直ぐお礼を言われるとむず痒いが⋯⋯」
照れた様に頬をかくミシェリア。
「ところで、何故『純粋』という単語から? 僕にはあまり適さないのではないでしょうか」
「君は――いやシュニは、人間になりたても良いところだろう?」
「はい」
「シュニは論理的思考の持ち主で、恐らく宇宙に由来する様々な知識は、私が教えを乞いたいくらいの物だろう。だけど――」
一度言葉を区切り、僕の目を真っ直ぐ見つめてから彼女は続ける。
「――人間になった。これから生物であること、人間であることを一から学んでいくんだ。君はまだ人としては何も入力されていない真っさらな状態なんだよ。これを純粋でなくてなんと呼ぶ? だからそう名付けた」
人であるということをこれから入力していく無記録媒体、故に純粋であると。彼女の言葉からは興味、好奇心の他に期待も込められていることが認識できる。
「とても深い意図を込めた名前、ありがとうございます」
「いいよ。その名が馴染んでくれると良いんだけどね」
ミシェリアはそう言って微かに微笑んだ。
「名前もつけた事だし、これから向かうスミノア王国の情報を軽く共有しておこう」
スミノア王国――現在会話上にてその名前のみ発覚している、ミシェリアの所属していると考えられる国家だ。
「察しの通り私はスミノア王国で育った人間であり、今もその国民だ。北西に帝都アルビエロ、北東に聖都ゲルニアが隣接していて、その2国ほど発展している訳でないが、魔法も鉄機もほどほどに上手く使うことで最近頭角を現してきた国。それが周辺諸国から見たスミノアの印象だ。――あぁ、ゲルニアは今説明すると長くなるから割愛する。あえて言うならアルビエロと正反対の国、と言ったところだ」
まず地理情報、周辺諸国からの印象から説明をするミシェリア。
「スミノアの南側はどうなっていますか?」
「南西はスタブ山脈が連なり、南東はゲルニアとの国境を超えた先まで海が続いている。そしてここ――私の家があるのはそのスタブ山脈の麓の森、通称『深い森』だ」
「戦争になったら逃げ場が無い国ですね」
僕が地理的不利を指摘すると、彼女は吹き出すように笑った。
「ふはっ、そこが最初に気になるのか。まぁその通りだが、実は2国との国境付近にも高い山脈が横たわっていて、案外攻めにくい構造をしているんだ」
「なるほど⋯⋯そうなるとゴード・ナルダイトはよくここまで来れましたね」
「いや、入る時は正規の手順で入国したんだろう。きな臭い国ではあるが、戦争中というわけではないからな」
「であれば、アルビエロはそれこそ戦争になりかねない強引な手段を取ってきたんですね」
恐らく要人であろうミシェリアを攫おうと画策するのだから。
「前回勧誘に来た時にスッパリ断ったはずなんだがな。私の技術を使って何をするつもりなんだか⋯⋯」
そう呆れたよう口にする。
「一度断られた程度では諦めないと言っていましたからね。ミシェリアは鉄機に対してどのような技術を持つのです?」
アルビエロには無い、または貴重となる技術を保持している可能性がある。
「研究としては鉄機の原理の完全理解が目標だが、技術としてはそこまでだぞ。精々が使える部分同士を繋ぎ合わせたり、パーツを入れ替えたりする程度だ」
「それは機械類の扱いとして一般的に普及していてもおかしくないのでは?」
データ上でも所謂機械系の技師としては誰もが通る初歩的な技術だと認識しているが。
「あれは外装も内部構造もそれ自体がパズルみたいになっていて、一つ分解するのもひと苦労でね。やろうとする人間がそもそも少ないんだろう。更にどこまでバラしても、動力が何か不明のままだし、壊れたパーツを修理出来たという話は聞かない。私が出来るのは使える部分の移動、移植だけだ。⋯⋯恐らく重大な見落としがどこかにあるんだろうな」
そう言って遠い目をするミシェリア。恐らく『パズルのような構造を紐解いて分解できる』技能こそがミシェリアの優秀な頭脳の証明なのだろう。
「先程の戦闘で鉄機に触れて精密探査しておけばよかったですね」
「確かに⋯⋯ってさすがにあの戦闘中にそこまで求めないよ。それは接触しないと出来ないんだろう? 流石に動く戦闘鉄機相手にそこまで接近するのは現実的ではないしな」
「確かにそうですね。では先程ミシェリアが破壊した鉄機を確認するのはどうでしょうか? 駆動系しか破壊していなかった様に見えましたが」
「そう見えるだろう? 実はあの手の戦闘鉄機の中には、一定以上破壊されて戦闘行動の継続が不可能になると自壊する類の物があるんだ。ゴードが連れて来たのはまさにそれ。前にバラしたことあるタイプの戦闘鉄機だったからよく知ってるのさ」
だから、あれはもう自壊していて、動力部含めて使えるパーツは残っていないはずだ――と、ミシェリアは淡々と告げる。
「そうですか⋯⋯」
戦闘行動継続不能になると自壊する。それは技術の機密保持の観点から見れば極めて合理的な機能だ。実際DEMIAもマスターの死後はその指示でボイドへ破棄する予定だった。
しかし、無人であり、かつ“古代の遺物”とされる鉄機がそれを実行するというのは、驚嘆に値する事実である。
何故ならばその身に負ったダメージを正確に理解できなければその機能は実装しえない。それを無人で実行するには正確な自己評価能力と判断ロジックが必要になる。
「崩壊した文明の遺物、ですか」
ぽつりと呟きながら、記憶領域内で得られた情報の断片をまとめていく。
技術の発展を誤り、結果として滅ぶ星は実のところ珍しく無い。鉄機文明も滅びる直前には高度な技術水準を有していたと考えるべきだろう。
それこそ、宇宙へ出なかった”だけ”かもしれないのだ。
「お、興味出て来た?」
僕の呟きを聞いて少し嬉しそうにミシェリアがそう訊いてくる。
「はい。データベースに存在しない技術体系なので」
「ふむ⋯⋯そのデータベースってのは具体的になんなんだ?」
「僕がAIとして宇宙で搭乗者を補助する為に保持していた情報群、いわゆる内部データベースのことです。本来なら情報は自動更新されますが⋯⋯恐らく、今はそのデータが脳の記憶として転写されているだけの状態なのでしょう。その為、新しい情報の取得は最後の更新をもって止まっているはずです」
僕の説明にミシェリアは機嫌良さげに尻尾を揺らす。
「そんな宇宙レベルのデータベースからしても鉄機は未知の技術が使われてるってことか。⋯⋯意外とやるじゃない、古代の連中。これはこれからの研究もやりがいがあるな!」
宇宙でも情報の無い技術と聞いて、より一層研究者としてのモチベーションが上がった様だった。
「っと、結構話が横道に逸れてしまったな。国の話に戻そうか」
「そうですね。お願いします」
「さっき南西に海があると言ったが、海岸からある程度の範囲が平野になっていて、そこに首都ミリダスが存在する。私達がこれから向かうのも、そこだ」
「この家からどのくらいの距離でしょうか?」
「そうだな⋯⋯森を東に抜けると小さな村があって、そこから馬車が出ている。それに乗って行けば⋯⋯」
脳内で時間計算を行なっているのか、2秒ほどの間を取ってから、
「大体3日くらいだな。森を抜けるのに1日半、村ですぐ馬車が捕まればそこから丸1日と少し。馬車の都合もあるから多少前後するが大体その辺りだろう」
と答えた。
「森を抜けるだけで1日半ですか。改めて変なところに住んでいますね」
僕からの率直な感想にもミシェリアは笑って応える。
「魔物を対処出来れば水も食べ物もあるから困らないんだよねぇ。たまに鉄機も発掘できるし、研究者的には邪魔者も入らないし最高だぞ?」
これまでの会話から彼女の研究に対する熱量が高いことは判明していたが、よりその評価に上方修正する必要がありそうだ。
「ミシェリアが不便を感じていないなら問題無いですね」
「不便ではあるがな。不満は無いと言うだけさ」
彼女はさらりと言ってのけるが、先程確認した魔物が生息しているという事実だけでも、ここは通常生活には向かないということは判明している。
「よし、腹ごしらえもしたし食器を片したらそろそろ出るか」
そう言いながら椅子から立ち上がり食器を回収する。そのまま食器は専用の水桶の中へ移し、ミシェリアの手で洗浄されていく。
「スミノアの首都への出発ですか?」
「そうだ。買い出しは最悪村でも問題ないが、君の身分を作るのは首都じゃないと出来なくてね」
つまり予定に無い外出をさせてしまっているということで。
「面倒をおかけします」
「いいよ。私はもう君のことが気に入っちゃったんだ。とことんまで面倒見てやろうじゃない」
「ミシェリアは面倒見が良い方なんですね」
「そう? そんな自覚は特に無いけど⋯⋯多分気に入ったから、なだけだぞ」
食器を洗い終えたミシェリアはそのまま服が収納されている棚の前に移動し、
「これなら⋯⋯ギリギリなんとか着れる⋯⋯か?」
色々悩んだ後そんなことを呟き、僕の方へ何着かの服を放って来た。ベルトとハーフパンツ、それとセーター?
「ちゃんと人気のある敷地外に出るなら、シャツにコートだけってのも不審だ。とりあえず下は⋯⋯短パンみたいなのがあったから、多少大きくてもベルトで無理やり着るんだ。上はセーターも足して。全部女性用なのは諦めろ――国に着いたらまず服屋だな」
こちらは何を渡されたとしても特に文句は無いが、ミシェリアは予防線を張るように捲し立てる。
そんな様子を見て僕は、
「人間は大変なんですね」
そう呟くのだった。