「りんちゃーん、みかんー」
「私はみかんじゃ――ハァ、まぁいっか」
時は元旦。お雑煮を食べ終わった僕たちは、なんとも緩やかな時間を過ごしていた。
いつもの制服ではなく、ゆったりとした部屋着にはんてんを羽織ったりんちゃんは、普段では考えられないくらいにだらけている。現に、僕への小言を諦めたくらいだ。
元旦最高。りんちゃんから皮を剥かれたみかんを受け取る僕に、彼女は毎年恒例の問いを投げ掛けた。
「初詣、行く?」
「やだ。めんどくさい」
「アンタねぇ……」
僕の怠惰な宣言に、りんちゃんは少し眉根を寄せる。しかし、それだけだ。毎年やるくだり過ぎて、もう彼女も飽きてしまっていることだろう。
「りんちゃん一人で行けばいいじゃん」
「その間、誰がアンタの世話すんのよ」
「あ、そっか。行かないでー、りんちゃーん」
「ハナから行く気ないわよ、もう……」
もうため息すらでない呆れ具合の彼女は、おもむろに立ち上がると、荷物からなにやら紙の束を出してきて、机に並べた。
「え、なになに。急にどうしたの」
「別に。どうせ家にいるんなら、有意義なことをしたいだけよ」
そう言って、彼女は紙――というか、気合いの入った便箋たちに目を通し始めた。
「……ファンレター?」
「そ。……そろそろ、本格的に活動再開するし、ね」
一つの手紙を読み終わると、今度は白紙の便箋を出し、彼女はさらさらと文字を連ね始める。
ファンレターには、必ず返事を書く。昔から、彼女はそうだった。
それは、たった数行であったり、ぶっきらぼうな文章だったりもした。だがそれでも、必ず返事をする。賀陽燐羽とは、そういうアイドルだった。
「随分と……待たせちゃったから。少しだけ、長めに書いてあげようかしら」
「……うん、いいんじゃない」
紙を捲る音。文字を書く音。そして、時折混じる、彼女の小さな笑い声。静かな部屋に、ただそれだけが響いていた。
心地の良い、どこか懐かしいサウンド。……美しい音だと、素直に思った。これに敵う音楽を作るのには、骨が折れると感じるほどには。
「……あぁもう。返事書いてないのに、何回送ってるのよ、この子。……手毬に押し付けようとしてた私が、バカみたいじゃない」
「
「こればっかりは、アンタに言われてもしょうがないくらいに、私の計算違いね、ホント」
はぁ、と珍しく自己嫌悪するように頭を抱えながらも、その姿からは喜色が漏れている。
本人は気づいていないのだろうけど。そして、気づかせてあげる気もないのだけれど。
「あれ――こっちのは?」
一方で。さっと目を通しただけで、横に避けている束を見つけた。返事を書くそぶりすらないそれの中から、適当に一つを取り出してみると――そこには、罵詈雑言の嵐が書き記されていた。
「うわ」
「……勝手に読まないでくれる?」
「それは、ごめんだけど……」
届く手紙、全てが応援するものだとは限らない。特に、りんちゃんのキャラクター性や、色々あったことを考慮すると。
そっと彼女の顔色を窺う。……変わらず、ファンレターを読んでは、微かに笑っている。気にしていないようだが――いや、実際はどうだか、分からないか。
「……やっぱり、プロデューサーが要るよ」
「はぁ? なによ急に。……別に要らないでしょ。誰が『SyngUp!』の運営してたと思ってるの?」
「能力を疑ってるんじゃないよ。ただ、第三者が同じ目標を掲げてるっていうのは、色々と便利ってこと」
今のファンレターが、正しくそうだ。自分一人で選別するとなれば、嫌でも目に入ってしまう。しかし、第三者が間に挟まれば、フィルターとして先んじて選別し、必要な手紙だけを、アイドルに届けることが出来る。
支援制度や、プロデュースそのものにも負けない、明確なメリットだ。しかし、当の本人は、訝しげに首を傾げている。……色々と自分で出来てしまうからこその、無自覚さなのだろう。
もう少し、説得してみないとだめかな――なんて思った矢先、りんちゃんはニヤリと笑って、僕に一枚の便箋を見せつけるように出した。
「ま、
「こういうファン? ――あ!」
そこに書かれていたのは、たったの一言。
『がんばって』
それだけの文字、しかし、それ以上の思いが込められたそれは――
「あぁ全く、有難いことね。こんなにも殊勝なファンがついてるなんて。……ねぇ、真もそう思わない?」
「……う、うん。まぁ、良かったんじゃない。熱心なファンが居て」
「そうよねぇ。きっと、ずっと私ことを見てくれているのね。デビュー当時から、ずぅっと」
……バレてる。匿名で送ったからバレないと思ったのに、余裕でバレてる。
諦めて、僕は両腕を上げて降参のポーズをとった。
「……なんで分かったの?」
「え、バレないと思ってたの? ……おバカね、アンタの字くらい、見れば分かるわ」
ぐ。筆跡も、気持ち変えたつもりだったのだが。どうやら無駄な足掻きだったらしい。
「……じゃあ、返事! 返事くださーい、賀陽燐羽さーん!」
僕に出来ることと言えば、もう開き直ることしかない。子供のように駄々をこねる僕に、りんちゃんは優しく笑う。
「そうね。じゃあ――」
そして。今度はいたずらっぽい笑みにその表情を変えると――
「――ちゅっ」
僕の額に、柔らかな口づけを落としたのだった。
あけましておめでとうございます。というか、お久しぶりです。
……はい、恥ずかしながらまた書いてしまいました。もう書くことはないと思ってたんですけどね。私は悪くありません。だって、燐羽のコメントが良すぎるから……。
初みくじで燐羽引く→構想→執筆まで数時間ですので、色々とご容赦下さい。というか燐羽の台詞の供給が少なくて、こんなだっけ? ってなったりならなかったりしながら書いたので、運営さんは責任を取って供給増やしてください。
実際問題、着々と燐羽実装されそうなフラグが匂わされだし、私は嬉しい限りでございます。今年は期待しても良いのでしょうか。でもあんまり期待しすぎても来なかったとき悲しくなるかな……難しいですね。
ま、燐羽がどうこう関係なく、2ndライブは楽しみすぎるー! さらに言うならIDOL WORLD SUPER FESTIVAL 2026のメンバーやばすぎだろー! 半年早く経ってくれー!
以上、蛇足の中の蛇足でした。流石にもう書かないとは思いますが、またなにかあった際にはよろしくお願いします。