死を恐れる青年は、死を知る。

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 「君は“死”とは何か…。    ――どう考える?」
暗くて狭い部屋の中。ランタンの灯火が、消えないように、消えないようにと、絶え間なく揺らめいていた。その灯火を眺めていた年老いた男。その奥、微かに光が届く部屋の角に見える、一人の男。
長老は灯火からゆっくりと目を逸らすとその男をじっと見つめる。
 「――そうか…君はもう、死んでいるんだったか。」



死人に口なし

 そこは平原だった。 大きな高低差がなく、暑さや寒さも、眩しさも暗さも感じないだだっ広い平原。空は晴天、大きな入道雲がスン…と透き通った青空を生き生きと泳いでいた。

 

 「やぁ、君は誰?」

マラカイトグリーン色のマントを纏った20歳ほどの金髪の青年は、平原に横たわった男にそう尋ねた。

 「てか君は、何でここに居るんだい?」

男にそう尋ねる美形の青年。屈んで日陰に覆われたその穏やかな笑みは、何処か不気味さを含んでいた。

 「君は、何で僕が見えているんだい?どうやって見ているんだい? 君の身体には何があるんだい? 何で君は―――」

捲くし立てるように話を続けていたその青年は、突然何かに気が付いたかのように口を紡いだ。

 

青年はスッと立ち上がると、ほんの少しだけあの青空を見上げてみた。

気が付いていなかったことを申し訳ないと思う。そう言う訳でもないような、先程と同じような素振りと口ぶりで、男へ振り返って再び話し続ける。

 「人って、何だろうね。 あの空って、何だろうね。 この地面って、何だろうね。考えるって、何だろう――。」

 

青年は少し俯くと、男の隣に横たわってみた。

 「ねぇ、“死”って終わるってことなのかな?」

青年は、まるで眩しいとでも言わんばかりに、ゆっくりと瞼を閉じて見せると再び穏やかな笑みを浮かべて見せた。その笑みには何処か嬉しさが溢れていた。

 「死っていうのは終わりなんかじゃないんだよね。 ね、教えてあげる。」

青年はそう言うと、男の手を優しく握って見せる。

 

 「人は、死があるから生きてるんだよ。 死ぬから生きる意味を探して…何を求めているのかそのうち分からなくなっちゃう…そして死ぬ。 死って言うのは、人が創ることの出来ない、生への救済なんだよ。  故に死は美しい…。」

 

 

 青年はゆっくりと目を開けて空を見つめる。

青年の見つめる先。無数の星々が、青くて、暗くて、ワントーンの夜空で各々の輝きを発していた。

 

夜の帳に静かに広がるその光景に、青年は思わず手を伸ばす。

まるで宇宙がこちら側に気が付かれないように、そっと地上に降りてきたかのような空。

手を伸ばせば届きそう…でも決して触れることの出来ないその星を見つめた青年は優しい声で再び話を切り出す。

 

 「死んでもいいって思えたの、久しぶりだな…。」

 

ねぇ

 

 「―――何で君は死んでしまったんだい?」

 

 

 

 

 

 気が付くと、暗くて狭いあの部屋にいた。

椅子に座り、ユラユラと揺れるランタンの灯火を眺めていた長老が再び話始める。

 「――そうか、その顔はあの男におぅてきたか…。 どうだ、“死”とは何か、分かったかね…?」

長老はランタンを手に持つと、ゆったりと立ち上がる。

 「そうか、そうか…。言わずとも分かるさ…。」

 

一歩一歩、ゆったりと歩き出した長老は、男の隣にあった木の扉を開ける。

ギィィ…と軋んだその扉の奥には石の階段が上へと続いていた。

ヒュゥ…と唸ったその風はどこか冷たいような気がした。

長老はその扉に入ると、ランタンの光を消してゆったりとした声で再び話を切り出した。

 「――最後に、儂からも教えてあげよう…。」

 

 

 

 

「―――沈黙…。沈黙ほど、賢明で雄弁な言葉はない。」

 

 

 

扉が再びギィィ…と軋ませながら閉じていく。

閉じ切るか否や、長老の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

故に、死人に口なし

 

 

 

 

 

 

 


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