汚いボイスロイドを拾ったので虐待することにした   作:美月海月

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家事をやらせてみる

 服選び、下着選びの後も必要なものを買い揃えるために色々なお店を回り、ようやく必要なものを調達することができたので帰宅することにした。

 ……そういや、ランジェリーショップから出てきた2人が妙に顔を赤らめていたが、あれは一体なんだったのだろうか。まあいいか。

 

「今日は私たちのために色々買ってくれてありがとうございます」

「ところで、ちょっと気になったんやけど……」

「どうした?」

「服を買うてもらう時に思ったんやけど、マスターってめっちゃ羽振りええやんな?」

 

 茜は俺の懐事情について気になっているようだ。

 服を買ってやった時のこともそうだが、当然こいつらは金を持っていないのでその後の買い物も全部俺が支払った。今日一日だけで数十万円も使ったので、それなりに財力に余裕があるように見えたのだろう。

 とはいえ、こいつらの以前の持ち主に比べたらカスみたいなものだろうけど。

 

「まあな」

「ええなぁ。……最初にウチらを買うてくれたのが、マスターだったらよかったのに」

「おいおい、さすがにそこまでの余裕はないぞ」

 

 確かに金に余裕はある方だと思うが、さすがにボイスロイドを買うほどのものではない。

 もちろんボイスロイドの購入には分割払いやローンなど、一括払い以外に購入する方法はあるにはあるが……。

 それに茜と葵も、タダで拾えたから迎えただけであって、そもそもボイスロイドなんて買う気はなかったからな。

 

「まあでも、前のマスターが私たちを棄ててくれたおかげで、今のマスターに出会えたんだからよかったよね」

「せやなぁ、ろくでもない男やったけど、それだけは感謝せんとな」

 

 そういえば、なんでこの姉妹は棄てられたんだろうか。

 拾った時は、一軒家クラスの高級品を不法投棄するイカれた金持ちもいるもんだなと、そこまで深く考えていなかったが冷静に考えるとやっぱり異常だよな?

 棄てたくらいなんだから、それ相応の理由があるはずなのだが……。

 訊けば分かることかもしれないが、ぶっちゃけ気にはなるがどうしても知りたいわけではないので、一旦考えることをやめた。

 それに、この二人も話したくないことかもしれないしな。余計な詮索はやめておこう。

 

「なぁ、マスター。マスターは普段なにしとる人なんや?」

「今日のお買い物でもたくさんお金払ってたし、このマンションもすごく広くて綺麗だから、どこかの社長さんとか……?」

「俺か? そんな大層なモンじゃねえよ。午前中に配信しただろ? 配信業で飯食ってるんだよ」

「「えええええええぇぇぇぇっ!?」」

 

 職業を聞かれたので正直に答えると、茜と葵が驚きの声を響かせた。

 なんなんだ? 一緒に配信したのにそんなに驚くことか?

 

「え……えぇっ!? 趣味とか副業じゃなくて、配信が本業なんですか?」

「そうだ。てか配信の時、視聴者数とかコメント数とか見て、それなりに規模が大きいチャンネルだって気づかなかったのか?」

「確かにえらい盛り上がっとるなぁとは思ったけど、基準とか分からへんからなぁ」

「あー……まあ、そうか」

 

 ある程度配信の知識があれば、俺の午前の生配信の規模で結構稼いでるって分かるもんだが、そういえば茜と葵はそういうのには疎いんだったな。

 

「マスターって……すごい人だったんですね……」

「そうか? 葵の言っていたような社長とかじゃなく、ただの配信者なのに?」

「せやからやん。配信業でここまで稼いどる人なんて、そうおらんやろ」

「まあ……確かにそうかもな」

 

 ガチのトップクラスと比べたら霞むが、それでも全配信者の中でも上位1%未満に属しているのは間違いないだろう。

 そもそも配信で収益を得るだけでも上位数%とかの世界だからな。

 

「さて、この話はこの辺で終わりにして……。これからお前らには――」

 

 俺についての話はどうでもいい。

 それよりも次の虐待だ、虐待。

 

「家事をしてもらうぜ!」

 

 次の虐待は、というかこれに関しては今後永続するものなのだが、家事をやらせることだ。

 家に来たばかりだが、お客様の時間は終わりだ。

 昨晩から今朝までは俺が風呂を沸かしたり、洗濯をしたり、食事を用意したりしたが、俺のボイスロイドとしてこの家に住むからには家事はしてもらう。

 

「は、はい……! 任せてください……!」

「マスターのために頑張るで……!」

 

 それについてちゃんと理解をしていたのか、やる気のある返事をする茜と葵。

 素直なのは嫌いじゃない。

 

「じゃあ早速だが……夕飯の準備をしてもらおうか」

「食事ですね……! ちょっと自信ないですけど、頑張ります!」

「ウチらに任せとき!」

「楽しみにしてるぞ」

 

 キッチン内の物の置き場所や冷蔵庫の中身などを一通り説明をして、そのまま2人に食事の支度を任せた。

 その間に俺は今日買ってきた物を整理し片付けを始める。

 片付け始めてしばらくした頃だった。

 

 ドゴォン!

 

 いきなり轟音が鳴り響いた。

 キッチンの方からだ。……嫌な予感がする。

 急いでキッチンへ向かうとそこにはてんややんわしている姉妹の姿があった。

 

「あ、葵〜? 煙が出とるんやけど、これって大丈夫なんかな?」

「熱したら煙が出るのは普通でしょ! それよりもこれってまるごと1本入れればいいかな!?」

「1本だけじゃ足らんのとちゃう?」

「じゃあ2本入れよっか!」

 

 茜は鍋の面倒を見ていたが、その鍋からは黒煙が上がっている。

 葵はなにかをボウルで混ぜているが、そこに醤油ボトルを丸々2本入れようとしている。

 ……もしかして、こいつら。

 

「な、なにやってんだあああぁぁぁっ!?」

 

 料理下手なのかよ……。ていうか、下手っていうレベルじゃねえぞ。もはやテロだよテロ。

 急いで2人の料理、もとい工作を中断させて途中から軌道修正を試みたが……。

 

「ほんま、ごめん……」

「ごめんなさい……」

「……これ、食えんのか?」

 

 目の前に置かれた料理は、ダークマターそのものだった。

 この俺の料理スキルをもってしても、途中まで作られた地獄のような姉妹の工作物をまともな料理に昇華させることはできなかった。恐るべし、姉妹の料理スキル……。

 

「……はぁ。いただきます」

「えっ!? た、食べるん!?」

「マスター、無理しないでください……」

 

 料理どころか食べ物とはとても言い難い、ソレを俺は覚悟を決めて口に入れようとする。

 それを見た茜と葵が必死に止めようとするが、無視して俺は口に運び、そして咀嚼を始めた。

 その瞬間、劇物を口にしたかのような刺激――確実に人体に影響を及ぼしそうな苦味、辛味が混ざり合った味に俺は思わず吐き気を催す。

 汗が止まらなくなり、涙が勝手に溢れてくる。そして嚥下するのを身体が拒否している。

 だが、俺は気合と根性で飲み込んだ。

 

「マ、マスター……? 大丈夫なん?」

「無理して食べないで、吐き出してください!」

「……5点」

「「……え?」」

 

 暗黒物質を胃に入れた俺を心配する2人に、俺は点数を告げる。

 

「なにもかもダメだ。とても食えたもんじゃない。……なんで料理できないのを隠した?」

「そ、それは……マスターがウチらに家事をやらせる気満々やったから……」

「それで料理できないことを知ったら、私たちのことを不用だって棄てるかもと思って……」

 

 なるほど。

 確かに俺はこいつらを拾ったからには家事全般をやってもらおうと思っていた。

 だが、家事が苦手だということが俺に知られたら必要ないと棄てられると危惧して、料理下手なことを隠したまま夕飯の準備に取り掛かったのだろう。

 やれやれ、随分と舐められたものだな!

 

「どうやら俺を甘く見ているようだな……」

「「えっ……?」」

「料理ができないならできるようにしてやるまでだ! ボイロの苦手分野を克服させてやるのもマスターの務めだ!」

 

 家事ができないんだったら棄てる?

 そんなことするわけないだろ! せっかくタダでボイスロイド拾ったんだ。そう簡単に手放してたまるか。

 できないことがあるならできるようにさせてやる、それだけだ。

 

「「マ、マスター……!」」

「ふん、明日から徹底的に指導してやる。覚悟するんだな」

「……! ありがとうございます……!」

「ち、ちなみになんやけど……5点って、どこかに加点要素なんてあったんか?」

「……度胸と成長性に期待して5点だ」

 

 料理(?)そのものは0点である。が、料理できないことを隠して臨んだ胆力と、これからの成長を期待して5点は付けてやった。

 しかし、料理下手だったとは想定外だな……。前の家では相当甘やかされてたんだな……。

 

「とりあえず代わりに今日の夕飯は俺が作ってやる。その間に風呂掃除してから湯を張ってくれ。あと、洗濯物も溜まっているから洗濯機を回しておいてくれ」

「わ、分かりました!」

「今度こそ任せといてや!」

 

 俺はさっきのダークマターで一気に食欲が失せたのでもう夕飯はいらないが、こいつらが食う物がないのでそれは作っておいてやることにする。

 その間に風呂掃除と湯張り、洗濯をやってもらうことにした。

 

「うん、我ながらいい匂いだ。やっぱ腹減ってきたな……やっぱ俺も食おうかな?」

 

 香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。やはり食事において匂いというのは重要である。

 さっきまで何も食べたくない程に食欲がなかったのに、この飯テロな匂いを嗅いでいたら急に腹が減ってきたぞ。

 あいつらが作った物体、エンジンの内側みたいな匂いしてたからな……。とても飯の匂いではなかった。

 

「さーてと……」

 

 料理が完成して皿に盛り付けようとした時だった。

 

 ドォン!

 

 いきなり爆音が鳴り響いた。

 洗面所の方からだ。……嫌な予感がする。というか、この流れさっきもあったよな。もう確定演出じゃん……。

 急いで洗面所へ向かうと、そこはもはや地獄絵図だった。

 

「あ、葵〜? シャワーで流しても流しても、泡が消えへんのやけどこれって大丈夫なん?」

「それだけ綺麗になってるってことでしょ! それよりも洗濯機から煙が出てるんだけどこれでいいのかな!?」

「電化製品やし、煙は出るもんなんちゃう?」

「そっか! 頑張って動いてるっていう証拠だね!」

 

 風呂場を掃除していた茜は大量の泡に塗れながらシャワーでひたすらに流していた。

 葵は煙を上げながら動いている洗濯機を真剣な眼差しで眺めていた。

 ……もしかして、こいつら。

 

「な、なにやってんだあああぁぁぁっ!?」

 

 料理だけじゃなくて、家事全般苦手なのかよ……。

 慌てて洗濯機を止めて、泡まみれの風呂場はとにかく水で流し続けてなんとか場を収めた。

 

「まさか……ここまでとはな……」

「お、お願いします……棄てないでください……」

「ウチらにできることならなんでもするからぁ……」

 

 さすがにここまで酷いと見捨てられると思ったのか、涙目になりながら懇願してくる茜と葵。

 いやまあ本当にここまでとは思わなかったわ。

 

「……お前ら」

「「は、はい……」」

「明日から覚悟しろよ?」

「「……マ、マスター!!」」

 

 とはいえ、やっぱり棄てるわけがない。

 どんなに出来損ないボイロでも、立派なボイロにしてやるのがマスターである俺の役目だろう?

 ていうかここまで家事できねえとか、どんだけ前の家では甘やかされてたんだよ。

 ある意味、こいつらは被害者なのかもな。ここまで酷いと、甘やかしまくった前のマスターの責任だろもはや。

 こいつらの前のマスターに悪態を吐きながらも、明日から2人をスパルタ教育することに胸が高鳴るのだった。

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