その昔、北風と太陽は、旅人の毛皮の
北風は猛烈な風を吹かして上着を吹き飛ばそうとしたが、旅人は寒さを防ぐためかえって外套を押さえつけ、北風はそれを脱がすことができなかった。
太陽は逆に、燦々とした日差しを旅人に浴びせた。
旅人は暑さに耐えられず、外套を脱いだ。
こうして勝負は太陽の勝ちとなった。
なお、これは古代ギリシャ時代、紀元前には元ネタはあったらしい。
人を説得するならば、強硬な手段を用いず、穏やかに暖かに接することが肝要であるという。
北風は再び太陽に勝負を挑んだ。
「太陽さんよ、昔やった旅人の外套を脱がす力比べ、もう一度やらないか?」
「構わないが、何度やっても同じだろう」
太陽は、ギリシャ人で総毛皮の外套を着た男の旅人を見つけると、暖かな日差しを浴びせた。
旅人は暑くなって外套を脱いだ。
「そらみろ。簡単なことだ」
太陽は誇った。
「では俺もやろうか」
北風は、昔と同じように猛烈な寒風を吹きつけた。
「無駄なことを」
「いや、そうでもないぞ」
旅人は、これもあっさりと外套を脱いでしまった。
「はっは、どうだ見たか」
北風は誇らしげに言った。
「なぜだ! 寒さを防ぐものをなぜ脱ぐ!」
太陽は困惑した。
「教えてやろう。毛皮の外套なんて、いまや高級品だ。美術品に足を踏み入れていると言ってもいい。そんなものを吹き荒ぶ北風に晒して汚したり劣化させたくないんだよ」
「だが、それでは旅は続けられないだろう」
「歩かない別の移動手段があるということだ」
北風が外套を脱がせた旅人は、車に乗って旅を再開させた。
「もう毛皮の外套なんて他人に見せつけるものだ。寒さを凌ぐものじゃない」
「仕方ない。引き分けだな」
太陽は残念そうに言った。
「外套を脱がすだけでは勝負がつかない。もっと脱がそうぜ。より裸に近付けた方が勝ちというのはどうだ」
「受けて立ってやろう。ただし、あくまで歩く旅人だけだ」
「いいだろう」
太陽は再び、旅人に暖かな日差しを浴びせた。
旅人は外套を脱いだ。
しかしそれ以上は脱がなかったので、太陽はさらに強い日差しを浴びせた。
灼熱となっても、旅人は薄着にはなりつつも、裸にはならなかった。
太陽は頑張ったが、日陰もなく歩き続けた旅人は暑さに耐えきれず倒れてしまった。
「なぜだ! 脱げば楽になっただろう!」
太陽は憤慨した。
「日差しが強すぎたら服を着ている方が楽だからな。この時代だと、裸になるより涼しい服は多いぞ」
「あり得るのか?」
「さすがに旅人が持つことはないだろうが、空調服という、服の中で涼風を起こす服すらあるな。それを着ていたら太陽に照らされても1枚たりとも脱ぐまい」
「小なまいきな人間どもめ」
北風は別の旅人を見つけると、再び猛烈な寒風を旅人に吹きかけた。
旅人は今度は体を丸めて外套を握り締め、歩みを続けた。
「今度は外套すら脱がぬではないか」
「まあ見ていろ」
北風はさらに寒い風を旅人に浴びせる。
旅人は動けなくなってしまった。
「やはり1枚も脱がせられぬではないか。息が上がっているぞ?」
「いいや、旅人が動けなくなってからが本番だ」
北風は旅人に息すら凍るような風を与えた。
ついに旅人は服を脱ぎ始めた。
外套も、内側に着ていた服も、下着すらも。
真っ裸になった旅人は、すぐに凍えて死んだ。
「なぜ凍えているのに裸にまでなるのだ。ふざけているのかこいつは」
太陽はまたしても憤慨した。
「矛盾脱衣というそうだ。昔の俺に根気があれば、外套を脱がすことができたかもしれない」
昔を懐かしむように北風は言った。
「この勝負は素っ裸にした俺の勝ちでいいな?」
「負けを認めよう」
「まあ、服を脱ぎ捨てるのは確実じゃない。賭けだった」
太陽は不思議そうな顔で北風に問います。
「どれぐらいの勝算だったのだ?」
「2割かな。矛盾脱衣はそれぐらいでしか起こらないそうだ。一泡噴かすには悪くない」
「なかなか腹が据わっているではないか」
太陽は大いに笑いました。
北風「あとさ、太陽が日差しを当てるやり方が優しいってことになってるけど、現代だと俺の冷風当てるやり方より、日差しで死んでる人の方がおそらく多いぞ。全然優しくない説得方法になってるからな」