「あぁ……もう、ダメです! 書けませんっ!」
机にバタンっと倒れ込むが、後ろのピンクの錬金術師が許さなかった。背後からキュポン、とポーションのフタを開ける音がする。
「ドリィムさん。どうやら、お疲れのようですね。ほら、ポーションを飲んでください。……そして、続きを書いてください」
「む、無理無理ムリです! ネタ切れです! ネタ切れはポーションでは回復できません!」
「それは……困りましたね。うーん……どうしましょう……」
人差し指を唇に添えて、悩めるピンク髪の女性はシトリー・スマートといい、机に頭を突っ伏すアマチュア女性小説家、ドリィム・ノベルスのパトロンであった。
「……では、報酬を上乗せしますので……」
「お金でも解決できませんから!」
「そんな……」
ここで読者諸君はおや? と思ったことだろう。賢く聡明なシトリー・スマートならば、夢小説を書くことなどちょちょいのちょいではないかと。
しかし。
「私もこれ以上、書けないというぐらい書いてしまって……ドリィムさんとほぼ同じ状態なんですよね……。書くネタは尽きませんが……私はいま……私以外の方が書かれた作品が読みたい気分なんです。……でも、クラ×シト、シト×クラを書いている方がどこにも見当たらず……。
私が読みたいものを書かせるために、鳴かず飛ばずで困っている作家さん──つまり、あなたに手を差し伸べたってわけです。ですから……書けない、なんておっしゃらないでください。まさか……あなたの親切なパトロンを裏切るつもりでしょうか……?」
「そ、そ、そんなわけでは……。す、すみません……。書きたい気持ちはやまやまなのですが……どうしても、書けないんですぅ……」
「どうしてもですか?」
「ど、どうしても、ですぅ……」
「どうしてですか? 私、ちゃんとあなたに……私たちの貴重な思い出を提供しましたよね? なのに、書けないんですか?」
「うっ、うう……」
「困りましたねぇ……。ずっと、このままなら、ほかの作家さんにお願いしようかなぁ」
「ま、待って……!」
「──なーんて、冗談ですよ。そんな簡単にドリィムさんのことを切り捨てるわけないじゃないですか」
ドリィムがホッとしたのもつかの間。
「だから、ドリィムさんが『書けない』とおっしゃるのも冗談ですよね?」
「へ……?」
「さあ、机に向かって続きを書きましょうね。ドリィムさん?」
「だから、書けないんだってばーーーーー!」
シト×クラ、クラ×シト作家は引退したい。
──おしまい。
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