悪食少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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折れ目

 DRが敗北してから20分後。

 被害地域から程良く離れた下流にて。

 投網を投擲して濁流の中からDRを救い上げる葛西。

 降り頻る豪雨でずぶ濡れになりながらも網を引っ張り上げる。

 

「畜生重いな、漁師の真似事するとは思わなかったぜ」

 

 投網を手持ちのナイフで切り両手首から先を欠損しズタボロになっているDRへ労いの言葉をかけるもDRはブツブツと呟いており耳を澄ませば恨み言。

 

「青娥……青娥、青娥! 青娥‼︎ くそっ! クソォぉぉ‼︎ 殺してやる‼︎ 次は必ず殺してやる‼︎ 葛西‼︎」

 

 名を呼ばれた葛西はDRの事を冷めた眼で見ながら相槌を打つ。

 

「どうした?」

 

 その相槌に対して激昂が収まらないDRは苛立ちのまま葛西へと怒鳴り散らす。

 

「医療班と強化細胞を届けさせろ‼︎ 近日中に手を治してケリを着ける‼︎ あのダニを殺してやる‼︎ 『龍』の能力(ちから)がこんなモノだと思うなよ⁉︎」

 

 それを聞き流しつつヒートアップし続けるDRに近寄り肩を組んでスマホで動画を取りながら語る。

 

「まぁまぁ落ち着けよDR、無理すんなって、もう折れ目(・・・)がついてんだ」

 

 DRも葛西の纏う雰囲気と状況に違和感を感じ取ったのか激昂していた表情が段々と鎮まり何かを感じ取ろうとする表情へと変化し、隣にいる仲間に問いただしていく。

 

「……? 何をしている? 折れ目? 一体何の事だ」

 

 

 葛西は動画が『シックス』の所へキチンと送信されている事を確認してから語る。

 

「いやな……『シックス』が記念撮影(・・・・)を御所望なんだよ、つまりは……お前に()は無いんだよ」

 

 そう告げると同時、DRの全身がから一気に火が噴出して全身を包み込み燃え上がる。

 豪雨と暗闇が支配する中で灯籠の様に煌めくソレを動画に収めながら絶叫するDRへと葛西は語る。

 

「警察が早くもここら一体を封鎖して検問を敷いてやがる、動き出しが予想より全然早い。無能なお飾りばかりだと思ってたが切れる警察(ヤツ)がいるようなんだよ、となると大変だろ? こんな重傷を負った奴を連れてて検問なんて引っ掛かったらタダじゃ済まない」

 

 言の葉を紡ぐ葛西だがDRは焔に包まれて絶叫し地面を転がっている為にそれどころじゃない。

 絶叫と豪雨が奏でるハーモニーを聴きながら葛西は続けて語る。

 

「『シックス』は仰せになった『人間の脳は薄い鉄板のようなものだ、一度折れたらその折れ目はどう伸ばしても消えはしない、血族か否かを決定する条件はDNAではない、決して折れない脳の強さだ……脳に折れ目がついた時点でもはや人間、私の同種(なかま)たる資格は無い』とな」

 

 その言葉に、シックスに心の底から心酔し忠誠を誓い、信仰ともとれるレベルで陶酔していたDRの苦悶の表情が見えるが焔がそれを掻き消す。

 葛西はスマホのカメラをブレないように気をつけながら語る。

 

「それじゃ『シックス』今から処分しますよっと」

 

 炭化が始まっているDRの死体に鋭い後ろ回し蹴りを叩き込むとその肉体は40を超える欠片へと砕かれて河の底へと落下していく。

 それを眺めながら葛西は呟く。

 

「炭に置けねえなぁお前も、なんてな、火火火(ヒヒヒ)

 

 そうして葛西は仕事を終えて撤収作業へと取り掛かった。

 


 

 シックスは、最近納品されたお気に入りの椅子に腰をかけつつ送られてきた動画を観ながらジェニュインと呼んでいる女の報告を聞いていた。

 

「DRは計画の中で最も重要な爆破箇所を見張っていました、あそこの堤防が切れるか否かで与える損害は天と地の差になるからです。恐るべきは霍青娥というべきでしょうか、それを瞬時に突き止めて塞いでしまったのですから」

 

 その報告を聞きながらシックスは悍ましさを感じさせる笑みを浮かべつつも語る。

 

「……DRは捨て石として使った、文句はないね? ジェニュイン」

 

 その言葉に対してジェニュインは頭を垂れ膝をつきつつ厳かに語る。

 

「もちろんでございます、我々『五本指』はあなた様の御意志通りに忠実に動くただの指先、増してやDRは言わば小指、いかように使い捨てになさろうとも結構でございます」

 

 それを聞きシックスは満足げに語る。

 

「案の定DRは撃退され彼の計画は半分の効果もあげられなかった、つまり緒戦は我々の大勝利だ、DRの計画を阻止するのに奴がどれ程のエネルギーを浪費せざるを得なかったか、上手くいきすぎて笑ってしまうよ。次の『指』を動かしなさいジェニュイン、あと数回同じ事を繰り返せば青娥を無力化出来る」

 

 そう語り次なる血族を葛西の下へと派遣するジェニュインであった。

 


 

 災害発生より2日後。

 ようやくひと段落着いた指示系統。

 警察や救急、医療機関、自衛隊災害救援部や救援専門のヒーロー達の奮闘もあり何とかこれ以上の損害を出す事は食い止める事が出来た。

 だがしかし、未曾有の大被害を受けた事に変わりはない。

 推定にはなるが負傷者と避難者は合わせて45万人近く、死者は最悪の場合3万人に届こうかという大規模テロ。

 青娥から話を聞いて人員の増員を図ったがまだ足りなかった。

 執務室でこの災害関連の仕事をこなしていると青娥が空間を割って出てきた、何度も見慣れた光景だが青娥の表情は明るくない。

 塚内は仕事の手を止めて短く問いかける。

 

「やはり堤防決壊は『新しい血族』の仕業か?」

 

 塚内の問いかけに対して若干の苛立ちを見せつつも語る。

 

「えぇ、堤防には可能な限りの修復を、犯人には少し強めの罰を施してきたけど……怒りは収まらないわね。多くの『友人』や『友人』になる筈の人達、そしてその人達が紡ぐ『友人』も筈だった全てを潰されてしまったわ、この怒り、貴方には分からないでしょう」

 

 それを聞き、塚内は心の中で呟く。

 

(痛い程分かる、青娥の語る『友人』という言葉はそのまま『可能性』という言葉に置き換えられる、大勢の人間の可能性を新しい血族は一瞬で、永遠に奪い取ったのだから)

 

 その後、青娥は被災地の救援へと出向き死んでない友人達を治癒させると別の場所へと転移していった。

 


 

 未曾有の大災害から5日後。

 この未曾有の大災害を齎したテロ計画者に対しての捜査本部を立ち上げた塚内。

 爆破に使用されたパソコンは既に押収済みであり相葉愛美に一任している。

 塚内は自宅に戻って資料作成を行う為に自宅のマンションへと車を走らせて駐車場に到着しエントランスまで歩くがエントランスに入る前でピタリと足を止める。

 背後にはマチェットを持ち顔を仮面で覆った長身痩躯の男性が。

 塚内は振り向く事もせずに口を開く。

 

「何の用だ? ここ2〜3日尾けていたな? まったく、テロ対策やその他にも力を使わねばならない事が山のようにあるというのに」

 

 ため息が混じるそれを聞き襲撃者たるその男はクスクスと笑いながら語ってくる。

 

「君は……人間の割にはちょっとだけ使えそうだから早めに土に還ってもらおうかなって思ってさ」

 

 言葉の節々から感じ取れるのは優越感と侮蔑の感情。

 それを踏まえて塚内は語る。

 

「……なんだ? まるで自分が人間じゃないような物言いだな」

 

 青娥から聞いてはいたが半信半疑だった。

 しかし、今、確信に至った。

 塚内の問いかけに対して襲撃者は軽口を叩いて語る

 

「だってそうだもの、僕らは人間から生まれて人間の遥か先へ行く者、まぁここじゃなくても君たち人間は滅ぶ運命にあるんだけどね」

 

 その言葉を聞き塚内は襲撃者の方へと振り返りつつ口を開いた。

 

「そうか、じゃあちょっと署まで来い」

 

 その言葉と同時に、マンションに最初から潜伏していた、塚内が選抜した捜査員達が姿を表して捜査員は拳銃を抜いていつでも撃てる構えを取っていた。

 包囲完了したのを見て塚内は襲撃者に対して語る。

 

「他にも力を使わねばならない事が沢山あるというのにこんな事に貴重な人員を割かせおって、この時期に捜査の責任者をつけ狙う理由はただ一つ、お前も犯人の一味だな? 人間を舐めるなよ、馬鹿者が」

 

 優勢が入れ替わる。

 不利と有利が逆転し追い詰められているのは一見すると襲撃者。

 しかし、まだ見せていない悪意を塚内は何よりも警戒して指示を出す。

 

「『動くな』なんて命令に従う相手ではない、そしてそんな情けをかける相手でもない、だから私は諸君に命じる。撃て」

 

 その言葉を皮切りに捜査員は構えているリボルバーを発砲する。

 静寂を撃ち破る銃撃音が辺りに響き渡る。

 今襲撃者に対して撃ち込んでいるのは警察が開発したテロリスト対策の1つ。

 45口径用麻酔ゴム弾丸であり極限まで殺傷能力を抑えつつも3発撃てばバッファローすら昏倒させる。

 それを既に40発は喰らっている襲撃者。

 普通ならば既に昏倒してもおかしくないのだが倒れる気配は微塵もない。

 

「……キズがつくところだったよ、部下に尾行を任せていたのが間違いだった奴らが勘付かれたからボクまで危ない目に遭ったよ、全く、後で埋めとかないと。それはそうと覚えておくよ、アイツと同様に……君らもそう簡単にはくたばってくれないらしいね、あと洪水テロの犯人は探すだけ無駄だよ身内が始末したから」

 

 そう語って、襲撃者が右手を振り被るとその刹那。

 マンションの外壁部が突如として崩壊し捜査員達は地面に叩きつけられ瓦礫の下敷きになる。

 幸いな事に死者は居ないようではあるが、それでも一瞬隙は生まれてしまった。

 逃亡する絶好のタイミングが生まれ逃走する襲撃者。

 コンクリートの瓦礫を押し除けて三茶は叫ぶ。

 

「絶対逃すな‼︎ 追え‼︎」

 

 その言葉が響きわたるが既に遅く襲撃者は影も形もなく消えていた。




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